君の誕生日

「え…。君、今日誕生日だったの?」
「……ああ、そういえば」


スマホを見た日向が発した言葉に、天羽はもぐもぐとクッキーを食べながら思い出したように呟く。すると日向はむーっと頬を膨らませた。


「何で言ってくれないの!」
「何でって、聞かれてないし」
「聞いてないからね!」
「そうだね」


もうこの意味の分からないやり取りにも慣れた。
天羽はまたぱくりとクッキーを口へ運ぶ。もちろん日向の作ったクッキーを。


「君の誕生日だって知ってたらもっと違うもの作ってきたのに…」
「違うもの?」
「うん!誕生日だからケーキだよ!」
「君、ケーキも作れるの?」
「作れるよ?」
「ふーん…。じゃあ食べたい」


そう言いながらクッキーを口に運ぶ。日向はきょとんと天羽を見つめた。


「今、食べてるのに?」
「うん」
「さっきお弁当も食べたよね?」
「うん」
「そんなに食べられる?」
「君の作ったものなら食べられる」
「…!えへへ、嬉しいな。ありがとう!」
「…俺が食べたいだけだから」
「それが嬉しいんだよ!君に食べてもらいたいんだから!」
「…じゃあ、作ってよ」
「うん!君のためにチョコレートケーキにするよ!」
「…!うん、楽しみにしてる」


僅かに緩んだ表情に、日向も表情を和らげた。天羽が嬉しそうにしているのが嬉しい。天羽が喜んでくれるのなら張り切って作らなければと微笑んだ。


「…ていうか、いきなりだよね。何で今日が俺の誕生日って分かったの?」
「さっき迅さんからメールが来てね、教えてくれたの!今日は君の誕生日だって」
「…何で君、迅さんの連絡先知ってるの」
「この前迅さんがバイト先に来たときに交換したんだよ!」
「何で教えるのさ」
「聞かれたから?」
「俺が聞いてるんだけど」
「聞かれたから!」
「聞かれたら教えるわけ?」
「聞かれなきゃ教えないよ?」
「…はぁ」


慣れたと思っていたが、やはり慣れてはいなかった。日向はやはり日向だ。こてんっと首を傾げている日向に呆れたように溜息をつきながら、最後の1枚になったクッキーを口へ運ぶ。それを見届けた日向はぱっと立ち上がった。


「今から材料買って作りに戻るね!」
「え」
「出来るまで結構時間かかっちゃうけど…」
「俺も行く」
「え?」


ぱちぱちと見つめ合った。


「…待ってるの、暇だし」


何よりまだ、日向と一緒にいたい。
そう思ってしまったから。またすぐに会えるとしても、今はまだもう少し一緒にいたかった。
忘れていたけれど、今日は自分の誕生日なのだからそれくらいの我儘はいいだろう、と。
少し驚いて天羽を見つめていた日向だが、すぐににこっと笑みを浮かべた。


「うん!じゃあ一緒にお買い物しよ!君の好きなケーキを作りたいからね!」
「……君の作ったものが、俺の好きなケーキだよ」
「チョコレートケーキの中には何入れようか?定番にイチゴ?バナナとかも良いよね!」
「そうだね」


天羽のためにどんなものを作ろうかと考えながら歩き出す日向について行く。
小さく小さく呟いた言葉は聞こえていなくても良い。日向が楽しそうで、自分のことを考えてくれているのならそれで良い。
日向が何を作ってくれても、自分のために作ってくれたものなら何でも美味しく、嬉しいのだから。


「あ、そうだ!」
「?」


どんなものを作るか考えていたはずの日向は、くるっと天羽を振り返る。天羽は小さく首を傾げ、無言で先を促した。
天羽の他とは違う不思議な瞳を見つめ、日向は楽しそうに笑う。


「ケーキ食べるときに改めて言うけど、先に言わせてね!お誕生日、おめでとう!」
「!」
「君に出会えて私は幸せだし、毎日楽しいよ!」
「……」
「暗かった世界が明るくなったんだ。君のお陰で、私は私でいられる」
「…俺がいなくても、君は君でしょ」
「そうかもしれないけど、私は君に感謝してるんだよ!」
「…ふーん。変わってるよね、ほんと」
「君に言われたくないなぁ」
「君に言われたくないよ」


お互いに顔を見合わせて小さく笑い合った。どっちもどっちで、どちらも譲らなくて、そんな今の関係が心地良くて。


「…けど、ありがとう」
「…!うん!」


楽しい今を、大切にして。


end

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初の番外編はやっぱり誕生日!
完結してないから如何に時間軸を分からせないようにするかって書いてましたが、初っ端であれですね。でもでもこれだけでも読めるはず…!
天羽くん大好きだよ!!お誕生日おめでとう!!

[ 9/15 ]

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