ウソとアホと天然と

本日の玉狛支部のおやつはどら焼き。烏丸と小南と氷麗は揃ってテーブルに向かっていた。


「ていうか、何であんたまでいるのよ」
「とりまるくん言われてるよ?」
「とりまるじゃなくて真白、あんたのことよ」
「私?」


本部所属で今日は防衛任務があったはずの氷麗は、何故か当然のように玉狛支部にておやつを手にしていた。食べる直前になって気付いた小南がつっこむ。


「今日のおやつはレイジさんお手製って聞いたから食べに来たの」
「その予定だったんすけどね。レイジさんに急に予定が入っておやつはいいとこのどら焼きになりました」
「ふふっ、それも好きだから嬉しいよ?」
「ちょっと!アタシが作ったおやつのときは来ないくせに何でレイジさんのときは来るのよ!」
「小南のはもう食べ飽きたんだもん」
「昔より料理の腕もレベルアップしてるんだから、食べたらきっとびっくりするわよ」
「んー、この前のハヤシライスとか?美味しいけどリピートはないかなー」
「…!」
「真白先輩、もう少しオブラートに包んで下さい。小南先輩が落ち込んでます」


見るからに落ち込んでいる小南に氷麗はくすくすと笑った。


「ウソだよ小南ー、落ち込まないで」
「う、ウソ…!?あんたまで何でウソつくのよ!」
「だって小南が騙されるから」
「それを言うなら真白先輩もよく騙されますけどね」
「それはとりまるくんが悪いんだよー」
「そうよ!元はと言えばあんたがウソばっかつくのが悪いのよ!」
「俺すか」


まさかこちらに飛び火するとは思わなかった。にこにことどら焼きを頬張る氷麗と、がるると威嚇する小南に小さく息をつく。


「というか、真白先輩がどうして小南先輩のおやつを食べに来ないかの解決にはなってないすよ」
「そ、そうよ!ウソって言うならどうして真白はアタシのおやつ食べに来ないのよ!」
「だから小南のは飽きたんだってばー。ね、とりまるくん」
「そうすね」
「えぇ!?とりまるまで!?」
「あ、すいません。咄嗟に返事しちゃいました」
「や、やめなさいよそういうの!傷つくでしょ!」


傷つくんだ。お互いにその言葉は飲み込み、同時にぱくりとどら焼きを頬張る。


「もーー!!あんたたちなんてもう知らないんだから!」


ふいっとそっぽを向いていじけてしまった小南に、烏丸と氷麗は顔を見合わせた。


「真白先輩、虐めすぎっすよ」
「え?私?」
「当然じゃないすか」
「私、小南が傷つくこと何も言ってないよ?」
「…それ、本気で言ってるんすか」


きょとんとした表情で返され、その言葉が本心なのだと理解した。悪気なく弄っているあたりタチが悪い。


「とりまるくんがウソつくからだよー」
「え、俺今ウソつきました?」
「私が小南を虐めたーってウソついたよ?」
「いやそれウソじゃないす」
「え?」
「現に小南先輩不貞腐れてるじゃないすか」
「とりまるくんのせいじゃなくて?」
「真白先輩のせいすね」


自分のせいなのかと本気で驚いた顔をする氷麗に呆れてしまう。さすがに小南が哀れに思えた。
氷麗はどら焼きを持ったまま立ち上がり小南に近付く。


「小南ー、不貞腐れないで?」
「……」
「どら焼きあげるから」
「いらないわよ!アタシは陽太郎じゃないんだから!」
「小南でしょ?」
「そうだけどそうじゃなくて…!」
「小南?何言ってるの?」
「〜〜〜っ!アタシは!小南桐絵よ!」
「うん、知ってるよ?」
「なら良いわ」


良いのか。
烏丸は心の中でつっこんだ。よく分からないやり取りだが本人たちが分かり合っているのだから口を挟むことが出来ない。むしろ自分がおかしいのかと思えてしまうほどに2人はいつも通りだった。


「1人で相手するには荷が重いな」


小南1人ならいつものようにウソをついて遊べる。
氷麗1人なら迅の話題を出していれば良い。
けれど2人揃ってしまうと感覚がズレ過ぎてどう相手していいのか悩んでしまう。


「私は真白氷麗だよ?」
「そんなこと知ってるわよ」
「うん?でも小南が言い出したんだよ?」
「それは真白が変なこと言い出すからでしょ」
「変なこと言い出したのは小南だよー」
「真白よ!」
「小南ー!」
「真白!」
「小南だってばー!」
「あ!違うわよ、とりまるじゃなかった?」
「え」
「あ、そうだよ、とりまるくんだねー」
「マジか」


突然の言い掛かりにそろそろ相手するのが疲れてきた。陽太郎でも誰でも良いから早く帰ってきてくれと祈りながら、烏丸は最後の一口のどら焼きを口の中へ放り込んだ。よく迅はこの2人の相手を同時に出来るものだと変な所で尊敬出来てしまう。
恐らくどちらも可愛い妹と見ているから扱い慣れているのだろう。


(…いや、違うか)


小南はともかく、氷麗は違う。それは誰が見ても分かるほどに。迅が氷麗に向ける感情は特別だった。


「ちょっと真白、アタシのどら焼きは?」
「え?小南さっきいらないって言ったから食べちゃったよ?」
「はあ!?いらないって言ったのはあんたのどら焼きよ!アタシのどら焼きはいらないなんて言ってないんだけど!」
「私のあげるつもりなかったから最初から小南のどら焼きをいるかって聞いてたのに」
「そんなの分かるわけないでしょ!?」
「ちゃんと人の話聞かないからだよー」
「あんたに言われたくないわよ!返しなさいよどーらー焼ーきーーー!!」


2人の幼稚なやり取りを見ながらどら焼きをごくりと飲み込んだ烏丸は、はぁっと小さく息をつく。
おやつの時間は終わり。ここからは子守の時間だ。


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