ハイタッチで任務完了

「じゃあオレ今日は1日玉狛ね!」
「じゃあ私もー!」
「いやいや待ちなさいって」


元気よくトリガーを起動させて玉狛支部を出ていく2人に、迅は大きな溜息をついた。

今日は玉狛支部のメンバーが迅以外出かけてしまっているのだが、近くで門が発生した。たまたまその場に居合わせた氷麗と緑川は頷き合い、臨時玉狛第三だと嬉々と盛り上がり冒頭に至る。

強い2人だが、その2人の面倒を見るのが自分だけだと思うと溜息をつかずにはいられない。後始末も自分になるわけなのだから。何もないことを祈りつつ、迅は2人を追いかけるように玉狛支部を出た。

外に出ると、もうすでに2人は上空に現れた敵をばたばたと切り倒している。思わず、おーっと声を上げた。


「駿くん!」
「氷麗さんそっち!」


グラスホッパーをセットしていない氷麗の足場を緑川が作り、そのせいでシールドを張れない緑川を氷麗が防御をする。なかなかに良い連携だった。


「こりゃおれの出番はなさそうだな」


上空の敵も地上の敵も、攻撃手だというのにその距離を物ともせずに倒していく。普段のんびりしている氷麗も、やはり攻撃手だと実感出来る動きだ。


「相変わらず、戦うときはしっかりしてるんだから」


いつも面倒を見られている氷麗が、緑川の見えない所でしっかり援護をしていた。これも昔から戦い続けている経験の差だろう。相手が戦いやすいように動く戦い方は遠くから見てこそ分かる。
迅は穏やかな表情で氷麗を見つめた。
周囲の敵を殲滅し、辺りを確認した。見渡した限り敵はいない。


「ねぇねぇ迅さん!敵の増援はある?」
「いや、これ以上はないよ。あとは本部の方みたいだし、防衛任務中の隊が対処するだろ」
「えー!つまんなーい!オレ迅さんとも共闘したかったのにー!」
「そうだよー!何で入ってきてくれなかったのー!私も悠一と一緒に戦いたかったー!」
「はいはい、ワガママ言わないの。お前らが優秀だからこの実力派エリートが出る必要なかったんだからさ」


戻ってきた2人の頭をぽんっと撫でる。2人して嬉しそうに笑った。これだけですぐに機嫌が直ってしまうなんてとても単純だ。


「本部にはおれが報告しとくよ。おやつ用意しておくから、お前たちは先に食べてて良いぞ」
「「やったー!」」


自分を慕ってくる中高生に微笑み、迅は先に中へと戻って行った。それを見送り、緑川はちらりと氷麗を向く。


「でも、氷麗さんと一緒に戦うと迅さんと戦ってるみたいなんだよね」
「そう?」
「うん。凄く似てるもん」
「それは嬉しいなー」
「ねえ、氷麗さんは何で迅さんと同じトリガーセットなの?」
「んー?」
「氷麗さんならもっと他に相性良いトリガーあるでしょ?オレが出したグラスホッパーも使いこなしてたし!他にも色々あるのに何で?」


緑川の純粋な疑問に氷麗は微笑んだ。迅が弧月を使っていたときは弧月を。スコーピオンが開発されてからはスコーピオンを。メインもサブもトリガーセットは全て迅とずっと一緒だ。わざと、ずっと一緒にしてきた。


「…悠一と、同じ景色を見ていたいからかな」
「え?」
「悠一には未来が見えてる。でも、私には未来は見えない。悠一の見えてるものは、見えないんだよ」
「う、うん」
「だから、少しでも悠一が見てる景色を共有したいの。未来がダメなら、今の景色を、ね」
「うん…?」


分かるような分からないような。緑川は曖昧に返事をしながら首を傾げた。それを見て氷麗はにこりと笑う。先ほど迅がやったようにぽんっと頭を撫でた。


「氷麗さん?」
「行こうか、駿くん。悠一がおやつ用意して待ってるよ」
「うん!あ、氷麗さん!」
「んー?」


緑川は氷麗に向かって両手を出した。氷麗はきょとんと首を傾げる。


「これにて任務完了!臨時玉狛第三の勝利だね!」
「…ふふっ、そうだね。お疲れさま」


にかっと笑う緑川に微笑み、両手を挙げて勢いよくお互いの手のひらを合わせる。ぱんっと乾いた音が辺りに響き渡った。



[ 5/11 ]

back