分かってたよ、こういう展開

ズルズルと襟首を掴んで連れて行かれる。
見つかればこうなると分かっていたにも関わらず、警戒していなかったのが悪いのだと小さく溜息をついた。

「慶くーん、私これから悠一の所に行こうとしてたんだよー?」
「そんなの後でも行けるだろ?」
「でも慶くんと模擬戦なんかしてたらその行く時間がなくなっちゃうと思うんだけどなぁ」
「大丈夫大丈夫、30本で我慢してやるから」
「ん?それは我慢してるのかな?」

氷麗も太刀川も非番の日。もちろん本部で対戦相手を探していた太刀川に見つかった氷麗は対戦ブースへと連行されていた。それなりに長い付き合いだからこそ、1度捕まれば中々帰してもらえないのは分かっている。

「悠一の所に行きたいなぁ」
「迅が代わりに模擬戦してくれんなら良いぞ」
「そうしたら私が悠一と話せないよ」
「じゃあ三つ巴でもやるか!」
「やらないよ?」

楽しそうな太刀川に強く言えずに苦笑する。
戦いが生きがいのような男に何を言っても無駄だろう。しかしどうにかここから逃げ出そうと思案した。どこかに代わりの人間はいないかと見渡すが、生憎と誰もここを通らない。

「あ、慶くんレポートは?」
「………」
「はいアウトー。模擬戦はまた今度ねー」
「だ、大丈夫だ…まだ期限はある…」
「ダーメーだーよー。私まで風間さんに怒られるの嫌だもん」
「じゃあ手伝ってくれ!それで終わったら模擬戦するぞ!」
「…えー…」
「頼む!氷麗!」

襟首から手を離され、今度は縋るように腰に抱きつかれる。年上とは思えない姿に苦笑した。

「…いた…!ちょ、太刀川さん何やってるの!」

そこへ、焦ったように迅が走り寄ってきた。玉狛にいると思っていた氷麗は少し驚く。

「あれ、悠一本部にいたんだね?」
「何か嫌な予感がしてね。その予感が本当になるとは思わなかったけど」

そう言いながら氷麗に縋り付く太刀川を引き剥がした。

「太刀川さん、氷麗を困らせないでよ。ていうかなるべく近づかないで」
「困らせてねぇよ!」
「いや明らかに困ってたからね!?」
「あ、でも悠一が来たから後でレポートも模擬戦もやって良いよ?」
「マジか!」
「氷麗、太刀川さん甘やかしちゃダメだよ。忍田さんにも風間さんにも言われてるでしょ」
「あ。そうだったね…ごめんね、慶くん。やっぱり手伝えないから1人で頑張って?」
「ひでー!」
「はいはい酷くないから。全く…早くしないと風間さんたちに言いつけちゃうよ」

その言葉にぐっと言葉に詰まる。そんなことを言いつけられてしまえばまた缶詰にされて模擬戦どころではなくなってしまうのだ。

「じゃ、じゃあレポート終わったお前ら2人とも俺と模擬戦しろよ!」
「はいはい」
「うん、いいよー」
「絶対だからな!約束だからな!」
「分かったって。早くしないと大変なことになるっておれのサイドエフェクトが言ってるよ」
「!やべ、そういえば今日は隊室の掃除されるって言ってた…!」

それなのに模擬戦相手を探していたのかと2人は呆れたように笑う。慌てて隊室へ戻る太刀川に氷麗は小さく手を振った。それを見て迅は溜息をつく。

「悠一?どうしたの?」
「…嫌な予感がして来てみれば、本当に絡まれてるんだから…」
「サイドエフェクトで見えないのに凄いね!」
「氷麗のことはね」
「ふふ、ありがとう悠一」
「どういたしまして」

にこっと笑った氷麗にやっと安堵する。未来が見えても不安になることはあるが、見えないのも違う意味で不安だ。

「そういえば、何でおれが来たからレポートも模擬戦もやるなんて言ったの?」
「え?だって悠一に会いに玉狛に行くつもりだったけど、ここで会えて話せたからもう良いかなーって」
「……おれに会いに…?それ、だけ…?」
「それだけってひどーい!今日はまだ悠一に会ってないから凄く会いたかったのにー!」
「……そっ、か。ありがと」
「…迷惑だった?」
「そんなことないよ。凄く嬉しい」
「ふふ、良かったぁ」

目の前の嬉しそうな氷麗をぎゅっと抱きしめると、それに答えるように背中に手を回された。
いつも確かめるように抱きしめる迅に、氷麗は必ず抱きしめ返す。戸惑うこともなく、まるでそれが当たり前のように。

(…嬉しいけど、男として意識されてないみたいで複雑でもあるんだよな…)

氷麗の温もりを腕の中に感じ、迅は苦笑した。今はまだこのままで良いか、と。

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