告白強要罪につき逮捕します

『二宮さん!私を弟子にして下さい!!』
『断る』


そんな会話をしたのは一体いつだっただろうか。必死に教えた技術を扱おうとしている春に、二宮は僅かに表情を和らげた。


「?二宮さん、今笑いましたか?」
「笑ってねぇよ」
「えー!でもちょっと良い顔してましたよ!」
「うるせぇ。いいからさっさと合成弾完成させろ」
「じゃあコツ教えて下さいよ!全然分からないです!」
「自分で考えろ」


二宮の冷たい言葉にむーっと頬を膨らませながらも、春は再び自身の手元に集中し、2つのキューブを1つに合わせる。その真剣な表情に再び穏やかに頬を緩ませた。

何度弟子入りを断ってもめげずにやってきた春に絆され、1度だけ指導してやると言ってからもう数えきれないほど指導をしている。春が師匠は二宮だと周りに公言するほどに。
けれど、文句を言いつつもそれが少し嬉しかった。どんなにキツく冷たく指導しても、諦めることなく必死に食らいついてきた春の姿に惹かれていたのだから。


「うあー!出来ないー!」


キューブを消し、ぺたんと座り込む。
やはり今までのようにすんなりとはいかなかった。


「もう諦めるのか?」
「む……諦めません!絶対完成させます!」
「それは実物だな」
「あー!二宮さん私が出来ないと思ってるんですか!?私はNo.1射手の弟子なんですから!出来ないはずないんです!」
「そうか」
「だ、だから少しで良いのでコツを…」
「甘えるな」
「ぐぬぬ…」


やはり甘くはなかった。いつまでも優しさを見せない二宮の態度にめげそうになりつつ、春はバッと立ち上がった。


「ちょっと出水にコツ聞いてきます!」
「は?」
「そしたらきっとすぐに出来ますから!」
「おい待て。どうして出水なんだ」
「だって水上とか蔵内が合成弾出来るか知らないし興味ないですし。だから確実に出来る出水に聞いてきます!」
「待て。ちょっと待て春…」


二宮の止める言葉も聞かずに、春は勢い良く訓練室を出て行った。それに頭を抱える。しかしすぐに顔をあげた。出水は確か春に気があったはずだ、と。


「…くそ」


小さく悪態を付きながら、二宮は春の後を追うように訓練室を出た。


◇◆◇

二宮が春に追いついたときにはもう出水と2人で話している最中だった。


「出水!ほんっと一生のお願い!ね!コツだけで良いから!ね!」
「コツって言われてもな…。なんていうか、こう、ギュッて感じですよ」
「分かんないよ!?」


出水ならではの感覚を理解出来ずに春は唸る。


「…なら、おれが個人指導しましょうか?」
「へ?」


にやりと笑った出水に春は首を傾げる。直後、とんっと顔の横に手をつかれ、壁と出水に挟まれてしまう。


「……へ…?え、あ、い、出水…?」
「おれが手取り足取り教えてあげても良いんすよ?」
「や、で、でも私には師匠が…」
「ならおれが春さんの師匠になりますよ。それなら問題ないでしょ?」
「い、いや…私は…」
「おれじゃ、不満ですか?」


すっと顔を近付けられ、身体が固まった。まさか出水にこんなことをされるなど思っていなかったから。不安げに出水を見つめた。


「やっべ、春さんすげー可愛い…」
「い、いず、み…?」
「ねぇ春さん。やっぱり二宮さんじゃなくておれに…」
「おい」


怒りのこもった低い声に、2人は同時にそちらに視線を向けた。そこにはあからさまに不機嫌な表情を浮かべる二宮の姿が。


「あっれー?二宮さんどうしたんすか?」


あくまで余裕そうにいやらしい笑みを浮かべたまま態勢は変えない。二宮の眉間のシワが深くなった。


「…出水、春から離れろ」
「春さんと話してるだけじゃないすか。春さんはおれに用があるみたいなんで」
「ただ話す距離じゃねぇだろ。いいから離れろ」


出水は仕方ない、というように春から離れ、手をひらひらと振った。


「春さんは二宮さんのものじゃないんすから、そんなに怒ることないじゃないですか」
「俺の弟子だ」
「ふーん?なら、おれが手ぇ出しても問題ないすよね」
「……俺の女だ」
「!?」


二宮の言葉に春は声も発せずに目を見開いた。出水だけがにやりと笑う。


「おおー!二宮さん男前ー!」
「…黙れ」
「へへっ、冗談すよ。確かにおれは春さんのこと好きで狙ってましたけど、春さんの気持ち無視するつもりはないんで」
「い、出水…!?」
「この人鈍感だからちゃーんと言わないと伝わらないですよ」
「うるせぇ。…分かってる」


その言葉を聞き、出水は満足そうに笑みを浮かべた。そしてくるりと踵を返す。


「そんじゃおれは行くんで、後は2人でごゆっくりー」


出水は背を向けたまま手を振り、呆気なく去ってしまった。残された2人は無言のままで。
二宮はそのまま春に近付いた。何も答えられずにうっすらと頬を染めて二宮を見上げる春の前に立つ。


「に、二宮、さん…さっきの…言葉って…」


いつもとはまるで別人のように大人しくなってしまった春の背後の壁に、どんっと手をついた。先ほどの出水のように壁と自身の間に春を閉じ込める。途端に春の身体が固くなった。頬が更に赤く染まる。その反応に緩みそうになる頬を必死に引き締めた。


「…そのままの意味だ」
「に、の…みやさ…」
「……お前は、出水の弟子になりたいか?」
「!い、嫌です!私は二宮さんの弟子なんですから!私の師匠は二宮さんだけです!」
「なら、出水の女になりたいか?」
「…!」


にやりと笑みを浮かべている二宮に、ぶわっと顔が真っ赤に染まった。出水が言うほど春は鈍感ではない。二宮の同じような問いかけに、春が同じように答えるのを待っているのが分かってしまったから。


「い、意地悪…!」
「何の話だ」
「分かってて聞いてるの、ずるいです…!」
「それが分かってるなら素直に答えろ」
「〜〜〜っ」


羞恥から涙目で真っ赤になっている春に、二宮の方が耐えられなかった。


「っ、…春。俺はお前が好きだ。弟子じゃなく、俺の女になれ」
「…!!」
「…答えは聞かなくても分かるな」


全て顔に出てしまう春に満足そうに笑みを浮かべた。そしてはわはわと何も答えられない春に顔を寄せ、その唇を塞いだ。言葉で答えられないながらも、きゅっと服を握ってくる仕草が愛おしい。
いつも元気で騒がしいのに、こういうときは大人しくなってしまう反応が新鮮で。気を良くした二宮は壁についた手を春の後頭部に回した。

今まで我慢した分を堪能したら、もう少し優しく指導して甘やかしてやろうと心に決めながら。


end

ーーーーー
久々の二宮さんの短編が楽しすぎた。
夢主ちゃんが別人っぽく…いや気のせい。
二宮vs出水が好きなのかもしれないと気付いた今日この頃。もっと二宮さんをSにしたかったな←

title:LUCY28

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