僕の曖昧なラブソングなんて、君だけに聞こえていればいいんだ

だいぶリクエストに沿えていません…

ーーーーー

「ねえ、君バカなの?」
「ご、ごめん…」
「いつになったら学習するわけ?」
「ごめん、なさい…」


呆れた表情で春を見下ろす菊地原。怒っているわけではないが、その言い方に問題が有り、春は泣きそうになっている。


「菊地原くん、春も反省してるから、ね?」
「ぼく別に怒ってるわけじゃないんですけど」
「それは分かってるんだけど…」


そう、分かっている。ただの過保護だということは。春だって立派なボーダーの隊員なのに防衛任務に出てトリオン体を負傷するたびに菊地原から不満気に言葉をぶつけられるのだ。
危なっかしい、鈍臭い、戦闘に向いていない、などetc…。それは春が自分の知らない所で戦っているのを心配しての言葉なのだが、どうにも言葉が足りないようで。毎回春を泣かせることになっている。


「三上先輩は紅葉に甘すぎるんですよ」


お前が言うか。
側で聞いていた歌川はその言葉をなんとか飲み込んだ。三上は苦笑しながら泣きそうな春の背を撫でる。


「確かに今回は突っ込んじゃった春が悪いけど、それは隊員を思っての行動だから…」
「隊員を思って?あんな雑魚を庇うくらいなら紅葉が残って近界民倒した方が全然効率良いじゃないですか。なのに無駄にベイルアウトしてくるとか、本当にバカだよね」
「べ、ベイルアウト出来るから大丈夫だと、思って…」
「は?」
「…っ」
「なら君が庇った奴だってベイルアウト出来るじゃん」
「それは、そうなんだ、けど…」
「…意味分かんない。そんなにあいつを庇いたかったの?」


数割増しで不機嫌さが増した。
春は困ったように菊地原を見上げる。ただ菊地原に頑張っている所を見せたかっただけなのに、言葉も行動も彼をどんどん不機嫌にさせてしまって。どうしていいか分からずに涙が浮かんだ。


「何で泣くのさ」
「ご、ごめ…っ、私、菊地原くんを怒らせて、ばっかり、で…!」
「別に怒ってないんだけど」
「ご、ごめん…!」


何を言っても春は謝罪の言葉ばかりを口にする。そんな言葉が聞きたいわけではないのに。自分もこんなことを言いたいはずではないのに。春の心音は恐怖を感じているかのように鼓動していた。


「……ご、ごめん、菊地原、くん…!ごめんね…!」
「……ほんと、意味分からない」


募るイライラに菊地原は大きな溜息をついた。


「ぼくが怖いなら怖い、嫌いなら嫌いってはっきり言えば?」
「………え…?」


その言葉には春だけでなく、歌川も三上も驚いて菊地原を見つめる。離れた風間はただホットのカフェオレをずずっと口に運ぶだけだ。


「あーあ。ほんとバカみたい」
「お、おい菊地原!」
「菊地原くん!」


歌川と三上が止めるのも聞かず、はぁっと大きな溜息をついて菊地原は隊室を出ていった。
扉が閉まると、春は今にも泣きそうな表情で三上を見つめる。


「歌歩ちゃん…!どうしよう…!今度こそ菊地原くんに嫌われちゃった…っ」
「春、泣かないで?大丈夫だから、ね?」
「う、うぅ…っ、また怒らせちゃった…また…っ」
「あれは怒ってたんじゃないから心配しないで?」
「三上先輩の言う通りだ。紅葉、そんなに泣かなくてもあいつは紅葉のこと嫌いになってないから安心しろ」
「歌歩ちゃん…歌川くん…。でも…菊地原くん、呆れて出てちゃった…」


2人のフォローにも立ち直ることなく、しゅんっと落ち込んでしまう。どうしたものかと2人が顔を見合わせると、今まで黙っていた風間がようやく口を開いた。


「あいつは紅葉を心配していただけだろ」
「え…?」


歌川と三上が菊地原を思ってあえて言わなかったことを、どら焼きを食べながらもぐもぐと話した。


「菊地原くんが、私の…?」
「いつもお前のことを心配している。今回もそれだろう」
「私の…心配…?でも、さっきも怒ってて…」
「あいつは不器用だからな。上手く言葉に出来ずにイライラしていただけだろう。お前は何も悪くない」
「………」
「そんなに気になるならちゃんと言葉にしてこい」
「言葉、に…?」
「菊地原が言わないならお前が言うしかないだろう」
「言うって…何を、ですか…?」


きょとんとした春を風間もきょとんと見つめ返した。


「菊地原が好きだからそんなに悩んでいるんだろう?なら好きだと伝えれば良い」
「!?そ、そんなこと…!で、出来ない、です…!」
「どうしてだ?」
「え!?ど、どうしてって…は、恥ずかしい…ですし…」
「自分の思っていることを伝えることの何が恥ずかしいんだ」


風間ならではの答えに、聞くだけになっていた歌川たちは苦笑するしかない。引っ込み思案な春にそんなこと出来るはずがないと再びフォローに入ろうとしたが、先に春が口を開いていた。


「…そっか…。何も…恥ずかしいことなんて、ないんだ…」
「え…春ちゃん?」
「紅葉?」
「そう、ですよね…!菊地原くんを好きなことは何も恥ずかしいことじゃないです…!」


ぐっと両手の拳を握った。


「私…菊地原くんに気持ち伝えてきます…!」
「ああ、行ってこい」
「い、いってきます!ありがとうございます、風間さん…!」


風間にぺこりと頭を下げ、春は隊室を出て行った。満足そうな風間だが、2人はそれで良いのかとぽかんと見送る。


「…何で…紅葉が告白する流れになっているんでしょう…」
「えっと…風間さんの助言のお陰…かな…?」
「助言…」
「う、上手く行くことを祈ってよう?ずっと両片想いより両想いになった方が私たちも安心出来るし…!」
「…そうですね。菊地原が少し素直になれば上手くいくはずですしね」
「上手くいくに決まっているだろう。菊地原と紅葉だぞ」


説得力のない言葉なのに、風間が言うととても説得力のある言葉に聞こえた。もうすぐ風間隊の防衛任務、それまでに上手くいって戻ってくることを期待して。


◇◆◇


菊地原を追いかけて本部の廊下を走る。
まだ追いつくはずだから。ひたすらに。
必死に走り続け、やっと菊地原の背中が見えた。大きく息を吸い込んで声をかける。


「菊地原くん!!」


聞き馴染んだ声の聞き慣れない大声にびくりと振り向いた。ただでさえ良く聞こえるのに、大声はうるさいと眉をひそめて。


「ちょっと、うるさいんだけど」
「あ!ご、ごめん…!」


息を切らしながら走り寄り、すぐに謝る。
体力のない春を見下ろし、菊地原は先を促した。


「で、何の用?」
「あ、あの、えと…ね…!つ、伝えたいことが、あって…!」
「ごめんとかもう聞き飽きたよ」
「ち、違うよ!」
「じゃあ何?」
「あの、ね、あの…!」


ドキドキとうるさく鼓動する音はもう菊地原にはとっくに聞こえているのだろう。けれどその意味を伝えなければ。


「き、菊地原、くん…!」
「何」
「あの…!わ、私…!菊地原くん、の、こと、が…!菊地原くんの、ことが…!」
「……」


大きく深呼吸をし、春は両手を握りしめて菊地原を真剣な眼差しで見つめた。


「私は、菊地原くんのことが、す、好き…!」


ついに言った。言ってしまった。
しかし言い終わった所で、何故自分は好きだと告白しているのかと疑問を抱く。段々と冷静になってきて恥ずかしさに叫びそうになった所で、菊地原がぽつりと零した。


「……知ってるよ」
「…………え…?」


再び羞恥心は消え、ぽかんと見つめる。
そんな春に菊地原は溜息をついた。


「バカじゃないの?散々 君のこと見てきてるのに気付かないわけないじゃん」
「え、あ、え…」
「それに心音でバレバレ。ぼくといるときはいきなり鼓動早くなるんだからさ」
「!!」
(…それがぼくを好きなのか怯えてるのかは確信もてなかったけど)


そんなこと言えるはずもない。あわあわと慌てだしている春よりずっと立場は上でいたいから。


「余計な虫が付かないようにしてたぼくの気持ちも知らないで、今更好きだなんて遅いよ」
「…お、遅い…?」


途端に眉を下げた春に菊地原はすっと視線をそらす。


「……まあ、やっと気付いたんなら別に良いけど」
「菊地原くん…?」
「相変わらず鈍いなあ。ぼくも君が好きだって言ってるんだよ」
「へ!?」
「何その反応。ぼくが君を好きなのがそんなに意外なわけ?」
「い、意外というか、その、そんなわけないと、思ってたから…」
「は?そんなわけないと思ってたのにぼくに告白してきたの?」
「う、うん…。私の気持ちは、伝えておきたくて」


普段そんな自分の気持ちなど、幼馴染の三上以外には言えないのに。健気に気持ちを伝えてきた春にどきりと心臓が跳ねた。それを誤魔化すように再び溜息をつく。


「…全くさ、勝手だよね」
「…ご、ごめん…」
「君が自分勝手なのは今に始まったことじゃないし、ぼくしか受け入れてあげられないだろうね」
「え…?」
「さっきから鈍すぎるんだけど」
「あ、あの、菊地原くん、つまり、その…!」
「うるさいな。ほら行くよ。風間さんたち待たせてるんだから」
「…隊室出てきたの菊地原くん…」
「うるさい」
「……ふふっ」


春の手を引いた菊地原を見上げ、春は頬を染めてはにかんだ。先を歩く菊地原の耳は、赤く染まっていたのだから。


end

ーーーーー
初書き続き…やばい難しい…
ていうかどんな状況だこれ…展開ほんと…すみません…自分でも急展開すぎて…!不完全燃焼…リベンジしたい…!
きくっちーは口では酷いこと言うけどやっぱり根本は優しいよね!って思いながらもそれを表現出来ない…!今後の課題が増えましたね!頑張ります!!

title:LUCY28

[ 18/25 ]


back