君が笑うと心が溶けるよ

「ふわぁぁぁぁ」


的のど真ん中を撃ち抜き続ける姿をぽわんっと見つめる。一切のズレもなく、的確に、ただ一点を。


「か、かっこいい…!」
「そうか?」


No.2狙撃手を見つめていると、ひょこっとNo.1狙撃手が顔を覗かせた。相変わらず的で絵を書いていたようだ。しかしそちらには目もくれずにただひたすらにじっと見つめる。
真剣な表情で的を撃つ、奈良坂の姿を。


「かっこいい…!!」
「それもう聞いたっての」
「だってかっこよすぎませんか…!あの獲物を狙ってるときの真剣な表情…!ど、ドキドキしちゃいます…!」
「そんなもんかねぇ」
「奈良坂くんただでさえ美人なのに、真剣な表情するとかずるいですよね!」
「オレにゃ分かんねぇな」


呆れる当真の隣で再び奈良坂の狙撃を見つめる。すると、ちらりと一瞬目が合った。一瞬の出来事だったのに、心臓はばくばくと鼓動している。カッと全身が一気に熱くなった。


「い、今…今…!」
「あ?」
「今…!な、ななな奈良坂くんがこっち見ました…!」
「春が騒いでうるさいからじゃね?」
「目が合っちゃいました…!」
「へー」
「もう死んでもいいです…!」
「いやいやいや何言ってんだよ」


奈良坂の狙撃を初めて見たときからずっとずっと好きなのだ。絶賛片想い中なのだから今のような出来事に浮かれるのも仕方がない。いつも狙撃に集中している奈良坂と狙撃訓練中に目が合うなど、とてもレアなことなのは確かだ。やはり嬉しくて頬が緩んでしまう。


「幸せすぎて昇天しそうです…」
「大袈裟なやつだな」
「むしろ全然足りません!」
「なら好きですって告白してくりゃ良いだろ」
「…………え?」


ぽかんっと当真を見つめた。


「だーから、奈良坂に告白してくりゃ良いだろ?そうすりゃ足りない言葉ももっと伝えられるぜ?」
「な、ななな、な、何を言ってるんですか…!?」
「あ?だから奈良坂に告白すりゃ良いだろって…」
「当真さんは勉強以外もダメなバカなんですか!?出来るわけないじゃないですか!」
「お前、今オレに対してすげー酷いこと言ってんぞ?」
「告白出来るくらいならとっくにしてます…」


喧嘩腰で反抗してきたかと思えば、途端にしゅんっと項垂れてしまう。


「…奈良坂くんには、好きな人がいるんですよ」


しかも両想いで。
あのときのことは忘れない。
春ははぁっと溜息をつきながらそのときのことを思い出した。


『あら?透くん?』
『玲?こんな所で何をしているんだ』
『茜ちゃんのお迎えに来たの』
『そうか、丁度訓練を終わりにした所だ。日浦と一緒に隊室まで送って行く』
『ふふ、ありがとう』


仲良さげに、下の名前を呼び合って、穏やかに笑い合って。誰が見ても美男美女のお似合いのカップルだった。再び大きな溜息が漏れる。


「そんなうじうじしてねぇでとりあえず告白してみろよ。絆されてOKされるかもしれないぜ?」
「…絆されてOKされても嬉しくないんですけど…」
「ならオレにしとくか?」
「有り得ないんですけど!!」

にやりとした当真に、予想外に大きな声が出る。春の否定する大声が訓練室内に響き渡った。一瞬にしてしーんっと静まり返る。
周りの視線を集めてしまい、羞恥に頬が赤く染まった。それを見て当真は喉を鳴らしてくつくつと笑う。


「何をしているんだ」
「!!」


そこへ訓練を中断した奈良坂が春たちに近付いてきた。春の身体はピシリと固まる。


「おー奈良坂、こいつが狙撃の邪魔して悪かったな」
「別に邪魔にはなっていない。どんな状況でも変わりなく撃てなければ意味がないからな」
「つまりうるさかったんだな」
「あんたの声の方がよっぽど耳障りだった」
「ひでーなおい」


2人の会話は聞こえる。けれどこんなにも近くに奈良坂がいることに緊張してしまう。


「あ、な、奈良坂くん!」


狙撃中の奈良坂を邪魔してしまったのだ。それは謝らなければとなんとか口を開く。


「ん?紅葉、どうした?」
「あの、な、なら、奈良坂くん…!」


整った顔に見つめられてどんどんパニックになっていく。ただ狙撃の邪魔をしてごめん、っとその一言を伝えればいいはずなのに、言葉は上手くまとまらなくて。
無言で春の言葉を待っているその瞳に、春の頭はついにパンクした。


「好きです!!」
「………」
「ぶは…っ」


両手を握って言い切った春と、無表情の奈良坂と、吹き出した当真。けらけらと大爆笑する当真に春ははっとした。


(間違えた…!!!)


ごめんなさい!
そう言ったつもりだった。けれど当真が告白だなんだと言っていたせいでそれが意識に残っており、言おうとしていた言葉とは違う言葉が漏れてしまった。全く違う台詞だ。一体自分は何を言っているんだと顔を真っ赤にしてその場に蹲る。


「…死にたい…!」
「くくく…っ、いやいやお前最高だわ」
「当真さん笑わないで下さい!」
「だってお前、絶対言うこと間違えたんだろ?言おうとしてたことと思ってたこと逆になったんじゃねーの?」
「うぐ…」
「すげー面白ぇな…!」
「だから笑わないで下さい!!人間誰にでも失敗はあるんです!」
「取り返しの付かない失敗もあるよな」
「とーうーまーさーんーーー!!」


恥ずかしさから浮かんでしまった涙。潤んだ瞳でキッと当真を睨む。しかし当真はただただ笑うばかりで。
見ていて腹は立つが、当真から視線を逸らすことは出来ない。逸らしてしまえば、奈良坂が視界に入ってしまうのだから。なんとかそれは避けてこの場を去ることだけを考える。


「紅葉」
「は、はい!!」


考えている間もなく奈良坂に名前を呼ばれてピシっと背筋を伸ばした。


「…今の言葉は本当か?」
「………え?」
「だから、今お前が言った言葉は本当かと聞いているんだ」
「………………え?」
「……」
「ご、ごめんなさい…」


無言の圧力に一瞬にして負けた。
聞いてほしくないことを普通に聞いてくる奈良坂に、何と答えようかと必死に頭を回転させる。けれどこんなに焦っていて良い案も出るはずがなくて、結局素直に本当のことを言うしかなくて。春は眉を下げながら奈良坂に向き直った。


「えっと……うん。本当、です」
「そう、か」
「あ!で、でも気にしないで!というか、わ、忘れて!聞かなかったことにして!」
「?」
「迷惑なのはちゃんと分かってるから…!な、奈良坂くんが、その、那須さんのこと好きっていうの、ちゃんと、分かってるから…!」
「何の話だ?」
「お互いに下の名前で呼ぶ仲だもんね!それに誰が見てもお似合いのカップルだよ!本当に!お、お幸せに…!!」
「だから何の話だ」


僅かに眉を寄せた奈良坂にすら見惚れた。少し不機嫌そうな表情すら様になっている。どんな奈良坂も素敵に見えてしまう自分は末期だなと内心で自嘲しつつ、えっと、と言葉を漏らした。


「奈良坂くん、那須さんのことが好きなんだよね…?むしろ、その、もう、付き合ってたり…する、のかな…?」
「…随分な思い違いをしているようだな。1つずつ訂正していく」
「え…?」
「玲…いや、那須玲は俺のいとこだ」
「………」
「恋愛感情の好きはないし、付き合ってもいない」
「………」
「お前のは全部勘違いだ」
「…………………当真さん!?」
「いやオレ関係ねぇだろ」


奈良坂の言葉の真意を当真に求める。けれどもちろん、奈良坂がこんな嘘をつくはずないことなど分かりきっているため、恥ずかしさを隠すためだ。


「当真さん…あんたが原因か」
「いやだからオレは関係ねぇって。こいつがお前のこと好き過ぎて早とちりしただけだろ?」
「な、と、当真さんなんてことを…!?」
「事実しか言ってねぇぜ?」


慌てて奈良坂を向けば、整った無表情と視線が交わる。先ほど自分で好きと言ってしまったが、自分で言うのも他人にバラされるのもどちらも恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちだ。


「もう!もう!余計なこと言わないで下さい!」
「自分で言っちまったんだから良いだろ別に」
「良くないですよ!!」
「へーへー、そりゃ悪かったな。そんじゃ邪魔者は退散してやるよ」
「…え…」
「そんじゃな春、頑張れよー」


最後にぽすっと頭を撫で、当真はひらひらと手を振りながらこの場を去って行った。ぽかんと見送ることしか出来ない。


「…紅葉」
「は、はい!!」


デジャヴだ。再びピシッと背筋を伸ばした春に奈良坂が僅かに微笑む。その綺麗な微笑みに口を開けて見惚れてしまう。


「さっき言ったこと、本当だと言っていたな」
「…!え、と、……は、い…」
「なら、俺と付き合ってくれるか?」
「…え、ど、どこに…?」
「そうじゃない。恋人になってくれるかと聞いているんだ」
「!?!?な、なんで!?」


突然のことに理解出来ずに身構えてしまう。しかしそんな反応にも奈良坂は穏やかに笑う。


「愚問だな」


そう呟いて春との距離を縮めた。


「俺もお前が好きだからに決まっているだろ」


愛しげに細められた瞳と優しい声音。見惚れて言葉の意味を理解する前に、手を取られて指先にちゅっと口付けられる。ぽかんと見上げる春と、穏やかに笑う奈良坂。


狙撃している所をいつも痛いくらいに見つめられ、気にならないわけがなかった。きらきらとした瞳で自分の狙撃を見つめる姿は素直に可愛いと思えて。
まだまだお互いのことを知らない一目惚れ同士の恋だ。
状況を理解し、ボッと春の全身が沸騰するように熱くなるまで、あと数秒。


End
ーーーーー
初の奈良坂くん…難しすぎる…
奈良坂ファンの皆様すみません…彼はたけのこの国の王子様で私にはまだレベルが高いです…!
とまあそういうことで終わりらへんは無理矢理ですね!見切り発車!当真さんが出張るのは進めやすいからです。好きです。
奈良坂くん美人すぎて…ちゃんと書けるようになりたいからもっと彼を勉強します!


title:LUCY28

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