狙ってしまえ左胸

たまたま出水たちと一緒にいるのを見かけただけだった。初めて見かけたのだ。けれど、口元に手を当てて笑う彼女の姿に目を奪われた。


「ねぇねぇ春先輩!オレと付き合ってよ!」
「うん?どこか行きたい所あるの?」
「そうじゃなくて!オレの彼女になって!」
「ふふ、また君はそうやってからかって…ダメだよ?簡単にそういうこと言っちゃ」
「からかってないし簡単に言ってないんだけど!」


春に一目惚れしてから必死に声をかけて仲良くなり、毎日のように告白しているのだが、春は緑川を一向に相手にしない。
年下は恋愛対象ではないとでもいうように冗談と取られ、優しく頭を撫でられる。春に頭を撫でられるのは嫌いではないが、もっと別の扱いをしてほしいと不満そうに唇を尖らせた。


「もー!何で春先輩はオレの言うこと本気で受け取ってくれないのさー!」
「はいはい、可愛い駿くんに好きになってもらえて嬉しいよ」
「ほらまたそうやって!オレ可愛いとか言われても嬉しくないし!」
「そんなこと言われても、駿くん可愛いから…」
「…年下だからダメなの?」
「うーん…そうかもね。あまり年下を異性として見たことは…」
「あ、紅葉先輩、お久しぶりです」
「!!か、烏丸くん…!」


廊下で騒いでいた2人に声をかけたのは烏丸だった。普段あまり本部では見かけない烏丸の登場に春は僅かに動揺する。


「烏丸くんが本部に来てるなんて珍しいね」
「後輩がこっちに来てて用があったんすけど、もう終わったんで帰るとこです」
「そ、そっか。小南ちゃんたちによろしくね」
「はい。紅葉先輩も、出水先輩たちによろしくです」
「うん、またね」


無表情のまま会釈する烏丸にひらひらと手を振り、姿が見えなくなってから大きく息を吐き出した。


「ふぁぁぁびっくりした…まさか烏丸くんに会うなんて…」
「ちょっと春先輩!年下興味ないって言った側から何でそんな意識してるのさ!」


ぱたぱたと顔を仰ぐ春に、当然緑川は噛み付く。


「い、いや…烏丸くんはイケメンだから…。イケメンってだけで緊張するじゃない?」
「オレには全っ然緊張してくれてない!」
「だって駿くんは可愛いから」
「ほらまたそうやって子供扱いして!オレと春さん3つしか変わらないのに!」


むーっと頬を膨らませて怒る姿がまた可愛く見えてしまい、春は苦笑する。弟のようでとても異性としては見れない。


「ほ、ほら、烏丸くんは高校生だから…」
「じゃあオレが高校生になったらちゃんと男として見てくれる?」
「そのときは私が大学生だからなぁ」
「じゃあその理屈関係ないんじゃん!」
「あ、はは…」
「ていうか!前に三雲先輩のことかっこいいって言ってたでしょ!三雲先輩はイケメンじゃないと思うしオレと同じ中学生なのに!」
「え、えっと…2歳差までなら異性として見れる、のかな…?それに、ほら、三雲くん身長高いししっかりしてるから…ね?」


困ったように笑って言い訳をする春は、どこまでも自分を異性として見ていない。見ようとしていない。
自分だけが恋愛対象外のようだ。そんな春の反応に、すっと緑川から表情が消えた。
今まで我慢してきたが、さすがにここまで否定され続けて限界を迎える。


「…じゃあ、2歳差でオレが今より身長高くなったら、春先輩はオレを男としてみてくれるの?」
「しゅ、駿くん…?」
「ねえ」
「…!」


春よりも少しだけ背の高い緑川に迫られ、思わず後退ると側にあった椅子に足を取られ、すとんっと座ってしまう。座って見上げる緑川はいつもと雰囲気が違い、何と声をかけて良いか分からずに動揺した。


「オレさ、今日誕生日なんだよね」
「……え…?」
「だから今日からもう春先輩と2歳差。身長はオレまだまだ伸びてるし」


すっと春の頬に手を当てた。


「オレ、すぐに春先輩好みになっちゃうよ」


今までに聞いたことのない真剣な声音と見たことのない表情に声が出せなくなる。何故か、ドキドキと心臓が早鐘を打っている。顔が、熱くなっていく。


「あれ、春先輩顔赤いよ?」
「…っ」


いつものように無邪気なのに、いつもとは何かが違って。


「少しはオレのこと、男として意識してくれた?」
「…え、あ…」
「いつまでも可愛い弟ポジなんて嫌だからね。絶対春先輩の恋人になる……ううん、絶対春先輩を、オレの恋人にするから」
「しゅ、しゅん…く…」
「オレ、本気だから」


大人びた表情で笑みを浮かべ、緑川はすっと顔を近付けた。思わずぎゅっと目を瞑ると、頬に柔らかい感触。触れたのが唇をだと分かった瞬間、かぷっと甘噛みされ、びくりと肩を跳ねさせた。


「!?な、え、え…!!」


離れた緑川を真っ赤になって見上げた。甘く噛まれた頬を押さえて。それを緑川は満足そうに見つめる。


「首に痕つけるのがオトナなんだよね?でもオレまだ痕のつけ方とか分からないから、これから教えてよ、春先輩」
「あ、痕って…!」
「オレの身長がもっともっと伸びて三雲先輩とかとりまる先輩くらいになる頃には、きっと出来るようになるからさ」


いつものように無邪気に笑った。


「オレ以外見えなくしてあげるから、覚悟しててよね」
「……は、い…」


突然男になった緑川に、ドキドキ高鳴る胸。はい以外の返事は出来なかった。熱くなる顔を隠すように俯く。
しかし、そこでふと思い出す。緑川が先ほどなんと言っていたか。


「……あ、駿くん、本当に今日誕生日なの?」
「え?そうだよ?」


先ほどまでの雰囲気が嘘のようにきょとんとした表情で答える緑川に、段々落ち着いてきた。ほっと小さく息を吐き、春は緑川に微笑みかける。


「知らなくてごめんね?お誕生日おめでとう、駿くん」
「へへっ、ありがとう春先輩!今年は我慢するけど、来年の誕生日には春先輩を頂戴ね!」
「こ、こら!からかわないの!」
「そんな顔真っ赤にされて言われてもなー?」


にこにこと楽しそうないつも通りの緑川でも、もう弟として見ることは出来なさそうだと、噛まれた頬に手を当てた。

来年に緑川の誕生日を迎えるその前に、自分をあげてしまうだろうとはにかんで。


end

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駿くんお誕生日おめでとー!!可愛い君が大好きだ!!でも数年後はめっちゃかっこよくなると思ってる…!
リクエストと一緒にしてしまってすみません!ありがとうございました!

title LUCY28

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