ギリギリアウト!

※ifに近いくらいベタベタしてるので注意

ーーーーー

ラウンジで双子を見かけた犬飼は、ぴたりと足を止めた。何かを話している2人は相変わらず距離が近い。眠そうな紅葉が出水の肩に頭を擦り付けている姿はまるで猫のようだった。


「周りの隊員たちが恥ずかしがってるんだけど」


2人の距離感に慣れていれば「またか」ぐらいの反応で済むのだが、見慣れていないC級隊員たちはちらちらと双子に視線を向けていた。ぐりぐりと頭を擦り付けている紅葉を、出水はぽんぽんと撫でている。


「お、犬飼先輩お疲れ様ーっす」
「お疲れー」
「何見てんすか?」
「あれ」
「あれ?」


頭の後ろで手を組んでいた米屋は、視線を向けた先の光景に呆れたように笑った。


「またあいつらは…」
「ただ話してるだけで何であんなことになるのかな?注目の的だね」
「たぶん内容が悪いんじゃないすか」
「内容?何話してるか分かるの?」
「まあ。学校で話してた続きだと思うんで」


犬飼は首を傾げ米屋を見つめたが、自身で確かめようとそっと双子に近付いた。声が聞こえる場所まで。


「で?決まったか?」
「んー…」
「おい考えて眠くなるって子供かよ」
「子供じゃない!公平が撫でてくるせいだから!」
「そりゃこんなことされたら撫でたくなるだろ」


そう言いながら撫でる出水も撫でられる紅葉も満更でもなさそうで。紅葉はこてんっと肩に頭を預ける。


「…眠い」
「答えたら寝ても良いぜ」
「だからいきなり言われても困るってば」
「今朝から言ってんだろ」
「今朝からでもいきなりでしょ!」
「いいから何かねぇのかよ!欲しいもんは!何でも良いって言ってんだから」
「じゃあコロッケ」
「可愛さの欠片もねぇな!ホワイトデーだっつの!」
「何でも良いって言ったの公平でしょ!?ばか!」


双子が話していたのはホワイトデーのことだった。最初は和やかな会話だったはずが、次第に何故か2人は喧嘩口調になっていく。けれど距離は寄り添うように近くて。矛盾する会話と行動に犬飼はくすくすと笑いながら更に耳を傾けた。


「もうわたしも何でも良いから公平選んでよ」
「どうせなら欲しいもん渡したいだろ」
「だからその欲しいものが………あ」


ふと、何かを思い出したように止まった。思い当たるものを見つけたように。


「お、何かあったか?」
「…あったにはあったけど…」
「何?」
「……この前、光たちと買い物に行ったときに見つけたやつ。良いなって思ったけど高いからやめたの」
「へー?ならお兄ちゃんが買ってやるぜ?」
「……」


にやりと笑った出水に、むっとする紅葉。紅葉は何も言わずにバッと立ち上がってしまった。


「紅葉?」
「なんかむかつく。軽いからいい」
「は!?」
「やっぱいらない」
「何でだよ!」


そのまま去って行こうとする紅葉の腕を掴んだ。


「ねぇ、どこの少女漫画?」
「さあ?いつものことなんで」


双子は注目を集めるばかりだが、本人たちは気付いていない。


「何か欲しいもんあんだろ?」
「……欲しいものっていうか…ピンキーリング…可愛いの、あって…」
「ピンキーリングって…指輪?そんなのが欲しいのかよ」
「……だからいらない!ばか!」
「あ、ちょ、待てよ紅葉!」


掴まれていた腕を振り払い、ラウンジを出て行く紅葉を追いかけるように出て行く出水。それを見送った犬飼と米屋は同時に溜息をついた。


「あの恋人の喧嘩は何かな」
「まあ、いつものことなんで」
「全部その一言で片付ける君も凄いよね」
「どーも」
「周りの視線を気にしないあの双子ちゃんたちも凄いけど」
「そっすね。ま、それもいつものことっすよ」


慣れた様子の米屋と違い、双子のやり取りにざわざわするラウンジ。犬飼はにやけそうになる表情を抑え、わざとらしく溜息をついた。楽しんでいるとバレないように。


◇◆◇


「おい、待てって紅葉!」
「うるさい!なに!」


廊下で揉める声を聞き、荒船と村上は喚く双子を見つけた。言い合いは珍しくないが、何をやっているんだと溜息をつく。


「おいおい、兄妹喧嘩かよ」
「止めた方が良いかな?」
「あ、大丈夫大丈夫」


そこへ通りかかった緑川の緩い言葉に、今度はそちらに視線が向いた。


「大丈夫って、あいつら喧嘩してんだろ?」
「戯れてるだけだから平気だよ。いつものことみたいだし」


慣れた様子の緑川に釣られ、双子の様子を見ることにした。双子の言い合いはよく聞くととても下らないもので。喧嘩の原因が分からない言い合いになっている。


「戯れてる…確かに、そう見えなくもないな」
「でしょ?」
「妙な双子だぜ」
「何の話をしてるんだろうな?」
「ホワイトデーじゃない?いずみん先輩先月から紅葉ちゃんへのお返し考えてたし」
「他に本命貰ってるだろうに、何で妹のお返し最優先なんだよ…」
「いずみん先輩だからね!」


その一言で納得出来てしまう辺りもう手遅れだった。


「相変わらず仲良いな」
「仲良いっつーかおかしいだろ」
「おかしいか?」
「……」


きょとんとした村上に荒船は溜息をついた。これはあの双子の影響なのか、村上の天然さなのか、自分が常識外れなのか、分からなくなってしまう。


「あ、なんか喧嘩おさまったみたいだよ?」
「つーか何でいつの間にかにハグしてんだよ!」
「ははっ、仲良いな」
「だからそういう問題か!?」


ツッコミに疲れて頭を抱える。全てあの双子のせいだ。そう思い文句を言おうと近付くと、しっかりと双子の会話が聞こえてきた。


「じゃあピンキーリングな」
「…うん」
「随分高ぇもん要求してくるよな」
「公平がなんでも良いって言ったんでしょ」
「別に嫌とは言ってねぇだろ。ちゃんと買ってやるよ」
「…出来ればお揃いが良い」


出水の胸に顔を埋めながら小さく小さく呟いた。お揃いは何でも嬉しくなる。1人でも1人ではないと思えるから好きなのだ。けれどそれを言うのは恥ずかしくて、とても小さな声になってしまった。もう子供ではないのだから、と。
しかしその声をしっかりと聞いた出水は穏やかに微笑み、紅葉の柔らかな髪を撫でた。


「自分で自分に指輪買えってか」
「…嫌なら良い」
「だから嫌とは言ってねぇだろ」
「じゃあグダグダ言わないでよ」
「買ってもらう側なのに何でそんな偉そうなんだよ」
「お返ししてもらう側だし」
「…確かにな」
「ふふっ、なんでそこで納得してるの」
「お前が言ったんだろ?」
「そうだけど」
「別に良いけどよ。それより紅葉」


出水の呼びかけに、紅葉はやっと顔を上げた。頭を撫でていた出水の手は今度は紅葉の左手を取り、顔の前まで持ち上げる。するりとその細い指を撫でた。


「なに?」
「指のサイズいくつだ?」
「え?サイズ?」
「ちなみに左手の薬指な」
「…なんでよばか」
「お揃いにしたいんだろ?」
「ピンキーリングは小指って決まってるから」
「何だよマジかよ。おれ超恥ずかしいやつじゃん」
「うん、本当にね」
「やっべ今の忘れろよ」
「…ふふっ、ばーか」
「あ、おい待て!」


するりと抜け出し、紅葉は逃げるように走り出す。また追いかけっこが始まった。


「おいこら紅葉!」
「陽介に言ってやろー」
「ふざけんなやめろ!」
「じゃあ秀次」
「どっちにしろバカにされんだろ!」
「だってばかでしょ」
「お前に言われたくねぇよ!」
「はぁ!?なんでよ!」


反論のために足を止めた紅葉は簡単に出水に捕まった。逃げられないよう後ろからぎゅっと拘束するように抱き締め、紅葉の頭に顎を乗せる。


「ったく、今から一緒に買いに行くのに逃げんなよ」
「え、今から行くの?」
「当たり前だろ。ホワイトデーは今日なんだから」
「…うん」
「あと商店街のおばちゃんのとこでコロッケも買ってやるよ」
「え!ほんと!」
「おう。一緒に食おうぜ」
「やった!公平のそういうとこは好き」
「一言余計だバーカ」


上を向いた紅葉が出水に身体を預けると、お互いに視線を交わらせ笑い合う。ふわふわとした雰囲気が漂った。


「んじゃ行こうぜ」
「うん!」


拘束を解いて手を出した。紅葉は何の迷いもなくその手を取る。まるで小さい兄妹のように手を繋いだ双子は、そのまま本部の廊下を歩いて行ってしまった。2人で買い物に行くために。
そのやり取りを見ていた荒船はげんなりとしたように顔を引きつらせる。


「…何だ今の」
「どこかの恋愛ドラマみたいだったな」
「鋼さん恋愛ドラマとか見るの?意外だね」
「そうか?」
「いやそこじゃねぇだろ!何だよ今の!」
「えー?いつも通りじゃない?」
「…あいつらだけじゃなくて、お前らの感覚までおかしくなってるってことだな」


米屋や緑川、他にも双子に近い人物たちはあれを普通だと見てしまうのだろう。けれどどう見ても普通ではない。普通ではないはずなのに、まるで自分が間違っているような錯覚に陥る。


「兄妹としてはあれはアウトだろ」
「セーフだよ!」
「セーフだな」
「どこがだ!百歩譲ってもギリギリアウトだろうが!」
「セーフだってば!いずみん先輩たちからしたらあんなの全然序の口だし!」
「…マジかよ」


これ以上感覚が狂う前に、双子の関係を深く知るのはやめた方が良いのではないかと、荒船は頭を抱える。


「それにしても、あの2人は相変わらず仲が良いな」
「…そうだな」


純粋にそう信じる村上に肯定することしか出来なかった。


end

ーーーーー
ホワイトデー第7弾!ラストーーー!!
最後は出水兄妹にしてみたけどこれはifなのかifじゃないのか微妙なとこだけど別にちゅーしてないしR指定ついてないしifじゃないよねでもイチャイチャしすぎかもしれないいやこれが普通かもしれないどっちだよ荒船さん!!!!って悩みました。
見る人によると思うのでどっちの世界線でもいけるはず…?ご想像にお任せします!

title:きみのとなりで

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