双子の日常(2)

「学校でイチャイチャすんな弾バカ兄妹」
「「誰が弾バカだ槍バカ」」


教室で寄り添い合う2人に米屋は呆れたように溜息をついた。


「珍しく2人で勉強してるかと思えば、何で1つの机にぎゅうぎゅうにくっついてやってんだよ…絶対狭いしやりづらいだろ…」
「……そういえば狭い」
「だから何かやりづらかったのか」
「気付いてなかったのかよ…」


無意識な2人に頭を抱えた。周りからの好奇な視線にも気付かないほど気にしていなかったのかと。


「ていうか一緒に勉強なんかしてねーよ」


そう言いながら立ち上がり、出水は紅葉の前に移動した。そして机を挟んで向き合う。


「勉強してない?じゃあ何してたんだ?」
「合成弾について考えてた」
「は?」
「1人だと2つの種類しか合成出来ないけど、2人なら4つの種類を合成出来るんじゃないかって公平と話してたの」
「………」
「もしくは4つのアステロイドで威力強化!」
「ギムレット+ギムレットとか絶対強いよね!」
「……こいつらマジな弾バカだったわ…」


仲良さげに話してると思えばそんなことだった。紅葉が射手になってからボーダーで一緒にいられない分、学校で一緒にいる機会が増えた気がしている。
机を挟んで紙に図形やら何やら難しいことをずらずらと書いており、余計に頭が痛くなった。


「だからここをこうしてさ…」
「でもそうなるとこっちの割合が…」
「それはこうして補って…」
「あ、そっか。そしたらこうすれば…」
「そうそう。それから…」
「……頭いてーし割れそうなんだけど」


米屋には何を話しているのかさっぱりだった。呪文しか聞こえない。これ以上関わるのはやめようと三輪の教室へ行こうと踵を返した。


「……公平、意外と男らしかったんだね」
「ん?」
「……おいおい…」


紅葉から不穏な言葉を聞き、ギギギっと振り返る。そして視界に入ったのは、手を合わせる双子の姿だった。


「公平って陽介とかと比べると貧弱に見えるからもっと細いかと思ってた」
「貧弱とか紅葉に言われたくねーよ」
「…うん、なんか…こうやって比べてみて公平はちゃんと男なんだって実感したよ」


ぎゅっと手を握り合う。
紅葉よりもひと回りも大きく、固い手。出水よりも小さく、華奢で柔らかい手。お互いの手を確かめ合うように。


「紅葉も、ちゃんと女子だよな」
「元々女子だから」
「もっと可愛げありゃ良いのに」
「…うるさいばか」
「まあ、今のままでも充分可愛いけどな」
「……なに言ってんの…ばか」
「待て待て待て待て」


手を握り合ったまま笑う出水と頬を染める紅葉。何やら危ない雰囲気の2人に米屋は慌てて間に割って入った。


「なんだよ」
「なに」
「いやお前らな……学校でそういう危ない雰囲気になんな…オレが焦る」
「「危ない雰囲気?」」


きょとんとした2人の視線に顔を引きつらせる。あれはこの2人にとって普通なのかと。


「いや知ってたけどよ。とりあえずお前ら、学校でくっつくな触れ合うな恋人みたいなことすんな」
「「は?」」
「見てる分には楽しいけど、いきすぎると流石に焦るんだよ」
「なんの話?」
「さあ?」
「………もういいや」


この兄妹に何を言っても無駄だとずっと前から分かりきっている。ただ、お互いに恋人がいるのだからと相手のことを考えたが、やはり無駄だろうと諦めた。


「もう一線越えなきゃ何でもいいわ…」
「紅葉お前ほんと肉ついてねーな」
「公平に言われたくない」
「無駄な脂肪ねーから胸も…」
「〜〜〜うーるーさーいー…!!」
「ばっかいててっ、爪立てんな!」
「公平こそ筋肉ないでしょ!貧弱のくせに!」
「貧弱じゃねーよ!」
「二宮さんと比べるとすっごい細いもん!」
「二宮さんと比べんなばか!」
「比べられても良いくらいになれば良いでしょ!」
「こんのやろ…!言っとくけどお前を持ち上げられるくらいにはチカラあるからな!」


ガタリと席を立ち上がった出水は、手を離して再び紅葉の横に移動した。そして椅子に座る紅葉の肩に手を置き、もう片方の手を膝下に回す。


「ちょ…!」
「おいおい…」


呆れる米屋など見えていないかのように、出水は紅葉を抱き上げた。


「ちょっと…!!ばか!なにしてんのばか!」
「暴れんなばか!」
「ばかは公平でしょ!いきなりなに!」
「紅葉が貧弱貧弱言うからだろ!」
「お、降ろして!」
「ていうかお前軽すぎじゃね?身体うっす!ほっそ!」
「ちょ…!触るなばか!セクハラ!」
「は?兄妹にセクハラも何もあるかよ」
「…あるだろ…」


教室中の視線を集めているにも関わらず、2人しかいないかのように会話をしている。いつも通りにぎゃーぎゃーと言い合っているが、態勢はお姫様抱っこという異様な光景に、米屋は今日何度目かの溜息をついた。


「…これ以上巻き込まれる前に退散退散っと」


パシャリと2人の姿をスマホに収め、米屋は教室を出て行った。こっそりとその写真を進学校の先輩に送って。


End

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