おにいちゃんだから
20万hit企画(幼稚園の頃)
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「おかーさん、紅葉だいじょーぶ?」
ベッドで呼吸荒く眠る紅葉を心配そうに見つめ、出水は呟いた。そんな出水を安心させるように母は出水の頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ。紅葉は強い子だから、すぐに元気になるわ」
「紅葉つよいこ?」
「そうよ?だって公平の妹でしょ?」
「おれのいもーと!」
「だから大丈夫。それより公平?あんたは遊びに行く約束してるんでしょ?早く行かないと遅れちゃうわよ」
「……うん」
母に背中を押され、扉へと向かった。けれど紅葉を心配するように何度も振り返る。
「大丈夫だから、いってらっしゃい」
「………うん」
ゆっくりと中を気にしながら部屋を出ると、それと入れ替わるように紅葉が目を覚ました。
「あら、起きちゃった?プリン食べる?」
「……おにいちゃんは…?」
母の言葉をぼーっと虚ろな目で聞いていたが、風邪で掠れた声で紅葉は違うことを口にした。
「お兄ちゃんはお友達と遊ぶ約束してるからお出かけしたわよ」
「…やだ…おにいちゃん…っ」
熱のせいか出掛けたと聞いたからか、紅葉の瞳は涙で潤む。
潤んだ瞳からはすぐに大粒の涙が溢れ始めた。
「やだ…やだぁ…おにいちゃんおでかけやだぁ…!」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんの用事があるんだから、ワガママ言っちゃダメよ?」
「ひっく…うぅ…おにいちゃんいかないで…」
いつも笑顔で滅多に泣かない紅葉だが、風邪で弱っているせいか、大きな声で泣いてしまう。双子の片割れでなければ埋まらない寂しさに、母はどうしたものかと思案した。
しかし、そこで部屋の扉が開く。
振り向くと、そこには出掛けたはずの出水が。
「あら公平?どうしたの?」
「…紅葉、ないてるから…」
そういうと、とぼとぼと紅葉に近付いていく。そしてベッドへ身を乗り出し、泣いている紅葉の頭をぽんぽんと撫でた。
「紅葉ー!おれどこにもいかないからなくなよ!」
「ひっく…お、おにいちゃん…!」
「よしよし」
ぽんぽん乱暴な撫で方だが、段々と紅葉は落ち着いていく。
「約束はいいの?」
「いい!おれは紅葉のおにいちゃんだからめんどうみるんだ!」
「…そう。でも紅葉の風邪移ったら大変だから…」
「おれが紅葉のかぜやっつける!」
「でも公平が辛くなっちゃうわよ?」
「いい!紅葉つらいの、おれががまんするから!」
紅葉の頭を乱暴に撫でながら、頑なに離れようとしない。撫でられ続けた紅葉の髪はボサボサだ。けれど、とても嬉しそうに笑っている。その光景に母は微笑んだ。
「公平いいお兄ちゃんね!じゃあ紅葉のこと寝かせてくれる?」
「わかった!」
出水はベッドに乗ると、紅葉の隣に寝転ぶ。
「紅葉!はやくねて、はやくかぜやっつけるぞ!」
「うん!」
2人で並んで寝て手を繋ぎ、微笑んだ。
そして人肌の暖かさで2人からはすぐに寝息が聞こえてきた。そのことに母はほっと息をつく。
「…とりあえず、お友達のところには連絡しておかないとね」
しばらくは遊びに行けない、と。
(完)
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