気合いの入れ方には大差がある



朝からバタバタと騒がしい隣の部屋。
正確にはもう昼になっている。ときたま聞こえる悲鳴に出水は深い溜息をついた。


「服選ぶのにどんだけ時間かけてんだよ…」


自分と出掛けるときは数秒で決まって数分で準備をしてくるというのに、二宮との扱いの差に不満な気持ちが顔に出る。


「…まあ、楽しそうだから良いけどな」


悩んで塞ぎ込んでいるより遥かに良い。
良いけれど、不満は不満なのでやはり複雑な気持ちだ。再び深い溜息をつくと、ばんっと勢いよく出水の部屋の扉が開いた。


「公平、じゃあいってくるね」
「おう、いってら………っ」
「なに?」


絶対に紅葉のコーディネートではない可愛らしい服装に、実の妹にも関わらず心臓が跳ねた。ぽかんと見つめてしまう。


「………なに」
「………お前ってやっぱ可愛いよな」
「はぁ!?」
「うん、我が妹ながらやべぇ可愛い」
「…ばかじゃないの」
「暴言吐かないでもっとにこにこしてりゃ言うことないのに残念だよな」
「公平に残念とか言われたくないんだけど!」
「は?おれのどこが残念だよ!」
「主に全部」
「こんにゃろ」


ぴくりと口元を引きつらせ文句を続けようとすれば、紅葉はマフラーを引き上げて口元を隠しながら、うっすら赤く染まる顔を逸らした。


「…公平らしくて、わたしは好きだけど」
「…え…?」


ぼそりと呟かれた言葉をなんとか聞き取り固まる。数秒の沈黙が流れた。


「な、なんでもない!いってきます!」
「あ、ちょ、ちょっと待て紅葉!」
「なに!」


行きかけて呼び止められ、振り向いた瞬間にカシャっとスマホのシャッターを切られる。ぽかんとそれを見つめた。


「おいもっと笑っとけよ」
「いきなり撮っといてなに」
「んじゃもう1枚撮るぜ」
「……行く」
「紅葉」
「だからなに!」
「…楽しんで来いよ」


彼女の体調が悪く、イルミネーションを見に行けない出水からの予想外の言葉に、ぽかんと固まる。しかしすぐに照れたように微笑み、嬉しそうに頷いた。その瞬間を逃さずに出水は再びシャッターを切る。


「公平は防衛任務入れたんだよね、頑張って。イルミネーション、いっぱい撮ってくるから楽しみにしててね。そしたら一緒に訓練室で試してみよう?」
「おう、待ってるぜ」
「クリスマスプレゼントも期待してて」
「紅葉も期待しとけよ」
「うん…!いってきます!」
「いってらっしゃい」


微笑んで見つめ合ったあと、紅葉はバタバタと階段を降りて行った。玄関を出て行った音を確認し、出水はスマホに視線を落とす。


「おれはクリスマスプレゼント、これで満足だけどな」


可愛らしい格好で、可愛らしく微笑む双子の妹の姿を嬉しそうにフォルダに収めた。


◇◆◇


「ごめん…!お待たせ…!」
「遅いぞ紅葉ー!でも可愛い格好してるし許す!」
「それは紅葉が選んだんじゃないわよね?誰のコーディネート?」
「…玲と歌歩」
「あー、やっぱり」


待ち合わせした駅前。
先に来ていたのは仁礼と熊谷だ。那須は体調の関係で。三上は弟たちの面倒を見なければいけないと。
だから代わりにと、昨日ランク戦後に一緒に服を買いに行き、今日の可愛らしいコーディネートが完成したのだ。


「確かに那須とか三上っぽいな」
「センス良いわよね」
「でもこれはわたしが選んだんだから!玲と歌歩に色々選んでもらったけど、組み合わせたのわたしだから!」
「「え!?」」
「なんでそんなに驚くの!」


目の前に人型近界民が現れたような反応に紅葉はむっとする。そこまで驚くことないではないかと。


「……まあ…お姉ちゃんに見てもらったけど」
「あ、なら納得だな!」
「そうね。紅葉1人でこの服装なんて有り得ないし」
「……」


言いたい放題の2人に紅葉の表情が不機嫌気味に歪む。せっかくの格好が台無しになりそうな程のしかめっ面だ。仁礼と熊谷が苦笑しながら両側から紅葉の腕を組んだ。


「そんな顔すんなよ、紅葉!さっさとデパート行って、二宮にクリスマスプレゼント選んでやるんだろ!」
「!…う、うん…」
「あたしたちで参考になるかは分からないけど、協力はするわよ」
「…光、友子、…ありが、とう」


はにかむ紅葉に2人も笑みを浮かべた。


◇◆◇


そして3人は電車に乗って少し離れたデパートへ行き、色々な店を見て回った。普通にショッピングしたくなるようなデパートだが、紅葉が見ているのはクリスマスプレゼントだけだった。


「紅葉って物欲ないよなー」
「というか、1つのことしか考えられない不器用なだけじゃない?」
「今は二宮のことしか考えてないって?」
「たぶんね。普段なら食い付く出来立てコロッケの看板にも気付かないほどだったし」
「うんうん、一途で可愛いやつだなほんと」
「あんたは何目線よ…」


熊谷は呆れたように溜息をついた。
キョロキョロと先を歩く紅葉の後ろから2人はただ着いて行く。これではアドバイスも何もあったものではない。


「なあ紅葉、二宮のクリスマスプレゼントって何探してんだ?」
「……特に、決まってない」
「適当に歩いてるだけ?」
「…うん。二宮さんが好きなものとか、まだよく分からないから、何か喜びそうなもの探してる」
「二宮が喜ぶもん?そんなの紅葉に決まってんだろ?何言ってんだよ?」
「………あっそ。今度はあそこ入ってみる!」


仁礼の言葉をさらっと流して別の店に入る。割と本気で言ったつもりなのだが、本気には取られなかったようだ。


「二宮の喜ぶもん、紅葉だよな?」
「……まあ、そうでしょうね」


否定は出来ない。
二宮とほとんど関わりがないせいもあり、二宮には紅葉がいれば機嫌が良くなるとしか印象が残っていない。


「紅葉がサンタのコスプレしてれば二宮さん喜びそうよね」
「………」
「…?」
「それだ熊!」
「え?」
「紅葉がミニスカサンタの格好で私がプレゼントです、っとかやればそれが1番喜ぶだろ!」
「ちょ、冗談のつもりだったんだけど…」


何故か活き活きとし始めた仁礼に顔を引きつらせる。


「トリオン体設定弄っとけば良かったなー!そこまで頭回んなかったわ…」
「勝手に弄ったりしたら紅葉に怒られるわよ」
「いつも弄ってるからもう何も言われなくなったぞ」
「…あんたね…」


平然と言ってのける仁礼に溜息しか出なかった。勝手に弄る仁礼も仁礼だが、それを許してしまう紅葉も紅葉だ。けれど紅葉のトリガーは割といろんな人に弄られることがあるので、仁礼だけを責めることは出来ない。やはり溜息しか出なかった。


「とりあえず、その提案は却下。紅葉には言うんじゃないわよ」
「えー」
「えーじゃない。サンタの格好してなくても充分可愛いんだから二宮さんだって喜ぶんじゃない?」
「ん!確かにな!よーし!ならプレゼント探し再開だ!」


そう言って紅葉の入っていった店に仁礼も入っていった。最早保護者のような気持ちで、熊谷も後に続くのだった。


◇◆◇


満足そうにプレゼントを抱えている紅葉に、仁礼と熊谷は顔を見合わせた。自分が貰ったように嬉しそうに微笑んでいる。


「愛されてんなー」
「本当にね」
「これなら二宮さん喜んでくれるかな…!」
「紅葉からのプレゼントなら何でも喜ぶでしょ」
「紅葉をプレゼントした方が1番喜ぶと思うけど、まあそれも喜ぶだろ!」
「…ふふ、そうだと良いな…!」


仁礼の前半の言葉は無意識に聞き流し、二宮の僅かに微笑んで喜ぶ姿を想像して顔を綻ばせる。そんな紅葉の表情に2人は微笑んだ。
しかし双子の兄に選んでいたプレゼントのセンスはどうかと思ったが、本人はそちらも満足そうなので何も言わずに、触れないことにした。


「やっぱこんな時間まで外にいると寒いなー。これから二宮と待ち合わせなんだろ?風邪引かないように気をつけろよ!」
「うん、ありがとう。2人はこれからどうするの?」
「あたしはこれから玲の家に行くわ。体調良くなったみたいだし、那須隊でクリスマスパーティーしようって茜が言うから仕方なくね」
「お!クリスマスパーティーか!ならアタシもカゲたち緊急招集してクリパするかな!」
「緊急招集って…また影浦先輩たちに迷惑かけて…」
「クリスマスにこんな可愛い女の子と過ごせるなんてあいつらにとって最高のクリスマスプレゼントだろ?」
「はいはい」


熊谷と仁礼のやり取りを微笑ましく見つめる。2人とも、自身の隊でクリスマスパーティーをするというのを聞いて羨ましくなってしまった。


(隊、か…良いなぁ…)


自分はまだフリーのB級で。
隊で防衛任務以外の何かをすることは憧れてしまう。そこまで心を許せる隊に所属してこなかったから。

けれど最近は二宮隊に入り浸っている。師匠が二宮というのもあるが、二宮がいなくても二宮隊に訪れることは多い。
同じ隊でなくても、心を許せる仲間になった。明日になったら二宮隊でクリスマスパーティーを出来たら良いなと望むくらいには。


(二宮隊は…居心地が良いからね)


B級1位の隊など自分には荷が重いが、前に二宮に言われたことは忘れてはいない。
二宮隊に入れと言われた、あの言葉を。


「いつか、自分で自分を認められるくらい強くなったら…絶対入隊してやる」


ぐっと拳を握った。


「頑張れよ、紅葉」
「え?」
「いんや何でもない!じゃあアタシたちは行くぞ!クリスマスプレゼントさんきゅーな!」
「あ、う、うん。光も友子も、プレゼント、ありがとう」
「どういたしまして。あたしも貰ったし、ありがとうね。玲にもちゃんと渡しとくわよ」
「うん、よろしく」
「そんじゃーな、紅葉!また冬休み中にでも遊ぶぞ!」
「遊び過ぎて宿題忘れないようにね」
「それは一緒にやるだろ!」
「光はわたしの写してるだけでしょ!」
「はいはい、みんなでやれば良いでしょ」
「だな!また連絡するからな!楽しんで来いよー!メリークリスマス!」
「メリークリスマス、紅葉。楽しんできてね」
「…うん、メリークリスマス。今日は本当にありがとう」


手を振って去って行く2人に改めてお礼を良い、微笑んで見送った。今日はこんなに遅くまでずっとプレゼント選びに付き合ってもらったのだ。もちろん途中で個人的な買い物などもしたが、メインはやはり恋人へのクリスマスプレゼントで。大切な人への大切なプレゼントをぎゅっと胸に抱いた。


「さて…わたしも行かなきゃ」


待ち合わせ時間までもう少し。
あの綺麗なイルミネーションの場所へ。
日付が変わると同時に一際輝くイルミネーションを見るために、紅葉は白い息を吐き出しながら足を進めた。
もう少しで、会える。

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すみません三部構成になりました!!
そこまで長くないけど1つにすると読みづらいくらいに長いから…!
そしてこれは二宮さん出ないし1番のポイントは出水兄妹じゃないかと思えてくる…
つ、次!次はちゃんと二宮さんとクリスマス!!
無駄に長くすみません…!


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