クリスマスは誰と?



「見ろ野郎共!」
「わたし野郎じゃないんだけど」


昼休み。出水、米屋、紅葉のいつもの3人で集まっていると、別のクラスの仁礼が乱入してきた。そして来て早々に机にバンっと雑誌を広げる。


「あ?なんだよ」
「これ!クリスマス特集のイルミネーション!すげーだろ!」


雑誌に載っている記事は、クリスマス特集だ。カップル向けやら家族向けやらとたくさん書かれている中で、1番大きく写るクリスマスツリー。大きなツリーを飾るキラキラとしたイルミネーションに、双子は目を輝かせた。


「「アステロイド…!」」
「言うと思ったわ弾バカ兄妹」


予想通りの発言に苦笑しながら米屋はツッコミを入れる。いつも反論される言葉はなく、双子は食い入るように雑誌を見つめた。


「こんなすげーイルミネーション初めて見たな…!写真でこんなに綺麗なのかよ…!」
「ここからそんなに遠くないとこにあるんだね…!綺麗…!これ訓練室で出来るかな?」
「とりあえず今度試そうぜ」
「うん!でも周りのキラキラは難しくない?」
「いや、前にメガネくんがやってたやつでどうだ?」
「三雲が…?あ、低速散弾?」
「あ、そうそうそれそれ」
「なるほど…。低速散弾で辺りに散りばめて、メインはハウンドとかバイパーでいけるかな!」
「1番上は雷蔵さんに頼んでメテオラ改造しもらって、クリスマス仕様にしてもらおうぜ!」
「…!うん!」
「お前ら活き活きしすぎな」
「紅葉なら喜ぶと思って持ってきたからな!」


先ほどまでコロッケはクリーム派かイモ派かとくだらないことで揉めていたのが嘘のように楽しそうに話している。


「そっか…。あ、ありがとう、光」
「良いってことよ!」
「クリスマスのイルミネーションかぁ…実物はもっと綺麗なんだろうな…良いなぁ…!」
「じゃあ紅葉、一緒に見に行こうぜ!」
「え?クリスマス?公平空いてるの?」
「まあな」
「わたしも予定ない」
「お、なら決まりだな!クリスマスイブからクリスマスにかけて盛大に点灯するらしいし、そんとき行くか!」
「うん!」
「「待て待て待て待て」」


今度は仁礼と米屋の声が重なる。双子はきょとんと2人を見つめた。


「いや何できょとん顔してんだよ」
「アタシは確かに紅葉が喜ぶだろうからって持ってきたけど、行く相手が違うだろ!」
「相手…?光も行く?」
「なら槍バカも行くか?」
「「いやいやいや」」


再び重なった声に双子は顔を見合わせた。自分たちよりもハモるのを見るのは珍しいと少し感心して。けれどハモった当人たちは呆れたように溜息をつく。


「あのなぁ、この記事の特集はクリスマスだぞ?」
「そうだな」
「カップル向けって書いてあるだろ!」
「あ、家族向けでもあるって書いてある」
「ならおれたち2人でもオーケーだな」
「うん!」
「だーーー!おい米屋!」


伝わらない双子に仁礼は痺れを切らし米屋に怒鳴る。気持ちは分かる。痛いほど分かる。慣れてはいるが、呆れずにはいられなかった。


「お前らな…仁礼が言いたいのはそういうことじゃなくて、お前らは恋人いんだろってことだよ」
「そう!そうだよ!何でそこまで言わないと伝わんないんだよ!」


恋人。その単語に双子はぱちぱちと瞬きを繰り返した。


「た、確かに…い、いる、けど…クリスマス誘われてないし」
「おれも誘われてねぇし」
「誘えよ!」


だんっと机を叩いた仁礼に紅葉がびくりと肩を跳ねさせた。そしてそのまま俯いてしまう。


「……さ、誘い方なんて、わ、分かんない、し…」


うっすらと染まる頬。やっと乙女らしくなった態度を見て仁礼がにんまりと笑みを浮かべ、逆に出水がむすっと不機嫌になる。


「誘い方なんて簡単だって!紅葉がクリスマスにここに行きたいってお願いすりゃ良いだけだろ!」
「…予定、もう相手にあるかも、しれないし…」
「恋人優先させるだろ!もしあいつが予定あるとか抜かしたらアタシに言え?カゲに言いつけてボコってもらうからな!」
「…影浦先輩でも二宮さん相手じゃ難しいんじゃない?」
「そこは良いんだよ!とにかく!紅葉が行きたいって言えば二宮が断るはずないんだから!紅葉から誘うんだぞ!分かったな!」
「…う、うん…」


仁礼の押しに負け、頷いてしまった。それにむくれる出水に米屋は呆れながらその肩を叩く。


「お前も妹離れして青春してこいよ」
「うるせぇ!」


吠えた出水だが、その頬がうっすらと赤くなっていて。どちらも相手がいることに、幸せそうなことに、米屋と仁礼は満足そうに頷いた。


◇◆◇

そして数日後、紅葉は未だにクリスマスに二宮を誘えずにいた。今日はもう23日だ。24日の夜から25日にかけての点灯が綺麗なのに。もう時間がないというのに。
紅葉は仁礼から貰った雑誌を見つめながら大きな溜息をつく。


「…やっぱり公平と行こうかな」


携帯を取り出すが、少ししてまた携帯をしまう。あちらはもう相手を誘ってしまったかもしれない。それならば邪魔はしたくない。再び大きな溜息が漏れた。


「紅葉ちゃん、どーしたの?」


隊室の前に立ちすくむ紅葉に犬飼が声をかけ、その肩をぽんっと叩く。じとっとした目のまま顔だけ振り向いた紅葉に犬飼はケラケラと笑った。


「何々?紅葉ちゃんってばもしかして、クリスマスに二宮さんのこと誘えないからって不貞腐れてるの?」
「!!!」


思わずぐしゃりと雑誌を潰し、勢いよく身体ごと振り向いた。


「な、ななな…!」
「顔に書いてあるよ。二宮さんをクリスマスに誘えない、どうしよう、もうやだお兄ちゃんと行くーって」
「ば、そ、そんなこと書いてないです!!」
「思ってるだけかな?」
「お、おおおも、思ってない…!」
「えー?でもさっき、やっぱり公平と行こうかなって言ってたよね?」


にやりと問いかけてくる犬飼にぴくりと眉を動かした。聞いていたのか、と。一体どこから見られていたんだと不満気に犬飼を見つめた。


「やだなー。そんな顔しないでよ。俺はいつでも紅葉ちゃんの味方なんだからさ」
「……」
「二宮さんをクリスマスに誘いたいのに誘えないんでしょ?なら俺が協力してあげるよ」
「…え…?」


予想外の発言に瞬きを繰り返す。
犬飼はにこりと紅葉を見つめた。
そして紅葉の背中を押して隊室へと入る。


「わ、ちょ、犬飼先輩…!」
「お疲れ様でーす」


中へ入るとすでに二宮隊が全員揃っていた。二宮の視線を受けて紅葉は身体を固くし、雑誌を掴む手に力が入る。
それを見て犬飼は笑みを深めた。


「あ!紅葉ちゃん面白そうな雑誌持ってたんだねー!」
「え…?」
「見せて見せて!」
「あ…」


雑誌を取られ、犬飼は例のページを広げる。


「うわー!ここのイルミネーション凄い綺麗だねー!クリスマスイブからクリスマスにかけてが1番綺麗なんだー!」
「あ、えと…はい…」
「しかも割とここから近い!」
「そう、ですね」
「行くの?」
「!!…い、犬飼先輩…!」
「ねえ、紅葉ちゃん、ここ行くの?」


犬飼は任せて、とでも言うようにウインクをした。紅葉は眉を寄せながらも小さく頷く。


「えっと……い、行きたい、とは、思って…ます、けど…」
「お兄ちゃんと?」
「いえ、公平とは行かない…です」
「へー?誰と行くか決めてないの?」
「…………はい」


知ってるはずなのに何でそんなことを聞いてくるのかと怒りたいが、犬飼を信じて話を合わせる。


「行く人が決まってないなら俺と行かない?」
「え?」
「!」


後ろで二宮がぴくりと反応した。
その反応を盗み見て犬飼はにやりと笑いながら続ける。


「いやー、俺もここ行ってみたいなーって思ってたんだよね。でも流石に1人で行くとか寂しいこと出来ないし困ってたんだよ」
「え、な、なに言って…」
「ね、行く相手いないなら俺と行こうよ」


犬飼が何をしたいのか分からずにあわあわと慌てる。辻と氷見が心配そうに見つめる中、二宮が静かに動いた。


「…おい」


低い声に犬飼と紅葉は二宮に視線を向ける。明らかにその顔は不機嫌そうに歪んでいる。


「二宮さん、どうしました?」
「お前は何してやがる」
「何って?紅葉ちゃんをクリスマスデートに誘ってるだけですよ?」
「ちょ…!」
「紅葉は俺のものだと分かっててやってんのか」
「な…っ、に、二宮さ…」
「そりゃ紅葉ちゃんは二宮さんの恋人ですけどー。でもクリスマス約束してないんですよね?なら別に良いじゃないですか」
「良くねぇよ」
「えー、紅葉ちゃんイルミネーション見に行けないなんて可哀想じゃないですかー」
「うるせぇ。紅葉は俺と行く」
「え…?」


会話の流れに紅葉はぽかんと二宮を見つめた。その顔は相変わらず不機嫌そうで。


「二宮さん、紅葉ちゃんと約束してたんです?」
「してねぇよ」
「え、に、二宮、さん、予定…大丈夫なんですか…?」


会話に置いていかれないようにと前に出て二宮を見上げると、くしゃくしゃと頭を撫でられた。


「わ…っ」
「行きたいんだろ」
「え…っと、…は、い」
「なら行くぞ」
「で、でも二宮さん他に予定とか…」
「お前が他のやつらと行くくらいなら、予定なんか全部キャンセルして行くに決まってんだろ」
「へ…!?」


ぼふっと染まった頬で二宮を見上げた。頭から手を離されたが、乱れた髪を直す余裕もないほどに。


「…行きたいなら真っ先に俺に言え。お前のためなら時間くらいいくらでも作る」
「…っ」
「……ランク戦でもしてこい。明日のことは後で連絡する」


すっと視線を逸らして紅葉に背を向けた。難しそうな顔はしていたが、不機嫌なオーラは消えていて。紅葉は感動に目を輝かせた。


「あ、ありがとう、ございます…!楽しみにしてます…!」
「…ああ」


自分も楽しみだという言葉は飲み込み、一言だけ返す。


「それじゃ、ランク戦してきます!今日は全勝してきますから…!」


嬉しさを隠しきれずにウキウキとしたまま、紅葉は隊室を出て行った。それを見送ったあと、犬飼は二宮の背に視線を向ける。


「ほーんと、素直じゃないですね」
「…うるせぇ」


今までのやり取りは犬飼の策略だと今更気付いたが、お礼など口にはしない。ずっと誘えなかった二宮にきっかけをくれたことには感謝しているが、紅葉に絡んでいた姿は思い出しただけでも腹が立つのだから。


「クリスマスイブからクリスマスにかけて一緒にいられるなんて素敵ですね!憧れちゃいます…!」
「楽しんできて下さい、二宮さん」
「報告待ってますねー」
「うるせぇ」


優しい部下たちに目を細めた。
ちょっとしたクリスマスプレゼントでも用意してやるか、と。
そして、柄にもなく明日のことを楽しみにして心を浮き立たせた。早く、明日になれと。


next
ーーーーー
とりあえず23日!ここまで!
24日に続きのクリスマスのお話更新しますー!思った以上に長くなったので…すみません…!


[ 26/52 ]

back