雪の降る日に熱く

「………最悪」


二宮との訓練を終えて本部を出てみれば、そこには一面に銀世界が広がっていた。ぶるりと身体を震わせ、眉をひそめながらマフラーに顔を埋める。


「雪か」
「…余計寒くなるから言わないで下さい」
「変わらねぇよ」


後から出てきた二宮にぽすっと頭を撫でられる。


「これでも歩いて帰るって言うのか?」
「………」


訓練後、今日も送っていくと言われ、さすがに毎日は申し訳ないと断った紅葉。しかし、断った矢先これだ。ぐぐっと眉間のシワが深くなる。
申し訳ないけれど、寒いのは大嫌いだ。
ちらりと二宮を見上げると、にやりと笑みを返された。マフラーに埋めた頬を赤く染め、くるっと踵を返す。


「………お願い、します」
「何をだ?」
「は!?」
「はじゃねぇよ」
「だってさっき…!」
「さっき、なんだ?」
「むかつく…!」
「なら歩いて帰るんだな」


紅葉を通り過ぎて行く二宮に、紅葉は慌ててその腕を掴んだ。振り向いた二宮を見ずに視線を落としたまま小さく小さく呟いた。


「…っ、う、家まで…お、送って、くだ、さい…!」


自分から送ってくれと頼んだことなどなかった。そのせいか妙に恥ずかしい。ふっと笑った二宮の声に更に顔が赤く染まる。


「まあ、言われなくても送って行くつもりだったがな」
「な…!じゃあなんで言わせたんですか!?」
「行くぞ」
「ちょ、なんなんですか!二宮さん!」


ぐしゃぐしゃと無造作に頭を撫でられ抗議するも、柔らかく笑って流される。あの笑顔には弱い。むっと唇を尖らせながらも、車へ向かう二宮の背中を追いかけた。


「あ」


しかしぴたりと足を止める。
本部の入り口の雪だるまを視界に捉えて。


「…大きい」


あまり積もっていないのに作られている大きな雪だるま。それを感心して見つめる。
小さい頃は雪だるまを作ったりして遊んだが、ここまで大きな雪だるまは作ったことがない。


「…今じゃ作りたいとも思わないけど」


否、作りたいけど寒さが邪魔をする。
けれど久しぶりの雪に少し心が浮かれた。手袋を忘れてすでに冷たい手をそっと積もる雪へ伸ばす。
掌いっぱいにすくってきゅっきゅっと丸くし、それなりに形になるとすぐに大きな雪だるまの隣に置く。


「つっめた…」


あまりの冷たさに手がじんじんと痛んだ。はぁっと息を吹きかけてからまた雪をすくう。せめて1つくらいは完成させたい。
先ほどよりも不恰好な雪の塊を上に重ねた。
一応雪だるまの完成だ。


「不器用…」


自分の不器用さに苦笑しながら冷たくて痛む手に再び息を吹きかけた。


「何やってんだ」


その言葉と共に両手が暖かく包まれる。
慌てて勢いよく隣を見上げた。


「寒がってるくせに何やってんだ」
「ゆ、雪だるま、作ってました…」
「これがか」
「雪だるまですよ!」
「ただの丸が重なってるだけだろ」
「雪だるまです!」


むっとした紅葉の手を包みながら息を吹きかけた。途端にぶわっと顔が赤く染まる。


「…!」
「こんなに冷たくなるまで遊んでんじゃねぇよ。ガキか」
「ガ、ガキじゃないです!二宮さんだってランク戦中に雪だるま作ったんじゃないんですか?」
「……誰に聞いた」
「加古さんです」
「あの野郎…。紅葉、それはあいつの嘘だ。信じるな」
「…へー」
「紅葉、いい度胸だな」
「だって加古さんが嘘つくようには…」
「いいからさっさと行くぞ。風邪引くだろ」
「………」
「風邪引いて看病されたいなら話は別だがな」
「!!」


にやりと笑った二宮に勢いよく視線をそらす。寒さに冷え切っていたはずの手どころか、全身熱くなってしまった。赤くなった顔を隠すようにマフラーに埋める。


「行くぞ」


再び促され、指を絡ませて繋がれた。そのまま二宮のコートのポケットに誘い込まれる。ポケットの中で更にぎゅっと強く繋がれた。
紅葉は視線を落としたまま控えめに握り返す。


「……俺の家にな」
「………は?」


歩き出した二宮に連れて行かれる。
ぽかんと見上げたあと、二宮の言った言葉を理解して更に大きく声を上げた。


「はぁ!?」
「うるせぇ」
「わ、わたし自分の家って…!」
「家としか言ってねぇだろ」
「家って言ったら普通は…」
「自分の家みたいに馴染んでるくせに何言ってんだ」
「!…そ、そりゃ…二宮さんの家、居心地良いです、し…」
「なら問題ねぇな」
「問題ありま……っ」


繋がれた手をぐっと引かれ、唇を塞がれた。驚いている間に片手を腰に回され引き寄せられ、熱く口付けられる。
結局は二宮の家に行くことになるのだ。無駄な文句は聞く必要はない。


(…っ、熱い…)


触れる場所全てが熱くなった。
けれどもっともっとと、寒さなど忘れるくらいに、熱く、熱く。
雪の降る中、お互いを求め合った。

end

ーーーーー

やっぱりオチがな!
こういう終わらせ方って前にもやってると思うけど毎回こんな感じだからこういうのが好きなのかもしれない。でもなんか違う…
甘くならなかったけど一応雪ネタ!雪ネタ!!他のも書きたいな!雪だるまー!!


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