11月22日!いい◯◯の日?

ifに見えなくもないので危なくないけど少し注意です。まあいつも通りって言えばいつも通りの出水兄妹。

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出水が少し長い遠征から帰ってきた日。
双子はいつも通りだった。いつも通り出迎え、話し、家に帰る前に本部のラウンジで寛ぐ。


「なあ紅葉、今日は何の日か知ってるか?」
「今日?…知らないけど」


お互いに1人でスマホを弄っていた双子は、ふとそんな会話を始めた。紅葉が視線をスマホに向けたまま少し思案して答えると、同じくスマホを弄っていた出水がにやりと紅葉に視線を向ける。それに気付いて双子の視線が交わった。


「今日、良いお兄ちゃんの日だぜ?」
「……………は?」


思わず顔をしかめた。
しかし出水はにやりとした笑みのまま繰り返した。


「だから、良いお兄ちゃんの日」
「……それ、語呂合わせなら明日じゃないの?」
「明日はおれたちの日だろ」
「はあ?」
「11月23日!1(い)2(ず)3(み)の日だろ!」
「1が1個消えてるんだけど」
「じゃあ良い出水の日だな!」
「1が1個多いんだけど!」


やけに上機嫌の出水の発言はどこかおかしい。遠征帰りでテンションが高いせいか、珍しく紅葉がツッコミばかりになり溜息をついた。


「今日は!にぃにの日だろ?良いにぃにの日!11月22日で良いにぃにの日!つまり良いお兄ちゃんの日だ!」
「強引…」
「だって紅葉、昔はお兄ちゃんのことにぃにって呼んでただろ?」
「は!?呼んでないから!」
「いーや呼んでた。お兄ちゃんって呼ぶ前はにぃにって呼んでた」
「呼んでない!!」
「そんな紅葉のために今日はお兄ちゃんが何でも言うこと聞いてやるよ」
「意味分かんない…」


深い溜息をつきながら額を押さえた。遠征先で何かあったのだろうか。けれどそんな風には見えない。何かあれば双子の自分が気付かないはずはないのだから。
そんなおかしな双子の兄は気にせずに再びスマホに視線を戻すと、ぱっとスマホを取り上げられた。


「ちょ、返してよ」
「お兄ちゃんが何でも言うこと聞いてやるって言ってんだから聞けよ!」
「聞いてほしい!とか!言って!ないし!」


高く上げられたスマホにぴょんぴょん飛びつく。しかし身長差のせいで届かないと飛びつくのは諦め、ぴったりと出水にくっついて腕を伸ばした。


「たまにはお兄ちゃんに甘えろよ!」
「なんでよ!…あ、じゃあ何でも言うこと聞くならスマホ返して!」
「いやそういうお願いじゃなくて!もっと可愛いお願いとかないのかよ!一緒にお出かけしよー?とか、一緒に寝よー?とか!」
「お願いなんかしなくても一緒に出かけてるしお昼寝してるし」
「…確かに。じゃあ、いってきますのちゅーして?とか」
「……ばかじゃないの」
「ばかじゃねぇよ」


呆れた表情の紅葉に真顔で返す出水。いってきますのちゅー、など幼稚園の頃にしていただけなのに、何故今そんな話題になるんだと冷たい視線を向ける。


「何でそんな顔すんだよ」
「お兄ちゃんが変なことばっか言ってるからでしょ」
「え、」
「?」
「今…」
「なに」
「もっかい言ってみ?」
「なにを」
「さっき言ったこと」


首を傾げた紅葉は自分が何を言ったのか思い出し、繰り返す。


「えっと…お兄ちゃんが変なことばっか言ってるからでしょ」
「……」
「……」
「……」
「……っ!!な、ちが、今のは違う!お兄ちゃ…じゃなかった!公平が自分のことお兄ちゃんお兄ちゃん言うからつられただけ!!」
「…なんだよそれ…可愛すぎだろ…!」
「う、うるさいばか!」


頭を抱えてしゃがみ込む出水に吠えながら、すっと頬を赤く染めた。無意識に言ってしまったことが恥ずかしい。
出水がしゃがんだことにより、すぐにスマホを取り返し、今までのことを誤魔化そうと弄りだす。


「………」
「お前ほんと可愛いよな」
「…うるさい」
「褒めてんだろ?お兄ちゃんはウソつかねぇんだから素直に受け入れろよ」
「お兄ちゃ……公平ウソつくでしょ」
「紅葉にはつかねぇって」
「…サンタいるって言った」
「けど中学のときいないって教えてやっただろ。てかそれまで気付かない方もどうなんだよ」
「…むかつく」
「お兄ちゃんの言うこと何でも信じるとこも可愛いよな」
「何でもなんか信じてないし!お兄ちゃんほんとむかつく…!」
「あ」
「…っ!また…!公平!むかつく!」
「はいはい、分かった分かった」
「お兄……ああもう!戻らないんだけど!」
「なんだよこの可愛い生き物…!」


ガンっと壁を叩いて身悶える。
我が妹ながらアホすぎて可愛い、と。墓穴を掘り続ける姿が愛しくて仕方ない。


「いやまあ紅葉だから可愛いんだけどな!」
「もう可愛いとか言わないで!可愛くないしばかにされてる気しかしない!」
「うんうんそうかそうかー」


顔を真っ赤にしてぎゃんぎゃん抗議してくる紅葉を宥めるように抱き締めながらぽんぽん頭を叩いた。腕の中へ閉じ込めてしまうと紅葉は眉をひそめながらも大人しくなる。


「…お兄ちゃんむかつく」


そう言いながらもそっと服を握られた。胸に額を押し当ててぐりぐりと擦り付ける。


「…寂しかったんならちゃんと言えよ」
「…寂しくない」
「甘えたいならいつでも甘えてきて良いんだぜ」
「…甘えたく、ない」
「強がってたって、おれには全部分かるんだからさ」


抱擁を強くし、優しく頭を撫でた。
遠征から帰ってきて、紅葉に会って、いつもと様子が違うのに気付いた。何かあったわけではなく、ただ単に自分がいなくて寂しかったのだということも分かった。その寂しさを埋めるように撫で続ける。


「おれはちゃんと帰ってくるから、そんな寂しがんなよ」
「だから、寂しがってないってば」


そう言いながらも紅葉の手は出水の背中に回った。ぎゅっと縋るように抱き締められる。


「おれはちゃんと帰ってくるから、怖い夢見てもそんなの信じんなよ」
「…本当に、全部分かるんだね」
「当たり前だろ?おれは紅葉の兄ちゃんだぜ?」
「……うん」


にかっと笑う出水と視線が合い、はにかんでから再び胸に擦り付いた。いつも一緒の片割れがいない日々は物足りなかった。それを埋めるように、確かめるようにぎゅっと。


「…おかえり、お兄ちゃん」
「…おう、ただいま」


ボーター隊員たちがたくさんいる本部のラウンジで、双子は周りを気にすることなく、お互いの寂しさを埋めるように抱き締め合った。
双子の悪友がやってくるまで、もう少し。


end

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ifでもifじゃなくてもいけると思って…
いや、いい夫婦の日ってのは知ってたんですけど何も思い浮かばなかったから…
無理矢理語呂合わせてみた。
色々ごめんなさい!楽しかったです!←

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