ポッキーの日(隠岐)

「紅葉ちゃん、ポッキーゲームせぇへん?」
「…しない」


隠岐に呼ばれて生駒隊の隊室へやってきた直後、にこにこと笑顔でポッキーの箱を掲げる隠岐に出迎えられた。紅葉はさっと一歩下がりながら答える。


「えー、なんでー?折角のポッキーの日やで?こんな楽しい日に乗らない手はないやろ」
「…他の人とやってればいいでしょ」
「そないなこと言うて、おれが他の子とポッキーゲームなんかしとったらヤキモチ焼くやろ?」
「……」


否定出来ずにぐっと言葉に詰まった。
その反応に気を良くして隠岐は笑みを浮かべる。


「なあなあポッキーゲームしよ?」
「し、しないってば」
「ほなポッキーなくてええから」
「ぶっ!」


隠岐の言葉を聞いた水上が盛大に吹き出した。げほげほと咳き込む水上を隠岐はきょとんと見つめる。


「おま、何やその台詞…。それただのちゅーやないか」
「え?そうですよ?おれ紅葉ちゃんとちゅーしたいだけなんで。ポッキーゲームは口実です」
「自分がイケメンやって分かっとる台詞で腹立つわ」
「いやいや、イケメンちゃいますって」
「イケメンやなかったら女子にぶっ飛ばされてるとこやで」
「ははっ、紅葉ちゃん貧弱なんで大丈夫です」
「ちょっと…!」


さりげなく貶されて抗議する。はははっと笑う隠岐を睨んだが、その笑みは崩れない。
台詞にも態度にも呆れるしかなかった。はぁっと大きな溜息が漏れる。


「出水、お前もお前や。結局流されてちゅーするんやから意地張ってないではよちゅーしろや」
「な、なんですかそれ!他人事だからって投げやりすぎます!てか流されませんし!」
「ちょっろい癖に何言うてんねん」
「はぁ!?」


ばちばちと火花を散らす2人に隠岐は苦笑する。ただポッキーゲームが、キスがしたいだけなのに紅葉の意識は水上に向いてしまった。


「目の前で鬱陶しいイチャイチャ見せつけられてお前もうだうだしてていい加減うっざわ!」
「いちゃいちゃなんかしてないですけど、見るのが嫌なら側にいなければ良いじゃないですか!」
「隠岐は生駒隊やで!?お前の方が部外者やろ!」
「隠岐がわたしのとこに来るんです!」
「生駒隊の隊室まで来たんはお前やろ!」
「隠岐に大事な話があるって呼ばれたんです!」
「大事な話って今まで何回その言葉に騙されて来とんねん!大事な話言われたら誰のとこでもほいほい来るんか?あ?」
「ほいほい行かないですよ!隠岐に呼ばれたから!隠岐だからです!」
「そういう無意識な惚気発言ホンマ腹立つわ!」
「はぁ!?意味分かんないんですけど!」
「お前がアホやからやろ!」
「水上先輩にアホとか言われたくない!」
「はぁああ!?」
「ちょ、2人とも落ち着いて…」


白熱する2人の口喧嘩に笑顔が引きつった。もちろん紅葉から嬉しいことを言われてはいるが、このままではまた勢いのままランク戦に行ってしまいそうだと内心焦る。それは避けたい。紅葉といたいのは自分なのだから。


「上等や出水。ブース入れ」
「良いですよ。せこい手使う水上先輩なんかに負けませんから」
「そのせこい手に毎回引っかかっとるやつが何言うとんねん」
「ぐ…」


言い返せずに言葉に詰まるとにやりと笑みを返された。ぴくっと顔を引きつらせる。


「…そのせこい手使ってもわたしに勝ち越すこと少ない人が良く言いますね!」
「…こいつ…!…ごほん。あー、イコさーん。あんたの大好きな紅葉ちゃんがチーム戦したい言うてるんですけどどうですー?」
「な…!」


隊室の奥に向かって声をかける。するとすぐに生駒がひょこっと顔を覗かせた。


「何!ホンマか!紅葉ちゃんがチーム戦したいって?ええでええで!受けて立つで!」
「言ってな…っ、水上先輩ずるい…!」
「はっ、何も一対一とは言っとらんやろ」
「ほな、おれが紅葉ちゃん側に付きますわ」


紅葉の肩を抱き寄せながら割り込む隠岐に、水上が僅かに眉を寄せた。


「隠岐がそっちにいたらこっち不利になるやん」
「生駒さん先に味方につけといてよくそんなこと言いますね!」
「おれは紅葉ちゃんに付きます。せやけど、ただでは付きませんよ」
「?」


3人が首を傾げた。


「紅葉ちゃんがおれとポッキーゲームして勝ったら、紅葉ちゃんに付いたるで」
「…!」
「まだ言っとるんか…」
「ポッキーゲーム?俺もしたい!紅葉ちゃん俺としようや!」
「ダメです。それはイコさんでもおれが許しません」
「えー」
「えー、やないですよ。なに子供みたいなこと言うとるんですか。紅葉ちゃん恥ずかしがり屋なんでお2人はあっち行っといて下さい」


固まる紅葉から一旦離れ、水上と生駒の背を押して行く。そして距離を離すと再び紅葉の元へ戻っていった。

振り向こうとした生駒に水上は無理矢理前を向かせた。


「何するんや!見たいやん!」
「見たくないです」


そうは言うが後ろの会話は気になってしまう。


「ほな紅葉ちゃん、こっち咥えて?」
「……」
「そうそう。ええ子やな」


水上は頭を抱えた。


「なんかエロいで?なあなあエロいで?やっぱ見たいんやけど!」
「…絶対ダメです。隠岐に殺されますよ」


いいから早く終わらせてくれと願う。
気まずくて仕方ないが、これからこの2人とチーム戦すると思うと余計に気まずくなった。


「…隠岐、サンバイザー邪魔…」
「それは、ちゅーする気満々って受け取ってええ?」
「…ばか」
「ちゃうの?」
「わ、わたしが勝たなきゃ味方してくれないんでしょ」
「んー、せやな。紅葉ちゃんが勝つか、引き分けやったら味方するで」
「…ん」
「素直やなあ、ほんまカワイイわ」


後ろで聞こえ始めたポッキーを食べ進める音。そわそわする生駒を引き止めながら、早く終われと大きな溜息をついた。
チーム戦では思いっきりストレス発散させてやろうと心に決めて。


end

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ifで隠岐くん!
ポッキーの日だけどただ水上くんと喧嘩させたかっただけの話だったり。
このあとポッキーゲームしてちゅーします←
イコさんの反応は中学生並だと楽しい…!


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