夏休みだよ!第2弾!【海】


「おー!やっぱり夏と言ったら海だよねー!」


浜辺ではしゃぐ犬飼とは正反対に、紅葉は顔をしかめた。それを見て氷見は苦笑する。


「紅葉ちゃん、無理に誘ってごめんね?」
「…亜季は悪くないよ」
「ははっ、悪いの俺かな?」
「それ以外に誰がいるんですか」
「紅葉ちゃんテンション低いなぁ。折角の海なんだからもっと楽しそうにしなよ」


そう言った犬飼に両頬を摘まれ、くいっと口角を上げられる。抵抗せずにじとっとした視線を向けた。


「可愛い水着着てるのにそんな顔してたらもったないよ」
「…う、うるひゃいれす…!」


にこりと微笑まれて僅かに頬が染まり、慌てて手を振り払った。摘まれていた頬を摩りながら今度は先ほどよりもキツく睨む。
離れて睨んでくる紅葉ににこにこと笑いながら、改めて全身を見渡した。パーカーは羽織っているが、可愛らしい水着と綺麗な肌はしっかりと見えている。
そしてある一点を見つめ、犬飼は1人頷いた。


「うん。紅葉ちゃんは数年後に期待かな」
「は?」
「きっとそのうち大きくなるだろうからさ」
「………」
「い、犬飼先輩!紅葉ちゃんに何てこと言うんですか!」
「何てことって?」
「え…?」
「俺まだ何が、とは言ってないのに、ひゃみちゃんは何のことだと思ったのかな?」
「…!」


氷見の真っ白な肌に赤みがさした。


「ご、ごめんね紅葉ちゃん!そういうつもりじゃなくて…!私は紅葉ちゃんの胸が小さいのも凄く可愛いと思ってるから!」
「ぶはっ」
「…亜季、ちょっと喋らないで…」


悪気なく地雷を踏み抜いてくる氷見に犬飼は吹き出し、紅葉は溜息をついた。


「いやでも本当に可愛いよ。小さくて色気なくて可愛い可愛い」
「……むっかつく…。辻、ちょっと犬飼先輩を……………辻…?」


生身で勝てないのは知っているため、生身で犬飼に勝てそうな辻に助けを求めようとしたが、その当人は離れた所で固まって動いていない。更にその顔は真っ赤に染まっている。


「まあ、辻ちゃんには刺激が強すぎたかな。色気なくても一応女の子の身体だし。あ、ひゃみちゃんいるしね!そっちかな」
「……犬飼先輩、今日はいつにも増してむかつくんですけど」
「ははっ、それを正面から言ってくる紅葉ちゃん好きだよ」
「いやそういう話じゃなくて…!」
「おい」


いつものように手玉に取られることに眉を寄せて反抗しようとすると、後ろから声がかけられた。僅かに不機嫌さが滲む声に全員の視線が向く。


「どーしました?二宮さん」
「どうしましたじゃねぇよ。何でお前らまで着いて来てんだ」


不機嫌そうな二宮に犬飼は楽しそうに笑う。


「だって紅葉ちゃんが二宮さんと2人で海は無理って言ってましたし」
「い、言ってない!う、海が嫌って言っただけ!」
「水着になったらすぐに脱がされるから困るーって」
「ちっが…!それは光が勝手に言ってただけです!」
「2人で海なんて緊張するし自分は他の子みたいにスタイル良くないし可愛いこと出来ないし二宮さんつまらないだろうからーって」
「それは確かに言って………って!な、なななななんで犬飼先輩がそれを知ってるんですか!?」


ぶわっと赤く染まった紅葉に犬飼はにやにやと笑う。情報源などたくさんあり過ぎるくらいにあるのを紅葉はまだ知らないことが面白くて仕方がない。


「だから俺たちが来ることで、二宮さんは紅葉ちゃんと海に来れてるんですよ。水着も見れるんです。感謝はされてもそんな殺気飛ばされるようなことはしてないなー」
「………そうか」


見るからに丸め込まれた二宮に氷見と辻は苦笑した。


「犬飼先輩!わたしの話聞いてますか!?」
「ん?聞いてないよ?」
「むっかつく…!!」


怒りに拳を握りしめ、パーカーのポケットに入れていたトリガーを取り出した。さすがに犬飼は焦る。


「ちょ、ここまで来て何でトリガー持ち歩いてんの!それはダメだよ!ここで起動するのは命令違反だからね紅葉ちゃん!」
「…多少のペナルティで犬飼先輩ボコボコに出来るなら良いです」
「良くないから!ほらそれ渡しなさい」


トリガーを持つ紅葉の手首を取り、トリガーを奪おうとする。しかし紅葉ももちろん抵抗するわけで。じゃれ合うように見える2人に二宮の眉間に再びシワが寄せられた。


「せ、セクハラです!」
「大丈夫大丈夫、俺は気にしないから」
「……トリガー起……きゃっ」



へらへらと笑う犬飼にぴくりと眉を動かし、苛立ちのままにトリガーを起動しようとすると、ぐっと後ろから手を回されて引き寄せられた。
素肌に触れるいつもの温もりにどくりと心臓が跳ねる。


「そんな顔しないで下さいよ。ただ遊んでただけじゃないですか」


楽しそうな犬飼の声は紅葉の後ろにかけられた。自分を抱き寄せている人物はすでに分かっている。分かっているからこそ振り向けない。
触れる手も、背中の温もりもいつもより熱い気がして心臓が飛び出しそうだった。


「勝手に遊んでろ。紅葉にちょっかい出してんじゃねぇよ」
「…っ」
「はいはーい。すみませんでしたー。辻ちゃん、ひゃみちゃん、後は2人にしてあげて俺たちは俺たちで遊んでよ」
「あ、は、はい!」
「…は、い…」


頭の後ろで手を組んでくるっと海の方へ身体を向けて歩いていった犬飼に、辻と氷見がついていく。氷見に苦笑しながら頑張ってと呟かれ、すっと頬が赤く染まった。

3人が離れていっても、温もりは離れない。


「…あ、の…二宮、さん」
「何だ」
「な、なんだじゃないですよ!離して下さい…!」
「……お前、細すぎるな」
「…!」


パーカーの中へ潜り込んだ手がするっと腰を撫でる。びくりと反応した紅葉は思わず暴れた。


「な、ななななにしてるんですか…!」
「前より細くなったぞ」
「ちょ、さ、触らないで下さい…!」
「何でだ」


平然とする二宮に僅かに眉をひそめた。意識しているのは自分だけなのかと。


「夏休みの間に何してたんだ。ちゃんと食え」
「…保護者みたいですね」
「保護者じゃねぇよ恋人だ」
「…っ、そ、そう、ですけど…」
「痩せすぎて体力落ちても困るからな」
「っ!?」


耳元で低く囁く。そして首筋に唇を寄せ、ちゅっと口付けを落とすと、紅葉はびくりと反応した。


「…水着も、思っていたよりクるな。…似合っている」
「に、にのみや、さ…!」
「…そんな声出すな。抑えられねぇだろ」
「ば、ばかじゃないですか…!?二宮さんのせいです…!」
「こんなことなら、やはりどこか貸し切るべきだったな」
「人の話聞いてない!ていうかそれはやめて下さい!絶対!」


慌てて振り向いた紅葉に、二宮の顔が近付いた。すぐに唇を奪われる。周りに人が多勢いる中でのキスに、紅葉は顔を真っ赤にして二宮の胸を押し、距離をとった。


「こ、こここんなとこで…!」
「みんな海にはしゃいでこっちなんか見てねぇよ」
「そ、そういう問題じゃないです!」
「じゃあどういう問題だ」
「外で、き、キスするとか…!」
「誰も見てなきゃ外でも家でも関係ねぇだろ」
「関係あります!」
「うるせぇ。関係ねぇよ」


離れた紅葉の腕を掴み、引き寄せた。そして再び口付ける。
夏休みに一緒にいられなかった分を埋めるように。

触れるだけの口付けを何度も繰り返す。逃げようにも腕を掴まれ、腰に手を回されて動けない。


周りで聞こえる人々のはしゃぐ声。きっと誰も見ていない。自分もそう思うことにし、ゆっくりと目を閉じた。


(…たまにはこういうのも…良いかも…)


久しぶりの二宮の温もりに心を満たされ、頬を染めながらも擦り寄った。

泳げなくてもスタイルが良くなくても。
愛する相手がいれば、海も悪くはないと。


−−−−−−−−

おまけ

「あーあー、あんなとこで堂々とキスしちゃって」
「…紅葉ちゃんも受け入れてしまったみたいです、ね…」
「紅葉ちゃんもチョロいから」
「…あ、はは…」
「二宮さん高身長で顔も良いんだからいるだけで割と目立つのに、あんなことして見られない訳ないのにね?」
「そうですね…結構…見られてますね…」
「まあ、良い虫除けにはなるんじゃないかな」
「ナンパとかは来ないでしょうから安心ですね」
「あんなバカップルに声かけるバカはいないでしょ」
「気づいたら紅葉ちゃん大変そうですけど…」
「そこは流された紅葉ちゃんの自業自得ってことで。…ところで、辻ちゃん沈んでない?」
「え!?い、犬飼先輩早く引き上げて下さい!」
「まったく…どっちも世話が焼けるんだから」


なんてオチはない\(^O^)/


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