七夕の願い事?

ボーダー本部に大きな笹が飾られ、隊員たちはそれぞれ短冊を飾っていた。

そしてウキウキと願いを書いた短冊を持ち、飾る順番が来るのを待っている紅葉。その珍しい光景に二宮と犬飼は遠くからその姿を見つめていた。


「あれ、紅葉ちゃんってこういう行事好きなんですかね?」
「……さあな」
「珍しくあんなキラキラした顔で…一体願い事は何書いたんでしょうね?」
「………」
「気になりますねー?」
「…………」


にやにやと問いかける犬飼に二宮は無言で紅葉の元へと足を進めた。スタスタと進んで行き、側まで行くとそれに気付いた紅葉と視線が交わる。


「二宮さん、お疲れさまです」
「……ああ」
「二宮さんも短冊飾るんですか?」
「…いや」
「あ、じゃあこれ!わたしの短冊飾って下さい!二宮さん背高いから上の方に飾れますよね!」


嬉しそうに紅葉が書いた短冊を差し出された。願い事は何を書いたのか聞こうと思っていたが、まさか渡されるとは思っておらずに動揺する。


「ちゃんと上にですよ!公平のより上に飾って下さい!」
「……そんなに大事な願い事なのか」
「え?それはもちろんですよ」
「……何書いたか、見ても大丈夫か?」
「良いですけど…わたし毎年同じですよ?」


毎年同じ。つまり自分のこと関係ではないのかと僅かに眉を寄せた。そして想像出来るのはやはり紅葉の双子の兄のことで。バレないように息をつきつつ、紅葉から短冊を受け取って文面を見た。

そして固まる。

そんな二宮の反応に、近くにいた出水と米屋が喉を鳴らして笑う。その声にそちらに視線を向けた。


「二宮さん、残念でしたね。紅葉の願い事が二宮さん関係じゃなくて」
「おい弾バカ、お前すげー悪い顔してるぞ」
「…出水、米屋。お前らは知っていたのか」
「ええ、そりゃ。だって紅葉の願い事、昔っからずっと同じっすからね」
「オレも中学のとき見て驚いたけど、ここまでくると笑えてくるな」
「笑わないでよ!大切なことでしょ!」


むっとした紅葉に二宮は頭を抱えた。本人は至って本気なのだから。


「いや高校生にもなってこれは笑うだろ」
「なんでよ!」
「何でって…短冊に書く願い事って普通自分のことだろ?」
「わたしは願い事ないし、願い事あってもそれはここに書くことじゃないもん」
「お前…夢見てるんだか現実的なんだか分かんねぇな…」


くつくつと笑う米屋に紅葉は唇を尖らせた。そのやり取りを見て、二宮は再び出水へ視線を向ける。


「……織姫と彦星が素敵な1日を過ごせますように。…なんだこれは」
「そのまんまの意味すよ」


紅葉の書いた短冊を見返して出水へ問いかけるが、出水はいつも通りで。


「七夕伝説の話を聞いてから、紅葉の七夕の願い事は毎年これっすよ。自分じゃなくて、年に1回しか会えない織姫と彦星のための願いです」
「小さい頃はそれで良いとして、今もまだ信じてるのか」
「高校入るまでサンタも信じてましたからね」
「………」
「お化けも信じてるし、捻くれてるように見えて純粋なんすよ」
「………そうか」
「予想外でした?子供っぽくてガッカリです?ならさっさと紅葉と別れ…」
「いや」


出水の言葉を遮り、二宮は紅葉の側へと歩み寄る。米屋と言い合いをしていた紅葉の瞳が二宮を捉えた。そんな紅葉を見て優しく微笑み、すっと流れる動作で顎を掬った。


「…余計、好きになるな」
「はぁ!?」
「おー」
「な、い、いいいきなりなんですか…!」
「思ったことを言ったまでだ」
「い、意味分かんない…!」
「お前が好きだっつってんのに、何の意味が分かんねぇんだよ」
「…っ」
「…お前の願いは、俺が叶えてやる」
「……え…?」
「飾ってきてやる。ちゃんと待ってろよ」


顎から手を離され、ぽんっと頭を撫でられる。穏やかに微笑んだ二宮はそのまま短冊を飾りに行ってしまった。


「……な、なに、今の…」
「プロポーズじゃね?」
「「はぁ!?」」
「いや怖ぇよお前ら」
「お、おま、紅葉!なんだよお前の願い事って!結婚か?結婚なのか!?」
「ち、ちが、なんでそんなことになるの…!」


確かに憧れてはいるが、そこは流石に口を噤んだ。


「じゃあ何だよ!おれが叶えてやるからおれに言え!」
「だから願い事なんかないってば!」
「二宮さんが叶えるくらいならおれが叶えてやる!」
「なんでそんなに上から目線なわけ!?」
「おーおー、相変わらずな兄妹愛なこって」
「紅葉言え!」
「公平うるさい!」


きゃんきゃんと吠え合う双子に、米屋は苦笑した。遠くに犬飼の姿を確認したが、あれ以上近付いてくる気はないようだ。あとで報告と文句を言わなければ。


「お、二宮さん短冊飾ったな」


米屋の言葉に2人の視線が大きな笹に向く。誰よりも高い位置に括り付けられた紅葉の短冊。しっかりとやり遂げた満足気な二宮と視線が交わり、思わず頬が緩んだ。


「…ありがとうございます」


小さく呟かれた愛しげな声音に、再び双子の兄が反応するのだった。



End

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