スマボダウエディング

「紅葉ちゃん、ごめんね?」


そう手を合わせて謝るのは那須だった。その服装は可愛らしいウエディングドレスで。


「…なんで玲が謝るの」
「二宮さんの隣に並ぶのは紅葉ちゃんなのに、たまたま私が近くにいたせいで…」
「玲は綺麗だし人気だし当然でしょ。て、ていうか別に、わ、わたしは隣に並ばないから…!」


ウエディングドレス姿の那須と、タキシード姿の二宮。2人が広報の一環で写真を撮られていたのだ。
カップルという名目ではなく、ジューンブライドの特集だけのようだったが、やはり美男美女を並べたいと根付の提案だった。


「嵐山さんと木虎ちゃんがモデルのはずだったのだけど、嵐山隊は別のお仕事入っちゃったみたいで、たまたま近くにいた私と二宮さんが捕まっちゃったの」
「嵐山さんの…タキシード…」
「紅葉ちゃん?」
「あ、えと、ごめん、なんでもない。…じゃなくて玲、謝らなくて良いってば。なんとも思ってないから」
「本当に?」
「本当に。玲似合ってるし、可愛いよ。わたしはこんな可愛いの似合わないから玲が着てくれて良かった」


やはり紅葉もウエディングドレスには憧れてしまう。しかもこんな可愛らしいデザインなのだ。けれど、似合うかは別として。
二宮の隣に並ぶのならば自分では役不足で恥ずかしい。那須のように着こなしている人で良かったと心から思った。


「ありがとう、紅葉ちゃん。でも紅葉ちゃんは絶対に似合うと思うわ」
「そんなに可愛く着こなしてる玲に言われてもね」
「……じゃあ、紅葉ちゃんも着てみないとね?」
「え、いいよ。もう撮影終わったんでしょ」
「でも二宮さんは着替えずに待ってるから」
「は?いや意味分かんな…」
「はいこれ。トリガー起動して?」


さっと渡されたトリガー。今までの経験から嫌な予感がする。そう、今までこの流れで渡されたトリガーは全て改造されたものばかりだ。

幼児化、猫耳尻尾、ロリータ、メイド、ミニスカサンタ、ひなまつり、水着、ナース、巫女、アリス、軍服、etc…様々な衣装やらオプションは忘れもしない。後が大変なのだから。
しかし目の前で微笑んでいるはずの那須の表情に何やら寒気を感じた。


「…この、トリガーは…?」
「うふふ」
「玲…」


恐る恐る問いかけると、ただ笑顔を返された。それをじと目で見つめると、トリガーを握らされる。


「根付さんに頼んだの。私がモデルする代わりに、もう1つ貸して下さいって。だから絶対起動してね?」
「…やっぱりこれ…」
「紅葉ちゃんなら絶対似合うから、ね?」
「………ありがと…」
「ふふ、どういたしまして」


にこっと笑った那須に、薄っすらと頬を染めてお礼を言う。口ぶりからすると那須と同じ可愛らしいウエディングドレスなのだろう。それを着れると思うとやはり嬉しくて。


「私も紅葉ちゃんのウエディングドレス姿見たいけれど、やっぱり最初は二宮さんじゃないとね」
「え?」
「だからトリガー起動するのは二宮さんの前にしてあげて?」
「……どこでも良い気がするけど…」
「二宮さん嫉妬深そうだもの。だから紅葉ちゃんのためにも二宮さんの前だけにした方が良いわ」
「う、ん…、分かった。……じゃあ、えっと…に、二宮さんのとこ、行ってくる…」
「ええ、いってらっしゃい。頑張ってね」


にっこりと微笑んだ那須にもう一度小さくお礼を言い、紅葉は二宮のいる場所へ走り出した。撮影が終わったばかりなら、きっとまだ撮影部屋にいるはずだ。

早く、会いたい。
二宮のタキシード姿を生で見たい。

どんどん早くなる足。ぎゅっとトリガーを握り締めたまま、紅葉は撮影部屋に駆け込んだ。ばたんっと扉を開けると、そこにはタキシード姿の二宮が。突然の紅葉の登場に驚いて紅葉を見つめている。


「………紅葉?どうした?」
「……あ、え……っと……」


どうした。そう言われると困ってしまう。特に理由があるわけではなく、会いたくなってしまったから。しかしそんなこと言えるわけはなくて。


(う、ウエディング衣装借りて二宮さんに会いたくなったとか…!なんなの…!ばかじゃないの…!!)


ウエディングドレスを着て、タキシードの二宮に会いにいく。冷静に考えれば考えるほど顔が熱くなった。


「紅葉?」
「………」
「……この服のことで怒っているのか?」
「……え…?」

いつものスーツと違い、真っ白なタキシード。予想通りとても似合っていて直視出来なくなってしまう。


「…これは不可抗力だ。たまたま近くにいたからって理由で着ることになっただけで、別に他意はねぇよ」
「………でも、断らなかったんですね」


怒っているわけでも嫉妬しているわけでもないが、少し気まずそうな二宮に意地悪してしまう。いつもと逆の立場が少し楽しかった。


「……これを少し借りるって条件付きで撮影したんだ」
「借りる?」
「……那須に会わなかったか?」
「……会い、まし、た…」
「………何か、受け取らなかったのか」
「………受け取り、まし、た…」
「………だったらさっさと起動しろ」



すっと視線を逸らした二宮。
少しの沈黙に何故かお互い気まずくなっていた。紅葉の反応はいつも通りだが、二宮の様子はいつもと違う。


「………」
「……早く起動しろ」
「っ、と、トリガー、起動…」


どこか不機嫌そうに言われ、紅葉は緊張しながらトリガーを起動した。現れるのはいつも着ている隊服ではなく、先ほどまで一緒にいた那須が着ていたもので。
ふわっと広がった純白のウエディングドレス、そこから覗く白く細い足、アップされた髪から覗く真っ赤に染る耳、恥ずかしさからかドレスをぎゅっと掴む手、紅葉の全てに目を奪われ、ごくりと唾を飲み込んだ。


「…思ってたより、は、恥ずかしい…」
「………綺麗だ」
「!!」
「よく、似合っている」


ゆっくりと近付いてきた二宮は、そっと紅葉の頬に手を当てた。真っ赤なまま二宮を見上げる。


「に、二宮、さ…」
「本番が楽しみだな」
「な…!?」
「紅葉、高校卒業したら俺の家に住め」
「は、はぁ!?い、いきなり何を…!」
「それで、大学を卒業したら…」
「……っ卒業、したら…?」
「………結婚してくれ」


目を見開いて固まった。愛しげな瞳、愛しげな声音、愛しげな仕草。全てに心を奪われた。


「…け、結婚…って、い、今からそんなの、は、早くないですか…!」
「今すぐにでも一緒になりてぇのを我慢してんだよ」
「っ!」
「お前の未来を縛る気はないが、逃すつもりもない」
「……矛盾してます…」
「好きな奴には1番幸せになる道を辿ってほしいが、手離したくねぇんだから仕方ねぇだろ」
「………」


段々と調子を取り戻してきた二宮の言葉に頬を染めて何も言えなくなる。ただ鼓動がばくばくとうるさかった。からかっているわけではないのは分かる。分かるからこそ、簡単に返事は出来なくて。


「俺の気持ちはずっと変わらねぇよ。」
「……ずる、い…」
「あ?」
「…っ、わ、わたしだけが変わるみたいな言い方、やめて下さい…!」
「…紅葉…?」
「わ、たしだって…!二宮さんのこと、ずっと、ずっと…好きです!愛してます!」
「!」


涙を浮かべながら反撃する紅葉に瞠目した。触れている紅葉の頬はどんどん熱くなっていく。
必死なその言葉と瞳に優しく微笑み、二宮は涙の浮かぶ瞳へ口付けを落とした。


「っ」
「その言葉、忘れるなよ」


そう言いながら紅葉の左手を取り、そして、その薬指の付け根にちゅっと口付けを落とす。


「に、二宮さん…!」
「約束だ。お前は俺のものになる。これから先、一生な」
「…っ」


穏やかな笑みを浮かべる二宮に何も言えず、代わりに二宮の左手を取った。そして同じように薬指の付け根へ口付ける。
予想外の行動に心臓がどくりと跳ねた。
紅葉は頬を染めたまま、恥ずかしそうに二宮を見上げる。


「……わたしはもう、二宮さんのもの、です、から……二宮さんが、わたしのものに、な、なって下さ……っ!!」


最後まで言い切る前に唇を塞がれた。
ぎゅっと腰を引き寄せられ、紅葉もそっと二宮の服を掴む。そしてゆっくりと、嬉しそうに目を瞑り、答えた。

純白のウエディングドレスと、タキシードを身にまとった男女。2人の本番はまだ先だが、まるで一生を誓い合うように、口付けを交わし合った。


End

[ 19/52 ]

back