双子の日常(1)



朝早くから目の前に8枚の服を並べ、出水は自室でうーんっと唸る。
全て千発百中と文字が書かれている色違いのものだ。それを前に腕を組んで悩む。


「…どれにするか…」


その表情は真剣で、片手を口元に当てた。
そこへ扉をノックする音が聞こえる。


「公平、わたし」
「おう、入っていいぞ」


直後に入ってきた紅葉はまだパジャマのままで。早く着替えろよ、と口を開こうとした自分もまだパジャマなことに気が付いて口を閉ざした。


「あ」
「ん?」
「そんなに色違いあったんだ…!」
「おう、カラーバリエーション全8種だぜ」
「良いな…!」
「だろ!」


紅葉は1枚を手に取り、広げて見る。その瞳はキラキラとしていた。なんてセンスのある服なのだろう、と。
その反応に出水も気を良くして嬉しそうに笑う。


「なんなら着ても良いぜ」
「本当に?」
「おう」
「やった!…あ、でも公平のじゃ大きいよ」
「別に良くね?」
「あまりぶかふがだとイマイチ決まらないと思う」
「確かに」
「…わたしも公平ぐらいの身長になれば着れるのにな…」
「それはやめてくれ…。あ、そうだ」


同じ身長の紅葉を想像して顔を引きつらせた出水は、ふと、思い出したように立ち上がった。そしてタンスを探り始める。それを首を傾げて見つめていると、あった!っと嬉しそうな声が聞こえた。
その声の通り、嬉しそうな表情で何枚かの服を抱えてきた出水に首を傾げる。


「これ、前に作ってもらったやつなんだよ」


そう言って広げたのは、今8種類広がっているものと全く同じだ。そのTシャツに紅葉は目を輝かせた。


「おれはもう小さくて着れねぇけど、これなら紅葉着れんじゃね?」
「着る!着てみる!」
「捨てなくて正解だな!」


受け取った服を広げて見つめた。これならばちょうど良さそうだ。


「…わぁ…!ありがとう、公平…!」
「そんな喜んでくれんならあげた甲斐があるな。じゃあ今日はこれ着てくか」
「うん!公平は何色着てくの?」
「それに悩んでたんだよな…。紅葉はどれが良いと思う?」
「んー……どれも捨てがたいけど…水色…いやピンク!」
「マジか!おれもピンクにしようか水色にしようか悩んでたんだけど、じゃピンクにするわ」
「うん、じゃあわたしが水色にする」
「良いなそれ!」


ピンクと水色の服を持って双子は笑い合った。


「着てくのも決まったし、早く行こうぜ」
「準備しないと。着替えてくる」
「早くしろよ。おれも着替えて先に玄関で待ってっから」
「了解」


何故かそこで片手でハイタッチをし、紅葉は出水の部屋を出て行った。それを見送り、出水は着替え始める。
紅葉が選んだピンクの千発百中Tシャツ。それから適当にズボンを履いてパーカーを羽織る。もちろん前は閉めない。
財布と携帯とトリガーをポケットに突っ込み、出水は部屋を出た。




一方の紅葉は、部屋に戻りすぐさま着替えを始めた。出水から貰った千発百中Tシャツの中から水色を選び、それを着る。
そして適当にショートパンツを履いてパーカーを羽織る。もちろん前は閉めない。
小さな鞄に財布やら携帯やらトリガーやらと小物を入れ、紅葉は部屋を出た。

洗面所に寄って少し出かける準備をし、玄関へ向かう。


「ごめん、遅くなって」
「別に遅くねーよ。忘れ物ないか?」
「ない。子供扱いしないでよばか」
「聞いただけでばかはねーだろばか」
「公平こそ忘れ物は?」
「とりあえず財布あれば大丈夫だろ」
「そうだね」
「あれー?あんたたちこんな時間から出かけるの?」


そこへ欠伸をしながら階段を降りて来たのは姉だ。姉の問いかけに2人の視線が姉に向く。そこで2人の服装を見てしまい、姉は顔を引きつらせた。


「あんたたち、その格好…」
「「かっこいい?」」
「ダサいわ」


そんな姉の言葉など聞こえていないように双子は笑い合う。本当にそんなダサいペアルックのような格好で出掛けるのかと神経を疑った。


「ボーダー?」
「いや、今日はちげーよ」
「駅前に出来たソフトクリーム屋さんに行ってくる」
「………ソフトクリーム?」
「おう!そこで今、期間限定でみかんのソフトクリームが売ってんだよ!」
「しかも数量限定だから早く行かないと!」
「……あんたたち2人で?」
「おう!」
「うん!」
「……その格好で?」
「「もちろん!」」


珍しく2人にとても良い笑顔で返されて言葉を失う。何も言えずに顔を引きつらせていると、時計を見た出水が焦り出した。


「やべ、もうこんな時間だぞ!早く行かねーとなくなる!行くぞ、紅葉!」
「うん!」


そう言って差し出された手を、紅葉はなんの迷いもなく取った。


「「いってきます!」」


手を繋いで出て行った双子。
流れるような行動に突っ込む間もなかった。
小さい頃は可愛いと思っていたそんな仲の良い行動も、今となっては色々と心配で。一体どこで何を間違えてしまったのだろうかと頭を抱える。
むしろ何も間違えずに真っ直ぐに来すぎてしまったのだろうか。自分には到底理解出来ない距離感だ。
帰ってきたときに2人がソファで重なって眠っていたのは記憶に新しい。親も特に何も突っ込んでいないことに、それが普通なんだと思い始めている。


「…まあ、本人たちが楽しそうなら良いか」


そうやって距離感がおかしいと注意をしてこなかった家族にも問題があるなど気付きもせず、姉は再び欠伸をしてリビングへ向かった。

End

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