幼馴染の誕生日！
※完結後
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「そろそろ帰れ」
「やだ」
そんな会話をしてから一体何時間経ったのだろうか。もう時間は日付を越えようとしている。
隣でうとうとしながらも必死に起きている幼馴染に小さく溜息をついた。
雑誌を開いてはいるものの、恐らく読んではいないだろう。今にも手元から落ちてしまいそうだ。
「春、もう日付が変わるぞ。送っていくから帰れ」
「…やだ」
春は眠そうにこてんっと風間の肩に寄りかかった。
規則正しい生活をしている春がこんな時間まで起きているなど珍しい。そして風間自身もいつもはもう寝ている時間だ。隣の暖かい体温に漏れそうになった欠伸を噛み殺した。
「…蒼也くんは、迷惑…？」
「何の話だ」
「私がずっとここにいるの、迷惑？」
「迷惑なら力付くで追い返している」
「…そっか、そうだよね！」
ふふっ、と嬉しそうに微笑んで風間にくっつく。
久しぶりにここまで甘えてくる幼馴染に呆れながらも風間は優しい笑みを浮かべた。
ここまで甘えてくるのは、小学生のとき以来かもしれないな、と。懐かしさにそっと春の頭を撫でた。
「…？どうしたの？」
「どうしたはこっちの台詞だ。何かあったのか？」
「んー、何もないよ。これからあるの」
「？」
「もう少しだから」
にこにこと恋人へ向ける笑顔とはまた違った笑みを向けられる。昔からずっと変わらない笑顔を。
日付けが変わる数分前、風間の携帯が鳴り出した。こんな時間に珍しいと思いながら画面を見ると、そこには諏訪の文字が表示されていた。
「諏訪さん…？」
「そのようだな。出る必要はない」
「…うん。今は出ないでほしいな？」
「？そんなこと言うなんて珍しいな」
「だってもうすぐなんだもん！」
そう言って時計を見つめる。
あともう少し。カチっ、カチっと動く秒針を見つめ、その秒針がついに天辺を指した。
春はばっと風間に向き直る。
「蒼也くん！お誕生日おめでとう！」
「…誕、生日…。そうか、そうだったな」
「やっぱり忘れてた！だから私ずっと待機してたんだからね！」
「それは悪いことをしたな」
本気で忘れていた風間に春はくすくすと笑う。そしてにこりと風間を見つめた。
「蒼也くんのお説教は好きじゃないけど、蒼也くんのことは好きだよ！小さいときからずっと私と一緒にいてくれてありがとう！いつも励ましてくれてありがとう！大好きだよ！」
「………ああ」
短いその一言に、春は嬉しそうに笑った。
言葉にしなくても、長い付き合いの幼馴染の気持ちは分かる。ちゃんと、喜んでいることも。
「…そんなことを言うためだけにこんな時間まで残っていたのか」
「そんなことじゃないもん！大切なことだよ！」
「そうか」
「私の大切な幼馴染が生まれた日、だからね！」
自分のことのように喜ぶ春に、風間は微笑んでその頭を撫でた。随分と大きくなり、強くなったものだな、と。親のような気持ちになる。
「…ありがとう、春」
「どういたしまして。朝起きたら私がご飯作るよ！」
「泊まる気か」
「今日は1日蒼也くんと一緒にいるつもりだからね！」
「…せっかくの休みだろう。予定はないのか？」
「ちゃんと断ってきたから大丈夫！」
「全く…」
「ふふっ。夕飯はカツカレー作るからね！」
「…ああ、頼む」
「はーい！」
起きてご飯を作ったら、風間を本部へ連れて行き、みんなにも祝ってもらう。その後は玉狛で木崎にお昼をご馳走になるのも悪くない。食べるのが好きな幼馴染なのだからきっとそれで喜ぶはずだ。
あとは、模擬戦をしてプレゼントを渡して。
起きた後のことを考え、春は顔を綻ばせる。
「ふふ、蒼也くんの家にお泊まりもこうやってずっと一緒にいるのも久しぶりだなー」
「太刀川に何を言われるか」
「太刀川さんにはちゃんと断ってあるよ！蒼也くんの誕生日祝うからって」
「よくそれであいつが泊まりまで了承したな」
「え？泊まることは言ってないよ？」
1番肝心なことを言っていない春に呆れて溜息をついた。けれどもし言っていたらきっとこうやって春はここにいなかっただろう。嫉妬深い恋人のせいで。
「…なら、太刀川には言うなよ」
「え？」
「お前ももう高校生だろう。一応恋人がいるんだからそれをちゃんと自覚しろ。分かったな」
「はーい！」
元気に返事する姿を優しく見つめた。
ちゃんと自覚を持たせなければ。恋人がいるということを、もう子供のときとは違うのだということを。
久しぶりで嬉しいのは自分も同じだが、そこをあやふやにして甘やかす訳にはいかない。
「あ、蒼也くん！一緒に寝よう？」
「………今日だけだぞ」
「やった！蒼也くん大好き！」
甘やかす訳にはいかないが、今日くらいは良いだろうと、風間は自分を甘やかすことにした。年に一度の、誕生日なのだから。
End
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風間さんお誕生日おめでとうございます！
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