B級ランク戦解説(初日)


大規模侵攻をなんとか乗り越えたボーダー。


段々と三門市やボーダー内も落ち着きを取り戻し、予定通りにB級ランク戦を行うことになった。


そしてその初戦の解説に春は抜擢されてしまい、断ることも出来ず考え続けているうちに、あっという間に明日へと迫っていた。



「解説なんてやったことないのに……いきなり…しかも何で佐鳥と?頼りに出来ないから余計に不安だよ…」


少し前まで一時的とはいえ、春もB級だったのだ。そんな自分が解説を……しかも初日という大切な日にやるなんて、と不安やらプレッシャーやらで頭はいっぱいだ。



「解説って何言えば良いんだろう…見たまんま言ってもみんな分かってるよね……それに、ちゃんと答えられるかな…」


春は1人唸っていた。そして歩き続けていつの間にか辿り着いた場所は、玉狛支部だった。


無意識にここに向かっていたことに苦笑する。


「やっぱり、相談するならここだよね」



迅は何回か解説をしているし、烏丸もトリガーや戦術なども詳しい。その2人からならアドバイスをもらえるだろうと、玉狛支部の扉を叩いた。



◇◆◇


ランク戦当日。
春は緊張しながらも解説席に座った。



昨日、玉狛支部で迅と烏丸、更には小南や木崎にアドバイスをもらいに行ったが、全員言うことは同じだった。


思ったまま話せば良い。



ただそれだけだった。



(あの人たちは経験豊富だからそんなこと言えるんだよ…!)


烏丸は同期なのだが、そんなこと考える余裕はない。


けれど、ここまで来たらやるしかないのだ。
太刀川隊の隊員として、評価を落とすようなことは出来ない。
春は気合を入れた。



そして、



「ボーダーのみなさんこんばんは!海老名隊オペレーター、武富桜子です!」



B級ランク戦が始まった。



「B級ランク戦、新シーズン開幕!初日、夜の部を実況していきます!本日の解説者は…」



春は小さく深呼吸をした。
緊張しているのをバレないように。いつも通り、いつも通り、思ったままを、と。



「オレのツインスナイプ見た?でおなじみ!嵐山隊の佐鳥先輩!」
「どーもどーも」


慣れている佐鳥はいつも通りに手を振っている。


「そしてもう一方……A級1位が俺のだと宣言をした噂の美少女!太刀川隊の如月先輩です!」
「武富ちゃんその紹介やめて!」


春は頬を染めて思わず立ち上がったが、周りはざわざわと話している。あれが噂の太刀川の女か、と。

春は居たたまれなくなって大人しく席に座った。


「おっと!そうこうしてるうちに、隊員の転送がスタート!」


武富は全く気にすることなく話を進めていく。

今回の対戦するチームは、吉里隊、間宮隊、そして玉狛第二だ。玉狛第二は、修は怪我で休み指示に回っているため、遊真と千佳の2人だけになる。


(玉狛第二のデビュー戦、か。そんな大切な試合、解説もしっかりやらなきゃ…)
「如月先輩の注目株はいらっしゃいますか?」
「え?えっと…玉狛第二は今回がデビュー戦なので、チームとして戦うのを見るのは楽しみですね。三雲隊長はいませんが…」
「なるほど。如月先輩も解説が今回初だとお聞きしました!せっかくですので今回は玉狛第二の試合に集中してお届けしたいと思います!」


ただ普通に話せただけでほっと息をつく。
これならば問題ない。もう気持ちはだいぶ落ち着いた。


そして佐鳥が軽くB級ランク戦の説明をする。
春もB級ランク戦のことはかなり調べた。自身が参加したことないため、1から徹底的に調べたのだ。抜かりはない。


「B級の1位と2位はA級への挑戦権がもらえる!」
「…二宮隊に挑戦されそうで怖いな…」
「二宮さんと太刀川さん、如月先輩は三角関係ですからね!」
「そ、そういう話はなしの方向でお願いします!」
「やはりこれは事実なのですね!」
「ち、違います!」
「俺のだと宣言した太刀川隊長と、俺が奪ってやると宣言した二宮隊長…!確かにこんな少女漫画展開どちらも選べませんね!」
「なんか色々違うし…!」
「そうそう!春ちゃんは、私は太刀川さんのだーって選んだらしいからね!」
「はあ!?ちょ、佐鳥それどこ情報!?」
「え?京介だけど…」
「京介くんのバカ…!いや確かに間違ってはいないけどなんてことを…!」
「太刀川さんを選んだ如月先輩!もし二宮隊に挑戦されても愛の力で乗り越えるか!?」
「やーめーてー!!」
「はは、春ちゃん顔真っ赤ー!さて!そういうことで、B級のみんな頑張れ!説明終わり!」
「あ、ちょ、ちょっと待って」


佐鳥の説明が不十分に感じた春は頬を叩いて平常心を取り戻し、割り込む。


「一つだけ補足させてもらうと、前シーズン上位だった部隊には順位に応じて初期ボーナスが加算されます。だから上位の部隊はその分、有利だね」
「あ、忘れてた。それそれー」
「…やっぱり佐鳥は頼りにならない」
「オレ解説の先輩だよ!頼りにしてよ春ちゃん!」
「武富ちゃんよろしく」
「はい!」
「え!?」
「さあ3チームとも、転送完了!すでに戦いは始まっている!」



例えB級下位のチームとはいえ、大事なランク戦だ。3人の表情は真剣になる。


「3人チームの吉里、間宮隊に対して、玉狛第二は数の上で不利ですが、如月先輩はどう思われますか?」


モニターに映る遊真の姿を見て、春は笑顔を浮かべる。


「うん、大丈夫じゃないかな」


その瞬間、遊真が吉里隊3人の首を飛ばした。あっという間に吉里隊は全員ベイルアウト。


「玉狛第二の空閑隊員!B級下位の動きじゃないぞ!?」
「そりゃ空閑くんは私から10本中4本とる子だしね」
「なんと!?如月先輩から4本も!?」


春がスコーピオンのときだったが、それは言わずに頷く。遊真が別格に強いのに違いはない。


「間宮隊は……動かない!建物に身を隠して動かない!」
「これは…」
「待ちっすね」


春の言葉を遮って答えた佐鳥に、春はじとっと佐鳥を睨むが、本人は全く気付かずに続ける。


「寄ってきた所を全員の弾で削り倒す感じじゃないっすか?」
「なるほど!間宮隊は全員が射手!3人同時フルアタックのハウンドストームは決まれば超強力です!」
「まあ決まれば、ね。二宮さんとか出水先輩ならともかく、彼らの実力で空閑くんを仕留められるかな?」
「だねー。それに…」


春と佐鳥はにやりと笑った。
その瞬間、間宮隊の潜んでいた建物が強烈な銃撃に吹き飛ぶ。

それに驚く観客、間宮隊、武富。


「「出たあ!!」」


周りの反応と違い、春と佐鳥は喜んで片手をぱんっとハイタッチした。


そして吹き飛ばされた間宮隊を逃すことなく、遊真がすぐに3人を仕留めた。間宮隊も全員ベイルアウトをする。


「しょ…衝撃の決着!!狙撃手雨取隊員がアイビスで障害物を粉砕!というか威力がおかしいぞ!?」
「ライトニングでも佐鳥より強そうだよね」
「昔ならね!今のオレは結構凄いんだよ!」
「ふーん?狙撃手で1度も私に勝ったことないのに言うね?佐鳥」
「うぐ…む、昔はでしょ!今やればオレ絶対春ちゃんに負けないよ!」
「どうだろうね?なら今度、私狙撃手の合同訓練参加してみようかな」
「え……」
「流石に当真さんや奈良坂先輩には敵わないだろうけど。完璧万能手を目指す荒船さんには負けられないなぁ」
「言っとくけどオレ本当に順位高いんだからね!?」


必死な佐鳥に春は笑った。
春自身も本職の狙撃手でA級になった佐鳥に勝てるとは思っていない。


「さ、さて、この一戦で暫定順位は12位まで急上昇!早くも中位グループに食い込んだ!」
「さすが玉狛第二!期待通りだったね!」
「雨取隊員は本部の外壁ぶち抜くトリオン量だし、空閑隊員は緑川に勝ち越してるしねー」
「期待の新星ですね!この2人ならどんどん順位を上げていけそうです!」
「あともちろん、三雲くんもね」
「三雲隊長は今回怪我でお休みでしたが、やはり実力は凄いと?」
「うん。強いよ。彼は気持ちが強い、だから強くなる………それに!なんたって三雲くんは蒼也くんと引き分けてるしね!」
「あの風間隊長と引き分けた三雲隊長!これは玉狛第二の次の試合も大注目です!」


そしてモニターに映し出された次の対戦カード。
荒船隊、諏訪隊、玉狛第二だ。



「B級中位はB級下位と違ってかなり戦い慣れもしてるし、戦術もしっかりしてる」
「うんうん。今回瞬殺した玉狛第二でも、舐めてかかれる相手じゃないのは確かっすねー」
「でも、これからあのチームがどう戦うのか楽しみかな」
「今回の試合の総評というより、玉狛第二の総評になってしまいましたが、B級ランク戦初日夜の部、終了です!本日の解説は嵐山隊の佐鳥先輩と、太刀川さんの如月先輩でした!ありがとうございました!」
「ありがとうございましたー」
「武富ちゃん!?」


会場は笑いで包まれるが、春は顔を赤く染めていた。いろんな人物が聞く解説でなんてことを言っているのだと。



(解説、か…)



普通ならもっと戦術の解説やチームの総評などをするが、それを出来るほど他チームは活躍しなかった。
玉狛第二の独壇場だったせいで、玉狛第二の総評になってしまったのだ。


B級下位の試合はこんなものだと、見にきていた東に言われ、初めてなのによくやったと春は頭を撫でられた。

慣れない自分が呼ばれたのはB級下位の解説が初心者向けだからなのだとやっと理解した。そこから慣れてどんどん上位の解説をしていくんだろうな、と。



(………それじゃ佐鳥ってやっぱり…)


何回も解説をしていながらB級下位しか解説をしない佐鳥。そのことに気付いてしまったが、春は黙っておくことにした。



◇◆◇


翌日、春は太刀川たちに自分の解説がどうだったかを聞いてもらおうと隊室へ行った。しかし、



「悪い春!おれ昨日補習があって本部これなかったんだよ」
「ほ、補習…?出水先輩が珍しいですね?」
「防衛任務で小テスト受けられなくてな」
「そうですか……じゃ、じゃあ柚宇さんは…!」
「あー、ごめんね春ちゃん…昨日ずっとやりたかったゲームの発売日だったから本部に来なかったんだー」
「そう…ですか…」


国近の性格を知っているだけに責めることは出来ない。ゲームが1番の人なのだから。



「でもホント悔しいなー!春の解説デビュー聞けなかったなんて」
「私も聞きたかったー!でも欲望には勝てなかったよー…」
「太刀川さんもレポートで行けなかったんでしょ?本当に残念ですよね」
「ふふふふ」


はぁっと2人が残念がってる中、太刀川はとても良い笑みを浮かべていた。それに3人は首を傾げる。


「俺は堪能したけどな」
「え?」
「は?」
「なんでー?」
「俺は春の解説、堪能した」


どや顏で満足そうに言った太刀川に、3人は驚いた。太刀川は確かに大学のレポートに追われ、本部にはいなかったはずなのだ。
しかしとても満足している。確実に聞いた証だ。


「よくやったな、春。なかなか良かったぞ」


太刀川は春の頭を撫でて褒める。
春にとってその行為は嬉しいが、どこでどうやって解説を聞いたのか分からず、聞いても太刀川は笑みを浮かべたまま答えようとはしなかった。



◇◆◇



「武富」
「おや、太刀川さん!如月先輩の解説はどうでした?」
「ああ、堪能した。サンキューな」
「いえいえ!太刀川さんと如月先輩の甘〜い恋バナを聞けるのならば、音声データをコピーするなんてお安い御用です!」
「お前も結構良いこと言ってたし、解説じゃない小さい呟きとか聞けたしな!そのお陰で普段俺の前じゃ見れない春の一面見れて良かったぞ」
「それはそれは良かったです!…むふふふ、それで、太刀川さん……最近は如月先輩とどんな恋人らしいことを…?」
「ふふふふ、最近はなぁ…」



武富桜子の元に太刀川が来て、こんな怪しい会話をしていたことは、誰も知らない。



End

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