弧月2本持ち万能手の奮闘

見て見ぬフリをしていた。

きっと自分から言ってくるだろうと。


しかし一向に何も言ってこない。そのままB級へあがり、またポジションを変えたという話まで聞いた。



さすがに我慢の限界だった。






対戦ブースへやってきた風間は目的の人物を見つけてズカズカと歩み寄る。その近寄りがたい雰囲気に周りが距離を取ったのに気付き、春は振り向いた。そして同時に冷や汗を流す。



「……そ、蒼也くん…」
「久しぶりだな。お前が入隊試験を受ける前以来だ」
「あはは、そうだねー…」


非常にまずいと春の頭は警鐘を鳴らすが、逃げられる雰囲気ではない。それに、逃がさない、と。風間の目が語っていた。



「俺はお前にボーダーになるなと言ったはずだが」
「…なりたい理由ないならでしょ。理由が出来たからここにいるんだよ」
「だったら何故何も報告しにこない。本当に理由があるのか」
「報告はしようと思ったけど…それどころじゃなかったし、蒼也くん絶対怒ると思ったし…。けど!理由が出来たのは本当だよ!私にも強い想いがある!」
「そんな奴がどうしてころころトリガーを変えているんだ」
「どれが一番良いか試してただけだよ!」
「ならスコーピオンに落ち着くはずだろ。どうして弧月なんだ。…しかも2本」


一体どこからどこまで知っているのかと思えるほどの風間の言葉に、春は頬をかいた。

説明すれば長くなる。とても長くなる。だから出来る限り簡潔に話そうと考え、結論だけを伝えることにした。


「太刀川さんの役に立つためにはこれが一番かなって思ったからだよ」
「太刀川…だと…?」


風間はあからさまに顔をしかめた。普段ポーカーフェイスの風間がこうまで表情を変えるのは珍しい。


「私は太刀川さんに憧れたからボーダーに入った。太刀川さんを援護したいと思ったから狙撃手や射手をやって、隣で一緒に戦いたいと思ったから今攻撃手をやってる。それだけだよ」
「…何故太刀川なんだ」
「…何故って言われても……そう、思っちゃったから…」


うっすらと頬を染めた春を、風間は見逃さなかった。


「…ブースに入れ」
「……え…?」
「模擬戦するぞ。お前の強い想いとやらを確かめてやる」


そう言ってトリオン体になった風間。

A級3位、風間隊のエンブレムを見て春は乾いた笑いをもらした。


◇◆◇


5戦中5敗。
見事に1本も取れずに負け続けている春は、少しインターバルをおくように頼み、1人になってから落ち着くために深呼吸をする。


今までランク戦をしてきた隊員たちと違って風間は遥かに強い。全く勝てない。

けれど、やはり楽しかった。

軽量型に開発された弧月は威力も強度も多少落ちてしまったが、それでも春との相性は良かった。


好きな人と同じスタイルで、強い相手と戦うのは面白い。春は笑みを浮かべた。


「…あと5戦。1本くらい勝ちをもぎ取ってやる…!」


そう意気込んで立ち上がると、同じように休憩していた風間と鉢合わせた。
風間は缶コーヒーを飲みながら、春に缶ジュースを投げる。


「わ、あ、ありがとう」
「…攻撃手にこだわっているのか?」
「え…?いや、そういうわけじゃないよ。弧月にはこだわってるけど。私は太刀川さんの援護したかったから狙撃手や射手をやったわけだし」
「……また太刀川か」
「全部それが理由だもん!援護をしたかったけど私より凄い人が太刀川さんの援護してる。だから隣で戦うって選択に変更したんだよ」
「……なら、その全てで俺にかかってこい」
「全て、で…?」
「何も今までやってきたことを無駄にする必要はないだろ。だったらそれを活かせば良い」
「?どういうこと?」
「万能手になれと言っているんだ」


オールラウンダー。
その選択肢はなかった。むしろ、この前烏丸が万能手を目指すと言うまでその存在すら知らなかったのだ。


「万能手……そっか、それなら隣で戦えるし、援護も出来る…」
「その分、難しくなるがな。器用な奴でなければ苦戦するぞ」
「万能手なら……色々役に立てる…!うん!やる!万能手になる!」
「…確かに進めはしたが、そうも簡単に流されるか」
「流されてるんじゃなくてちゃんと考えてるよ!どれが一番太刀川さんに興味持ってもらって役に立てるか!」
「……結局そこに行き着くのか。まあ良い。あと5戦だ、行くぞ」
「うん!負けないよ!」



春はトリガーをセットし直した。弧月2本は変わらず、他にも試したいものをいくつかと。
たくさんのトリガーをセット出来るが、それを使いこなせるかはまた別の話だ。あまりたくさんセットしては逆に使いづらくなってしまう。

だから考えた。
自分と相性も良く、太刀川のためになるトリガーを。



そして満足のいくものがセットでき、春は風間の待つブースへ入った。

風間はすでにスコーピオンを構えている。


「あと5戦。お前の想いを示してみせろ」
「…行くよ、蒼也くん!」


春は弧月を2本抜いて風間へと足を踏み出した。



◇◆◇


何やら対戦ブースが騒がしく、太刀川は足を止めた。それに習って出水も足を止める。


「なんか騒がしいな」
「…あ、あれ風間さんじゃないですか?」
「なに!?」


太刀川はモニターに向かって走った。そして近くで見ると、やはりそれは風間だった。


「風間さん俺とのランク戦断ったくせになんでこんなとこで戦ってんだよ!」
「太刀川さんはしつこいからでしょ」
「くっそー…」


一体対戦相手は誰だと、視線を向けた。





その瞬間、どくりと心臓が跳ね、目が離せなくなる。



2本の弧月自由に操り、アステロイドを放つ。スコーピオンを扱っているような身軽さでグラスホッパーを使い、風間を翻弄するその姿に。


その、楽しそうな笑顔に。



「ああ、あの子と戦ってるんですね」
「!出水知ってるのか?」
「まあ一応。凄い噂になってる子でしたし」
「噂…?」
「うわ、太刀川さんって本当に周りに興味ないんですね」
「噂ってなんだ!」


やけに食いついてくる太刀川に驚きながら、出水はまたモニターに視線を向ける。


「あの子、確か如月春って言うんですけど、狙撃手としてC級やってたのに、いきなり射手にポジション変更したらしいすよ」
「C級でポジション変更?」
「はい。それでB級に上がってまたすぐ変更したって。…で、確か今は攻撃手のはずでしたけど…なんか万能手っぽいですね」
「弧月2本持ちの万能手…」


太刀川は食い入るようにモニターを見つめた。如月春、弧月2本持ちの万能手。そのことしか頭に入らなかった。

さすがに実力差があり、風間にやられはするが、それでも楽しそうに戦っている。自由に、笑顔で。

一緒に戦ったら、共闘したら、楽しそうだと思った。


「まあ普通ポジション変更しただけじゃ噂にはならないでしょうけど、如月の場合は別なんですよ」
「何でだ?」
「いろんなポジションやって、結構ポイント稼いでるんです。C級でやめた狙撃手も、かなりの腕だったらしいし」
「ふーん?」
「この人分かってねぇな…。だからつまり、木崎さんに次ぐ完璧万能手候補なんですよ」


そこでやっと理解する。
とても凄いことなのだと。


「完璧万能手ってマジか!」
「まあ候補、ですけど」
「狙撃も出来て援護も出来て更にあの動きか…あいつすげーな!」
「確かに凄いですね。だから風間さんと模擬戦してんのかな」
「関係あんのかよ?」
「いや、風間さんが隊に引き入れたくて実力見てるのかなーっと思って。でもあの実力なら誘われてもおかしくないですよね」
「…あいつが、風間隊に…?」
「うわー、もしそうなったらウチも冬島隊もやばいんじゃないですか?結構な戦力ですよ、あれ」



風間の動きを制限するために放たれるアステロイド、そして攻撃のために放たれるメテオラ。それを見ただけでトリオン量が多いことは分かる。
更には弧月を2本持ちながらの華麗な動き。

B級であの動きだ、風間が目をつけるのもおかしくない。確かに引き入れたいと思うだろう。



そう思うと、何故だか心臓が嫌な音を立てて鼓動し始めた。先ほどとは違う、不快な鼓動。
訳が分からずに太刀川は胸を押さえた。


「ウチももう1人くらい誰か引き入れないと流石に…」
「出水」
「あ、はい。なんですか?」
「中の音声って聞けるか?」
「中のって…つまり風間さんたちの会話ってことですか?…まあ、聞けないこともないでしょうけど…どちらかが使ってる部屋に入れば」
「よし、行くぞ」
「はあ?なんで…ちょ、太刀川さん!」


相変わらず戦闘以外では考えが全く分からない人だと大きな溜息をついた。



そしてそこにいた隊員に春の使っている部屋を聞き出し、何の迷いもなしに入った。


「人が模擬戦してる部屋に入るとか…普通しないですよ…」
「出水!どうやるんだ?」
「会ったこともない女子なのに良いのかよ…」
「いーずーみー!」
「はいはい分かりましたよ」


出水は諦めてパソコンの前に座った。
難しい操作や国近がやっていることなどは出来ないが、音声を聞くことぐらいは出来る。

少し弄ると、段々と音が聞こえてきた。



『なかなかやるな』
『万能手の方がやりやすいね!これなら蒼也くんから1本くらい取れそう!』
『これが最後なのに余裕だな』
『蒼也くんの動きも分かってきたからね!』
『それはお互い様だ』


2人の会話を聞いて太刀川と出水は顔を見合わせた。


「…随分仲よさげでしたね」
「タメ口だったな」
「名前呼んでましたし」
「なんか聞いちゃいけない気がしてきた」
「あんたが聞きたいって言い出したんだろ!」


太刀川はそう言いながらも会話に耳を傾けている。一体何がしたいのか分からずに出水溜息をつきながら会話を聞いた。


『春。お前、隊は組んでいるのか?』
『え?…うん、まあ一応。だけどもうすぐ解散かな』
『解散?』
『そう。1人は嵐山隊に憧れて入隊志願に行ったらOK貰えそうみたいだし、もう1人は本部じゃない所に興味持ってそっちに行きたいみたいだしね』
『そしたらお前はどうする気だ』
『……どうしようかな。流石に同じ隊になるなんて夢見過ぎてたの分かってるし、どこかのB級チームに入れてもらおうかな…』
『……決まっていないなら、俺の隊にくるか?』
『え…?』


太刀川はガタンっと立ち上がった。突然の行動に出水はびくりと反応する。


「ど、どうしたんですか、太刀川さん…?」
「………ダメだ…」
「へ…?」


胸のあたりがモヤモヤする。
嫌な鼓動は治らない。


「風間隊に…入るなんて…」


言葉にするとまた嫌な気持ちになった。もし風間隊に入れば、ランク戦で戦うことが出来る。だからそれも良いかもしれないと思った。

けれど、やはり違う。




敵対ではなく、隣で戦いたいと感じた。



会ったことはない。話したこともない。
しかし、戦っている姿に惹かれてしまった。


もっと側で見てみたいと思った。




そして、




そう思ったときにはもう行動していた。



後ろで出水の引き止める声が聞こえた気がするが、もう聞こえない。やらなければいけないことが出来たのだから。


太刀川の身体は転送され、辿り着いたのは先ほどまでモニターで見ていた場所。


そこで戦っていた2人の間に割り込み、目的の人物の腕を掴んだ。



「俺の隊に入れ!」

◇◆◇


「全く、何を考えているんだ」



模擬戦中の所へ乗り込んだ太刀川を説教する風間。まあ当然のことだろうと思い、出水は呆れながらそれを見つめる。

そしてチラッと隣に座る人物に視線を向けた。


先ほどまで風間と模擬戦をしていたとは思えないくらいに縮こまっている春に、出水は同情の視線を向ける。



「…あー…ウチの隊長が悪いな」
「…………いえ」
「あの人バカだからさ、たぶん常識とか分かんないんだと思う」
「…………いえ」
「…如月、だよな。…大丈夫か?顔赤いぞ?」


その言葉にやっとびくりと反応をした。その顔はやはり赤い。出水は首を傾げた。


「……太刀川さん、何かやった?」
「い、いえ!なにも!」


そう答えて春はまた俯いた。視線を上げれば視界に太刀川が映ってしまう。それだけで心臓はバクバクと音を立てた。


(た、太刀川さんだ太刀川さんだ…!本物の太刀川さんだ…!)


今までモニター越しにしか見なかった人物が目の前にいるのだ。動揺は隠しきれない。


(声も、かっこよかったな……背も高いし、手も大きかった…!男らしかった…!)


全てが初めてだった。
太刀川慶という存在をこんなにも感じられるのは。


(蒼也くんって本当に小さかったんだな…)
「おい春」
「は、はい!」


心の中で悪口を言ってしまった直後に名前を呼ばれ、春の声は裏返った。


「お前はどうする気だ」
「………え?」



どうやら心の声は聞こえておらず、太刀川が乱入してから変わらずに不機嫌なままの風間は問いかける。


「どうするって……何が…?」
「何がって……お前太刀川の言葉聞いていなかったのか?」
「…言葉…」



春は腕を組んで考えた。

太刀川が乱入してきたあのとき、動揺し過ぎてはいたが、確かに何かを言われた気がする。


掴まれた腕が熱い。
伝わる体温が心地良い、
初めて嗅いだ匂いにドキドキと胸は高鳴った。

そして、言われたのだ。




「……俺の隊に…入れ…?」


思い出して疑問を浮かべる。
これは自分の勝手な解釈で、本当は別の何かを言っていたのではないかと。



「どうするんだ春」
「どうするって、如月だっていきなり言われても困るでしょ。風間さんにも誘われてた訳だし」
「…何故知っている」
「…あ、いや…」
「まあ、乱入してくるくらいだ。会話も聞いていて当然か」
「すみません…」


何故か当事者たち以外の会話になっているが、風間は再び太刀川に視線を向けた。


「全てお前が悪い。この状況をどうにかしろ」
「どうにかって……」


太刀川は春に視線を向けた。すると一瞬だけ目が合ったが、びくりと俯かれる。


(…さっき戦ってるときと全然違うな…)


これだけ見ていると何故自分はあんなことを言ったのだろうと思えてくる。確かにあのときは咄嗟に言ってしまったが、よく考えればおかしな話だ。
1度見ただけの人物を隊に誘うなんて。



さっきのはなかったことにしてくれ。

そう言うために立ち上がった太刀川は、春の前へ移動し、目を合わせるためにしゃがんだ。



「あー…如月、さっきはいきなり悪かったな」
「……っ、い、いえ…!」
「さっきの言葉は忘れてくれ」
「はあ!?ちょ、あんたそれすげー失礼だろ!何考えてんの!?」
「いや、何って…」
「……太刀川、今すぐ息の根を止めてやる」
「え、ちょ、風間さん目が本気なんだけど!?」


ガヤガヤと騒ぐ3人に、春の心は冷静になっていった。別に傷ついてはいない。自分のことを知るはずのない太刀川が、あんなことを言うはずがないのだから。
だから忘れてくれと言われてもすんなり納得出来た。


「あの、た、太刀川さん…!」
「ん?な、なんだ?」


出水と風間に責められている太刀川は春に視線を向ける。


太刀川の視界に自分が映っただけでも凄い進歩だ。こんな風に会話出来るなど思ってもいなかったのだから。


春は意を決したように太刀川を見上げた。緊張してか頬をうっすら赤く染める春に、太刀川さんは首を傾げる。


「さ、さっきの……言葉…。嘘でも、嬉しかったです!俺の隊に入れって言われて、凄く、凄く嬉しかったです!」
「お、おう…」
「ありがとうございます、太刀川さん!」
「っ!」


春は嬉しそうに笑いかけた。
今幸せな気持ちなのは確かだ。心が満たされているのは確かだ。


嘘だったのは残念だけれど、春は良い思い出だと思った。



「それじゃ、私は戻りますね!」
「戻る場所はないだろ」
「そ、そうだけど…」
「太刀川が忘れろというなら、お前ははやはり俺の隊に入れ。お前にはその実力がある」
「蒼也くん…!」
「そういうことだ太刀川。春は本日付けで風間隊の隊員になる。良いな」
「……………ダメ、だ」


冷たく言い放った風間に、太刀川は小さく呟いた。


出水と春は驚く。


「やっぱりダメ!今のなし!」
「何がなしなんだ」
「如月が風間隊に入るってこと!」
「何故だ。お前には関係ないだろ」
「ある!如月は太刀川隊に入れる!」
「っ!!」




戦い方に惹かれた。
目を奪われた。
隣で一緒に戦いたいと思った。


風間と模擬戦しているのを見てそう感じた。

けれど、大人しくしている春を見て、何かの間違いだったと思った。照れたように俯いて話す春に、先ほど感じた気持ちは芽生えてこなかったから。



しかし、



春が太刀川に笑いかけたとき、戦っている姿以上に惹かれた。目を離せなくなり、心臓がドクドクと鼓動し始めた。

嫌な気持ちではない、モヤモヤもしない。

心地良い鼓動を感じた。



「た、たちかわさ…」
「あんたさっきから何言ってんだよ!」
「いい加減はっきりしろ」


太刀川は真っ直ぐに春を見つめた。
春は頬を染めながらもそれに答えるように見つめ返す。


「如月春!」
「は、はい!」
「俺の隊に入れ!」
「…っ!!は、はい…!」


迷いなどない。驚きはしたものの、春は満面の笑みで返事をした。


◇◆◇


太刀川に隊に誘われてから数日。

春とチームを組んでいた佐鳥は嵐山隊に。烏丸は迅のいる玉狛支部へと転属し、玉狛第一となった。

2人ともそのお陰でA級へと昇格。


チームは解散したが、それぞれ自分のやりたいことを見つけたのだ。



「お、いたいた」
「あ、出水先輩!」


迎えに来た出水を見つけて、春はイーグレットをしまった。


「どうだった?」
「イーグレットマスタークラスになりました!これで私も完璧万能手です!」
「すげーぞ如月!やったな!」
「はい!」


くしゃくしゃと頭を撫でられ、春は嬉しそうに笑う。



そして訓練を終えて出水と一緒に訓練室を出る。
今日はやっと太刀川隊へ正式入隊出来る日だ。そしてオペレーターを紹介してもらえる日にもなっている。


「国近先輩、か…緊張しますね…」
「すげー良い人だから大丈夫だよ。気さくだし、緊張とは無縁の人だから」
「ふふ、楽しみです!」
「太刀川隊が全員集合なんて初めてだからな。おれも楽しみだぜ」


出水と笑いあえば、遠くから名前を呼ばれて視線を向ける。


「おーい、如月ー」
「!太刀川さん!」


ぱぁっと顔を輝かせた春に、出水は小さく笑う。まだ付き合いは短いが、分かりやすい態度のせいで春の気持ちに気付いてしまったのだ。

出水は無言で春の背中を押した。


「出水先輩?」
「早く行けよ。お前の隊長がお待ちだ」
「……はい!」


その嬉しそうな笑顔に、出水も微笑んだ。



「如月ー、国近が隊室で待ってるから行くぞー」
「はい!今行きます!太刀川さん!」



春は太刀川の元へと走って行った。



ボーダーに入る前に憧れた人物が着ていた、真っ黒な隊服。



太刀川隊の隊服を翻して。


end


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