愛する人
※注意!
このお話は本編4年後の、太刀川さんと春ちゃんの妊娠から出産結婚までのお話しです!
−−−−−−−−
最近身体の調子がおかしいのには気が付いていた。
けれど、ただの風邪だろうと思った。
頭痛、眠気、だるさ。
きっと生理が近いからだろうと思った。
けれど、予定日を過ぎても生理は来なかった。
それでも任務は続けた。トリオン体になれば何も問題はない。だから誰にも何も言わずに日々を過ごした。
少し辛いだけだったから。
何日も何日も、春は気にしないようにした。
しかし、家で吐き気を覚えてトイレに駆け込んだ。それを繰り返すようになった。
気持ち悪い、具合が悪い、頭が痛い、お腹が痛い、身体がだるい……ぜぇぜぇと息が乱れる。
今、家には自分1人しかいない。そのことだけが救いだった。
2年前から同棲している太刀川は、今日は遅くなると言っていたからまだ帰ってこないだろう。それまでになんとか体調を戻さなければと必死に息を整えようとするが、気持ち悪さは治らない。
「………ちがう、よね」
嫌な予感が頭を過ぎり、春は拳を強く握ってその思考を消そうとした。けれども嫌な予感は消えない。嫌なことばかりが頭を過ぎってしまう。
その思考を消すために、春は自室にある引き出しからあるものを取り出した。それを手にするだけで鼓動が早くなる。
違うと思いたい。だから確かめて見るしかない。
春は静かに深呼吸をして、それを使った。
そして、
「………う、そ…」
カタカタと震える手で持つのは、陽性反応が出た妊娠検査薬。
「う、うそ……うそ…!なんで…!だ、だって、ちゃんと避妊だってしてた…!ちゃんと…!」
パニックになる頭で必死に考えるが、そんなこと分かるはずもない。何で何でと繰り返し、瞳からはボロボロと涙が溢れた。
「…なん、で…どうしよう…どうしよう…!」
頭を抱えてその場に座り込む。
冷静にならなければと思うが、身体の変化に戸惑って落ち着くことが出来ない。
こんなときに助けてくれるのは、いつも太刀川だった。
けれど、太刀川には話せない。大好きだからこそ、話せない。一緒にいられなくなってしまうのは嫌だ。
「…慶さん…!」
春はぎゅっと膝を抱えた。
◇◆◇
妊娠が発覚した後も、春はそれを隠し続けた。体調は悪いがそれを気付かれないように。ひたすら隠し続けた。解決策を探しながら。
そして今日も無事に防衛任務が終わり、太刀川隊は全員隊室へと戻ってきた。太刀川と出水は早々に換装を解く。
「うあー疲れたー。最近防衛任務多くないですか?」
「解散した隊とかやめた隊員もいるんだから仕方ないよー」
「だなー。俺らみたいに全員20歳越えとか珍しいぞ?」
「ははっ、確かに。でもまだA級1位を譲る気はないですけどね!」
「うん!」
「当然だ」
太刀川、出水、国近は3人笑い合った。
しかしそこに参加しない春を不思議に思い、全員そちらを向く。3人の視線が集まっているにも関わらず、春はぼーっとしていた。
最近様子がおかしいのは全員気付いている。
特に太刀川は、家でも春の様子がおかしいのに疑問を覚えていたが、何を聞いても何でもないと答える春に、それ以上追求出来ずにいたのだ。
「おーい、春?どうした?」
「………え?」
「最近上の空というか何というか……なんか変だぞ?」
「っ、そ、そんなことないですよ」
「家でもそうなんですか?」
「ああ…」
「こいつ大学でも変なんですよね」
「ご飯もあんまり食べてないし…春ちゃん本当に大丈夫?何か悩み事?」
「い、いえ!何でもないです!大丈夫です!…す、すみません、今日は先に帰りますね、失礼します」
そう言ってトリオン体を解除し、隊室を出ようとした春だが、突然の眩暈に襲われ、ガタンっと片膝をついた。
驚いて近寄ろうとすると、太刀川がいち早く動き、春の身体を支えた。
「おい!大丈夫か春!」
「……すみません、大丈夫です。ただの立ち眩みなんで…」
「立ち眩みって…お前顔真っ青だぞ!とりあえず医務室に行くぞ、見てもらおう」
「っ!だ、大丈夫です!」
「は?大丈夫じゃねぇだろ!良いから行くぞ」
「わ…!」
太刀川は春を抱き上げた。いつもなら真っ赤になって照れるであろうお姫様抱っこだが、春はそれどころではなかった。医務室で調べられたらバレてしまうかもしれない。その不安しかなかった。
「大丈夫!大丈夫です!降ろして下さい慶さん!」
「おいこら暴れんな!何でそんな頑ななんだよ!」
「本当に!本当に大丈……っ、」
そこで春は口元を手で押さえた。
暴れたせいか、再び気持ち悪さが身体を巡る。
「春…?」
「…だい、じょぶです…から…」
「…この馬鹿…!」
太刀川は春を抱えて隊室から飛び出した。春を安静にして連れて行きたかったが、とにかく医務室へ連れて行かなければとそこまで頭は働かなかった。
乱暴に揺すられ余計に気分が悪くなりそうな春だったが、久々に包まれた太刀川の体温と香りに、段々と気持ちが落ち着いてきた。
ここ数週間ずっと太刀川との触れ合いを避けてきたのだ。風邪だからと言い訳をして。
だから、久々に触れる体温に涙が出そうになった。
本当に太刀川が大好きだと思った。
だからこそ、バレたくはない。
抵抗して暴れていた春は、そこで意識を手放した。
◇◆◇
ゆっくりと目を覚ますと、そこは見覚えのある場所だった。恐らくボーダー本部の医務室だ。
「…春?目覚めたか?」
春がぼーっと天井を見上げていると、傍で座っていた太刀川が優しく声をかけた。
春はゆっくりそちらに視線を向ける。
「……慶さん…」
「…はぁ、良かったー…途中で気失うからすげー焦ったんだぞ?」
「…すみません」
「ていうか、お前痩せたな。抱き上げた時なんか前より軽かった」
「……ダイエット、してるんです。だから最近も体調悪いみたいで…」
「必要ないだろ?今すぐやめろ」
「………そう、ですね」
「………」
とても気まずい雰囲気。医務室には太刀川と春しかいない。
「………で、本当はどうしたんだ?」
「…な、なにが、ですか…?」
静かに切り出した太刀川に、春は動揺を隠せなかった。今の状況で逃げられないのが分かってしまっているのだ。
「なにって、最近おかしい理由だよ。ダイエットだけならそんなになる訳ないだろ。元気ないし、体調悪そうだし、上の空だし……俺といると辛そうだし…俺のこと避けてるみたいだし…」
「っ!」
「……俺のこと、嫌いになった…か…?」
「違います!」
春はガバリと身体を起こした。
悲しそうな太刀川を真っ直ぐに見つめる。
「嫌いになんてなってません…!むしろ、大好きです…!好きで好きで……別れたく、ないんです…」
「別れ…って…な、なんで別れ話になんだよ!」
「そ、れは……」
もう言うしかない。
逃げ道はない。
覚悟を決めなければならない。
春は唇を噛み締めて俯いた。
もう、今までの幸せはなくなってしまうと。
もう、太刀川とはいられないと。
泣かないように我慢した瞳からは、大粒の涙が溢れた。
「……春…?」
「………しん……し……た…」
「何だ?」
蚊の鳴くような小さな声に、太刀川は優しく聞き返しながら春の涙を拭った。
春は嗚咽を堪えながら、再び、今度はしっかりと口を開いた。
「…にん、し……ん…っ、…しま、した…」
「…………え?」
太刀川はポカンと春を見つめる。
無言のその間に不安しか生まれず、涙は止まらない。
「妊娠…?春…が…?」
「……っ」
春はただ無言で首を縦に振る。
妊娠が分かったら別れられると思っている。
それは、前に国近の友達に頼まれて太刀川隊で子守りをすることになったときだ。
なかなか泣き止まない赤ん坊に、太刀川は嫌な顔をしていた。春はそれを見逃さず、問いかけたのだ。子どもは嫌いか、と。
答えはYesだった。
子どもも子どもの世話も面倒で嫌だと太刀川は答えた。
その言葉を春は忘れられなかった。
春と太刀川は同棲をしている。
それほどにお互いが好きだ。
しかし、結婚という言葉はずっと聞いていない。
太刀川には結婚する気がないと思った。
更には子ども嫌いだ、と。
結婚も、子どもも、全て太刀川にとって面倒になる。迷惑になる。重りになる。
だから、春は何も言わなかった。
気持ちが通じ合った今でもずっと、春は太刀川の迷惑にはなりたくないと思い続けているのだから。
だから、妊娠をしているなど言いたくなかった。
言えば絶対迷惑になり、別れることになると思ってしまったからだ。自分勝手なのは分かっていたが、春は太刀川とまだ一緒にいたいと思っている。別れたくないと思っている。
だから妊娠を隠し続けた。
太刀川のことが、大好きだったから。
けれどバレてしまった。
ついに太刀川に妊娠していると言ってしまった。
沈黙が怖い。
涙が止まらない。
別れたくない。
でも1番は、太刀川の迷惑になりたくない。
だったら自分からいなくなれば良い。別れ話は辛いが、自然消滅なら傷も浅いと思った。
春はベッドから立ち上がり、太刀川の横を抜けて逃げるように扉へ向かった。
けれど、また眩暈が春を襲う。
扉へ辿り着く前に、春はふらっとバランスを崩し、倒れそうになって目を強く閉じた。
しかし、床へ倒れた痛みはなく暖かいものに包まれる感覚にゆっくりと目を開けると、そこには春を支える太刀川の姿が。
「……け、いさ…」
「あっぶねぇな…!お腹に子どももいるんだから気を付けろよ!」
「…え………?」
太刀川は嬉しそうに、優しくゆっくりと春のお腹に手を当てた。
「そっか……ここに俺の子がいるんだな…」
「……な、んで…」
「なんでって……妊娠したんだろ?すげーな春!」
嬉しそうに笑った太刀川に、余計に疑問が浮かんだ。
「…なんで……なんで、そんなに、嬉しそう…なんですか…」
「は?そりゃ嬉しいに決まってんだろ!俺と春の子だぞ!」
「…………」
「………え、まさか違う男の子どもなのか!?」
「え!?ち、違います!それはないです!絶対に!」
「なら嬉しいに決まってんだろ!…むしろ、何でお前はそんな顔して泣いてんだよ?嬉しくないのか?」
太刀川の子を身ごもって嬉しくないはずがない。けれどもそれより太刀川と別れることが悲しい。春は意を決して理由を話した。
すると、太刀川はキョトンと春を見つめる。
「…え、だ、だって…!慶さん言ってたじゃないですか…こ、子どもは嫌いだって…世話も面倒で嫌だって…!だから……妊娠したら、別れを告げられると思った……だから、妊娠を隠した……慶さんが好きで、別れたくないから…!」
言い終わると同時に強く、しかし優しくぎゅっと抱き締められた。
「……馬鹿春」
「…慶さん…?」
「俺だって別れたくねぇよ」
「……でも、子どもが…」
「余計に別れられねぇだろ!」
強めの口調にびくりと肩を揺らした。抱擁が強くなる。
「子どもも子どもの世話も嫌いだけど…」
「……、」
「俺と春の子なら別だ」
「……え…?」
「自分の……しかも春との子どもが嫌いなわけねぇだろ。…むしろ、すっげー嬉しい」
「……っ、そ、れじゃ……わかれなくても……いいんですか…?けいさんといっしょにいても……いいんですか…っ…?」
「当たり前だろ」
太刀川は身体を離し、至近距離で春を見つめた。そして涙で濡れた頬に手を当てる。
「…だから」
愛しそうな瞳に、愛しそうな声音。
「…結婚してくれ、春」
涙が浮かぶその瞳を大きく見開いた。
聞き間違いではない。愛しいものを見る太刀川の瞳がそれを語っている。
悲しさではなく、今度は嬉しさに春は涙を流した。そして頬に添えられている手の上に自分の手を重ねる。
「……はい…!」
震える声で返事をした。
ずっと待っていた言葉に、答えは1つしかない。
嬉しそうに笑いながら涙を流す春に、太刀川も嬉しそうに笑い、キスを落とした。
◇◆◇
妊娠を打ち明け、2人は病院へ検査に行った。
どうやら春はもう12周目。妊娠から約4ヶ月経っていた。更に…
「双子ですねー」
「「双子!?」」
太刀川と春の声が綺麗に揃った。
お互いに顔を見合わせて笑う。
「まだ性別は分かりませんが……双子は大変ですから、旦那さんはちゃんと奥さんのサポートしてあげなきゃダメですよー?」
「だ、旦那さん…!」
「奥さん、か…良い響きだなー。もちろん俺に出来ることは何でもやりますよ!大事な妻のためですから」
にやりと笑った太刀川に、春は慣れずに頬を染めて俯いた。
◇◆◇
それからはボーダーや友達などへ報告に周った。
風間に結婚報告と妊娠報告をすると、順序を間違えるなと咎められたが、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。そしておめでとうっとしっかり祝いの言葉もくれる。
最初は付き合うことも同棲も反対されたが、今は全て許してくれている。春が幸せならばっと風間なりに考えてくれているのだ。
もちろん同じ隊の出水と国近にも報告をした。
具合の悪そうな春を心配していたが、妊娠していたことを話すと、2人は自分のこと以上に喜んだ。
春が1度太刀川隊を抜けて、また戻ってきたときのように。
国近は泣きながらおめでとうと何度も繰り返し、出水は太刀川にしっかりするように言い、春にはどんどん太刀川を頼れと告げた。そしていつまでも幸せに、と。
どこまでも太刀川や春のことを思ってくれている2人に、春も嬉し涙を浮かべた。
他の知り合いの隊員たちにも報告し、太刀川は祝いの言葉と共にみんなからボコボコにされていた。
それを春は笑って見つめる。みんな心から祝福しているのが分かるのだ。
そんな春の隣に2つの影が近付いた。
「良かったな、春」
「うん、ありがとう京介くん」
「…まさかあのまま結婚まで行くなんて思わなかった。いつか奪えると思っていたがな」
「何言ってるんですか…二宮さんにはもっと良い人いるでしょ?知ってますよー?私が太刀川隊に戻って割とすぐに攻撃手だった子を射手にして弟子にして落としたって」
「…4年も前のことだろ。そんな話を持ち出すな」
「だって今でも良い雰囲気じゃないですか!ね、京介くん!」
「ああ。あの頃から先輩と二宮さん良い感じすよね」
「うるさい。今はお前の話だろ」
「……はい。今の私がここにいられるのは、二宮さんのお陰です。京介くんにもたくさん助けられた。他のみんなにも……感謝してもしきれないや…」
困ったように笑う春に、二宮と烏丸は小さく笑った。
「それじゃ、感謝はこれからの人生で示せば良い」
「京介くん…?」
「幸せになれってことだ」
「…二宮さん…」
2人に肩をぽんっと叩かれ、春は笑顔を浮かべた。
「はい!ありがとう二宮さん、京介くん!」
そして2人も太刀川を囲む人の中に紛れて行った。それを嬉しそうに見送る。何年経っても、みんな優しいままだ、と。
「よお、春」
「…迅さん」
後ろから声をかけられ、振り向いた先には迅がいた。そのまま春の隣に並んで、また同じように太刀川たちに視線を向ける。
「長かったな、おめでとう」
「うん、ありがとう」
「2人が無事にゴール出来て良かったよ」
「…迅さんにもいっぱい迷惑かけちゃったもんね…すみません」
「迷惑なんて思ってないよ。おれは好きで春と太刀川さんを応援してたんだからさ」
「そのお陰こうしてここまで来れたんだよ。本当にありがとう、迅さん」
迅は優しく微笑んだ。そして春の頭に手を乗せる。しかし春はいつものようにそれを振り払わなかった。
「珍しいな?」
「もう大人だから」
「母親になるんだもんな」
「うん。だから迅さんに撫でられてムカついても態度に出さないよー」
「って、ムカついてるのは変わってないのね…」
「えへへ、うそうそ!迅さんに撫でられるのも好きだよ!」
「そりゃ良かった。ここまで5年かかるとか長すぎだろ」
「これから私たちとはもっと長い付き合いになるんだからそんなこと言ってられないよ?」
「……そうだな」
「うん!」
これから先も、ボーダーのみんなと仲良くいたい。誰一人として疎遠になんてなりたくない。春はボーダーが大好きなのだから。
にこっと笑った春に、迅も穏やかに笑った。
ずっと先の未来にも、幸せな家庭を持つ太刀川と春。そしてその周りにいる、今ここにいるメンバー。そこにちゃんと、自分の姿も視えて。
「それじゃあね、迅さん!あと城戸司令たちにも報告しないといけないから!」
「おう、気を付けてな」
迅と別れ、ボロボロになった太刀川を回収した春はそのまま城戸たちの元へ向かった。
そして告げる。
妊娠をした。結婚をする。
けれど、ボーダーはやめないと。
◇◆◇
何度も検診へ行き、20周目でようやく双子の性別が確認出来た。
二卵性で男と女だと告げられ、太刀川はガッツポーズをした。
元々男と女1人ずつが良いと話していたのだ。そしてもし男と女だったなら、男の子の名前は春が考え、女の子の名前は太刀川が考えようと分担していた。お互いにある考えがあって。
◇◆◇
それからたくさんの苦難を乗り越え…出産当日。
予定日よりも早くなってしまい、太刀川は焦っていた。
春の苦しそうな姿に。
「春…」
「はぁ、はぁ…だいじょうぶですから…」
春は笑みを浮かべるが、汗が酷く辛そうだ。初めての出産に、このまま春が死んでしまうのではないかと不安が過ぎり、太刀川はぎゅっと春の手を握った。
「頑張れよ…春…!」
「…はい…!まかせて、ください…!」
ぎゅっと握り返され、直後に春は医師たちに連れられて行ってしまった。ここは立会いが出来ず、太刀川は外で待つことしか出来ない。
帝王切開にならなかったのは良いが、春に負担が大きいのに変わりはない。
太刀川はひたすら待ち続けた。
何分も、何十分も、何時間も何十時間も……ただひたすらに祈って、待ち続けた。そして、中から看護師が出てくる。
「旦那さん!」
「っ!」
「中へどうぞ」
医師に促されるまま、太刀川は固まった身体を無理矢理動かし、中へ入った。するとそこには…
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「おぎゃーー!」
「………双子、だ…」
助産師に抱かれた元気に泣く双子と、笑いながら涙を流す春。それを見て太刀川の瞳から一筋の涙が流れた。
「…けいさん……わたし、がんばりましたよ…」
「……ああ…」
「でも、子どもたち……2人とも、2000gなかったんです。…小さくて、すみません……どうしよう…2人が上手く、成長しなかったら……」
「ありがとう、春…」
「慶さん…?」
「産んでくれてありがとう…。大丈夫だ、こんなに元気に泣いてんだから」
「…なら、良かった…。あ、あのね、慶さん…子どもの名前…決まってる…?」
「当たり前だろ?春は?」
「もちろん、決まってます」
「…なんだ?」
「双子のお兄ちゃんの名前は、ね、ひろと。大きく翔ぶって、書いて、大翔…。慶さんみたいに、大きくて強い人に、なってほしいから…」
「大翔、か。良い名前だな…!」
「慶さんは、双子の妹の名前、何にしたの…?」
「…名前は、えり、だ。笑うに里で、笑里。春みたいに、いつも笑顔で明るくいてほしいって考えた」
「ふふ、笑里…可愛い名前ですね…」
「ありがとう、春…。あとは俺が話しも聞くし見とくから…今は休んでろ」
「……うん…ありがと、慶さん…」
春の手をぎゅっと握ると、春は安心したように柔らかく笑った。
◇◆◇
それから検査も終わり、春も回復した数週間後。
双子たちは問題なく、春と共に退院することが出来た。
もちろん向かうのはボーダー本部。
そこではみんなが出迎えてくれた。
女性たちは赤ん坊を抱きたがり、可愛がった。
男性たちは、やはり太刀川を祝福しながらボコボコにした。
「そういえば結婚式はー?」
「子ども産まれたばかりなので、落ち着いたらします。…なんか、結婚式をあげる前にもう一度、ぷ、プロポーズしてくれるみたいで…」
「太刀川さんやるー!」
「結婚式、是非呼んで頂戴、春」
「はい!もちろんです!」
「アタシも絶対行くから呼びなさいよ!」
「わたしも行きたいです!」
「ほらほら小南も千佳ちゃんも落ち着いて。アタシも呼んでね!春ちゃん!」
「もちろんみんなお呼びしますよ!是非来て下さい!」
女性陣はみんな喜びの声をあげた。それが男性陣にも聞こえたのか、嬉しそうにしている。
そこへ、やっと解放された太刀川が春の元へとやってきた。
大翔は出水が、笑里は国近が抱いて大人しくさせている中、2人が向き合ったのを周りはそっと離れて見つめた。
「………春」
「はい!なんでしょう?」
太刀川は頬を染めながら小さな箱を取り出し、そのまま春に差し出した。
「これは……」
『ばっか太刀川開けろ!開けて見せて渡すのが常識だろ!』
『太刀川ー!こうだぞ、こう!』
小声でジェスチャーを送ってくる諏訪と堤に、太刀川ははっとして箱を開けて見せた。それを見て春は目を見開く。
「…慶さん…これ…!」
「春…ーーーーーーー」
太刀川の2度目のプロポーズの言葉に、春は涙を流しながら、はい、と返事をした。
途端に周りからは歓声が飛び交う。
ちゃんとしたプロポーズの言葉と、用意された指輪。
ずっと自分のことを考えてくれたと思うと嬉しい。プロポーズという事実が幸せ過ぎて涙が止まらない。
「春、愛してる」
ぎゅっと抱き締められ、春もそれに答えるように手を回した。
これから先も、ずっと一緒にいられる。大好きな大好きな、この世界で一番愛している人と。
春は満面の笑顔で太刀川を見つめた。
「私も…愛してます…!慶さん!」
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