贈り物を待つ薬指

わいわいと外で遊ぶきょうだいたちを見つめ、幼い轟は目を伏せた。これからまた特訓で、あそこに混ざることは出来ない。そうでなくても、それは許されない。自分と他のきょうだいたちは違うからと、関わることを禁じられたから。
遊びたい気持ちを抱えながら、寂しそうな瞳でもう一度きょうだいたちに視線を向けた。


「みんなと遊ばないの?」
「え…?」


突然聞こえた声に驚いて振り返る。そこには見たことのない少女がいた。恐らく同い年くらいだろう。その少女は不思議そうな顔をして轟を見つめている。


「…え、き、きみは…」
「あそこで遊んでるの、あなたのきょうだいじゃないの?」
「そう、だけど…」
「一緒に遊びたそうにしてたのに、遊ばないの?」
「…うん」
「どうして?」


質問攻めの少女に戸惑いながらゆっくりと口を開いた。


「…お父さんが、お兄ちゃんたちと遊ぶのは…だめだって」
「…わたしのおとーさまと、同じこと言うんだね」


少女は一瞬目を伏せたあと、にこりと笑顔を浮かべて轟へ手を差し伸べた。


「じゃあわたしと遊ぼ?」
「え…」
「わたしはきょうだいじゃないもん!だから大丈夫!」
「でも…」
「わたしは速見白!あなたは?」
「……轟、焦凍…」
「焦凍くん、一緒に遊ぼ!」


あまり自分に向けられたことのない屈託のない笑顔と、差し出された手。轟は恐る恐ると手を伸ばし、その手を取った。

◇◆◇

「そういやお前、昔は押しが強かったよな」
「え?」


2人での下校中、突然そう発した轟に白は首を傾げる。唐突にすぎる言葉にきょとんと轟を見つめた。


「どうしたの?」
「いや、いきなり思い出した」
「私の押しが強かったって?」
「おう」
「それを言うなら焦凍くんだって、気が弱くて泣き虫だったよね」
「…忘れたな」
「あ、ずるい」


惚けたように視線を逸らした轟にくすくすと笑う。そして轟の言う昔に思いを馳せた。出会った頃のことを。


「私のお父様が轟家に行ったとき、私もついて行って…そのときに焦凍くんに会ったんだよね」
「ああ。俺の親父とお前んとこの親父が喧嘩して雷纏った炎の柱が上がったときは大変だったけどな」
「ふふっ、炎司さんとお父様は昔から仲悪いみたいだからね」


それでも白の父親が轟家に訪れたのは白のことを自慢するためだった。複合個性の強い個性を持った白が産まれたことを。けれどその頃同じくして轟家にも成功と言われる轟焦凍が産まれており、そこから2人の子供自慢から喧嘩に発展したのだった。


「けど、懐かしいね」
「ああ」
「喧嘩のあと、お父様が怒ってもう二度と轟家とは関わらないって言ったときはもう焦凍くんには会えないかと思ったけど…同じ学校の同じクラスだったり、近くの公園で偶然会ったり…お父様は詰めが甘かったから助かったね」
「お陰で今もこうしていられる訳だからな」
「うん。あの頃からずっと一緒にいられるなんて夢みたい」
「夢じゃねぇよ」


即答した轟に微笑む。お互いに父親からまだ認められていないけれど、そこは昔からずっと反抗し続けている。白に甘い父親は強く言えないせいで好きにさせてしまっているだけだけれど。


「あ、そういえば告白は焦凍くんからだったよね?」
「いや白だろ」
「えー、焦凍くんだと思うけどなぁ」
「ガキの頃の俺にそんな度胸ねぇだろ」
「確かに」
「おい」
「ふふっ」


その通りだけれど肯定されるのは複雑な気分だとすかさず突っ込んだ。もちろんそれは笑顔で誤魔化される。


「一緒にいることが当たり前になってたから、改めて告白とか付き合うとかって話したことないかもね」
「…そうだな」
「じゃあ、私たち付き合ってないんだ」
「驚いたな」
「ふふっ、凄いびっくり」


くすくすと笑う白と穏やかに微笑む轟。


「それだと彼氏がいるって自慢出来ないなぁ」
「旦那がいるって言っとけ」
「お付き合いなしで結婚?」
「先にプロポーズしてきたのは白だろ」
「……そこは覚えてたんだ」


昔を思い出し、うっすらと頬を染める。昔のことだとしても、思い返すと恥ずかしいものだ。けれど、とても尊いものだ。白はゆっくりと当時のことを思い出して行く。


◇◆◇


「白ちゃんの家族…みんな仲良しでいいね」
「うん!おとーさまもおかーさまもおにーさまたちもおねーさまたちも、みーんな仲良しだよ!」
「…いいなぁ」
「家族なんだから当たり前じゃないの?」
「…僕のお父さんとお母さん…あまり仲良くない…」
「そうなの?」
「……お兄ちゃんたちとも…一緒に遊べないから…だから、仲良しでしあわせそうな白ちゃんの家族、羨ましいなぁ」


自分の家族の雰囲気と、白の家族の雰囲気を比べ、その違いにぐっと唇を噛み締める。我慢できずにポロポロと涙が溢れ出た。


「…うぅ…」
「な、泣かないで、焦凍くん!」
「…ぅ、ひっく……うん…」
「仲良しでしあわせな家族がいいなら、わたしと家族になろ!」
「え…?」
「わたしが焦凍くんのお嫁さんになってあげる!」
「白ちゃんが…ぼくのお嫁さん…?」
「うん!けっこんして家族になるの!私と焦凍くんは仲良しだもん!だからけっこんしたら絶対に仲良しでしあわせな家族だよ!」
「本当に…?」
「焦凍くんは、私のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃない!好きだよ!ぼくは白ちゃんのこと大好き!」


予想外に強く言われ、白は驚きで瞬いた。その後すぐにぱぁっと笑顔を浮かべる。そして轟の両手を取った。


「じゃあ一緒だね!私も焦凍くんのこと大好き!」


◇◆◇


昔を思い出すために目を瞑っていた白はゆっくりと目を開いた。


「やっぱり告白は焦凍くんからだった気がする」
「別にどっちでもいいだろ」


過去を思い出しての開口一番がそれで轟は小さく笑った。本当にどちらでも関係ないと思っているのだ。今が大切だから、と。


「でも小学生のときにしたファーストキスは私からだったかな」
「ああ。中学んときに舌入れたのは俺だな」
「あのときは本当にびっくりしたよ!」
「気持ち良くてか?」
「…それは否定しないけど…」
「ぐずぐずだったもんな」
「まだ明るいのにそういうこと言うのダーメ」
「そういうこと?」


きょとんと首を傾げる轟に、今のは素で言ったのかと苦笑する。本当に格好良くて可愛くて、愛しい人だ、と。


「焦凍くんのそういう所、昔から変わってなくて凄く安心する」
「なんだいきなり」
「んー…、これからもよろしくお願いしますってことかな」
「当たり前だろ。けど、」


隣を歩いていた轟が立ち止まった。それにつられて少し前を行った所で白も立ち止まり、轟の言葉を待つ。


「あと3年待ってろよ」
「え?」
「今度はちゃんと、俺から言うから」
「…っ!」


3年後に、今度は自分から。先程思い出した幼少期と重なり、その意味を理解する。轟も自分と同じ頃を思い出してくれていたと知り、頬が緩んだ。けれど気付かない振りで首を傾げる。


「何を?」
「…分かってんだろ。顔にやけてんぞ」
「ふふっ、焦凍くんと一緒にいられることが嬉しくて笑ってるだけだから、何が言いたいのかは分かりませーん」
「なら待ってろ」
「今聞きたいなぁ」


はぁっと呆れたように溜息をついた轟は、少し空いた距離を詰め、白の目の前で立ち止まった。そのままゆっくりとした動作で白の左手を取る。


「昔からずっと変わらずに…いや、その頃以上にお前のことが……白のことが、好きだ。だから…予約しとく」


そして取った左手の薬指にキスを落とした。そのらしくない仕草に驚いて白はぱちぱちと瞬きをする。


「…今はこれで我慢してろ」


うっすらと頬を染めた轟は腕で顔を隠すように背けて先を歩いて行ってしまう。今からそんなに照れていて、本当に3年後に期待しても大丈夫だろうかと頬を染めながらも微笑む。白は先程の仕草と言葉に高鳴る胸に手を当て、一度落ち着いてから轟に走り寄って腕に手を回した。


「焦凍くん」
「…なんだよ」
「…待ってるね」
「…おう」
「大好き」


あの頃からお互いに好きという感情は衰えることなく、どんどん大きくなるばかりだ。だからこの先もきっと、その愛は大きくなっていくのだろう。
だからそのときに改めて、2人が家族になれる言葉を。指を絡めて伝わる体温に、それを誓った。

end
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またお題に沿えていない…!本当にすみません…!過去の話をする2人になってしまったせいで過去話がふわっとしてしまった。
父親繋がりで2人は出会って、個性婚で最強を作るっていう同じような境遇だけど押せ押せ夢主ちゃんのお陰で仲良くなっていきました!ただし夢主ちゃんの家は轟家と違ってどんどん家族仲良好になっていく感じ…だといいな。特に付き合うきっかけはなくて小さい頃の告白から自然とお付き合いになっていました…!


title:きみのとなりで

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