甘えと依存と執着と

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※注意
コンティニュー本編で敵連合との絡みがないので完全にifです。時系列も謎。ほぼ死柄木夢です。それが嫌な方はオススメしません。大丈夫な方は何も考えずに読んで下さい。
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アジトのバーカウンターでいつものように2人並んで座り、飲み物に口をつける。同じタイミング同じ仕草だった一連の動作に黒霧は内心で小さく笑った。


「弔、今日仕事は?」
「ない」
「そっか」
「もうすぐ任務へ行っていた荼毘たちが帰って来る頃でしょう。貴方の仕事はそれからですよ、白」
「分かった」


言葉の足りない死柄木に代わり、黒霧はそう説明をする。白がインストールする候補である個性を下見に行った荼毘たちが戻ってきてから、結果次第で白の仕事が決まるのだ。インストールするに値するならばすぐに支度を整えて向かうけれど、もしそうでないなら白に今日の仕事はない。死柄木の役に立つことを第一としている白にとってそれはとても大事なことだった。
そして黒霧の言った通り、しばらくしてからアジトの扉が開いた。


「ただいま戻りましたぁ」


ぞろぞろと帰ってきた仲間に3人は視線を向ける。全員無傷だが相当疲れている様子だ。


「殺さずに観察だけなんて1番大変です…しかもここ最近ずーっと!弔くん、お仕事もう疲れましたぁ!どうして私たちばかり働かされるんですかー」
「そうだぞ死柄木!おまえと白ばっか楽しやがって!俺らをもっと働かせろ!」
「お人形さんを手元に置いて良いご身分だな」
「白ちゃんは貴重な個性だし、まあ仕方ないっちゃ仕方ないけどな」
「それにとっても可愛いもの!キズモノになんて出来ないわよねぇ?」
「むむ…こんな少女を頼りにするなどステインの意志では…」
「…うるさい」


3人でいたときの静寂が消えて途端に騒々しくなり、死柄木は苛立たしげに呟いた。仲間だと認めてはいるけれど、やはり付き合いの長い上に物静かな白や黒霧とはまるで勝手が違う。はぁっと溜息を吐き出した。
そんな死柄木の心労を知ってか知らずか、白は椅子から降りてトガたちの元へ歩み寄っていく。


「ヒミコ、トゥワイス、荼毘、コンプレス、マグネ、スピナー。任務、お疲れ様」


一人一人の顔を確認しながら淡々と告げた白に幾分か全員の空気が和らいだ。トガはにっこりと笑って腕を広げ、真正面から白に抱き着く。


「白ちゃーん、本当に今日は疲れましたぁ。癒して下さい」
「ヒミコ、怪我したの?」


トガが抱き着きついてくるのはいつものことだ。もう慣れた白はそこには触れずに怪我の心配をする。もし怪我をしているのなら少しでも自分が治そうと。


「ケガはしてませんけど、心の癒しが必要なんです」
「心の癒し…?そんな個性持ってない」
「良いんです。こうしてハグすることで癒されるんですから!ストレス解消法なんですよぉ」
「ハグ…するだけ?」
「そうです!」


ぎゅーっと口に出しながら抱擁を強めるトガは満足気だ。それで癒されるとは思わないけれど、トガが言うならと白は腕を伸ばしてトガの背中をぽんぽんと撫でる。その返しにトガは嬉しそうに破顔した。


「ふふふ、白ちゃんにぽんぽんされちゃいましたぁ」
「あ!なんだそれ羨ましい!俺はやられたくねぇけどな!」
「なら私がハグするわ!白ちゃーん」


満足したトガが離れるとすかさずマグネが間に入り、白を抱き締める。少し強すぎる抱擁だと思いつつも、マグネの背中をぽんぽんと叩いた。ただ、大きすぎて手は回らなかったけれど。


「はぁぁ…癒されるわ…」
「お、良いねぇ。それも俺も立候補しようかな」
「なら俺も立候補するぜ!嫌だけどな!」
「リーダー筆頭に揃いも揃ってロリコンかよ」
「ななな、なんと破廉恥な…!」


動揺するスピナーと違い、他のメンバーたちは白に近付いていく。


「あれ?何だかんだ言って荼毘くんも白ちゃんとハグ希望ですか?」
「んなわけあるか。どこぞのロリコンじゃあるまいし」


そう言いながら荼毘はぽんっと白の頭を撫でた。一度ぎゅっと目を瞑った白だが、瞬いたあとに首を傾げる。そして白は背伸びをして手を伸ばし、荼毘の頭を同じようにぽんっと撫でた。大きく目を見開いた荼毘をきょとんと見つめる。


「荼毘は、これで癒される?」
「……」
「荼毘くんずるいです!白ちゃんになでなでされて羨ましい!」
「マジで羨ましいなおい!散々言ってたくせに良いとこ取りかよ!全然羨ましくねえぜ!」
「白ちゃんうちのマスコット的存在だから可愛がりたくなるのも分かるけどねえ。まさか彼まで白ちゃんの虜とは驚きだぜ」
「うふふっ、さすが白ちゃんね」
「な、撫でられるだけなら、俺も…」


またがやがやと騒がしくなってきた所で、ダンっとテーブルを叩く大きな音が響いた。全員ピタリと静かになりその音の発信源に視線を向ける。


「…おまえら全員、白から離れろ。そいつは俺の所有物だ」


ぎろりと。仲間に向けるとは思えない明らかに殺気のこもった瞳で、死柄木は荼毘たちを一瞥した。持っていたグラスがパラパラと崩れ去っていく。
これは本気だ。今までの死柄木と白を見ていればすぐに分かる。それほどに死柄木の所有物に対する独占欲は強いのだ。抱擁の流れは我慢していたが、ついに限界が来たのだろうを全員それを察知し、面倒なことになるのを避けるため大人しく離れる。


「白。こっちへ来い」


こくりと頷いた白は荼毘の頭から手を離し、死柄木の元へ真っ直ぐに向かう。最初と同じように隣の椅子へ腰掛け、じっと死柄木を見つめる。まるでご主人様の命令を待つように。


「荼毘、任務の報告を」


黒霧の言葉で場の張り詰めた空気が一気に緩和され、荼毘は面倒そうに溜息をついた。


「ありゃダメだな。情報より使えない個性だ」
「ですねぇ。白ちゃんには必要ないと思いますー」


全員同意見なのか、答えない仲間は頷く。


「そうですか。では次を探さねばなりませんね。次の候補対象が決まり次第お伝えしますので、それまではまた仲間集めでもしていて下さい」
「少し休みたいですよぉ」
「そうねぇ。休息も大切だし、それからでも良いんじゃないかしら。私も疲れちゃったわ」
「ええ、好きにしていて下さい」


その言葉にぞろぞろとやってきた仲間たちはぞろぞろと出ていく。


「なあなあトガちゃん、荼毘のやつ照れてたの見た?いつも通りだったぜ!」
「え!荼毘くん白ちゃんになでなでされて照れたんですかぁ!」
「照れてねぇよ」
「あら?でも動揺はしたんじゃないかしら?」
「あんなガキに誰が動揺するか。イカレた男のイカレた玩具だろ」
「玩具とは白に失礼だぞ!あいつらはお互いを必要とし合っているだけで…」
「つまり共依存ってやつね。それで今まで上手いこと成り立ってんだから凄いよなぁ」


入ってきたときと同じように騒がしいまま去って行き、再び3人だけの静寂が訪れる。対して話してもいないのに無駄に疲れたと、死柄木は溜息をついた。


「弔」
「なんだよ」
「仕事、なし?」
「だから言っただろ」
「貴方は予想していたのですね」
「当たり前だ。最初から白にあんな個性は必要ないなんて分かってた。下見なんて無駄なんだよ」


苛立ちを隠しもせずに吐き捨てるように言い放ち、再び深い溜息をつく。白と黒霧は顔を見合わせた。あまり機嫌を損ねると色々面倒だということを黒霧は理解している。どうしたものかと思案すると白も同じように思案し、ふと、何かを思い付いたように顔を上げた。そしておもむろに死柄木へ両手を伸ばし、その頭を抱えるように抱きしめる。


「……なんのつもりだ」


振り払うことはせずにそのままの態勢で死柄木は問いかける。嫌がってはいないと思い、白はその態勢のまま口を開いた。


「ぎゅってすると、ストレス解消できるってヒミコが言ってた」
「そんなわけないだろ。バカなのか?」
「ヒミコが?」
「そりゃ当たり前だ」
「そっか。じゃあ嘘だったんだ」


そう言いながら離れようとした白の腕を、死柄木は素早く掴んだ。白は首を傾げる。


「弔?」
「……離れろとは言ってないだろ」
「でもストレス解消は嘘って…」
「いいからそのままでいろ」
「…?分かった」


何も分からないけれどそう返事をして再び死柄木を抱き締めた。それを見た黒霧は優しく微笑み、そっと席を外す。そのお陰で今ここにいるのは死柄木と白だけになった。静かに時が流れて行く。


「弔、次の仕事頑張るから、元気出して」
「頑張るどうこうって過程はどうでもいいんだよ。必ず成功させろ」
「うん。そのつもり。私は弔のために戦うんだから、弔の役に立つよ」
「……当たり前だろ」
「うん」


その言葉に安心していた。今までもその返事を求めて何度も伝えてきた言葉。唯一の存在理由を認めてもらえる言葉は何度聞いてもいつも安心感を得る。無意識に抱擁を強くしたことに白自身は気付かなかった。


「弔のために生きて、弔のために死ぬから。私に生きる意味を与えてくれて、ありがとう」
「……そんなこと、今更だろ。何当然のこと言ってんだ」
「ごめん」
「おまえは俺のものだ。俺以外のためになんか死なせるつもりはない」
「うん」
「まだこれからも働いてもらうからな。俺たちはもっともっと先に行く。こんな所でくたばるなよ」
「うん」
「死んだら殺してやる」
「分かった。私が死ぬのは、弔が私を壊すときだけ。だから私は死なないよ」
「それでいいんだよ」


死柄木を見つめるためにと離れた白に、死柄木は手を伸ばしてその頭に触れる。先ほど荼毘がやったようにぽんっと撫でるようにして。五指全て触れないようにしているが、これがもし全て触れた場合、白は簡単に塵と化す。殺すことなど簡単だ。けれどそれをしないのは、まだ利用価値があるから。決して情が移ったわけでないと自身に言い聞かせながら、白の髪をさらりと撫でた。どこか気持ち良さそうに目を閉じた白は再び手を伸ばし、死柄木の頭に触れる。決して触り心地が良いとは言えない髪をゆっくりと撫でた。


「なんだよ」
「弔の真似」
「ふざけるな」
「弔ふざけてるの?」
「殺すぞ」
「そしたら次の任務遂行できない」
「……」


言い負かされたことに若干の苛立ちを覚えたが、不器用に撫でるその手に心がすっとしていく。何をやっても消えない不快な感情が薄らいでいくような気がした。静かに息を吐き出し、それ以上文句を言わずにされるがままに目を閉じる。


「弔に撫でてもらうのが、1番気持ちいい」
「は?そんなわけないだろ。こんな手で触れられて気持ち良いはず…」
「私は、この手がいい」
「……変態かよ」


吐き捨てるように言うけれど、白の手を振り払いはしない。逆に体重を預けるように白に寄りかかる。その温もりに、いつも無反応な胸が僅かにとくんと鼓動した。


「……弔」
「なんだよ」
「……分から、ない。どうしてか、呼んでた」
「は?なんだよそれ」
「ごめん」


死柄木の訝しげな表情に白は視線を落とした。本当に、今の行動は自分でも意味が分からなかった。何故呼んでしまったのか分からないけれど、無性に呼びたくなってしまい、自然と口から出てしまったのだ。自分の行動を何故だったのか分析していると、小さな溜息と共に死柄木の瞳が白の瞳を捉えた。


「…白」
「なに?」
「……何でもねぇよバーカ」
「?」
「うるさい」
「何も言ってない」
「うるさい黙れ」
「……」
「何か言えよ」
「難しい」


黙れと言われて何か言えと言われて。矛盾する2つの命令に本気で思案する白に、自然と少しだけ口角が上がった。ははっと思わず笑いが漏れてしまう。


「本当におまえはバカだな」


どこか楽しそうに笑う死柄木に、彼がこんな風に笑うのならば、楽しそうにしてくれるのならば、自分はバカでも良い。そう思いながら、白は穏やかな表情で大きな子供に寄り添うのだった。生きる意味を、希望を与えてくれた、大切な人に。


end
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やってしまった感あるよね。
夢主が出久と出会わなかったら…のもしものお話。みたいな?
みんな夢主に甘いのでもしものお話の中のハッピーエンドルートって感じか。ifだし!と思って好き勝手ご都合主義でやりました。楽しかった!!!
描写で無理があるとこあるけどそこは書いてないだけということでどうにか補完して下さい()

title:邂逅と輪廻

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