目は口ほどに想いを紡いで

「あ」
「あ?」


放課後。轟の元へ向かう白と、帰ろうと廊下を歩いていた爆豪がばったりと遭遇した。クラスが違い共通点のない2人は普段全く話すことなどないが、お互いに存在は認識している。視線が交わり、白がにこりと微笑むと爆豪の眉間にグッとシワが刻まれた。


「こんにちは、爆豪くん」
「…何の用だてめェ」
「別に用はないけど…お友達だから挨拶、かな?」
「ハァ?友達だァ?生温いこと言ってんじゃねぇぞ」
「じゃあ焦凍くんのお友達だからってことにしておくね!」
「余計虫唾が走るわ!!」
「ふふっ、じゃあ私は焦凍くんよりお友達に近いってことかな」


揚げ足を取られたことで言葉に詰まり、遭遇したときのままの笑顔の白に余計に苛立ちを募らせていく。すぐにでも殴りかかりたい所を抑え鋭く睨みつけるだけに留めた。


「てめェと話すと調子狂ってムカつくな」
「私は楽しいけどなぁ」
「俺をからかって楽しいってか?いい度胸してんじゃねぇかこのクソアマ」
「ありがとうございまーす」
「褒めてねぇわ殺すぞ!!」


爆豪が怒鳴っても白は微笑むばかりだ。A組とはまるで違う反応にやはり調子が狂うと無造作にガシガシと頭をかいた。


「殺されるのは嫌だけど、爆豪くんとは少し手合わせしてみたいなって思うよ」
「あ?」
「体育祭でも授業でも爆豪くんとは当たらなかったからね」
「てめェが最初から手ェ抜いてなきゃ体育祭で当たってただろうよ」
「それは買いかぶりすぎだよ」


微笑む白にやはり苛立つ。そしてふとその理由が分かった。


「てめェがムカつく理由分かったわ」
「え?」
「常に手ェ抜いてんからムカつくんだよ」
「…そう?そんなことないよ」
「その態度も相まってイラつくけどな」
「私は爆豪くんのそういう裏表ない素直な所、結構好感持てるけどなぁ」
「ふざけんな気色悪ィ」
「あれ、嫌われちゃったかな?」


そう言いながらも楽しそうに笑っている。何故笑っているのか理解できず、それがまた苛立つ要因だった。


「あの半分野郎といいてめェといい舐めプ野郎どもが」
「焦凍くんはそんなつもりじゃないよ」
「あいつはってこたァ、やっぱりてめェは手ェ抜いてんじゃねぇか」


今度は爆豪が揚げ足を取り、どうだとばかりににやりと笑う。少しだけ白の笑みが変わった。


「…それじゃあもしも」


室内にも関わらず僅かに風が吹き始める。


「私が本気で戦ったら、爆豪くんの印象は変わるのかな」


空気がピリピリと肌を刺し、辺りは不自然に風が渦巻く。纏う雰囲気の変わった白に爆豪は更ににやりと口角を上げた。


「ハッ、試してやろうじゃねぇか猫被り女」


好戦的な爆豪はもちろん、両手を合わせてやる気を見せるとように爆破する。先ほどとは違う瞳で視線が交わり、お互いに今にも攻撃しそうに思われた。けれど突然白は個性をぴたりと止める。眉をひそめた爆豪に視線で合図を送った。白の視線を一瞬疑問に思うも、すぐにその意味を理解した。近くに相澤がいるのだ。まだこちらには気付いていないようだが、個性を使えばすぐに見つかって止められるだろう。もしそうなってしまえばまた謹慎をくらうかもしれないと、爆豪も大人しく腕を下ろした。


「ここじゃ流石に、ね」
「なら場所移動してでも相手してやんよ」
「ふふっ、熱烈だね」
「あ゛!?ふっざけんなクソが!!」


胸倉を掴もうと距離を詰めたが、気付いた白は一歩下がってそれを避ける。それでも距離の縮まった白を至近距離で睨み付けた。


「ふふっ」
「何笑っとんじゃ。殺すぞ」
「殺させねぇよ」


そんな台詞と共に不意に白は腕を引かれ、爆豪から距離を取らされる。引き寄せられるままに身体を預ければ、それは思った通りの人物で。助けに入るように現れた轟に白は目を細めて微笑んだ。


「んだてめェ…いきなり沸いて出てきやがって」
「沸いてねぇよ。最初から見てた」
「盗み聞きかよ。胸糞悪ィ趣味だなおい」
「いや、聞こえてはいなかったから盗み聞きはしてねぇ」
「うるっせぇわクソが!!てめェら揃って揚げ足取んの大好きかよ!!」


今度は轟に突っかかり始めた爆豪に白は小さく笑った。この状況はまるで自分が取り合われているみたいだと。もちろん爆豪にそんなつもりがないことは分かっているため、これ以上悪化する前にと片手を上げた。


「相澤先生、さようなら!」


少し離れた所にいた相澤に挨拶をすれば、それに気付いた相澤の視線が3人へ向く。一瞬珍しい組み合わせに顔をしかめたが、すぐに白へと挨拶を返し、他の生徒の見送りを再開する。しばらくはこの場から離れないようだ。


「……ビビって攻撃出来ねぇとでも思ってんのかコラ」
「そんなこと思ってないよ。けど、謹慎は嫌だよね?私も焦凍くんも困るし、ね?」


微笑む白に苛立ちを隠しもせずに大きく舌打ちをし、わざと肩をぶつけながらズカズカと通り過ぎて行った。爆豪が見えなくなるまで見送り、白は胸に手を当てて大袈裟に深呼吸をする。


「ふふっ、爆豪くんにいつ攻撃されちゃうかなってドキドキしちゃった」
「あいつ加減出来ねぇからあんま煽んなよ」
「はーい。気を付けます」


本当に気を付ける気があるのかないのか分からない態度の白に、一言「帰るぞ」と呟いて足を進める。いつもなら隣に並ぶ轟は白の前を歩いていて。そんな状況に白は首を傾げた。それから学校を出るまで会話がなく、さすがに違和感を感じた白は門を出たところで轟を呼び止める。


「焦凍くん、どうかした?」
「……いや」
「なら、それ私の目を見て言える?」
「……」


前に回り込み、轟の顔を覗き込むように見つめればすっと逸らされる。白は轟の頬に両手を添えて真っ直ぐに見つめた。


「…私、何か怒らせちゃった?」
「…たぶん白は悪くねぇよ」
「え?」


首を傾げた白に轟は言いづらそうにしながらも、白の手に自身の手を重ねてぽつぽつと話し始めた。


「あいつの前でも言ったけど、最初から見てたんだ」
「…爆豪くんと私が話してるところ?」
「おう」
「珍しい光景だよね。でも、それがどうかした?」


その質問に再び轟は視線を逸らした。やはり何か言いづらいようだ。そして白は1つの可能性が思い浮かび、かなり低い可能性だと思いながらもそれを口にする。


「…もしかして、ヤキモチ焼いてくれた…とか?」
「……」


無言だった。つまり肯定なのだ。白は驚いたようにぱちぱちと瞬きをする。


「……俺も驚いた。爆豪相手に嫉妬なんてするわけねぇって思ってたけど…」


いったん言葉を区切り、轟は白を見つめた。


「おまえ、素だしてただろ」
「え?」


予想外の言葉に返す言葉を見失う。そんな白に轟は続けた。


「普段猫被ってるとは思わねぇけど、爆豪と戦いそうな雰囲気になったとき。あんとき素だった」
「…そうかな」
「俺が分からねぇわけねぇだろ」


会話は聞いていないと言っていたはずなのに、雰囲気だけでそれを見破っていた。確かにあのときは轟を悪く言われて怒っていたこともあり、素だったと言われても否定は出来ない。白は轟から手を離してほほ笑んだ。


「ふふっ、ちょーっと怒ってたからそうかも」
「……」
「焦凍くん?」
「…何でもねぇ」


口ではそう言いつつもその瞳はそう語ってはいなかった。どこか寂しげで、どこか不安げで、どこか苛立っているような複雑な気持ちを写した瞳。


「そんなに不安にさせちゃった…?」
「…いや、」
「私が焦凍くん以外を好きになるはずないのに?」
「白がそうだとしても、相手がどうかは分かんねぇだろ」


爆豪に限ってそんなことはないだろうと苦笑しながらも、轟に寄り添うように隣に並んで腕を組んだ。


「相手がどうだとしても、私の気持ちは変わらないよ。焦凍くんが1番だし、焦凍くんのためなら相手が爆豪くんでも倒しちゃうから」
「それは危ねぇからやめてくれ」
「ふふっ」


ようやく空気が柔らかくなり、2人は歩みを進める。


「でも、素を出したからってヤキモチ焼いてくれるとは思わなかったなぁ」
「いつも周りと適度な距離感取ってんのに、いきなり素だしてんの見たら焦るだろ」
「…自分で言っててあれだけど、本当に私が周りに猫被ってるみたいな会話だね」
「俺はそれでもいいけどな」
「みんなに猫被る女でも?」
「俺に素でいるなら何だっていい」


そう言って足を止め、真っ直ぐ見つめてくる轟に白は目を細めて微笑んだ。今度は白が頬に手を添えられる。何も言葉にしないのにその瞳からは明確な意思が伝わってくるようでその意味をすぐに理解し、白は瞳を閉じる。そして、轟が近付いてくるのを感じながら、2人の唇が重なった。
触れるだけでゆっくりと離れた2人は至近距離で見つめ合う。何も言葉にせずただ2人だけの世界に浸るように。


「帰るか」
「そうだね」


先ほどまでとは違う穏やかな表情の轟に、白はにこりと笑って頷く。自然と絡ませるように繋いだ手をぎゅっと握り締めて、2人は寮までの距離をゆっくりと歩いて行った。


end
ーーーーー
完全に全てを見失い履き違えた。
これはちょっと良くない文章だ。
まず爆豪くんと仲良く会話してないことに笑った(笑うな)
おかしいな…この2人は喧嘩しないタイプのはずだったのに…
ムカつくこと言わないおとなしい夢主と、ムカつくこと言われないからおとなしい爆豪くんのはずだったんだ…どうしてこうなった。不思議だ。そして誤魔化すように無理矢理甘くしようとした感がね!!すみません!

title:邂逅と輪廻

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