勝己の誕生日!

全然本格的な喧嘩してません。すみません。

ーーーーー

ピンポーンと響いたインターホンに顔をしかめ、一旦無視を決めるも連打され続ける音にブチッと何かが切れる音がした。


「だあぁぁぁぁぁ!!うるっっせぇわクソが!!」


インターホンの押し方でもう誰だか分かっていた爆豪は勢いよく扉を開けた。その勢いで来るのが分かっていた訪問者である白は少し離れた所で待機しており、現れた爆豪に微笑む。


「勝己ハピバ!ケーキ買ってきたよ!」


そう言ってケーキの入った箱を顔の位置まで上げた白に、爆豪は眉を寄せる。


「ケーキ…?」
「光己さんたち買い物言ってるよね?勝己の誕生日いつも盛大だし」
「……」
「だからその前に先にお祝いしようと思ってね!」


仏頂面のままの爆豪を気にした様子もなく、白は招かれる前に家の中へと入っていく。それはいつものことなので止めることはないが、1つ引っかかることがあるせいで静かに思案しながら、爆豪は白の後についていった。


「雄英のみんなでお祝いするのも絶対楽しそうだったけど、やっぱり家族でお祝いするのも大事だよね」
「……」
「光己さんの料理楽しみだなー!」


食べて行く気満々の白にいつもなら怒鳴るところだが、爆豪はしかめっ面のままだ。


「勝己?どうかした?」


なんのツッコミもなく静かな爆豪をさすがに不審に思った白は首を傾げる。少しの沈黙後、爆豪はようやく口を開いた。


「…何でケーキ買ってきてんだよ」
「何でって…勝己の誕生日だからに決まってるじゃん」
「そういうこと言ってんじゃねぇわアホか」
「??あ、もしかしてもうケーキ用意してある?でもたくさんあっても食べるよね?」
「だから…!そういうこと言ってんじゃねーよ!!」


いつもなら何に怒っているのか。何が気に入らないのか。長い付き合いのお陰でそういうことは大抵分かるはずだった。けれど、今は爆豪が何に対して不満を表しているのか分からない。


「…じゃあ、何に対して怒ってるの」


分からないせいか、白にも少しの苛立ちが見える。軽くあしらうこともからかうことも出来ずに僅かに眉を寄せた。


「…別に怒ってねーわ」
「じゃあ何が不満?」
「…うるせぇクソ」
「はぁ!?勝己がハッキリしないからじゃん!意味分かんない!」
「何逆ギレしてんだてめェは」
「逆ギレ!?どこが!?いつも逆ギレしてるのは勝己の方でしょ!?」
「ピーピーうるっせぇわ!!てめェが悪ィんだろうが!!」
「だから!そんな幼稚園児並みの語彙力じゃ何が悪いのか意味分かんないから!」
「誰が幼稚園児じゃ殺すぞ!!」
「それが幼稚園児だって言ってるの!」


なんとか個性は抑えているものの、バチバチと火花を散らして睨み合う。本当に言いたいことは言えずに暴言ばかりが先に出てしまい、会話が平行線だ。それもいつものことと言えばいつものことだけれど、今日ばかりは先に進まなければ伝わらないし止める者もいない。
爆豪はなんとか怒りを鎮め、ガシガシと頭をかいた。


「だぁぁぁくっそ!!」
「…せっかく美味しいケーキ買ってきたのに」
「だからそのケーキだケーキ」
「ケーキ…?」


訝しげに首を傾げながら爆豪を見つめれば、すっと視線が逸らされた。それから珍しく歯切れの悪い言葉が並べられる。


「…てめェが…」


視線を逸らし、どこか頬を染めながら爆豪は続ける。


「………白が、ケーキ作ってこねぇから調子狂ってんだろうが」
「え…」


予期せぬ言葉にぽかんと固まってしまう。
今の言葉も、その言葉を発した表情も、とてもあの爆豪とは思えない。幼馴染の白でもまさか偽者かと疑ってしまうほどだ。


「え、なに、熱でもある…?」
「ねーわクソ!!」


ギャン!っと吠えた爆豪に良かった本物だと安心する。それと共に少しの焦りが胸に広がった。それを隠しながらからかうように笑う。


「勝己がそんなこと言うなんてびっくりしたー!熱あるか偽者かと思ったよ」
「んなわけあるか」
「ははっ、だよね!こんなのが2人もいたら大変だもんね!」
「おい、はぐらかしてんじゃねぇぞ」


煽るようにからかっているのに、爆豪はまるで乗らない。こうなったらどこまでも冷静なのは良く知っている。白ははぁっと溜息をついた。


「はぐらかすって、何のこと?」
「毎年無駄に手作りしてくるくせに、今年に限って何で買ってきてんのかっつってんだよ」
「…たまたまだよ」


本当のことは恥ずかしくて言えずに、白は誤魔化すように呟いた。


「てめェは昔から嘘付くの下手くそすぎんだよ」
「…痛っ!」


バチンっと強いデコピンを受け、白は額を抑えた。油断していて避ける暇もなくダメージは大きい。


「いたた……普通に攻撃受けるなんて不覚…ていうか、嘘付くのは上手い方だと思ってるんだけどなぁ」
「んなこたァ聞いてねぇ。理由聞いてんだろうが」
「……」


もう誤魔化しきれないと諦め、白は深く息をついた。


「…だって、勝己は何でも出来るじゃん」
「あ?」
「勝己なら私より美味しいもの作れるだろうし、毎年恒例だからってわざわざ私が作ることもないかなって思ったの」
「なんじゃそりゃ」
「私が作っても毎年絶対まずいって言うし?」
「……」


それは事実なので爆豪はぐっと言葉に詰まった。小さい頃に作ったケーキはともかく、今の白が作るものは決して不味いわけではない。むしろ料理の味付けは自分好みだ。ケーキも甘さ控えめでいくらでも食べられる。けれどそれを素直に言える心は持ち合わせていない。


「勝己が素直になれなくて照れ隠しで言ってたってのはもちろん分かってたけどさ」
「だ、れが照れ隠しだアホか!!」


図星をつかれて僅かに動揺したが、白はそこには触れずに微笑んだ。


「ふふっ、だって私が作ったケーキ出久は美味しいって言ってくれてたし」
「ハァ!?んであいつが俺のケーキ食ってんだよ!!」
「……味見?」
「聞いてんのはこっちだコラ」
「まあとにかく自分が作ったものには多少自信あったよ。けどさ、砂藤くんが作ったケーキ食べたら凄く美味しくて…勝己も文句言ってなくて……ちょっと自信なくなったの」
「…ハァ?」


眉を寄せた爆豪にハッとし、白は頭を振った。余計なことまで言って弱みを見せたことに恥ずかしくなっていく。


「……い、今の聞かなかったことにして!ほら!このケーキすっごい人気で美味しいって評判なんだから!食べよ!」
「…てめェはバカか」
「ちょ、何いきなり」


ケーキを食べる準備をしようとすると、爆豪は呆れたように息を吐き出した。意味も分からずに貶された白はムっとしながら手を止めた。


「俺ァ別に美味いケーキ食いたいなんざ思ってねぇわ」
「え?」
「手抜きしてんじゃねーぞ」
「手抜きって、別にそういうわけじゃ…」
「てめェは何もしてねーんだから手抜きだろうが」
「ちゃんと誕生日プレゼント用意してるよ!」
「うるせぇ!!てめェのケーキ食わねぇと誕生日迎えた気がしねぇっつってんだよ!!」
「…!」


怒鳴るように告げられた言葉に大きく目を見開いた。どきりと跳ねた心臓はそのまま鼓動を早くしていく。


「んだその気持ち悪ィ顔は」
「ひっど!!せっかく感動したのに!」
「感動だァ?そんなんしてねぇでさっさと作れや!」


ときめいたなど自分でも認めたくない事実を忘れるように頭を振り、背中を向けている爆豪を睨みつける。その頬が僅かに赤く染まっているのは本人も気付いていない。
しばらく爆豪の背中をむっと睨みつけたあと、ふっと頬を緩めた。


「ふふっ」
「何笑ってやがんだ気色悪ィ」
「勝己くんはそんな気色悪いやつのケーキが食べたいんだねー!」
「ハァ!?んなこと誰も言ってねぇだろうが!!」
「ねえねえ勝己!たまには2人で作ろうよ!」
「聞けや!つかふざけんな!何で自分の誕生日に自分でケーキ作りなんざしなきゃいけねぇんだよ!」
「誕生日の思い出作りだよ!たまには良いじゃん!ほらほら早く早く!光己さんたち帰って来る前に!ね!」


嫌がる爆豪の背中押して台所へと連れていく。大きな舌打ちは聞こえたが、本気で嫌がっていないことに笑みを深めた。


「……まずいケーキにならねぇように俺が手伝ってやるんだから、足引っ張んじゃねーぞ」
「誰に言ってるの!私が作るんだから美味しいに決まってるじゃん!」
「はっ、さっきまで情けなく自信なくしたとか言ってたのはどこのどいつだ」
「だからそれ忘れてってば!」


小さい頃に一度だけ一緒にケーキ作りをしたことがあるが、それは結局失敗に終わってしまった。けれど今はもう同じ過ちは犯さないだろう。2人ともたくさんの経験を積んできたのだから。手際良く作業を進めていく。


「本当に才能マンだよね…ムカつくくらいに…」
「あ?何か言ったか?」
「誕生日おめでとうって言ったの!」
「さっき聞いたわ」
「ふふっ、そうだね!でもさっきのは略してたから!ほら勝己、もっと頑張って生クリーム泡立てて!」
「うるっせぇやっとるわ!!つかてめェ!よそ見してねぇでしっかりオーブン見とけ!」


その後、爆豪夫妻が帰ってくると、手と口を同じくらい動かしながら仲良くケーキ作りをする2人の姿があったとか。


end
ーーーーー
かっちゃんハピバー!
祝ったことないと気付いてお誕生日夢書こうと急遽当日に思い立ってリクエストを勝手に誕生日夢にしてしまいました。すみません。
毎年ケーキ作ってどんどん上達してる。
爆豪家からは微笑ましく見守られてそう。

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