ぺご主と幼馴染4

何を思って外へ出たのか。自問自答してすぐに答えは出る。家のクーラーが壊れたからだ。だから避暑地にとルブランへ向かっていたのだが、この暑さならばクーラーの壊れた家の方がマシだったかもしれないと汗を拭う。外出したことを後悔するほどの酷暑に、白はへとへとになりながら自動販売機にお金を入れた。


「……反応、しない」


ちゃりんっと確かにお金は入ったものの、自動販売機はまるで反応しない。昨日までは普通に使えていたのに、っと溜息をつきながらお金を戻そうとするが、そちらもまるで反応はなかった。


「ヒートアイランドって…東京恐ろしすぎるでしょ…」


ニュースで今日はヒートアイランドと呼ばれていたことを思い出す。そのあまりの暑さに自動販売機はイカレてしまい、お金だけを取られて飲み物をゲットすることが出来ず、更に大きな溜息をついた。飲み物なしでルブランまで保つだろうか、と。


「ちょっとどいて」
「え…」


聴き馴染んだ声に振り向いたと同時に、ガンっと激しい音が響いた。思わずびくりと肩を跳ねさせる。そして状況を理解出来ていないまま、ちゃりんっとお金が落ちる音を聞いた。


「はい」


戻ってきたお金を手に取り、そのまま白に差し出した人物に瞬く。暑さで幻覚でも見ているのだろうかと。


「……蓮…?」
「うん」
「…………今、自動販売機蹴った…?」
「ヒートアイランドだとどこも自動販売機は使えないみたいだから気を付けて」
「え、う、うん…」


白の質問は何事もなかったかのように流され、その誤魔化し方に幻覚ではなく本人だと認識した。先程の光景も幻覚ではないことの証明になり、思わず乾いた笑いがもれる。


「とりあえどこかに入ろう。熱中症にでもなったら大変だ」
「うん、そうだね」


細かいことは後回しに、2人は近場にあるカフェへと足を運んだ。扉を開けた瞬間に冷たい風が通り抜け、大きく深呼吸をする。これだけで生き返った気持ちになり、改めて店内を見回した。やはりこの暑さに外に出る人は少ないのか、店内に客はいない。
店員に案内されて席に座り、再び大きく息をついた。


「ルブランまで絶対保たなかったから助かった…」
「こんな暑いのに、わざわざルブランに来ようとしてたのか?」
「家のクーラー壊れちゃって…避暑地にはやっぱりルブランかなーって」
「もっと近場に色々あるだろ」
「ルブランが良かったの!」


蓮に会いたかったから。その言葉は飲み込み、運ばれてきた水をちびちびと飲む。


「そうか。じゃあ、少し休憩したらルブランに行こう」
「…ううん、もういいの」
「え?」
「……」
「ルブランに行きたかったんじゃないのか?」
「……私がルブランに行くのは……蓮がいるから、だから」


飲み込んだ言葉を結局は伝えることになり、白はすっと頬を染める。


「…そうか」


優しく微笑んだ蓮に、体温が上がっていくのを感じた。外にいたときのように暑い。


「俺も、白に会いに行こうと思ってたから良かった」
「え…?」
「…最近、泊まりに来ないから」
「…そ、れは…その……ちょっとダイエットしてからじゃないと…」
「ダイエット?」


甘い空気になりかけたが、話題がまさかのダイエットに逸れて白は身体を固くする。言うか否か迷ったが、蓮の真っ直ぐな視線に負け、ぽつりぽつりと話し出した。


「……この前みんなで海、行ったでしょ?」
「うん」
「……そこで杏と自分を比べて絶望しただけ」
「だからダイエット?」
「だって……」
「あ、すみません、この夏季限定の桃のパフェ下さい」
「ちょ…!!」


まるで話を聞いていなかったかのように店員に注文した蓮に白は立ち上がりかける。注文を聞いた店員は店の奥へと消えていくのを見送り、白は頬を膨らませて蓮を睨んだ。


「蓮!私の話聞いてた!?」
「もちろん」
「それなのに何でパフェ頼むの!?」
「白、桃好きだったろ?」
「す、好きだけど…!」
「だから食べたいかと思って」
「何その好意的な嫌がらせ!!」


むーっと膨れる白に蓮はくすくすと笑う。笑い事ではないのに。女子にとって、白にとってはとても大切なことなのだから。白も蓮の家に泊まりたいとは思っている。けれど杏のあのスタイルを見てしまった以上、夏で薄着になる自身を見せるのには抵抗があった。いくら手が出されないのだとしても。


(…もしかして、今更な感じ…?最初から蓮のタイプじゃないからあれだけアピールしても手出されなかったとか…?)


思い返せば思い当たる節ばかりで。白はあからさまに項垂れる。


「……もう蓮の所には泊まり行かない」
「えっ」
「え?」
「それは…困る」


ふと真顔になった蓮にぱちぱちと瞬く。


「俺の心の平穏のためには良いかもしれないけど…いや良くない困る」
「私も困る…これ以上自分の醜態を晒したくない…」
「白に醜態なんてないだろ?」
「杏と比べたら私の体型なんて見れたものじゃないから!卑屈とかじゃなく本気で…!」
「杏と比べられても、俺は白しか見てないから分からないよ」


さらりと発せられた言葉に、時が止まったように感じた。ぽかんと間の抜けた表情で苦笑する蓮を見つめる。
蓮の言葉が何度も何度も頭の中で再生され、誤解してしまいそうなその言葉にぼふんっと顔を真っ赤に染めてテーブルに伏せた。勘違いだと自身に言い聞かせてもバクバクと高鳴る鼓動が治らない。
そんな白を見て蓮が微笑むと、タイミングよくパフェが運ばれてきた。それを一口食べて頷く。


「うん、美味しい」


自ら好んで食べるものではないが、白が好きなものだと思うと自然とぱくぱく食べてしまう。


「白も食べるだろ?」
「……」
「美味しいよ」
「……ぶくぶく太ったら、蓮のせいだからね」
「それじゃ俺が甘党になったら白のせいだな」
「ふふっ、じゃあ一緒に太ったら気にならないかもね!」


ようやく笑顔を浮かべた白に微笑み、蓮は一口すくったアイスを差し出す。


「白、あーん」
「あ、あーんって…」
「白だって前にやったろ?」


以前カフェで同じようなことした自分を思い出して動揺する。


「け、けどそのとき蓮が…か、間接キスだから、ダメって…」
「言ったな。俺と以外は、って」
「う…」


にこりと強調されるように言われ、白は言葉を詰まらせる。蓮は随分と余裕の笑顔のままだ。どんどん赤くなっていくのは白だけ。とてもいい笑顔の蓮を前に何も言えなくなる。


「ほら、早くしないと落ちる」
「〜〜〜っ、蓮の意地悪…!」


そう言ってぎゅっと目を瞑り、差し出されたアイスをぱくりと食べた。大好きなパフェのはずなのに、まるで味が分からない。ただ、冷たいアイスとスプーンの感覚だけが舌に残る。


(蓮が…食べた…)


ぼんやりそんなことを考えたが、更にそのスプーンを蓮が再び口に含んでいるのを見て大きく目を見開いた。


「…っ、も、もう!蓮のバカ!ほんっと意地悪!!」
「何のこと?」
「性格悪い…!」
「今更だろ」
「〜〜〜っ、貸して!私も蓮に同じ気持ちを味あわせてやる…!」
「いや、これ前に白がやったときの仕返しだから」
「仕返しなの!?」
「もちろん。やられたままじゃ終われないし」
「大人気ないんだから…!」
「お互いにな」


結局スプーンを取り合って食べさせ合う姿を見せつけられ、店員たちは付き合っていない2人の光景に外よりも暑いと遠い目になるのだった。


end
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いつもわりと蓮くんが劣勢な気がしたから今回はだいぶ優勢にしてみた。たぶんパラメーターMAXだ。強気な蓮くんめちゃ好きなんです…!
これで付き合ってないはもう言えない気がしたけど付き合ってないって言い張る。
ヒートアイランドはゲームやってる人じゃないと分からない設定でしたすみません!
幼馴染設定のリクエストありがとうございました!

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