でんきこねずみとサンイーター

(どうしよう…!)


1人の少女は涙を堪え、この状況を打破するべく必死に解決策を探した。


(どうしよう…)


1人の少年は頭を抱え、この状況を打破するべく必死に解決策を探した。


((どうしよう…!!))


真っ暗闇の四角い箱の中でーーーー緊急停止したエレベーターの中で、白と天喰は2人きりに取り残された状況からの解決策を見出せずに絶望の表情を浮かべた。

遡ること数十分前。
切島のいる1-Aがヒーローショーを手伝うという話を聞き、白は勇気を出して1人デパートへと向かっていた。兄から聞いた場所を頼りに辿り着き、そこの屋上だと胸を高鳴らせてエレベーターのボタンを押す。

時を同じくして天喰も切島に呼ばれ、ヒーローショーに向かうべくエレベーターを待つ。
人は多いはずなのにエレベーターを待つのは2人の男女だけ。1人はうきうきと周りが見えておらず、1人はドキドキと周りを見ないようにしてお互いの存在に気付いていない。そしてしばらくしてエレベーターが到着し、乗り込んで階数ボタンを押す瞬間、ようやくお互いの存在を認識した。目を合わせることもなく、ボタンに手を伸ばしたままの状態でピシリと固まる。まるで幽霊にでも遭遇したかのように硬直し、一時停止して動かない間にエレベーターの扉が閉まってしまった。


「「………」」


動かないエレベーターの中でしばらく沈黙が続いたが、このままでは一生このままかもしれないと2人は無言のまま屋上へのボタンを押そうと動いた。僅かに天喰が先に動き、その動きに驚いて白は凄まじい勢いで後ろへと下がる。エレベーターの隅で背中を壁につけてプルプルと震えた。視界の端でそれに気付き、酷い避けられ方をしたと死にそうなほどのショックを受けながらも何とか屋上へのボタンを押した。そしてようやくエレベーターが動き出す。


「「………」」


無言で心臓の音だけをシンクロさせながら、2人はエレベーターが屋上へ辿り着くのを待った。早く着けと願いながら、天喰はまた怯えさせないようにゆっくりとした動きで白の1番遠くになる対角線上の隅へと移動し、壁に頭を打ち付ける。


「………」


やけに時間が長く感じ、相手は怯えていないかと天喰は白へチラリと視線を向けた。けれど、それがいけなかった。


「ーーーーっ!!」



天喰にとっては様子を見るように視線を向けただけだが、タイミング悪くその視線は真っ直ぐに交じり合い、白にはそれがギロリと殺気に満ちた瞳で睨まれたように感じてしまった。
声もなく悲鳴を上げ、バチィッ!!っと激しく放電してしまう。その直後、エレベーターはガタンっという大きな音と共に停止し、停電した。そして冒頭に至る。


(やっちゃった…また…またやっちゃった…私のせいで…止まっちゃった…)


自身が放電してしまったせいでエレベーターが止まったことを理解し、睨まれた恐怖と暗闇の不安と多大なる迷惑をかけた罪悪感にポロポロと涙を溢す。
自分1人ならともかく、同乗した人に1番迷惑をかけている。それでも相手は何も言わない。だからといってそれに甘えてこのままでいて良いはずがない。白は震える口を開いた。


「………ぁ、……の……っ」
「………え…?」


この静かな狭い密室でもギリギリ聞こえた蚊の鳴くような声に天喰は瞬いた。今の声は隅でプルプルと震える少女からだろうかと。反射的にそちらに視線を向けて少し驚いたように再び瞬く。
真っ暗闇の中で、視線の先の白が淡く光っていたのだ。バチバチと纏う電気のせいで淡く発光し、天喰から白は見えるが白から天喰は見えない。そのせいか視線は合わずに当初のようなことは起きずに済んだ。


「ご……めん、なさ、ぃ…」
「な、なんで、謝るの…?」


お互いに独り言のような小さな声を拾い、何とか会話をする。心臓だけはバクバクと破裂しそうな勢いなのにそれ以外の全てが静かだ。


「わ、わたし、の、せいで…私が個性、ちゃんと使えないから…放電して、エレベーター…止まっちゃっ、て…っ」
「…!」


泣き声混じりの声にぶんぶんと首を横に振ったが、相手から見えないのに気付き始め口を開く。けれど「あ」と「え」などの母音しか音にならない。いまだに涙を溢し続ける白に泣き止んでほしいけれどそれもどうして良いか分からずに自己嫌悪する。通形や切島ならばもっと上手い言葉をかけられるだろうと。そこではっとする。


「だ、大丈夫…ヒーローたちが来ているし、きっと、すぐに助けに来てくれる」
「…ヒーロー」


脱出しようと思えば出来るけれど、下手に壊してエレベーターが落下しては困る。自分だけでなく非力な少女もいるのだから。だから静かに救出を待った。こういう時こういう状況ではきっと通形や切島のような存在が安心感を与える。2人の太陽のような存在が。そう思っての言葉はそのまま伝わり、白の中で切島の姿が思い浮かんだ。「ほら、泣くなよ!」っと、笑顔で頭を撫でてくれる姿が。


「………は、い」


そう答えた白は少し震えているものの、涙は止まっていた。それに連動するように纏う電気も治まり、エレベーターの中に暗闇が訪れる。真っ暗闇は不安を煽るけれど、人が苦手な2人はお互いの姿が見えるよりもどこか落ち着いているようだった。


「…俺が怖がらせたのが原因…だよね。…その、こっちこそ、ごめん…」
「…!」


そんなことないという意味を込めてぶんぶんと首を横に振ったが、自分の姿は見えないのだと同じことに気付いてはっとした。


「そ、んなこと、ないです…!わた、私が、ちゃんと個性使えれば、こんなことにはならなかった、です…!」
「いや、そもそも俺が不用意に君と同じ空間に入ってしまったのが悪いから…」
「わ、私がボツ個性なのがいけないんです…!」


相手の姿が見えない中でペコペコと謝り合う。終わりの見えないそのやり取りを繰り返していると、大きな音と共にエレベーターが小さく揺れた。2人はびくりと肩を跳ねさせる。もしかして落ちるのかと息を飲んだとき、ギギギと音を立ててエレベーターの扉の上部が僅かに開いた。そこから差し込む光を思わず腕で遮る。


「お、やっぱりいた!おーい、大丈夫か!」


その声にはっとして顔を上げる。眩い光に目を細めながらも視線を向ければ、そこには背中に光を背負った切島が手を伸ばしていた。


「きり、しま…せんぱ…」


にかっと明るく笑う切島の姿に緊張の糸が切れ、白は再びポロポロと涙を溢した。


「ぅ…うぅ…きりしま…きりしませんぱいぃ…っ」


うわーんと泣き出してしまった白に苦笑し、切島はこじ開けた狭い隙間からエレベーター内に入り、白の頭をぽんぽんと叩く。バチバチと電気を身に纏い出し、このままではまずいと白を抱き上げた。痺れる痛みはあるけれどこのくらいはもう慣れたものだった。


「もう外は安全なんで環先パイも行きましょ!」
「…安全…?」


外が安全という言葉を疑問に思いつつ、切島のあとを続く。扉の下半分近くが壁で塞がれているものの、階と階の間ではなかったお陰でなんとか外へと脱出出来た。


「……何か、あった…?」
「ついさっきまでヴィランの襲撃があったんスよ」


周りの雰囲気にそう感じて問いかけた天喰に、切島は白を下ろしながら何でもないことのように答えた。


「え…」
「ああ、でももう解決したんで大丈夫っスよ!先生たちも何人かいたし、何よりヴィランが襲撃してきた直後にビル全体が停電して、それに生じてみんなで撃退出来たんで」
「ビル全体の停電…」
「タイミングよく何かと思ったら、こいつのお陰だったんスね」


そう言いながら切島は自身にくっつきながら静かに涙を流している白の頭を叩いた。


「ヴィランと戦ってるとき、耳郎や障子たちがエレベーター内に白と環先パイがいるのに気付いてそれでやっと助けに来れたんスよ」
「そう、だったんだ」
「いやぁ、白と環先パイが2人きりとか絶対こいつ泣くと思ったんで、今回の停電がこいつの仕業ってのが分かったんス」


ぽんぽんと頭を叩きながら笑う切島に、ようやく白の顔に笑顔が戻った。怯えた顔でもなく、泣いている顔でもない笑顔だ。


「こいつウチのクラスの上鳴の妹で、上鳴白っていうんスけど、個性すげーんスよ!」
「あの一瞬でビル全体を停電させるのは確かに凄い…」


でしょ!と笑う切島は何故か自慢げだ。


「今回怪我人もなく速攻で解決できたのはおまえのお陰だな!ビル全体を停電にするとかやっぱすげーよ!助かったぜ!ありがとな!」
「……!」
「環先パイもこいつの面倒見てくれてありがとうございます!」
「いや、俺は何もしてないから…むしろ俺は彼女を怯えさせてしまって…」
「何言ってんスか!環先パイが白の傍にいるのが分かったから安心して戦いに集中出来たんスよ!だからマジで助かりました!」
「…!」


にかっと効果音が付きそうなほどの輝く笑顔に2人は魅入る。自分とは違う、正反対の存在に。
そしてそれにお互い気が付く。切島を見ていたことも、その理由も。そこで初めて白と天喰はちゃんと視線を交わらせた。当初のときのように目が合っても白は泣かず、天喰も目付きが悪くならない。明るい場所で目を合わせて、お互いに小さくはにかんだ。

これが、人見知りな2人の初めての出会い。


end
ーーーーー
ずっとこの2人の話は書きたいと思っていたのでようやく書けてとても満足なのですが落ちは考えていなかったので最後は相当無理矢理終わらせた感ある。大まかには出会いを考えていてのでそれに色々加えたらまとまらなかった…2人きりのときはほぼ会話なく説明文みたいなのばっかでしたが、ちゃんと伝われば良いな…
今後仲良くなって普通に会話………してほしい。きっと切島くんの影響で環先輩って呼ぶ。


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