どんな恋をしようか?

3月になってもまだ肌寒く、冬の装いの男女2人は絶妙な距離を空けながら並んで歩いていた。側から見ればただの友達同士の距離感。けれどこの2人…緑谷と白はバレンタインに晴れて恋人同士となったのだ。
勇気を出して告白と共にチョコを渡した白と、その告白に顔を真っ赤に染め上げながらもOKをした緑谷。そんな初心で恋愛に慣れない2人はいま、ホワイトデーという日にお互いに人生初のデートをしている。


「さ、寒くない?」
「だ、大丈夫だよ!」


たどたどしく始まった会話はすぐに終了し、沈黙が訪れる。一応並んで歩いているものの、2人の距離は空いている上にお互いがお互いに別の方向を見ているために視線も合わない。友達同士でも微妙な距離感を保つこれがデートと呼べるのかは疑問だが、2人にとってはデートなのだ。
緑谷がバレンタインのお返しにと、ホワイトデーに計画をした大切なデート。そのデートという言葉だけで2人はいっぱいっぱいだった。


「あ、の、お、お返しのことなんだけど…」
「そ、そんなの良いよ!み、緑谷くんがこうして一緒にいてくれるだけで…」
「っ!」
「って、わ、私なに恥ずかしいこと…!!」


普通に会話するだけでも真っ赤になって一苦労で、再び沈黙が訪れる。何か話題がないかと探すが、隣の存在に緊張して上手く頭が働かない。全く同じ状況に陥る2人に解決策はなかった。
まるで上手くいかないことに溜息をつきそうになったとき、最近よくCMで聴く曲が耳に流れ込んできた。2人は顔を上げてそちらに視線を向ける。そして緑谷はぱぁっと瞳を輝かせた。


「あ、あれ、あれは…!!発売しても即日完売するオールマイトの限定ブロマイド付きチョコレート!?ななな何でこんな所で売って…!?」


その商品は白も知っているほどよくCMで見たものだが、実際に目にするのは初めてだった。それほどに珍しいものだということは分かる。緑谷の反応を見れば尚更だ。キラキラと目を輝かせてブツブツと考え出した緑谷に白は微笑む。


「緑谷くん、あれ買いに行かない?」
「え!?で、ででも凄く並んでるし…こんなことで速見さんを巻き込むわけには…」
「私も欲しいから!ね!」
「…うん!」


はにかんだ緑谷に微笑み、2人は行列に並んだ。その後ろにはまたすぐに行列ができ始め、改めてオールマイトの人気を実感する。


「さすがオールマイトだね」
「今回のブロマイドはヤングエイジ時代のものからつい最近のまでたくさん種類があるんだ!その中でもSSRって言われるブロマイドが…」


オールマイトのことになると饒舌になる緑谷を白は笑顔で見つめて話を聞く。もういいと呆れる者もいるが、白はこの時間が好きだった。オールマイトが好きな緑谷と、そんな緑谷が好きな白。オールマイトに憧れる緑谷の心に惹かれた白にとって、緑谷の話を聞くことも、この行列に並ぶことも充分楽しいのだ。
それに、オールマイトのことでエンジンのかかった緑谷はひたすらに喋る。気まずい沈黙もなくなり、キラキラと楽しそうに話す緑谷につられて白も楽しそうに笑った。


「って、ご、ごめん!また僕1人で勝手に喋っちゃって…」
「いいよ!緑谷くんが話してるの聞くの、す、好きだし…」
「そ、それは嬉しいけど…」


好きという単語に2人でうっすらとほほを染める。気持ちは通じ合っているけれど未だにその言葉には慣れない。再び沈黙が訪れるかと思われたが、緑谷は少しだけ言いづらそうに口を開いた。


「嬉しいけど…その…」
「?」


首を傾げた白の視線に最初は戸惑っていたが、意を決したように白を真っ直ぐに見つめる。その真剣な眼差しにドキドキと胸が高鳴った。たまに見せる男らしい表情も相変わらず慣れない。


「僕は、速見さんの話…聞きたいな」
「え…」
「その、も、もっと君のことよく知りたいなって思って…。今でも学校でのことはよく知ってるけど、普段何してるかとか…全然知らないし…いつも僕に付き合わせてばっかりだし…君はつまらないんじゃないかと…」


どんどん尻すぼみになっていく緑谷をぽかんと見つめていたが、意味を理解してくすくすと笑う。


「え、なに?僕何か変なこと言った?」
「ううん、言ってないよ」
「??じゃあどうして笑って…」
「緑谷くんらしいなぁって思って」
「?」


今度は緑谷が首を傾げる番だった。けれど笑顔の白は見ていて心が満たされる。自然と緑谷の頬も緩んで白を見つめていた。


「速見さんが楽しそうで良かった」
「私は、み、緑谷くんと一緒ならいつでも楽しい、よ…!」
「!そ、それは僕も同じだよ…!」


先程よりも頬を赤くしてお互いに黙ってしまう。けれど今度は白が先にそれを打破した。


「オ、オールマイトのお菓子買えたら開封式しようね!そこで…その…い、いっぱいお話ししよ!普段あまり話せないこと…私のことも…たくさん…!」
「っ!も、もちろん!」


視線を合わせて赤い顔のまま微笑み合う。すると、緑谷は「そうだ」と声を上げた。


「あ、あの、じゃあこれ…」
「?」


差し出されたのは可愛らしい箱だ。まるでお返しのような包装がされている。


「オールマイトの話になったら忘れちゃいそうだから、いま渡しておくね」
「これって、」
「バ、バレンタインのお返しです」
「用意してくれてたの…?一緒に買いに行くって今日…」
「!!ご、ごめん、それは…口実なんだ。本当は結構前から用意してた。君からチョコ貰えたことがすごく嬉しくて…」
「…あ、ありが、とう…」
「い、いや…むしろ雰囲気とかなくてごめん…」
「き、気にしないで!そんなこと気にしないから…!う、嬉しいから…凄く…すっごく!」
「速見さん…」


お返しを受け取り喜ぶ白に緑谷は微笑んだ。そして静かに、けれど大きく深呼吸をして意を決すると、緑谷は白の手を取る。


「!!」
「……今日は、こうしてたいんだけど……良いかな…」
「……は、い」


初めて繋がれた手は少し汗ばんでいて、それが余計に愛しかった。ぎゅっと強くなった手を控えめに握り返す。

緑谷くん、大好き

1ヶ月前に伝えることが出来た言葉は、今は上手く言葉に出来なくて。意気地なしだと内心自嘲していると、握る手に更に力が込められて視線を上げた。その視線の先には今日1番に顔を赤くした緑谷がいる。


「緑谷くん…?」
「…す、すす、」
「?」
「す……っ、好きだよ、白…ちゃん」
「!わ、私も好きです…!」


反射的にすぐに答えた白に緑谷は一瞬ぽかんとするも、その言葉にはにかんだ。白もつられてはにかみ、バレンタインよりも甘い空気が2人を包み込んだ。行列の真ん中にいることなど忘れ、2人の世界に浸って。

end
ーーーーー
初心な2人になったかな…?出久はやるときはやってくれると思ってるから…!
思ったよりも照れ屋にあわあわ出来なかったかな…
夢主ちゃんもきっとヒーローオタクだと思う。

title:きみのとなりで

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