あなたの隣

「爆豪くん、見かけによらず器用やね」
「見かけによらずってなんだ!!見た目関係ねぇだろクソが!!」
「そんな怒鳴らんでも…デクくん以外にも常に爆ギレじゃ疲れない?」
「うるっせぇわ!!てめェが絡んでくんからだろ!!」
「いつもだと思うけど…」
「おい麗日ァ、文句あんなら聞いてやるからかかってこいや」
「何でそうなるん!?」


雄英体育祭から数日後。A組の教室でそんなやりとりを目撃し、白はそっと目を伏せる。視界に入れなくても2人の会話は嫌でも聞こえてしまい、白はそっと席を立ち上がった。そして教室を出て行く。


「…やっぱり、強い子が好きだよね」


雄英体育祭のトーナメント戦で麗日と爆豪が対戦してから、お互いの距離が縮まったように感じていた。それまでは丸顔と呼んでいたのに麗日呼びに変わり、よく会話もしている。毎日見るようになった光景にズキズキと胸が痛み、白は小さく溜息をついた。


「…お茶子ちゃんのことは好きなのにこんな気持ちになるなんて…嫌だなぁ」


渦巻く嫉妬に自己嫌悪する。大切な友達にこんな醜い感情を抱いてしまうなんて、と。誰もいない空き教室へと入り、再びはぁっと溜息をついた。


「…どうして好きになっちゃったんだろう…って、そんなことは分かりきってるよね」


USJ襲撃のときに助けられたことを思い出し、白は薄っすらと頬を染めた。本人はただヴィランを倒しただけでその気がなかったのだとしても、白にとってそれはとても大きな出来事だったのだ。そこから好きだと確信してしまったのだから。


「私がトーナメント戦に出れてたら、何か変わってたのかな」


そんな意味のないことを呟き、自嘲するように笑ったとき。ガラッと壊れそうな勢いで扉が開いた。白は驚いて振り返る。


「あれ?爆豪、くん…?」
「……」


扉を開けたのは爆豪だった。何故か不機嫌そうに中に入ってくると、開けたときと同じようにピシャンっと壊す勢いで扉を閉めた。
白は訳がわからずにぱちぱちと瞬く。


「………おい」


しばらくの沈黙後、口を開いたのは爆豪だった。いつも不機嫌そうだけれど、声音までも不機嫌そうで白はこてんっと首を傾げる。


「てめェ、なんで俺のこと避けてんだ」
「……え?」
「えじゃねぇわ!聞いてんのはこっちだボケ!」
「えへへ、そうだよね。ごめんね?」
「うるせ。いいからさっさと答えろグズ」
「?」
「もう忘れてんじゃねぇよ!!鳥より記憶保たねぇのかァ!?なんで俺のこと避けてんのか答えろっつってんだ!!」


その言葉に無意識に避けていたのかと驚いてしまう。白にそんなつもりはなかったけれど、誰でも見たくないものを好き好んで見ようとはしない。その心理が働いていたようだった。


「あからさまに避けやがって…すげー胸糞悪ィんだよ」
「…ごめん、ね」
「んな言葉求めてねぇわ」
「…?すみません?」
「ちっげーわ!!つか疑問形にしてんじゃねぇ!!」
「…??…あ、申し訳ございません!」
「あじゃねぇわ舐めとんのか!!謝罪じゃねぇっつってんだよクソ!!」


どんどん怒りのボルテージが上がっていく爆豪に白は疑問符を飛ばすばかりだ。これが緑谷なら即座に爆破されていただろう。
ここまで言っても分からない白に爆豪は大きく舌打ちをした。そしてはぁっと息を吐き出して落ち着きを取り戻す。


「…なんで俺のこと避けてんのか理由を聞いとんじゃボケ」


無造作に後頭部をかきながら吐き捨てた爆豪に、白の心臓がどくりと音を立てた。理由など、1つしかない。けれどそれを本人に言うのは引かれてしまわないだろうかと考える。
そのせいですぐに答えられずに渇いた笑いを漏らしながら頬をかくと、顔をしかめた爆豪がズンズンと近付いてきた。そのままガンっと背後の壁に手をつかれる。いわゆる壁ドン状態だ。


「ば、爆豪くん…?」
「その笑い方。すげー腹立つんだよ」
「え…?」
「気に食わねぇことがあんならはっきり言えや。うじうじされんのはクソうぜぇ」


真っ直ぐに目を見つめながらそう告げられる。ぐっと顔を近付けてきた爆豪は明らかに怒っているけれど、その距離にドキドキと鼓動が早くなる。どんな理由であれ、爆豪が自分を見てくれていることが嬉しかった。


「ふふっ」
「何笑っとんじゃ」
「えへへ、ごめんね?なんか嬉しくて」
「ハァ?」


口元に手を当てて笑う白に意味が分からないと顔をしかめる。そしてそのままその言葉を口にした。


「意味分かんねぇ」
「爆豪くんが構ってくれて嬉しいなぁって思ったの」
「……だから意味分かんねぇんだよ」


真っ直ぐに見つめられていた瞳が照れ臭そうに逸らされた。意味も何も、そのままの意味でしかないのにと、白は目を細めて微笑む。


「やっぱり、好きだなぁ」


思わず出てしまった言葉に再び視線が交わった。白はあっと口に手を当てるが、爆豪の表情からして聞こえてしまったのは確実だった。白は困ったように眉を下げながら笑う。


「ごめんね、今のは気にしないで?爆豪くんがお茶子ちゃんを好きなのは分かってるし、迷惑かけるつもりはないから…」
「お茶子?誰だそれ」
「お茶子ちゃんだよ!麗日お茶子ちゃん!」


名前までは把握していなかったようでそう伝えれば、爆豪の眉間に深くシワが刻まれる。


「麗日のことが好きだァ?」
「好き、だよね?」
「なんでそうなんだゴラ」
「え、だって…」
「うるせぇ!!」


何でと聞いたのにそれを遮るように怒鳴られ、強引に腰を引き寄せられて唇を塞がれた。突然のことに白は目を見開く。噛み付くようなキスなのに、どこか優しくて甘い。んっ、と小さく声を漏らし、密着する爆豪の制服をぎゅっと握り締めた。
そしてしばらくしてようやく唇が離れる。けれど身体は密着したままだ。
キスの余韻でぼーっと爆豪を見つめていれば、今度は後頭部に手を回され、胸に抱き寄せられる。


「…これで分かったろ」
「……爆豪くん、心臓の音早いね」
「…っ、たりめぇだろクソが!!」


何か言いたげに一瞬詰まった言葉は怒鳴り声として吐き出される。抱き締める腕に力が入り、白は薄っすらと赤く染めた頬を緩めた。


「勝手に勘違いしてんじゃねぇわボケ」
「…うん、ごめんね」
「てめェは黙って俺の傍にいろ」
「え…?」
「えじゃねぇ。返事」
「ふふっ、はーい!爆豪くん大好き!」
「……うっせ」


らしくなく小さく呟き、ふいっとそっぽを向いた爆豪の耳は真っ赤に染まっていた。

end
ーーーーー
おっとりと天然を間違えたような気がする。
名前どころか名字すら呼んでない…!?
最後かなり急ぎ足になったんで甘さ中途半端かな…!ぐぬぬ爆豪くん難しいな…!

title:きみのとなりで

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