恋愛スパイス

仮免試験の第一次試験。始まったばかりで雄英は狙い撃ちされ、一瞬だけ絶体絶命のような危機に陥った。もちろん簡単にやられるような生徒は1人もおらず、A組はそれぞれ乗り切ったが、今も大勢の学校の生徒たちに囲まれている。そんな中で、白はちらりと対戦相手ではない、まるで違う場所へと視線を向けた。そして見えた光景に、ぐぐぐっと眉間に皺を寄せる。


「よそ見なんて余裕だな!これで終わりだ雄英!」


そんな白をターゲットに定め、ボールを投げた他学生たち。白以外のA組は避けたが、白はその場から動かない。


「速見さん!」


緑谷の声に反応することもなく、白はぐっと拳を握りしめた。


「……こんな試験、さっさと終われ…!!」


いつもの穏やかな姿からは想像できない個性の荒々しさ。迫り来る攻撃を全て相殺し、まるで八つ当たりのようにそのまま他学生たちへ攻撃が決まる。
倒れていく生徒たちに不機嫌そうなまま近付き、ボールをマークに当てていく。難なく3ポイントを取った白はずんずんとクリアした者が集まる場へと戻っていった。
それを見送ることしか出来ないA組生徒たちは、ぱちぱちと瞬く。


「…怖ぇ…なんだよあれ…鬼神…?」
「普段攻撃的じゃない分、ありゃ怖いわな。まあ相澤先生とどっかの女が仲良くしてんのとか見えたんじゃね?」
「試験前に会ったときみたいに、Ms.ジョークが相澤先生からかってたのかな…」
「ああ…白ちゃんだから見えちゃったのかもね…」
「じゃなきゃあんなに不機嫌そうな白とか有り得ないでしょ」


A組生徒からすれば理由は明白だった。自他共に認めるイレイザーヘッド好きの白。そんな白の機嫌がいきなり悪くなる理由などそれくらいしかないだろう。
A組からは乾いた笑いが漏れ、自分たちも早くクリアしなければと気合いを入れ直した。

◇◆◇

「イレイザー!結婚しようぜ!」
「しない」


試験を無事に終え、仮免を取得した白は真っ先に相澤へと走り寄ったが、Ms.ジョークとのやり取りに固まる。試験が始まる前と同じやり取りでそれが冗談だと分かっているのに胸はモヤモヤするばかりだ。どんなに相澤が冷たい態度を取っていても、白には2人が楽しそうにじゃれ合っているようにしか見えなくて。むーっと頬を膨らませて恨めしそうな視線を向けるがどちらも気付かない。気付いているのはA組と傑物学園の生徒ぐらいだ。


「相澤先生があんなに仲良さそうに話す人なんて見たことない…」
「随分仲良さそうだよね。うちの先生もあんなに楽しそうなんて珍しいよ」
「うぅ…私の前ではあんなに喋ってくれない…!ずるいずるいずるい…!」
「正反対な所が逆に気が合うんじゃないかな」
「うぐぬぬぬ…!」
「あ、あの真堂さん…そろそろ煽るのやめてあげて下さい…」


白の隣で楽しそうに喋る真堂に緑谷は冷や汗を流しながら止めに入ったが、それでも白の視線は相澤から逸れることはなかった。

◇◆◇

「マイクせんせーーーーー!!」


仮免試験からの帰宅後、白は寮に戻ることなく雄英の職員室へと駆け込んだ。疲労なんてどこかに吹き飛んでいるほどに頭の中は相澤のことでいっぱいで周りに配慮出来ていないが、職員室には都合よく名前を呼んだプレゼントマイクしかいない。


「うおっ!びっくりした…おう速見じゃねぇか。仮免試験お疲れ〜」
「……」
「受かったんだろ?なんでそんな泣きそうな顔してんだよ」
「マイク…先生…」
「おうおうどうした速見?ははっ、もしかしてイレイザーにフラれたか?」


そんなわけないと思っているからこそ、からかうように言った言葉だったのだが、今の白には胸に刺さる一言で。見る見るうちに泣きそうに顔を歪めていく白にぽかんと瞬いた。


「う、うぅ…」
「え?なに?まさかガチなやつ?」
「う、あぁぁぁぁん!!」
「ちょ!?おいおいおい泣くな泣くな!どうしたんだ?」


本格的に泣き出してしまった白に慌てて近付き、目を合わせるように屈んでぽんぽんと頭を撫でる。子どものように泣きじゃくる相手にどうしたものかと、慰めるように頭を撫でることしか出来ない。


「速見ー、泣いてちゃ分かんねーぞ」
「う、うぅ…ひっく…マイクせんせぇ…」
「ん、どした?」
「…仮免試験の会場で、相澤先生がずっと、他校の先生…綺麗な女の人と仲良さそうに話してて…」
「うんうん、それで?」
「いつも私には相槌しかしてくれないのに、その人とはたくさん話してて、楽しそうで…大人同士でお似合いで…っ」


そう、お似合いだと思ってしまった。学生の自分と先生という立場よりも、とてもお似合いだったのだ。それが悔しくて悲しくて。


「ヤキモチ焼いたんだな」
「ひっく、う、うぅ…」


マイクの言葉はその通りで。再びポロポロと涙を溢す。けれどマイクは優しい顔をして白に微笑みかけた。


「よく聞けよ速見。イレイザーがおまえとの会話で相槌しか打たねーのは、おまえといると楽だからだよ」
「……」
「余計なストレスにならなくて……いやまあそれ以上に惚れてるからか。一緒にいるだけで心地良いんだろうな」
「……本当ですか…?」
「学生時代からつるんでる俺が言うんだぜ?本当に決まってんだろ!」
「でも相手の女の人も学生時代からの知りたいみたいでした…昔の相澤先生を知ってる上にあんなに仲良さそうに…」
「……他校の先生でイレイザーの………おまえまさか、Ms.ジョークのこと言ってたりするか?」
「……はい」


白が頷くと、マイクはケラケラと大声で笑い出した。笑い事ではないと涙を溜めた瞳でマイクを睨む。


「睨むな睨むな!ハハッ、相手がそれならもっと安心していいぜ。Ms.ジョークが相手だなんて絶対大丈夫だろ!」
「何を根拠にそんな…」
「根拠も何も、そもそもイレイザーはおまえにベタ惚れなんだぜ?他の女に目移りなんざねーよ!」


相澤が自分にベタ惚れ。その言葉が素直に嬉しいので少しだけ頬が緩んでしまう。お陰でようやく涙がおさまってきた。


「ほら、そんな泣いてたら可愛い顔が台無しだぜ。おまえは笑ってる方が可愛いんだからよ」


再びぽんぽんと頭を撫でながらにかっと笑いかけてきたマイクに、今度は違う理由で涙が込み上げてきてしまう。白は泣きながらマイクに抱き着いた。


「マイクせんせぇ〜」
「だーから泣くなっての」
「だってマイク先生の優しさが心に染みるんだもん…」
「あいつはどんだけ愛し方が不器用なんだよ……ったくしょーがねーな!よしよし、速見は可愛いな〜良い子だな〜」


とりあえず悲しくて泣いてるわけではなくなったことに安心し、自身の胸に縋って泣く白を優しく抱き締めながらぽんぽんと宥めるように背中を叩く。段々と泣き止んできたことを確認し、身体を離そうとしたところで冷たい殺気を感じた。これはやばいと顔を引きつらせる。そしてギギギっと顔を上げた先には、予想通りの人物が物凄い形相でこちらを睨みつけていた。


「おいマイク…てめぇ何してやがる」
「い、イレイザー…」
「今すぐその手を離せ」
「イレイザー待て、落ち着け、誤解だ」
「今すぐ、その手を、離せ」


バッと降参するように両手を上げた。いつにも増して不機嫌な顔と殺気の宿る瞳に冷や汗が止まらない。やばい殺されるかもと冷静に心が判断していた。


「…相澤、先生…?」
「…速見、来い」


ずんずんと近付いてきた相澤は白の腕を取り、そのまま職員室の外へ連れていく。命拾いしたとマイクは大きく安堵の息を吐いた。


「まったくよぉ、あいつはどんだけ速見に惚れちまってんだよ」


呆れたように2人を見送り、マイクは誰にも見つからないようにしろよ、とニヤニヤと笑うのだった。


◇◆◇

相澤に腕を引かれて誰もいない廊下を進み、人気のない階段まで来た所でようやく立ち止まった。掴まれた腕が少しだけ嬉しいと感じていたのに、そこでその手は離されてしまう。


「何でマイクのとこで泣いてたんだ」
「…」
「俺には言えないか?」
「……子どもだって、バカにされるから」
「おまえがガキだなんて承知の上だ。バカになんてしねぇから言ってみろ」
「…」
「速見」


有無を言わせぬあ圧力はやはり恋人よりも先生だということを思い知らされる。けれどここでずっと黙り込むなどそれこそ子どもだと、白はぎゅっと拳を握り締めて心を決める。


「……相澤先生が、あそこの高校の先生と仲良さそうに話してたから」
「高校の?……まさかMs.ジョークのことを言ってるのか?」
「その人しかいないじゃないですか」


膨れる白に思わず溜息が漏れた。


「おまえは本当に…バカだな…」
「…どうせバカですよ。私は…あの女性と違って子どもですもん」
「そうだな。バカでガキで変な勘違いして…」


一旦言葉を区切った相澤は、優しく白を抱き締めた。


「こんなにも愛しいよ」
「!」


小さく囁かれた言葉に大きく目を見開いた。今相澤は何と言ったのかと頭をフル回転させる。


「え、え…!?い、いいい今…!」
「仲良さそうなわけねぇだろ。こっちはアレに迷惑してたんだ」
「でも…楽しそうだった」
「ふざけてんのか」
「マジです」
「ったく…俺はおまえといる以上に楽しいことなんてねぇよ。それくらいおまえに…惚れてる」
「!」
「あー……格好つかないからこれ以上言わせるな」
「相澤せん…っ」


相澤の顔を見るために顔を上げようとしたが、抱擁が強くなりそれは叶わない。痛いほどに抱き締められて頬が緩んだ。


「相澤先生、顔見たいです」
「見たら殺す」
「照れてるんですか?」
「さあな」
「ふふっ」


白は腕を広げて相澤に抱き着いた。背中に回した手でぎゅっと抱き締める。


「先生!私と結婚しましょうね!」
「はいはい、卒業してからな」
「!!〜〜〜っ!相澤先生大好き!」


小さく俺もだよ、と聞こえた気がした。


end
ーーーーー
資料なしで書いたので仮免試験の所はめっちゃ曖昧にしましたけどそれでも色々間違ってるかもです…!
先生×生徒って初めてだった気がする…!未知の領域だった…これも家族夢同様にどこまで書いていいか悩むな……いや夢だし先生と生徒でも普通の恋人として書いていいんですよね!
けど内容はもうごめんなさいとしか言えない…相澤先生誰これ状態だし…急展開はいつものことか…いつになったらちゃんと書けるようになるんだろう…

title:きみのとなりで

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