君に、世界で一番幸せなキスを

MHA短編の轟双子妹と同じ設定です。

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授業を終え、寮ではなく繁華街へと向かう轟兄妹。白は轟の腕を組み、とても機嫌が良さそうだ。白は轟と一緒にいるときはいつも機嫌が良いけれど、今日は特にそれが顕著だった。


「焦凍くんとお出掛けできるなんて嬉しいなぁ」
「いつも出掛けてんだろ」
「今日のはショッピングという名のデートだもん!普段より割増で嬉しいよ!」
「そうか」


確かにいつもより若干テンションの高い白に、轟は穏やかに小さく微笑み、2人並んで歩く。そこへその幸せな時間を奪う輩が現れた。
どしんっと大きな音を立てて白たちの前に立ち塞がった人物に2人は咄嗟に戦闘態勢をとる。


「どいつもこいつもリア充しやがって…!!」
「…ヴィランか」
「ただの僻みマックスの非リア充かな。ふふんっ、私と焦凍くんのラブラブな光景を見て僻むなんて…照れちゃうね!!私たちそういう風に見えるってことだもんね!!ふわぁぁ嬉しい…!!」


両手を頬に当て歓喜する白に、いつも通りだと轟はすぐに視線をヴィランへと戻した。白もすぐにそれに習ってヴィランに視線を戻す。
きっとこのヴィランは弱い。すぐに倒せる。けれどそう思っても、つい先日ヒーロー殺しの一件で個性を使用することを注意されたばかりだ。2人は目配せし、どうにか個性を使わずに対処出来ないかと思案する。


「リア充なんか滅んじまえ!!」


何も解決策が見つからないうちにヴィランは口から何かを飛ばした。2人はそれを難なく避けるが、白はこれ以上ないほどに顔をしかめる。


「ちょっと!?焦凍くんにそんな汚いもの飛ばさないでくれる!?私の焦凍くんが穢れる!!」
「汚いって!!穢れるってなんだよ!?俺の個性までバカにすんじゃねえええええ!!」


怒りによって次々に吐き出される攻撃を2人は反撃できずにかわしていく。無意識の煽りのお陰でヴィランの攻撃は大雑把になり当たらない。けれど地面へ落ちた液体は消えずにそこに残ったままだ。狭い場所のせいでそれを踏んでしまい、白がバランスを崩す。


「うっそでしょ…!」


そのまま滑って尻餅を尽く。地面を凍らせてしまえばこんなものと、そうは思ってももしその光景をヒーロー関係の人間に見られてしまえば、双子の兄に迷惑をかけてしまうかもしれない。白は眉をひそめてなんとか立ち上がろうとする。


「白!」


少しだけ焦った轟の声。心配しているその声音に笑顔で顔を向けたが、その笑顔はすぐに崩れることになる。
ヴィランが轟に標的を定めていたから。


「焦凍くんダメ!」


一瞬だけ氷結を使って轟の方へ勢いよく飛ぶ。そのままフォローに入ろうとした轟を突き飛ばした。


「っ!」


突き飛ばされた轟の目の前で、白はヴィランの攻撃を受けた。
スローモーションのように見えたそれに大きく目を見開く。


「白!!」


攻撃を受け地面へ倒れてしまった白の名を必死に呼ぶ。けれど、いつも名前を呼べば嬉しそうに返事をする白からの返事は返ってこない。


「白!おい、白!!」


すぐさま白に走りよると、まだ意識はあるようだった。ほっとする轟の後ろでヴィランは再び轟に標的を定めたが、ようやく現れたプロヒーローたちに取り押さえられる。これでもう轟は傷付かない。大丈夫だ。そう思うと安心して意識が遠退いていく。


「白、大丈夫か!しっかりしろ!」
(大丈夫だよって…抱き着きたいなぁ…あわよくばお姫様抱っこで…運ばれ…たい…)


自分の名を必死に呼ぶ双子の兄に力なく微笑み、大好きなその声を聞きながら白は意識を手放した。


◇◆◇

雄英高校が近かったからという理由で意識を失っていた白は保健室へ運ばれ、しばらくしてようやく目を覚ました。ぼーっとする白がいるベッドの隣には、轟とリカバリーガールが安心した表情を浮かべている。


「白、起きたか…良かった…」
「やっと起きたんだね」
「……」
「どうしたんだい?どこか痛い所でもあるのかい?」
「……」


何も答えない白の焦点は定まっていなかった。外傷はなかったはずだけれど、ヴィランの個性にやられたのかもしれない。普段の冷静な姿からは予想できないほど焦っている轟はリカバリーガールに視線を向けた。リカバリーガールは頷いてもう一度診察しようとしたとき、ガラッと保健室の扉が開く。


「おい離せ俺は帰んだよ!!」
「まあまあついでだって」
「お、白目覚ましてんじゃん」
「ヴィランにやられたって?大丈夫かー?」


保健室の扉を開け入ってきたのは爆豪、切島、上鳴、瀬呂の4人だ。約1名は不本意そうな表情を浮かべている。


「たまたまプロヒーローが"紅白の髪色をした男女の双子を助けた"話してるの聞いてよ。心配して来てやったぜ」
「それだけでよく俺たちだって分かったな」
「君たちみたいな特徴の双子なんて滅多にいないからね」
「そうか?」


きょとんと首を傾げる轟に上鳴たちは渇いた笑いをもらし、白へと視線を向ける。


「んで?白は大丈夫か?」
「……」
「おい白がすげー静かだぞ…」
「風邪引いてもやかましい奴なのに大人しいとか超怖ぇ…」
「白ちゃーん、起きてまーすかー」


瀬呂が目の前でひらひらと手を振ってもまるで反応がない。さすがに本気で心配した3人が顔を見合わせると、爆豪がずかずかとベッドへ近付いた。そのまま白の胸倉を掴んで至近距離で睨みつける。


「おいこらブラコン女。てめぇさっきから何黙り込んでやがんだ」
「……」


焦点の合っていなかった白の瞳が初めて人を、爆豪を映す。とろんとした瞳に違和感を感じて離れようとしたが、いつの間にか首に手を回されて固定されていた。


「………は?」


固まるのは爆豪だけでなく見ている4人もだ。その間に白の顔はゆっくりと爆豪に近付いた。まるで、キスでもするかのように。
唇が触れる寸前に爆豪は全力で腕を振り払い距離を取った。何事だと目を白黒させる。


「……」
「え!?は!?白!?おま、いま爆豪に…?はぁ!?」
「おいしっかりしろ!大丈夫か?」


そう言って肩を掴んだ切島が、今度は白の瞳に映った。瞬間にとろんとした瞳で笑った白は、爆豪のときと同じように切島の首に腕を回す。


「はぁ!?ちょ、ま、待て白!おまえ何やってんだよ!」
「えへへ〜、きりしまとちゅ〜」
「はぁ!?!?」


重なる上鳴と瀬呂の声。
轟は声も出せずにただ驚いた表情でその様子を見ている。状況が理解できずに動けないのだ。
ふにゃふにゃとした可愛らしい笑顔には、いつもの轟焦凍命!の様子は見られない。まるで別人の白に戸惑うのは仕方がないだろう。


「ま、待て待て待て待て!!」
「ちゅ〜」


キスを強請る白の両頬を挟んでなんとか食い止める。けれど白はぐいぐいと攻めてくるのをやめない。助けを求めるように切島は上鳴たちに視線を向けた。


「切島てめぇ!!」
「抜け駆けか!!」
「何の話だよ!!相手は白だぞ!?」
「顔は良いだろうが顔は!あとスタイルも!」
「そんな顔とスタイルが良い女子に迫られるとか峰田が見たら呪い殺されるぞ!!」
「その前にここでキスなんてしちまったら轟に殺されるっての!!なんとかしてくれ!!」


女子相手に手荒な真似が出来るはずもなく、切島は防ぐのに精一杯だった。だから上鳴たちにどうにかしてくれと助けを求める。しかし、その2人が動く前に片腕を振りかぶった爆豪を視界の隅に捉えた。


「っ!?」


何が起こるか察した切島は白を突き飛ばして距離を取る。次の瞬間には目の前で爆発が起きていた。


「お、おい爆豪!今白に思いっきり攻撃するつもりだったろ!?」
「ああ?てめェが何とかしてくれって言ったんだろうが」
「相手は白なんだからもうちょい優しく頼むぜ!」
「相手があいつだから手加減なんかいらねぇんだろうが!」


爆豪はにやりと口角を上げた。とても悪い顔をしている。


「さっきは気持ち悪ィことしやがって…覚悟は出来てんだろうなァ」
「爆豪ちゅ〜」
「うぜぇ!!きめぇ!!殺す!!」


懲りていない白は爆豪に向かって両手を伸ばしてふらふらと寄っていく。危険だと判断した上鳴と瀬呂でその行く手を阻んだ。


「はいはい、大人しくしてような〜」
「爆豪にちゅーとか命知らず過ぎるだろ…」


宥める瀬呂と呆れる上鳴。そんな2人を白は再びとろんとした瞳で見つめていた。すぐにこれはやばいと察する。


「せろ〜ちゅ〜」
「たんまたんまたんまたんま!!」
「じゃあかみなり〜ちゅ〜」
「え、え、ちゅ、ちゅー…?」
「満更でもない顔してんな!後々地獄を見ることになるぞ!?」


慣れない上鳴は戸惑っているうちに白に捕まってしまう。首に手を回されてからやばいと気付き、上鳴も必死に白の顔を抑えた。


「なあリカバリーガール!これどうなってんだよ!?白どうしちまったんだ!?」
「ただ酔っ払ってるだけだよ」
「……は?」


一瞬でその場は固まる。


「ヴィランの個性を受けたんだろう?その影響だね。酔っ払ってるのさ。」
「え、だ、だってキスしようと…操られてるもかじゃねぇの…?」
「酔っ払ったらキス魔になる子もいるからね。操られてる可能性はゼロだよ」
「マジかよ…」
「ちゅ〜」
「って、待て待て待て酔ってるからってちゅーはやばいちゅーは!美味しいけど俺の命がかかってるからマジでやめて下さい…!」


グイグイとキスを迫られる上鳴、白を引き離そうとする瀬呂、殺す勢いで攻撃態勢に入る爆豪と、それを止める切島。保健室の中は大変なことになっている。酔いが覚めるまで待つしかないかと、そう諦めてリカバリーガールが溜息をついたとき、ようやく隣で固まっていた轟が動いた。

スタスタと白たちに近付き、上鳴の首に回されていた腕を取る。ぽかんとする面々を気にせずに、そのまま自身の首へと腕を回させた。先程まで上鳴のいた立場が轟になり、上鳴たちは驚きが隠せない。けれど轟はいつものように表情を崩さなかった。それは白も同様で。


「そんなにキスしてぇなら俺にしろ」
「はぁ!?」
「お、お前ら兄妹だろ!?な、何言っちゃってんの!?」
「兄妹だからなんだ。目の前で他の男とキスすんのなんか見てられるわけねぇだろ」
「いやいやいやお前、シスコンも大概にしとけって…キスすんの止めれば良いだけなのに態々自分とさせるなんて…」
「俺は問題ない。白もそうだろ」


真っ直ぐに熱い瞳で見つめる轟に、白はふにゃりと今までで1番の嬉しそうな笑みを浮かべた。


「うん!しょーとくんだーいすき〜!」


まだ若干舌ったらずのまま、とろんとした瞳で首に回った腕に力を入れて顔を近付ける。轟も白の後頭部に手を回した。目の前で、双子の兄妹が、今まさにキスを。
その光景に爆豪は嫌悪を示すがそれ以外は全員釘付けになる。
そして、同じ色の髪を絡ませながら2人の唇が触れ合った。深く、深く。

◇◆◇

その後、白にかかっていた個性は無事に解け、翌日からいつも通り騒がしく戻る。個性がかかっていたときの記憶はすっぽりに抜け落ちているらしいが、轟に怪我がないことから本人は特にそこの記憶に興味はないらしい。せっかく白の大好きな兄とキスが出来たというのに、そこは覚えていない。誰もそれを白に伝えることはなかった。否、伝えられなかった。
轟もいつも通りでギクシャクすることないが、知っている者は居た堪れない状況だ。それほどにあの深いキスは印象的だったのだ。


「…まあ、あの双子ならそのうち素面でもやりそうだしお互い知っても問題なさそうだけど」


面白いものを見れたことに瀬呂は喉でくつくつと笑う。双子同士のキスもそうだが、真っ赤になっていた上鳴と切島の顔は今思い出しても笑ってしまう。


「爆豪だけは嫌悪丸出しだったけど、あの双子なら気にしねぇもんな」


今日も平常運転でイチャつく双子を見て、瀬呂は呆れたように笑うのだった。


end
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まず初めに1A男子全員出せなくてすみません!全員にしようとしたら予想外にまとまらなくて…申し訳ないです。あと双子妹は短編で書いた子で良かったのかな…?
家族関係の夢はどこまで書いていいのか非常に悩むところですね。私は近親相姦大好きですが!
だからキスの描写は軽めに、けどちゃんとキスさせた感じで…!
ガッツリやっていいなら双子で普通に恋人みたいなこといつかさせたい。
よくあるご都合個性でした〜!!

title:きみのとなりで

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