こっちの方がいい


「白、どうしたの?」


いつも通りの街中散策と言う名のデートをしている最中、ぴたりと足を止めて動かなくなった白に緑谷は声をかけた。しかし白はその声には答えずにある一点をじっと見つめている。首を傾げてもう一度声をかけた。


「白?」
「出久、大変」
「え?」
「動物、捕まってる」


捕まっているという言葉に大きく反応し、白の視線を辿った緑谷だが、そこに見えたものに緊迫した表情は苦笑に変わった。


「はは、なんだ、ペットショップのことか…」
「ペットショップ…?」
「うん、あれは別に捕まってるわけじゃないよ」
「でも、箱の中に入れられてる」
「あれはえっと…ペット……そう、新しい家族を探してるお店屋さんなんだ」
「……ペット…家族………人身売買?」
「違うよ!?」


思わぬ言葉が白の口から飛び出し、緑谷は慌てて否定する。


「闇オークションってもの?」
「だから違うよ!?どこでそんな言葉覚えてきたの!?」
「踏影が言ってた」
「と、常闇くん…」


常闇の発言だけでなく、いろんな人の言葉を間に受けてしまう白は妙な言葉をたくさん覚えていた。それに驚かされることが多く頭を抱える。


「…助けなくて、いいの?」
「あれは悪いことじゃないからいいんだよ」


白の言葉に表情を和らげ、緑谷は優しい表情で白を見つめる。まだどこか納得していない様子を見て、ぽんっと手を叩いた。


「うん!実際見てみた方が早いね!」
「見る?」
「ペットショップに行こう!」


笑顔で白の手を取った緑谷はそのままその手を引いてペットショップへと向かって行く。白はぱちぱちと瞬いたあと、引かれるがままについて行った。初めての場所に少し楽しみにしている自分を感じながら。

自動ドアを通り、奥から「いらっしゃいませ」の言葉を聞きながらペットショップの中へ入る。無意識なのか2人は手を繋いだままだ。


「…いっぱい、捕まってる」


たくさんの鳴き声が聞こえる店内を見回し、ぽつりと溢した白に緑谷は苦笑する。


「た、確かに捕まってるように見えるのかな…?」
「見える、けど…みんな、助けを求める顔、してない」
「…うん、そうだね」


白に影響を与えているのは、もちろん緑谷も同じだ。それどころか他のみんなよりも白に影響を与えているのは間違いないだろう。だからこそ、白は緑谷を見習うようになっていた。そのことに自然と頬が緩み、繋いでる手に力が入る。


「って、え、あ!?て、ててて、手…!ご、ごめん!!」


そこでようやく手を繋いでいたままだったことを思い出し、慌てて離した。そして必死に弁解の言葉を並べていたが、はっと何かに気付いた白は緑谷から離れてケージに向かう。


「出久、出久」
「へ?え、な、何?」


白が気にしていなかったことを残念に思いつつも安心し、自身を呼ぶ白に近付いた。白は1匹の猫を見つめている。


「猫」
「う、うん、猫…だね」


ケージの中で他の猫にしゃーしゃーと威嚇している猫だった。とても既視感があり顔が引きつる。


「この猫、勝己に似てる」


毛を逆立てて威嚇する猫に感じた既視感はそれかと妙に納得した。


「あはは、本当だね。じゃあこっちの威嚇されてるのに寝てるのは轟くんかな?」
「うん、焦凍に似てる」


威嚇する猫を全く相手にせずに寝ている猫はまさに轟だった。白は興味津々といったように動物たちを真剣に見つめていた。


「あれ、天哉みたい」
「本当だ!あ、あれは上鳴くんと切島くんみたいだ!」
「うん。百と響香もいる」
「みたいが抜けてきたね」
「あ、梅雨がいる」
「ってあっち猫じゃなくて蛙!?まんまだね!?」


クラスのみんなと似ている動物を見つけ、それを緑谷に報告しては共感されたりつっこまれたりと、白はどこか楽しそうだった。
更にそこからB組の生徒や先生たち、プロヒーローたちの名前までもが上がり始める。人脈の広くなった白に嬉しくなり、優しく微笑んだ。


「出久、オールマイトがいる」
「え!?オールマイト!?ど、どこに…」
「あそこ」


そう言って白が指を差した先は小動物コーナー。オールマイトと呼ばれたものが何かが分かった。


「うさぎだね」
「出久のヒーローコスチューム」
「うさぎモデルではないよ!?」


2人のやり取りを聞いていた店員がくすくすと笑いながら、1羽のうさぎを抱えて近付いてきた。


「良かったら抱っこしてみますか?」
「わ、良いんですか?」
「ええ、どうぞ」
「だって。白、手を…」


白はすっと店員から距離を取って緑谷の後ろに隠れた。白は人見知りというわけではない。警戒しているわけでもない。ただ、うさぎを避けているように見える。


「もしかして、うさぎ…嫌い?」


その問いかけにはふるふると首を横に振った。


「…動物、扱い方、分からない」


恐る恐るといった様子の白を安心させるように微笑み、緑谷は店員からうさぎを受け取った。うさぎを抱いて白に向き直る。


「乱暴に扱わなきゃ大丈夫だよ」
「…う、ん」


見る分には問題ないけれど、触れるとなれば別だ。今まで関わってきたことがないためにどう接していいか分からない。分からないけれど、緑谷が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。そう信じて緑谷の抱くうさぎにゆっくりと手を伸ばした。そっと、うさぎの身体に触れる。


「……ふわふわ」
「ははっ、でしょ?もこもこのふわふわで可愛いね!」
「……」


ふわふわのうさぎと、そのうさぎを抱えて笑う緑谷を交互に見つめた。数回視線を往復させたあと、うんっと頷く。


「似てる」
「え?」


きょとんと白を見つめた緑谷に、白はゆっくりと手を伸ばした。伸ばした手は今度はうさぎではなく、そのまま緑谷の頭へと向かう。


「ふわふわ、似てる」
「!?」


伸ばされた手は、ぽすっと緑谷の頭に触れた。そしてふわふわの髪の感触を確かめるように何度も撫でる。撫でられるなど滅多にない上に、その相手が白のせいで緑谷は硬直して動けなくなるが、白は構わずに撫で続けた。


「うさぎ、ふわふわだけど、私は出久のふわふわの方がいい」
「!?」


白の言葉に大きく動揺して言葉を失う。思わず身体に力が入り、抱えているうさぎを潰してしまいそうになるのを何とか耐えた。けれど白が頭を撫でる手は止まらない。様々な気持ちが爆発しそうになり、緑谷はバッと今だに頭を撫でていた白の手を取った。その手を握ったまま真っ直ぐに白を見つめる。


「…っ、ぼ、僕は…!」
「?」


真っ赤な顔で震える声を出した緑谷に首を傾げ、その続きを待つ。
握っていた手をゆっくりと離し、白へと手が伸ばされる。そのままそっと、白の髪へと触れた。僅かに白の瞳が大きく開かれる。


「僕、は……白の綺麗な髪の方が、す、…すすす、…好き…っだよ…!」


顔を真っ赤に染めながらもその瞳は真剣で。精一杯の気持ちを伝えながら、緑谷は先ほどの白と同じように頭を撫でる。さらさらと指を通る柔らかな髪は、改めて触れると動物よりも癖になるものだと感じ、何度も往復する。そのうちに段々と愛しさが溢れ、照れていたのがまるで嘘のように、とても優しい表情を浮かべた。


「……」


白は撫でられる心地良さに身を委ね、瞼を閉じる。理由は分からないけれど、心が満たされていくようだった。


「………うん。私も、出久に撫でられるの…好き」


それだけは確かな気持ちだった。ずっとこの時間が続けば良いと思うほどに。動物たちに見守られながら、2人はしばらく2人だけの世界を過ごすのだった。

end
ーーーーー
100万hitリクエスト企画1発目から落ちが迷子ですみません!店員さん見てるよーーー!!すぐ近くでめっちゃ見てるよーーー!!まあ若気の至りと思って見守ってくれてるはず()

もこもこなウサギ抱える出久という内容に想像だけではちゃめちゃ萌えましたありがとうございます…!
少しでもご希望に沿えていれば幸いです!
ありがとうございました!

[ 7/33 ]

back