ぺご主とヒーロー

不良に絡まれた際、何も考えなければ返り討ちにすることは造作もない。シャドウ相手ではなく普通の人間なのだから。けれど、人間だからこそ手が出せない理由もあった。
蓮は現在自分が保護観察の身であることを自覚し、どうしたものかと目の前の不良たちに視線を向ける。


「てめぇなんだよその目?あ?何睨んでんだって言ってんだろうが!」


睨んでいるわけではなく、ただ目付きが悪いだけなのだが、そう反論しても相手は聞く耳を持たないだろう。そんな話が簡単に通じる相手ならば、通りすがっただけの蓮にガンをつけたなど因縁をつけないはずだ。


「おいダンマリか?」
「……」
「んなムカつく目ェしやがってよぉ…言いたいことあるならはっきり言えやコラ!!」
「だったら言わせてもらうが、」


胸倉を掴まれて拳を覚悟したが、突如として聞こえた第三者の声にぱちぱちと瞬く。


「今すぐその汚い手を話せ」
「あ?なんだてめ……ぐはっ」


颯爽と現れた人物は、その身体からは想像も出来ないような力で相手を殴り飛ばした。不良は綺麗な弧を描いて派手に吹っ飛び、大きな音を立ててゴミ捨て場へと突っ込む。他の不良たちは驚いてその第三者に視線を向けた。


「彼は私の連れだ。まだ何か用があるなら私が話を聞くが…どうする?」
「てんめぇ…このクソアマァ!!」
「お、おい待て!こ、こいつもしかして…秀尽の怪物じゃねぇか…!?」
「怪物とはとんだ言われようだな」
「や、やべぇぞ関わんな!行くぞ!」


そういうや否や、不良たちは転びそうになりながら慌ててその場を逃げて行った。それを見送り、秀尽の怪物と呼ばれた白は1つ息をつき、蓮を振り返る。


「蓮、大丈夫だったか?」
「え、あ…う、うん」
「なら良かったが…おまえは不良に絡まれる才能でもあるのか?」
「ないと思いたい」


先日も同じような状況で助けてもらったばかりのため、否定する言葉は出なかった。苦笑するしかない。そんな蓮につられてか白も呆れたように笑う。


「全く、おまえはただでさえ可愛い顔してるんだ、気を付けろ」
「可愛いって…俺より白の方が…」
「ん?私がなんだ?」
「…なんでもないです」


白の方が可愛い。本当にそう思っている。けれどいつも助けてもらってばかりの相手に言える言葉ではなかった。


(…むしろかっこいい、なのか)


蓮を助ける姿はさながらヒーローだ。整った顔立ちで誰にでも優しく男前。学校では女子からの人気も高く、ファンクラブまで出来ているほどだ。前科者と避けられる自分とはまるで正反対で関わることはないとは思っていたが、何故かよく助けられてしまう。そして助けられるたびに惹かれ、憧れから好意へと変わったことを自覚していた。


(助けられてときめくって…乙女か。絶対みんなには言えないな)


心の中でツッコミ、怪盗団の仲間に見られていないことにほっとする。ジョーカーとしてこんな姿は見せられない。


「蓮、どうした?」
「え?」
「いつにも増してぼーっとしてるぞ」
「ああ、ちょっと…」
「なんだ、私に惚れたか?」
「!」


図星を突かれて思わず言葉に詰まる。感の良い白のことだ、こんな反応をすればすぐにバレてしまうと思うのに、動揺して早まる鼓動は抑えられない。
そんな蓮の反応に、白は目を細めて口角を上げた。


「ほう?」
「い、いや…俺は…」
「本当に君は可愛いな」
「…っ、頼むから、可愛いとか言わないでくれ…」
「ははっ、仕方ないだろう?」


事実だ、と綺麗な笑みを浮かべ、白は蓮の横を通り過ぎて歩いて行く。


「白…?」
「お姫様を自宅まで送り届けたい所だが、あいにくとこれから用があってな。悪い、私はこれで失礼するぞ」
「お姫様って…俺をそんな扱いするの白くらいだぞ」
「それは光栄だな」
「何がだ」
「君の騎士は私だけだと言うことだろう?」
「…そうなるな」
「まあ、他の奴に譲る気もないがな」


また綺麗に微笑まれ、言葉を失う。いちいちときめくことをやめたいと思うのに心は正直だった。


「用はあるが、また君がピンチになるようならいつでも助けに来る。だから何かあったら私を呼べ。いいな」
「……ああ、ありがとう」


男としては不服だけれど、その言葉が嬉しいとも思ってしまう。蓮の返事に満足して頷いた白は「またな」と一言残してその場を去って行った。


「……さて、ここからは助けられてばかりじゃいられないな」


眼鏡をくいっと上げ、渋谷駅へと向かった。心の怪盗団の仕事を遂行させるために。

◇◆◇


「ちっ」


シャドウの攻撃をギリギリで避け、ジョーカーは1つ舌打ちをした。メメントスで強い敵に襲われ、仲間たちは散り散りになってしまい、今はジョーカー1人だ。ナビの指示で1人ずつモルガナが回収して回っていることに安心しつつ、目の前のシャドウをどうするかと思考を巡らせる。何度もペルソナを変えて攻撃をするが、どれも今ひとつで追い詰められていくばかりだ。


「ナビがみんなの居場所をサーチしている間は手は借りられないか」


もう一度ペルソナチェンジをしようとしたところで、シャドウが攻撃を放った。ちょうど弱点属性だったそれを受けてしまい、ジョーカーはダウンする。


「く…っ!」


再び同じ攻撃態勢に入ったシャドウを視界に捉えるが、まだ動くことが出来ない。そしてシャドウが攻撃を放つ。迫り来る攻撃にここまでかと覚悟を決め、敵の攻撃を見据えた。

けれど、その攻撃は突然現れた影によって相殺される。


「…?」


目の前に降り立ったのは、見たことのない人物。自分たちと同じように反逆の意志をその服装へと変え、仮面をつけている。パレスで目撃情報のあった黒い仮面の男ではない。だからこの認知世界では知らないはずなのに、その背中にはどこか見覚えがあった。


「全く、ピンチのときは私を呼べと言っただろう」
「…!その、声…」


何度も助けられるときに聞いた声。それを聞き間違えるはずがない。その背中も、その声も、該当する人物と重なった。


「白…!?ど、どうしてここに…」
「話は後だ。まずはあいつを片付けるぞ」
「……ああ」


なんとか立ち上がったジョーカーは態勢を立て直し、再び戦闘態勢に入る。体力はほぼない。けれど、絶対に負けない自信があった。いつも助けてくれる騎士がついているのだから。


「行くぞ、蓮」
「…ジョーカーだ」


せめてもの強がりでそう言い返し、2人は地を蹴った。


◇◆◇

地面へと倒れ消えたシャドウを確認し、2人はほっと息をついた。怪盗団全員でも苦戦したシャドウだが、白の強さは予想以上でさすがとしか言いようがない。
改めて白にお礼を言おうと近付こうとしたところでガクンっと膝が崩れる。


「蓮!」


すぐに気付いた白に身体を支えられ、そのままゆっくりと地面に腰を下ろした。


「…悪い」
「構わないさ。怪我をしたのか?」
「少し捻っただけだ。問題ない。仲間と合流すれば回復してもらえ……っ!?」


途端に浮いた身体。自分よりも上にある白の整った顔。状況が理解出来ないままぽかんと白を見つめた。白はとても良い笑顔を浮かべている。
そして段々と今の状況を理解して目を見開いた。今の状況、お姫様抱っこされているその事実に。


「な…っ!」
「細い細いとは思ってたが、予想以上に軽いな」
「細いからって普通女子が、男子をこんな…お、お姫…も、持ち上げることなんて出来ないだろ…!」
「ここは認知の世界だぞ?私が君を抱けると思えば抱けるんだ」
「だ、抱く…!?」
「なんて、ただ強化してるだけだがな」


綺麗に微笑む姿に顔が熱くなり、赤くなっているであろう顔を見られないように両手で顔を覆った。


「逆の立場なら良かったのに…」
「残念だったな。行くぞ、あいにく私は回復技は習得していないんだ。君の仲間に頼むしかない」


お姫様抱っこのまま進む白に何とも言えない気持ちになる。鼓動が高鳴ったのは気のせいだと思いたいと現実逃避をしようにも、しっかりと回された腕に意識しないようには無理だった。


「これを仲間に見られるのか…」
「嫌か?」
「さすがに男として立ち直れない」
「普段から可愛いくせに今更何を言っているんだ」
「俺のこと可愛いなんていうのは白くらいだよ」
「それは光栄だな」
「何がだ」


つい最近どこかでやったやり取りにまた同じ答えが返ってくる。そう思っていた。


「私は君が私にしか見せていない一面があるのは嬉しいからな」
「!」


にやりとどこか妖艶な笑みを浮かべられ、ぐっと言葉に詰まる。慌てて視線を逸らした。それでもきっと真っ赤になっている顔は見られているのだろう。


「安心しろ。仲間の所に着く前には降ろしてやる。今は私を頼っていろ」
「……よろしく、お願いします」
「ああ、任せておけ」


認知世界なら、ジョーカーとしては自他共に認めるほど格好良いと思っていたけれど、白より男らしく格好良くなれる日は、遥か遠い未来かもしれない。
ドキドキと高鳴り続ける胸に、あとで怪盗団の仲間も含めて白が何故こちらの世界にいるかを聞かなければと、無駄な現実逃避をした。


end
ーーーーー
攻め夢主の受けぺご主!……は、これで良いのかな…?あまり乙女思考にならなかった…!
攻め夢主ってあまり…というか書かないから正解が分からない…でも意外と楽しかった…!
夢主の性格は格好いい女性を目指したけど口調は男勝りの方が良かったかな?私はどっちも好きです(?)格好いい女性は大好き…!
かなり省いたから皆様の脳内補完にお任せします…!

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