僕の世界が揺れた時、

モブがめっちゃ出ます。
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「好きです!付き合って下さい!」


果たしそれは自分に向けられた言葉なのだろうかと、辺りを見回しても自分と目の前の人物以外に誰もいない。もう一度周りを見るも、やはり自分たち以外誰もいなかった。
目の前の知らない男子生徒に呼び出されたかと思うとこれだ。こんな初めての経験に頭が追いついていない。


「………えぇ!?」


そしてたっぷり大きく間を空けて驚く。


「速見さんのことが好きなんだ…!」
「え!?な、えぇ!?だ、だだだ誰か別の人と勘違いしてないですか…?私そんな人から好かれるような人間じゃ…」
「俺は1人の女性として速見さんが好きなんだ!」
「…!?!?」


真っ直ぐに真剣な瞳で見つめられてパニックを起こす。何がなんなんだとやはり頭はこの状況を処理しきれない。けれど過るのは恋人のことだった。


「ご、ごめんなさい…!」


本当に自分に告白しているのか未だに疑問だけれど、そうだとしたら断らなければいけない。自分にはとても大好きな人がいるのだから。


「え…?」
「わ、私、好きな人が……つ、つつ、付き合っている人がいるので…!」
「彼氏いるの!?…誰…?」
「それは、えっと…」


付き合い始めたばかりのせいか、未だに口にするのも恥ずかしい。ファンクラブまであるほどの人気者、烏丸京介が彼氏だという事実を。
名前を言うことすら恥ずかしく戸惑っていると、男子生徒は頭を抱えた。


「あ、ちょ、待って。ちょっと落ち着く。彼氏…彼氏か……これはフラれたってことか…」
「す、すみません…」
「……いや、いいよ」


少しだけ心が痛んだ。好きな相手からこんなことを言われたら誰だって傷付く。もし自分が烏丸に言われたらと思うとそれだけで泣いてしまいそうなほどに。俯く男子生徒へどう声をかけるべきか悩んでいると、その男子生徒は勢いよく顔を上げた。その顔はまるで悲しんでなどおらず、何故か活き活きとしている。


「うん、決めた。俺は諦めないから」
「…へ…?」
「速見さんの彼氏より良い男だって証明すれば、きっと君は俺に振り向いてくれるよね」
「えぇ!?い、いやあの…」
「俺、誰よりも…その彼氏より速見さんを好きな自信あるよ」
「…!?」
「だから速見さんに俺のこと好きになってもらう!そう決めた!」


1人勝手に話を進めてしまう男子生徒におろおろしてしまう。こんなにガンガンと攻めてくるタイプは初めてでどう対応していいのか分からない。自分はしっかりと断ったはずだけれど、もっとキツイ言い方をしなければいけないのか。そう考えて躊躇する。出来れば傷付けずに済ませたい、と。


「そ、そういうこと、ではなく…て…えっと…なんと言えばいいのか…その…」
「とりあえず今日は心の整理するために帰るけど諦めないから。俺のこと分かってもらって、それで好きになってもらう」


そう言い切る姿は格好いいというよりも自分には出来ないことだからと憧れてしまうけれど、そうじゃない。そうじゃないのだとツッコミたい。そう思うけれど白にそんなツッコミスキル備わっていなかった。


「それじゃ速見さん、また明日!」


男子生徒は爽やかにかっと笑って走っていく。その笑顔はまるで少女漫画にでも出てきそうな雰囲気だった。もし自分が烏丸と出会っていなければ惹かれていたかもしれない。あくまでもしもの話だけれど。


「行っちゃった…」


男子生徒を見送った白はしばらく固まっていたが、男子生徒が言っていた言葉をよくよく思い出す。考えれば考えるほど頭の中はごちゃごちゃでまとまらなかった。どうしよう。嘘だよね?夢かな?夢だ。うん、夢。そう心の中で葛藤し、無理矢理に納得した。

そして次の日。烏丸は朝から防衛任務があったらしく、別々での登校して校門をくぐると、後ろから白の名前を呼ぶ声が聞こえた。思わずびくりと肩を跳ねさせる。


「速見さんおはよう!気持ちは変わった?俺は君のこと凄い好きだよ!」
「へぁ!?」


驚いて奇声を上げる白に彼は笑う。とても爽やかに。


「本当に可愛いなぁ…俺は速見さんのそういうところが好きだ。だから付き合って下さい!」
「ままままま、まま待って、くださ…っ、あの…!だ、だから…、その、わ、私には、もう、その…つ、つつつ、付き、付き合っている人が…」
「知ってるよ。そうだ、昨日聞きそびれたけど彼氏って結局誰?」


昨日よりも随分と積極的に攻めてくる彼に戸惑っていたが、彼氏という単語にすぐさま頭の中は烏丸でいっぱいになる。そしてすーっと頬が赤く染まった。


「……誰?」


そんな反応に気付かないはずもなく、男子生徒は少しだけ目を細めた。白をそうまでさせる彼氏は一体どんな人物なのかと。


「えっと、…べ、別のクラスの…か、か…かか、すま、くんです…」
「かかすま…?誰だろ。俺の知らないやつかな」
「か、か、ら…!すま、くんです…!」
「…………え。まさか…烏丸のこと言ってる?」
「は、い…」


白の返事に彼は笑った。それはもうとてもおかしそうに。有り得ないとでもいうように。自分でもそう思っているために反論出来なかった。


「速見さんもそんな冗談言うんだね」
「いえ、嘘のような話だけど冗談では…」
「そうか、速見さんにはそのくらいのレベルに見える彼氏なのか。ならなかなか振り向いてくれないのも仕方ないね」


彼は1人納得している。全然違うことで。烏丸京介本人だということはまるで信じていない。


「烏丸は相当レベル高いけど、速見さんが好きになってくれるなら俺は頑張るよ。そいつみたいな男になる」
「え…」
「好みのタイプは烏丸ってこと?それは顔?性格?彼氏がそれに近い感じ?」
「え、あ…」
「俺、速見さんを好きな気持ちは誰にも負けないつもりだよ」


何とも思っていない相手だとしても、そんなことを言われて照れないはずがない。白の頬が薄っすらと赤く染まった。


「…可能性はアリって思っていい?」
「え!?ち、ちが…!」
「へへっ、ちょっと…いやかなり嬉しいや。じゃあまた後でね!」


彼は嬉しそうにはにかみながら走って行った。取り残された白はぽかんとしてしまう。あんなに嬉しそうな顔をされたら余計に強く言いづらい。一体どうすれば良いのかと大きな溜息をつき、とぼとぼと自身の教室へと向かって行くのだった。

◇◆◇


放課後はお互いに任務は入っておらず、一緒に下校することになった。それだけでいつもなら心浮かれてしまうが、今日は引っかかることがあるせいで足取りは重かった。
そんな様子を見た烏丸は、学校を出て一通りが少なくなると口を開いた。


「告白、されたらしいな」
「へ!?!?」


突然の言葉に驚きを隠せない。頬を染めて固まる白に烏丸は小さく息をつく。


「佐鳥に聞いた。別のクラスのやつが白に告白して迫ってるって」
「…は、はい」
「俺と付き合ってるって言ってないのか?」
「い、いいい言ったよ!か、から、す、まくん…と、つ、付き合ってる…って…!」
「そしたら?」
「……信じてもらえませんでした」


自分でも信じてもらえるとは思っていないせいかそれは笑い話だったのだけれど、烏丸はどこか怒っているように見えた。無表情の中に怒りを感じ、白は首を傾げる。


「か、烏丸くん…?」
「信じてもらえないで終わらせたのか」
「…は、はい…すみません…」


言葉にはどこか棘があった。やはり怒っていると実感する。


「俺と付き合ってるって胸を張ってはっきり言えばいいだろ」
「い、言ったよ!
「諦めてないなら意味ないだろ。彼氏がいることすら疑われたら相手の行動はもっと過剰になっていくぞ」
「…わ、分かっては、いるんだけど…」


そう。ちゃんと分かっている。分かってはいるけれど、自分も片想いしていた時期があるせいか気持ちは痛いほど分かるのだ。だからキツく言うことが出来ない。それがどれほど辛いことか分かるから。
けれど言わなければいけない。そうしなければ烏丸とこんな風に喧嘩のような言い合いになってしまうから。ピリピリとした今みたいな雰囲気は嫌だ。嫌われたら嫌だ。それだけは避けたい。そのまま離れてしまうことになるのは絶対に嫌だと拳を強く握り締めた。


(烏丸くんに、嫌われたくない…そのためにあの人を傷付けないといけない…)


白にとっては厳しい選択だった。けれどその選択をしなければ烏丸と一緒にはいられなくなる。また、見ているだけになってしまう。せっかく想いが実ったのに。


「…っ」


俯くとネガティブなことばかりが頭を過ぎり、瞳に涙が浮かんだ。


「…っ、も、もう一度ちゃんと断ってきますね!いってきます!」


浮かんでしまった涙が溢れる前に早口に言い切り、白は踵を返して走って行く。直後に涙が頬を伝った。烏丸の前で泣かずに済んで良かったと思うと、次から次へと涙が溢れていった。烏丸に嫌われるという最悪の事態が頭から離れずに。


「速見さん…?」


しばらく走ると、白の名を呼ぶ声と同時に腕を掴まれた。白は驚いて振り返ると、そこには白に告白をした男子生徒が瞬いていた。


「え…どうしたの?何で泣いてるの?」
「!…こ、これは違くて…」
「さっき男帰ってたよね?まさかそいつ…彼氏に泣かされたの?」
「ち、違うの、私が勝手に…」
「俺なら君を泣かせたりしないよ。俺なら君を幸せにしてあげられる。だから俺にしなよ…ねぇ」
「…っ、あの、離して…っ」


掴まれた腕を引かれて迫られる。言葉は優しいけれど行動は強引だった。無理矢理迫ってくる彼に恐怖を感じる。
これも自分がはっきりと断らなかったせいだと自己嫌悪しながら逃げようとするも、痛いほどに掴まれた腕にそれは叶わない。
恐怖にぎゅっと目を閉じると、ぽろりと涙が溢れた。


「…っ!」


すると、掴まれていた腕と反対の腕を掴まれて、ぐいっと引かれる。力は強いのにどこか優しく。先ほど男子生徒の手が離れると、ぽすんっと暖かいものに包まれた。


「俺の恋人に手出さないでもらえるか」


頭上から聞こえる大好きな声に、もしかしてと期待を込めて目を開けた。そして見えるのは、片手で白を抱き締める烏丸の姿。


「か、烏丸、くん…?」
「え、マジで烏丸が速見さんの彼氏…?」
「ああ」
「うっわマジか…」


男子生徒は頭を抱えていたが、何かを切り替えたように顔を上げて烏丸を真っ直ぐに見据える。


「いくら烏丸が彼氏ってのが本当だとしても、速見さんを泣かせるなら黙ってられないな」
「……」


泣かせてしまったことは事実なので反論せずに黙って聞く。白の泣き顔は好きだけれど、悲しくて泣かせるようなことはしたくない。そう思っていたはずなのに、格好悪い嫉妬でキツく当たって泣かせてしまった。それは自分でも自分を責めるほどに悔やんでいる。


「俺なら速見さんを泣かせたりしない。お前みたいに速見さんを傷付けたりしない!お前みたいに…」
「ち、違うの…!」


黙って聞いている烏丸を守るように、白は2人の間に立ちはだかる。あわあわと落ち着かないまま、何とか言葉を探しているようだった。白の珍しい行動に2人はぽかんと見つめる。


「わ、私は泣かされたわけじゃなくて、私が勝手に泣いたというか、烏丸くんに嫌われたらどうしようとか嫌だなとかそういう悪いこと考えたら自然と涙が溢れたというか…!烏丸くんは何も悪くないの!私が烏丸くん以外を好きになるはずないのにちゃんと断らなかったのが悪いだけで…!」


言葉を選びながら、言葉に詰まりながら。烏丸が好きだと精一杯の気持ちをどんどん言葉にしていく。止まることなく溢れるその言葉の数々に2人は目を丸くした。普段では想像も出来ないほど饒舌で2人が口を挟む間もない。


「だ、だから…!」


ぐっと両手の拳を握り締め、男子生徒を見つめた。


「わ、私は烏丸くんが好きなので…貴方とは付き合えません…!これからもずっと、私は烏丸くんが好きなんです…!ごめんなさい!」


深く下げられた頭を見てぽかんとし、男は乾いた笑いを漏らした。


「はは…これは完全に失恋だな…」
「す、すみません…!」
「速見さんが謝ることじゃないよ」


男子生徒は白に優しくそう言ったあと、烏丸へ視線を向けた。


「今はとりあえず諦める。けど、俺は速見さんのことが好きだ。隙があればまた奪いに行くからな」
「奪わせるわけないだろ。白は俺のだ」
「…!!」


再び白の腕を引いて胸に収めた烏丸は、迷いなくそう言い切った。その言葉にぶわーっと顔を真っ赤に染めた白の反応を見て、男子生徒は溜息をつく。


「まったく、見せつけてくれるよな」
「お前の入る隙はないってことだ」
「イケメンムカつくなー。あー…泣きそう……速見さんのこと、大切にしろよ」
「言われるまでもない」


その返事を聞いた男子生徒は少しだけ表情を和らげ、烏丸と白に手を振りながら去って行った。少しだけ寂しい背中を2人で見送る。


「白」
「は、はい!?」


突然名を呼ばれて声を裏返しながら返事をする。ふっと、烏丸が笑ったことに感動してしまう。


「悪かった」
「え…?」
「お前が他の男に迫られてるって聞いて妬いたんだ。だからキツく当たって…泣かせた」
「え!?ち、ちち違うよ!本当に、わ、私が勝手に…!烏丸くんの言う通り私がちゃんと言えばいいだけで私が悪かっただけで烏丸くんは………っ」


腕の中であわあわとしながら言葉を紡ぎ出した白の口を塞ぐ。至近距離で見つめる白は固まっていて、そんな反応に表情を和らげた。そして再び白の唇を塞ぐ。確かめるように、何度も。
白が息をしていないと烏丸が気付くまで、その優しい口付けは続くのだった。


end
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告白する男子生徒を最初自分好みに書きすぎて私が好きになりかけた…やばいやばい。だから色々試行錯誤して性格やらを変えたけど名前をつけたいくらいには自分で気に入ってしまった…
烏丸くんと烏丸夢主ちゃんはわりと付き合ったばかりぐらいを目指しました!まあ時間が経ってても反応は大して変わらないと思いますが!もっと切なくしてから甘くしたかった〜!

title:きみのとなりで

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