ぺご主とお疲れ彼女

※年上彼女設定

ーーーーー
ぎゅうぎゅうの終電をやっと降り、白はホームで大きな溜息をついた。けれどまだ落ち着いてもいられない。家に着いたわけではないのだから。もう一度深い溜息をつきながら家路を辿る。疲れて何も考えたくないのに、考えるのは何故か仕事のことばかりで。明日はあれをしなければ、そのあとは溜まっている書類、そもそも今日の仕事に不備はなかったか。ぐるぐると仕事のことが頭から離れない。毎日こき使われて残業残業で疲れて嫌で……けれどせっかく少し大事な仕事を任されるようになったのだから頑張れると自身に言い聞かせて。
重い足取りでようやく自宅のマンションまで辿り着き、部屋に入ってソファへと倒れ込む。ぼふんっと倒れた先にある彼から貰ったクッションから、大好きな彼の香りがした気がした。


「……会いたいな…」


そしてぽつりと呟いた。先ほどまでは仕事のことばかりだったのに、家に帰ってきて思い出すのは年下の恋人のこと。こちらが忙しいからともうしばらく会えていない。


「…会いたいよ、蓮くん」


クッションを引き寄せてぎゅっと抱き締める。彼のことを想って。


「俺も会いたかったよ、白さん」
「!!」


突然聞こえた声に驚いて慌てて顔を上げる。疲れ過ぎて幻聴かと思ったけれど、そこには確かに、会いたいと願った蓮がいて。状況を把握しようと部屋を見渡すと、テーブルの上にラップのかかった料理が並んでいた。部屋の電気もついている。まるで気が付かなかった。キョロキョロと見渡し、再び蓮に視線を戻す。


「え…な、なに…?ゆ、夢…?」


未だ状況を理解出来ていない白に、蓮は苦笑する。


「電気ついてるのにも気付かずに、ソファにダイブしたのは流石に驚いた」


そう笑いながら蓮は白のいるソファに座り、ゆっくりとその身体を抱き寄せた。突然のことに驚いていたが、その温もりに段々と心が落ち着いていく。


「おかえり、白さん」


そして1人暮らしでは聞くことの出来ない言葉を聞いて一瞬ぽかんとするも、白は小さく微笑んで答えた。ただいま、と。


「それで、本当にどうして蓮くんがここに?」
「白さん最近忙しいって聞いてたから、俺が負担になったらいけないと思ってたけど…今日たまたま見かけたとき、凄い辛そうな顔してたから」
「……」
「心配だったんだ。だから来た」
「…心配かけて、ごめんね?」
「いいよ。会いにくる口実が出来たから」


穏やかに微笑む蓮はとても高校生とは思えないほど大人びた表情をしている。年下の恋人はこちらが大人の余裕で甘やかしてあげなければと思うのに、いつも甘やかしてもらってばかりだ。そうは思っても蓮といると安心しきってしまい、白は蓮に身体を預けて寄り添う。しばらくそのままお互いに無言でいたが、白はパッと顔を上げてソファから立ち上がった。


「よし!蓮くんのお陰ですっごーい元気でた!これで明日からも頑張れるよ!」


無理をしてそう笑顔で言い切った。これ以上余計な心配はかけないように、これ以上格好悪い所を見せないように、と。いくら蓮が大人びているとはいえまだ高校生だ。白には大人としてのプライドがある。


「……」


そんな空元気など通じるはずもなく、蓮は何も言わずに立ち上がった。そして白の頭に手を回して胸に抱き寄せる。


「れ、蓮くん…?」
「頑張りすぎるな」
「……大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ。もっと俺に甘えてくれ」
「…充分甘えてるよ。それに、私の方が年上なんだから甘やかすのは私の方…」
「年上だとか年下だとか、そんなこと関係ない。俺は白さんの恋人だから白さんに無理してほしくないし、もっと甘えてほしいし、我儘だって言ってほしい」
「………」


大人しく聞く白の髪を優しく撫でながら蓮は続けた。


「俺はもっと、頼ってほしい」
「…蓮くんは周りからたくさん頼りにされてるのに私まで頼ったら大変でしょ?」
「白さんに頼られるのは嬉しいよ」
「…蓮くんは本当に優しいね」
「白さん限定だから」
「ふふっ、嘘ばっかり」


彼が誰にでも優しいのはよく知っている。そんな彼だからこそ好きになったのだから。髪を梳く手が心地よくて目を瞑り、蓮に身体を預けてそっとその服を握り締める。
これが白の精一杯の甘えだけれど、それだけで充分だった。心が癒されていく。傍にいるだけで、幸せに満ちていく。胸いっぱいに蓮の香りを吸い込み、先ほどの疲れが嘘のように吹き飛んでいくようだった。


「…ありがとう、蓮くん」
「どういたしまして」


今度は無理ではなく、本当に充分だと思った。だからゆっくりと離れようとしたのだが、蓮の腕は緩まない。優しく髪を梳き続ける手とは裏腹に、腰に回った手はがっしりと力強く、白はぱちぱちと瞬いた。


「蓮くん…?」
「ん? 」
「あの、もう充分…」
「足りない」
「え?」


そう言いながら白の肩に顔を埋め、回した腕が更に強くなる。


「まだ、甘やかし足りない」
「え?そんなこと…」
「俺がまだ満足してない」
「えぇ…」


なんと返せばいいのか迷っていると、白の肩から顔を上げた蓮に優しい微笑みと瞳を向けられた。どこまでも愛しげなその表情に、一体どこまで甘やかしてくれるのだと頬が緩む。


(キス…したいなぁ…)


そんなことを思ってじっと見つめていれば、蓮はまるで白の考えていたことに応えるように、ゆっくりと顔を近付けて口付けを落とした。触れるだけのそれはすぐに離れ、何度も繰り返される。


「ん…っ」


小さく声が漏れ、ぎゅっと服を握り締める。すると蓮が小さく笑った声が聞こえ、いつの間にか閉じていた目を開いた。


「蓮くん…?」
「キスしたいって顔してると思ったけど、間違ってなかったな」
「そうですねー」
「拗ねてる?」
「拗ねてないけど…もっと大人の余裕を見せつけたいなぁって」
「じゃあ見せつけてくれ」
「もー、出来ないと思ってるでしょ」


蓮はただ微笑む。それは肯定と同じだ。
けれど反論も出来ない。自分でも蓮より余裕を持つことなど出来ないだろうと思ってしまったから。


「けど、やられっぱなしはやっぱりプライドが許さないよね」
「え?」


白の呟きに一瞬ぽかんとしたが、ふいに身体を強く押されて踏み止まれずにソファへと倒れ込む。ふふっ、と白の楽しそうな声が聞こえた。蓮を押し倒した白の声が。
いくら大人びているとはいえ、蓮は健全な男子高校生だ。その態勢に何も思わないわけがない。少し余裕の消えた瞳が白を捉えた。


「……白さんの疲れを癒すために来たのに、余計に疲れさせることになりそうだ」
「明日はお休みだから大丈夫だよ」
「なら遠慮しない」
「んっ」


先ほどの触れるだけのキスではなく、余裕のない噛み付くようなキスに吐息が漏れる。明日が休みなど嘘だけれど、大人の余裕でちゃんと騙せたようだと目を細めた。


(…蓮くんが一緒にいてくれるだけで疲れなんて吹き飛んじゃうし、それに…)


蓮に応えながら身体を預けた。


(蓮くんに会えるってご褒美があるから、頑張れるんだよ。ありがとう、蓮くん)


だいすき。
口付けの合間に呟いた言葉は、しっかりと返ってきた。
愛している、と。


end
ーーーーー
甘やかし方がどんどんいかがわしい方になりそうで私が疲れてるんじゃないかって思った。いや疲れてないですけど!!
もしこういうの苦手だったらすみません!
蓮くんはご飯とか作って待っててくれそう。お風呂にする?ご飯にする?それとも……俺?とか最後妖艶な笑みで言ってほしい…!それ書けば良かったーーーー!!


[ 14/33 ]

back