勝己とハプニング

※ラッキースケベ以外のリクエスト沿えてませんすみません。
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「あんのクソアマァァァァ!!!」


怒鳴りながら寮の扉を蹴り開けたのは、全身びしょ濡れ姿の爆豪だ。おかえりと声をかけようにも今声をかけてしまえば確実にその怒りの矛先を向けられるだろうと、その場に1人だった緑谷は苦笑しながら爆豪を見つめる。そんな視線には気付かず、爆豪は何かを探すようにキョロキョロと寮内に視線を走らせていた。その行動に、詳細は知らないながらもまた白が爆豪に何かしたのだと察してしまう。


「そういえば白もびしょ濡れで帰ってきてたなぁ…」


爆豪と違ってずいぶんと楽しそうだったけれど。その言葉は飲み込んで苦笑する。するとギロリと爆豪の視線が緑谷を捉えた。


「おいクソデク!」
「ど、どうしたのかっちゃん…?」


心を読まれてしまったのかと思わず身体が固くなる。冷や汗を流しながら問いかければ、爆豪は怒りを隠そうともせずにズカズカと緑谷に近付いた。


「あのハエ女どこ行きやがった!!」
「ハエ女?」
「ぴょんぴょんうぜぇ白のことに決まってんだろうが!!あいつ先に帰ってきてんだろ!!どこ行きやがった!!」
「(ぴょんぴょんなのにハエ…)ああ、白なら自分の部屋に向かったみたいだけど…」


白の居場所を聞いた爆豪は再びずんずんと中へ進んで行く。


「あ、か、かっちゃん、先にお風呂入っちゃえば…?白にも言ったけど部屋に行っ…」
「んなヤワじゃねぇわ!!あいつにやり返してからじゃねぇと何も落ち着いて出来やしねぇ…!」
(やっぱり白が何かしたんだ…)


ぴきぴきと青筋を浮かべる爆豪は本気だ。いつもわりと本気だけれど。一歩一歩に怒りを込めて白の部屋へと向かって行った爆豪を見送り、緑谷は渇いた笑いを漏らす。外は快晴だ。全身ずぶ濡れで帰ってくる理由など川かどこかに落ちたとしか思えない。


(きっと川につき落とされたんだろうなぁ…)


昔から見ている幼馴染のやりそうなことなど想像に容易かった。

◇◆◇

そんなことを思われているなど露知らず、爆豪は真っ直ぐに白の部屋へと向かっていた。辿り着いた白の部屋を前に両手を合わせて爆破する。そして扉が壊れるのでは、というほどの勢いで扉を開けた。


「「…………」」


しかし、何も暴言を吐くことも出来ず目の前の光景に固まる。爆豪の視線の先の白も同じように固まった。着替えている最中の、下着しか身につけていない姿で。


「「…………」」


しばらくぽかんと無になっていた2人だが、先に白がはっと今の状況を理解した。


「〜〜〜〜っ!」


そして悲鳴があがるでもなく、顔を真っ赤にした白の姿が消えたかと思うと、次の瞬間には、ぱちんっ!!っと爆豪の頬に渾身の平手打ちが入ったのだった。


◇◆◇


「ぎゃははは!」
「ダッセェーーー!あはははは!なんだそれ!」
「お、俺、初めてそんな綺麗な…ぶはっ、はははははは!!」
「うるせぇ黙れ殺すぞ!!!」


頬に綺麗な紅葉型を付けた爆豪は帰ってきたA組の笑い者だった。


「爆豪くん爆豪くん!そのほっぺ一体どうしたの?」
「真っ赤になってるわね。大丈夫?」
「もしかしなくても、それやったの白だよね?バクゴー何したの?」
「…なんもしてねぇわ」


ふいっと顔を逸らしながら呟いた爆豪に周りは驚く。何事だと白に問いかけようとしたが、白も普段は見せないような不機嫌な顔をしていて。A組はぱちぱちと瞬きながら顔を見合わせた。その反応に緑谷だけが渇いた笑いをもらす。


「緑谷くん!一体何があったんだ?」
「2人とも喧嘩したの?」
「喧嘩というか…その…」
「出久」
「え、どうしたの?」


事情は大体想像出来るけれど、飯田と麗日になんと説明しようか悩んでいると、ちょいちょいと白に手招かれた。緑谷は首を傾げながら近付く。


「どっかのスケベに謝ったら許してあげなくもないって伝えて」
「えぇ…自分で伝えなよ…」
「伝えて」
「全く…」


緑谷は溜息をつきながらもその伝言を聞き、爆豪の元へと向かった。


「かっちゃん、白から伝言なんだけど…謝ったら許してあげるって」
「ちょっと出久!ちゃんと正確に伝えてよ!そんなこと言ってない!」
「だったら自分で伝えなよ…」
「おいクソデク」
「え?」
「その伝言頼んだ奴に誰が謝るかクソって伝えとけ」
「だから何で僕が…」


そう言いながらも今度は白の方へ向かう。そんなやり取りを何度も繰り返している幼馴染たちをA組は不思議そうに見ていた。いつもの喧嘩なら、お互いに言いたいことを直接言い合っているのに、と。


「なんか、本格的な喧嘩っぽい?」
「お2人がこんな風に喧嘩をするなんて、とても珍しいですわね」
「ここはデクくんに任せた方が良さそうかな」
「そうだな。俺たちは事情も分からない状態だ。変に口出しするのは得策じゃないだろう」


うん、っと頷き合い、緑谷にアイコンタクトをしてA組は自室へと戻って行った。幼馴染3人が共有スペースに残されたが、突然白が立ち上がった。そして何も言わずに階段を上がっていく。


「白?どこ行くの?」
「自分の部屋に戻る」
「そ、そう…」


テンションの低い白に動揺して上手く返せないまま、緑谷は白を見送った。あまりない経験に戸惑ってしまう。白が見えなくなったあと、緑谷は爆豪に視線を向けた。見るからにイライラしていた。このまま放っておいてもそのうちいつも通りになるだろう。そう思っても少しの不安が残り、緑谷は意を決して爆豪に問いかけた。


「かっちゃん、あの、さ…」
「……」
「もしかして、白が着替えてる最中に部屋に入っちゃった…?」


その言葉を聞いた瞬間、爆豪の眉間にシワが寄る。何も言わなくともそれは肯定だった。


「やっぱり…タイミング的にそうじゃないかと思ったんだ」
「…うるせぇ」
「でもかっちゃんなら白に逆ギレ……じゃなくて、ど、怒鳴りそうなのに、なんで僕を間に挟むなんて回りくどいことしてるの?」


イライラが増した気がした。
緑谷に怒鳴ろうとした爆豪だが、突然扉を開けたときのことを思い出してしまい、ぐっと言葉に詰まる。もやもやした感情が溜まる一方で、ついにそこで爆発した。


「っんで!!あいつ女みてぇな身体してんだよ!!」
「白は女の子だよ!?」
「んなこた分かっとるわクソナードが!!」


理不尽に怒鳴られたが、そんなことは慣れている。けれどそれで理解した。何故2人が余所余所しく喧嘩しているかを。


「白も女の子だし、そういう反応になるわけか…」


昔は一緒にお風呂に入っていたけれど、もう自分たちはそんなことを出来るほど幼くはない。反応が変わるのも当然だと改めて思う。


「白を呼んでくるね」
「あ?」
「僕を挟むんじゃなくて2人で話した方が良いと思う」
「余計なことすんじゃねぇ」
「このままずっと伝言役なんて嫌だからそうするだけだよ」


何かを言い返される前に緑谷は白を追いかけて階段を上がっていった。素直になれない人の言葉をいくら聞いても無駄だと判断して。
そして部屋の前の廊下を歩く白を見つけた。いつものスピードはなくとぼとぼと歩いている。


「白!」
「出久?どうしたの?」
「かっちゃんと直接話そう」
「な、なにいきなり…」
「事情はその…な、何となく分かったから、僕を挟んでじゃなくてかっちゃんと直接話した方が良いと思ったんだ」
「……」
「…白がそんな反応するなんてちょっと意外だったよ」


着替え中を見られても、いつものノリで怒って爆豪に文句を言うくらいだと思っていた。白の性格上はそうだと思っていたのに。緑谷は様子を伺うようにそう言葉にした。白は僅かに動揺を見せる。


「…だって…」


そして呟かれるように白は言葉を紡ぐ。


「だって……勝己があんな反応するから…」


ぽかんとした表情は、まさに着替え中の女性に遭遇した、という反応だった。その反応に妙に恥ずかしくなってしまい、思わず平手打ちをして今のような態度をとってしまっているのだ。


「いつもみたいに、んで着替え中なんだよ!とか理不尽に怒鳴ってくれれば私だっていつもみたいな反応できたのに…」
「お互い意識しちゃったんだね」
「ちょ、や、やめてよ」


2人のギクシャクしている理由が分かり、緑谷は困ったように笑った。少し安心したのかもしれない。


「ならやっぱり直接話すべきだと思う」
「……う、ん」


緑谷は少しだけ渋る白の背中を押した。


「このまま話さなくても、たぶんそのうちいつも通りに戻るのかもしれないけど、もしかしたら戻らないでずっとこのままかもしれない。僕はそんな2人見たくないんだ」
「…そうだね。私も、それはやだ」
「じゃあ、いってらっしゃい」


笑顔を向ければ、白からもやっと笑顔が向けられて安心する。幼馴染はやっぱり、こうやって笑っていた方がいいと。


「出久」
「ん?」
「ありがと!」


そう言って足取り軽く共有スペースへと戻って行った白に苦笑する。


「仲直りしてから言ってよ」


照れ隠しに頬をかいた。


◇◆◇


白が共有スペースに戻ると、爆豪は先ほどと変わらない場所に座っているままだった。
白は少しだけ緊張しながら爆豪と距離をあけて同じソファに座る。


「………」


無言の時間が続いた。いつもなら気にならない沈黙は今は居心地が悪い。


「おい」


先に沈黙を破ったのは爆豪だった。


「……何」


白も白でやはりいつも通りとはいかず、また先ほどのような返しになる。


「そうやって余所余所しいの、やめろ」
「やめろって…勝己だって余所余所しいじゃん」
「てめェが調子狂う反応するからだろうが」
「そんなの勝己だって同じだからね!」
「ああ!?同じじゃねぇわ!んな女々しい反応誰がするか!」
「女々しいとか何!?大体、勝己がノックもせずに開けたのが悪いんでしょ!?」
「んで俺がてめェの部屋入んのにノックなんざしなきゃいけねぇんだよ!」
「ほんっとそういうとこムカつく!少しは出久を見習ってよ!」
「うるせぇ!!クソデクと比べんじゃねぇ!!大体入られたくねぇんなら鍵かけとけや!!」
「前に鍵かけたらドアごと破壊したの誰だと思ってるの!?」
「知るかボケ!!」


遠かった距離は縮まり、額がくっつきそうな距離でばちばちと睨み合う。


「もーーー怒った!出久に免じて来てあげたけど謝ったって許してあげないんだから!」
「だからクソデクの話すんじゃねぇ!つか殴らせてやったのに根に持ちすぎだろ!」
「殴らせてやった!?避けられなかったくせに!」
「ふざけんな!あんなん余裕で避けられるわ!」
「嘘ばっかり!そもそも謝られてないし!」
「謝るわけねぇだろ!謝ったら…」


途端に勢いをなくした爆豪はそこで言葉を区切る。白は首を傾げながらも言葉を待った。視線を逸らしながらどこか不機嫌そうに呟きだす。


「……謝ったら…てめェを女だって認めたみてぇになんだろうが」


そして紡がれた言葉にぽかんとした。一体何を言っているのだと言い返したかったが、予想外の言葉に力が抜けて思わず笑いが漏れた。


「ふふっ、なにそれ」
「…うるせぇ」
「私はれっきとした女の子なんだけど」
「女の前に、俺にとっててめェは速見白なんだよ」
「…うん。そうだね」


自分を1人の人として、幼馴染の速見白として見てくれていることを恥ずかしくも嬉しく思い、白ははにかんだ。


「私は爆豪勝己の幼馴染の速見白だもんね!」


その言葉と共に笑顔を向けられた爆豪は、視線を逸らしながら小さく、本当に小さくギリギリ聞き取れるくらいの声で「おう」と呟いた。


「しょうがないから許してあげる」
「貧相な身体見せといて何言っとんだ」
「超ナイスバディに向かってなんてこと言うの!」
「そこまでじゃねぇわ!自分で言ってる時点でたかが知れてんだよ」
「ていうかバッチリ見てるし!えっち!変態!スケベ!」
「うるせぇ痴女!」


いつも通り言い合う幼馴染たちの声を聞き、階段の上からこっそり様子を見ていた緑谷は頬を緩ませた。そして安心したようにその場を離れていく。また明日から、みんないつも通りだ、と。


end
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ひえラッキースケベしかリクエストに沿えなかった。しかもそのラッキースケベも一瞬で終わらせてしまった。
とても楽しそうなリクエストだったのに全然違う感じになってしまって申し訳ない…!2人のことを考えたら思いっきり顔に出るだろうなぁと思って…(言い訳)ギャグ甘…いつかリベンジします…!


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