指を絡める

浅草を2人で歩いていると、いつも私は充の妹だと間違えられる。お菓子をねだって買ってもらったり、はぐれたりするのも原因だろうけど…並んで話しているだけでもそうだ。今日も例外なく、店のおばあさんに仲の良い兄妹だと微笑まれてしまった。
不機嫌になる私をよそに充はおかしそうに隣で声を殺して笑っている。笑い事じゃない!


「私だって今に大人の色気振りまく女性に…」
「なに夢物語を語ってるんだ?」
「夢物語じゃない!あと数年後にはもっともっと色気のある女性になるんだから!」
「へー、そりゃ楽しみだな」


この野郎、まるで思ってないな。


「充がびっくりするぐらい良い女になっちゃうからね!」
「そうかそうか」


にこにこと頭を撫でてくる充に反抗したいけれど、頭を撫でられるのは嫌いじゃない。充や直也と同い年なのに2人とも子供扱いしてくるのは腹立つのに……心地良くなってきてしまう。撫でられる心地良さで自然に目を閉じたとき、充の小さな呟きが聞こえた。


「お前はそのままで良いんだよ」


無意識のようにぽつりと。


「え…?充、今…」
「さーてそろそろ行くか」


そう言って差し出された手。きょとんとそれを見つめていると、呆れたように溜息をつかれる。


「手。繋いどかないとまたはぐれるぞ」
「…………充がはぐれたら困るもんね」
「この野郎…」


この野郎はこっちの台詞だ!と言いたかったけれど、実際よくはぐれるのは私なので聞かなかったことにしておこう。私は素直に充の手に手を乗せた。そしてぎゅっと握る。昔はよく繋いでいたけれど、この歳になると少し恥ずかしい気もする。この歳というか…充への恋心を自覚してしまったからか…とにかく恥ずかしい。けれどこうやって素直に繋いでしまうのは複雑な乙女心というやつだ。


「……」


充は繋いだ手を見つめていたかと思うと、突然指を絡めるように手を繋ぎ直した。驚いて離そうとしてもしっかりと握られて離れない。


「み、充…!」
「…ま、これなら兄妹には見られないだろ」
「え…?」


私の手を全て包み込んでしまいそうなほど大きな手に、温もりに、ドキドキしてしまう。恥ずかしさに耐えながら充を見上げると、充の頬が少し赤く染まっていた。


「…充…?頬が…」
「ぼさっとすんな。行くぞ」


ぐっと手を引かれて慌ててついていく。隣に並んでもう一度見上げた。


「こっち見んな」
「わぶっ」


目元を掴まれて視界を遮られる。けれど、一瞬見えた充の頬はやっぱり赤くなっていた。


「…ふふっ」
「直也に会う前にその顔直しておけよ」
「ちょっと無理かも」


そう言って繋いだ手に力を込めると、充も答えるように握り返してくれた。まだ気持ちは口にしていないけれど、少し…期待しちゃってもいいのかもしれない。だから直也と合流するまでは、このままで。


end

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充と幼馴染かな。大学同じ。
このあと直也と合流して手繋いだの見て微笑んでると思う。全て察してくれる直兄さん。

title:きみのとなりで


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