大切なこの日を

睨み合ったままで一向に終わることのない買い物に、僕は深い溜息をついた。


「兄貴は俺のプレゼントの方が喜ぶに決まってるだろ!?」
「直也先輩は私のプレゼントの方が喜んでくれますよ!」


仲見世の前で直兄さんが大好きな凪と優は張り合ってプレゼントを選んでいる。直兄さんの誕生日を祝おうとしてるのは同じなのにどうしてこう喧嘩ばかりするのかな…。僕はもうプレゼントは決まっているので、2人が買い物を終えるのを待っていた。


「なーぎー、優ー。早くしないと直兄さんも僕も任務に行っちゃうよ」
「分かってる!」
「もう少し待ってて下さい!」


最近特高の任務が忙しくてプレゼントを買うのが当日になってしまったせいで、凪の目は真剣だ。優も学校が忙しかったらしく、凪と同じ目をしている。


「よし!決めた!」
「これにします!」


ほぼ同時にプレゼントが決まった2人は何が気に入らないのか睨み合っている。まあ喧嘩に発展しなかっただけマシかな。プレゼントを買い終え、僕たちは急いで移動した。移動してる間も2人は喧嘩していたけど、この場に充先輩がいたら呆れていたに違いない。今日は凪も充先輩も非番だからそうはならなかったけど。
何とか時間までに直兄さんと約束した場所に辿り着き、ほっと息をついた。


「直也先輩、遅くなってすみません」
「まだ約束した時間じゃないから大丈夫だよ。それより、どうしてここに凪と優が?」
「えっと、それは…」


誕生日プレゼントを渡すためだと言っていいのか迷って2人に視線を向けた。


「凪はセンスがありませんね。それを直也先輩が喜ぶとは思えません」
「なんだと!?優の方こそ、自分の趣味に寄せてるだけで兄貴の喜ぶもの分かってないんじゃないか?」
「そんなことありませんよ!私のプレゼントには愛がこもってますから!」
「はぁ!?愛?そんなの兄貴が受け取るわけないだろ!」
「そんなのとか言わないでくれますか!?」


直兄さんを前にしても終わることなく白熱していく2人に溜息をつき、僕は1人で直兄さんに近付いた。


「直兄さん、お誕生日おめでとうございます」
「誕生日…。そうか、俺の…。わざわざ選んでくれたんだね。哲、ありがとう」


忘れていたということは僕が最初なのかな。2人には悪いことをしたけどちょっとだけ嬉しい。
プレゼントを差し出せば、直兄さんは嬉しそうに笑って受け取ってくれる。しかも小さいときみたいに頭を撫でてくれた。…すごく嬉しいけど、ちょっと…照れ臭いかな。頬が緩んだまま大人しくしていると、喧嘩していた2人の視線がこちらに向いた。


「あーーー!!哲!抜け駆けはずるいぞ!」
「そうですよ哲!私も直也先輩に頭撫でてほしいです!」
「2人が喧嘩しててなかなかプレゼント渡さないのがいけないんでしょ…」
「兄貴!」
「直也先輩!」


2人でバタバタと駆け寄り、直兄さんと僕の間に割って入った。本当に直兄さんのことが好きすぎる2人で呆れてしまう。もちろん僕だって大好きだけれど。


「兄貴、誕生日おめでとう!」
「直也先輩、お誕生日おめでとうございます!大好きです!」
「おまっ、どさくさに紛れてなに告白してるんだよ!」
「いつも思ってること口にして何が悪いんですか!言えない意気地なしのくせに!」
「はぁ!?俺だって兄貴のこと大好きに決まってるだろ!」
「でも私が直也先輩を好きだって思う気持ちより遥かに劣りますからね!」
「いいや俺の方が遥かに上だ!」
「私です!」
「俺!」
「2人とも…」


睨み合う凪と優。直兄さんもさすがに呆れてるだろうとそちらを向けば、そんなことはなくて。直兄さんは…柔らかく微笑んでいた。予想していなかった表情に少し驚いていると、直兄さんは大きく腕を広げて僕たち3人をまとめて抱き締めた。僕も凪も優も驚きすぎて言葉を発せずに固まる。強く、けれど優しい抱擁は直兄さんそのもののようだ。


「俺は哲も凪も優も、みんな同じくらい大好きだよ。そんな大好きな3人に祝ってもらえて、俺は幸せ者だね」


ありがとうと笑った直兄さんは、ただただ嬉しそうで。それを見ただけで僕の心は満たされた。だから凪も優もそうなのだろう。きっと瞳を輝かせて、祝われた直兄さん本人よりも嬉しそうに笑っているに違いない。それを確認できるほどの余裕は僕にはなかったから予想だけど。でも、直兄さんがこんなに嬉しそうに笑うのは久しぶりに見た気がしたから、それを見逃したくなかったんだ。


「哲がいて凪がいて優がいて…充たちがいてくれる。それだけで俺にとっては最高の誕生日だよ」


祝っているのは僕たちのはずなのに、こんなに幸せでいいのだろうか。……いいんだよね。凪も優も僕も、直兄さんも…みんな幸せそうに笑っているんだから。


「直也先輩、来年は私をプレゼントするので受け取ってくれますか…?」
「俺が却下する!」
「凪には聞いていません!」


直兄さんの腕の中なのに2人はまた喧嘩を始めてしまった。呆れた気持ちもあったけど、これが幸せな日常の一部で、直兄さんも微笑ましくその喧嘩を見つめているから…今日は良いかな。今はただ、みんながいる幸せを感じていよう。直兄さんが生まれた、大切なこの日を祝福して。


end
ーーーーー
直也誕生日おめでとう!!
なんで哲目線にしたんだろう?というかなんか監獄夢は毎回凪と喧嘩してる気がする…
どんな祝い方でも直也はきっと優しく微笑んで喜んでくれるだろうな…!
昼は弟たちにわいわいお祝いされて、夜は充と2人でお酒でも飲んで静かにお祝いされててほしい…!ここ大事!!親友とは飲み明かしてくれ!



back