私たち付き合いました

※少しだけ6章以降ネタバレ
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「阿鳥さん」
「私たち付き合うことにしました!」
「………は?」


大外さんと肩を寄せて言い放った優さんの言葉に、阿鳥先輩は今まで聞いたことのないくらい素の声を出していた。
2人してにこにこと幸せそうな笑みを浮かべている。本当にこの人たちは……演技が上手いな…
今日がエイプリルフールだというのも忘れてしまいそうなくらい自然な演技に感心してしまう。


「え、ちょ、ちょっと待って?いきなりどうしたの?」
「どうしたも何も、そのままの意味よね、聖生くん!」
「そうですね、優さん」
「は!?いやだって2人はここで会ったばかりじゃ…?」


阿鳥先輩は本気で信じている。まあ無理もない。大外さんも優さんも、阿鳥先輩が大好きというのを本人は気付いていないのだから。そしてそれに拍車をかけるように2人の渾身の演技は続く。


「一目惚れってやつ、ですかね」
「そうね。聖生くんに初めて会ったとき、これが運命か、って思ったの」
「奇遇ですね、僕もですよ」
「じゃあやっぱり運命ね!」
「いやいやいやいや!」


焦る阿鳥先輩は見ていてとても面白いし、年上だと分かっていても可愛いと思えてしまう。2人も同じことを思っているのか、大外さんと優さんの笑みがとても悪どいものに見えてきた。本当にこの人たちは性格が悪い…。それに優さんは阿鳥先輩の幼馴染だと聞いたけど、まるで性格が違うから分からないものだ。


「で、でも、大外様は5股を…」
「現世に戻ったら他の彼女とは全て縁を切って、優さんと結婚を前提に交際していくつもりですよ」
「け、結婚…!?優と…!?」
「ほら、聖生くんはこう言ってくれてるの!遥斗は取っ替え引っ換えするからいつ捨てられるか分からないし、結婚するならやっぱり聖生くんよね!」
「俺は好きで取っ替え引っ換えしてるわけじゃないよ!」
「でも事実だし?」
「う…」
「大丈夫ですよ、阿鳥さん。優さんのことは僕がちゃんと幸せにしますから」
「〜〜〜っ」


あーあ。ついに阿鳥先輩が言いくるめられてしまった。これは非常に面白い展開だ。というか、阿鳥先輩は随分と2人の交際を否定しているけど、やっぱり優さんに好意を持っているんだろうか。
前に付き合っているんですか?と聞いたときは否定されたし、じゃあ好きなんですか?と聞いたときには笑顔で誤魔化されてしまった。誤魔化すのが上手い阿鳥先輩にはそれ以上聞けなかったけど、この光景を見ていると阿鳥先輩と優さんは両想いに見える。


「遥斗のことはずっと好きだったけど、遥斗は私のこと好きじゃないみたいだしね。だから聖生くんと幸せになるから、遥斗も素敵な人を見つけて幸せになってね」
「……」


あれ…?なんだか、今のは演技じゃなかったような…?優さんの表情は本当に悲しげだった。…今のは、本音…?そう思っていると、固まっていた阿鳥先輩が動いた。仕事をしているときのような素早い動きで優さんの腕を取り、ぐっと顔を近付ける。優さんを見つめるその表情は真剣そのもので、先程まで焦ってあたふたしていたとは思えない。ただのイケメンだ。


「……俺だって、優が好きだよ」
「……え…」
「素敵な人なんて…俺が一緒になって幸せになれる相手なんて、優しかいないに決まってるだろ」
「はる、と…」


おお…いきなりの少女漫画展開だ。これは予想していなかった。至近距離で見つめ合ったまま動かない2人に大外さんがやれやれと溜息をついた。


「潮時かな。榛名さん、もういいんじゃないかい?」
「…………え…?」


大外さんの言葉に阿鳥先輩はぱちぱちと瞬いた。先程までのイケメンフェイスはどこへ行ったのか、また可愛い表情に逆戻りだ。その表情を見て優さんも平常心を取り戻したようで、そうねっと眉を下げて笑いながら阿鳥先輩から離れる。


「遥斗、今日は現世では何月何日でしょうか」
「え、いきなり何…?」
「いいから!何月何日!」
「……今日は、4月1日だろ?」
「正解です。では4月1日といえば?」
「………新年度…?」


真面目な阿鳥先輩の斜め上の発言に大外さんも優さんも声もなく悶えている。うん、確かに今のは可愛かった。けどこれじゃ話が進まない。離れていたところから傍観していた私は3人に近付いた。


「阿鳥先輩、エイプリルフールですよ」
「え」
「だから、エイプリルフールです。2人が付き合ったなんていうのは、大外さんと優さんの嘘です」
「う、嘘?」


驚いて優さんたちに向き直った阿鳥先輩に2人は頷く。阿鳥先輩は怒ることはなく、良かったっと安堵の息をもらしていた。


「ねぇ、遥斗」
「ん?」
「さっきの言葉、本当だよね?」
「……優と違うんだから、嘘なんてつかないよ」
「ふふ、そうよね!遥斗は真面目だもんね!」
「真面目って言わな…」
「そんな真面目な遥斗が大好きよ!」


そう言って優さんは阿鳥先輩に抱き着いた。おお、積極的だ。阿鳥先輩も一瞬驚いていたようだけど、すぐに優しい表情になって優さんの背中に手を回した。


「それも嘘?」
「そんなわけないでしょ!」
「そう言われても、言葉だけじゃ信じられないな」


優さんたちに翻弄されていたのが嘘のように、阿鳥先輩は余裕そうな笑みで優さんを見つめている。そんな阿鳥先輩に今度は珍しく優さんが動揺し、眉を寄せて頬を染めた。


「……遥斗のバカ」
「嘘ついた優が悪いんだろ?」
「…もうつかないから」
「うん」
「…大好き」
「俺も」


大人の空気をまとった2人はそのまま唇を重ねた。美男美女のちゅーだ…!これは萌える…!スマホがあったら連写しているところだ。


「大外さん、とんだ当て馬ですね」
「こうなるだろうことは分かってたさ」
「あれ、そうなんですか?」
「見ていてもどかしかったからね。少し手伝っただけだよ」
「……何を交換条件にしたんですか」
「君は僕がそんな人間に見えるのかい?」
「はい」
「よく分かってるじゃないか」
「分かりたくもないですけどね」


何を交換条件にしたかなんて、どうせ阿鳥先輩関連だろう。聞くまでもなかった。私と大外さんは並んで2人を見つめる。……さて、この甘い雰囲気の中どうしたものか。その場から去ることも声をかけることも出来ず、私たちは2人の甘いやり取りを、しばらくの間ただ見つめていたのだった。


end
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エイプリルフールネタ!
ついったで大外さんと付き合いました〜って阿鳥先輩に嘘つくってネタに反応貰えたから本当に書いてしまった!
かなり展開早いけどわりと甘く書けたはず…?
阿鳥先輩と幼馴染の両片想いだった設定。
落ちはいつも通り迷子でした!


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