これからもずっと

※凪双子
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ここ数日、凪と優の様子がおかしい。おかしいというより…なんだか避けられているような気がする。
いつも一緒に帰るのが当たり前になっていたのに、2人とも用があるからと先に帰ってしまっって、僕は1人で帰宅する。なんだろう、凄く…寂しいな。
一緒に帰れないときは今までにも何回かあったけれど、そのときはこんな気持ちにならなかったのに……2人の余所余所しい断り方が頭から離れずに気分が落ち込んでいく。


『あ、え、えと…きょ、今日は用事があるから!ごめんな哲!』
『そ、そう!しばらく一緒に帰れないの!じゃ、じゃあね!』


あまりこっちを見ないで、すぐにでもこの場を離れたがっているような2人だった。それが何日も続き、僕は今日も1人で家に帰る。

僕は、2人に何かしてしまったんだろうか。2人に嫌われてしまうことを何かしてしまったんだろうか。…もう、凪や優と今までのように話したり出来ないんだろうか。そう思うと凄く悲しくて、胸が締め付けられるようだった。


「……はぁ」
「随分深い溜め息だね」
「え…?」


突然聞こえた声に顔を上げると、そこにはいつも気にかけてくれる先輩たちがいた。


「よっ、哲」
「充先輩に、直也先輩…」
「哲、どうかした?」


僕の様子がおかしいことに気がついた直也先輩は、心配そうな表情でこちらを見つめてくる。昔から凪や優と同じくらい一緒にいる直也先輩には僕が悩んでいることにすぐに気が付いてくれたみたいだ。


「なんだ?あいつらと喧嘩でもしたのか?」
「……いえ、喧嘩はしていないです」
「喧嘩は、ってことは、凪たちが何かした?」


やっぱり直也先輩は凄いな。何でもお見通しなんだ。そんな直也先輩の優しい声音に僕はぽつぽつと話し始めた。
ここ数日、凪と優の2人が僕を避けていること。僕は2人に何かしてしまったのか悩んでいること。もしかしたら、嫌われてしまったのか、と。話していてどんどん目の奥が熱くなって、慌てて涙を堪えた。…僕は相当2人のことが好きみたいだ。一緒にいるのが当たり前だったから、しばらく一緒にいないだけでこんな気持ちになるなんて思わなかった。最近はそればかり考えてしまって何も手につかないほどに。


「まったく、あの2人は…」
「あんの不器用ども…」
「…?」


一通り話終わると、困ったように笑う直也先輩と呆れて溜息をつく充先輩。何故そんな反応なのか分からなくて首を傾げた。


「大丈夫だよ、哲。2人は哲を嫌いになったりなんてしないから」
「……」
「だな。まあそっちは俺に任せておけ」
「え?」
「馬鹿2人には俺が話しておくから。お前は明日ちゃんと来いよ」
「えっと…どこにですか…?」


そう答えると充先輩は驚いたように目を瞬かせた。直也先輩は苦笑している。


「…もしかしてあいつら、明日のこと何も言ってないのか?」
「…最近何も話していないので…」
「とことん馬鹿だな…」
「あんまり馬鹿馬鹿言わないであげてよ。本人たちは必死で忘れてるだけなんだから」
「そこで甘やかすお前も悪いぞ、直也」


はぁっと溜息をついて額を押さえた充先輩は僕に向き直った。


「あの馬鹿たちが伝え忘れてるようだから俺から言っとくぞ」


そう言って伝えられたのは明日の冴木家への集合時間だった。何故冴木家へ集合なのかを聞く前に僕は頷いていた。あの2人が伝え忘れていたってことは、行けば2人に会えると思ったから。ちゃんと話せると思ったから。…少し怖いけど、このまま2人と話せなくなるなんて嫌だから。凪と優にちゃんと、僕を避けている理由を聞いてみよう、と。
直也先輩と充先輩にお礼を言って別れ、緊張して迎えた翌日。僕は冴木家の前にいる。


「……時間、あってるよね」


時間はあってるなんて分かってる。ただ、インターホンを押す勇気がないだけ。家の前でしばらく迷っていると、突然玄関から直也先輩が出てきた。驚いている僕に優しく微笑みかけ、中へと促される。


「哲、早く入って。みんながお待ちかねだよ」
「は、はい」


みんな?と疑問はあったけれど、促されるままに僕は急いで直也先輩の後を追った。そして1つの部屋の前で立ち止まる。


「さあ、入って。凪も優も待ってるから」
「……」


こくりと頷き、僕は扉を開けた。そして。


「「ハッピーバースデー!!」」
「!」


パンっと弾けるいくつかの音とともに聞こえますお祝いの言葉。そのどちらも目の前で笑顔を浮かべている凪と優からで、僕はぽかんと固まってしまう。


「よし、驚いたな!」
「サプライズ大成功だね!」


きゃっきゃっと喜ぶ2人は同じ顔をして笑っている。久しぶりに2人の笑顔を見たなと意識を飛ばしていると、他にも望月さんや草間さん、大和や橋本先輩がいることに気づき、充先輩の呆れている顔も目に入った。


「サプライズに驚いてるのは間違いじゃないが、お前ら今日のことちゃんと哲に伝えてなかっただろ」
「だってサプライズだし」
「伝えるわけないだろ」
「誕生日パーティーの場所と時間すら伝えないのはどうなんだ」
「「………あ!!」」


同じ反応で声をあげた2人に充先輩が呆れている。それを聞いた他のみんなは苦笑したり呆れたり。中へ入ってきた直也先輩も穏やかに笑っていた。


「忘れてた…」
「凪が伝える役だったでしょ!」
「いや優だったろ!」
「どっちでもいいけど伝えたのは俺だからな。感謝しろよブラコンども」
「「……」」


にやりと笑った充先輩に凪も優も何も言い返せずに複雑そうな表情をしている。


「哲、2人は今日の誕生日パーティーをサプライズでやるために何日も前から頑張っていたんだよ」
「…僕の、誕生日パーティー…」
「全部2人で計画して、飾り付けも料理もやるって張り切っていたから、哲にバレないようにって冷たい態度になっていたんだ。誕生日パーティーの準備で忙しいのも本当だったしね」


直也先輩の言葉を聞きながら、2人掛かりで充先輩に突っかかっているのを見つめる。……2人でも負けてるな。いつもの光景に安心して、それだけで胸が満たされていく。そっか、2人は僕のために…。ぐっと目の奥が熱くなって涙が溢れそうになった。


「まったくこの不器用どもは。サプライズのために哲を傷付けてたら意味ないだろ」
「え!?傷付いて!?」
「哲!怪我したのか!?」
「え、えっと…?」


突然慌てた様子で駆け寄ってきた2人は眉を下げ、とても心配そうな顔をしている。そんな2人を見て涙も引っ込み、僕は微笑んだ。


「大丈夫だよ、ありがとう。凪、優」
「なんだよ充の嘘かよ!」
「充!エイプリルフールだからって焦ること言わないでよ!」
「……おい直也」
「可愛いだろう?」
「シスコンブラコンも大概にしとけよ」


呆れた充先輩はやれやれと息を吐き、昨日のように僕に向き直った。


「まあこういう奴らなのは哲も分かってるだろ?」
「ふふ、そうですね」
「大変だな」
「いえ」


僕のためにこんなに必死になって、少しのことですぐに心配してくれる人がいるのは嬉しいことだ。嫌われていたらこんな反応はしない。僕は、嫌われてなかったんだね。良かった。…本当に良かった。


「「哲!」」
「?」
「「誕生日おめでとう!」」


そう言って2人が差し出してきたのは、透明な袋に入っている、どこか不恰好な手作りのクッキーだった。勢いのままにそれを受け取り、ぱちぱちと瞬く。


「哲クッキー好きだからな」
「初めて2人で作ったんだよ!見た目は凪のせいでアレだけど、味は美味しいから!」
「何で俺だけのせいなんだよ!優だって型取るの下手くそだったじゃないか!」
「凪より上手くできたもん!」
「いいや俺の方が上手かった!」


いつものやり取りだ。目の前でそれが見られるだけで僕は幸せを感じられる。凪と優とずっとこうして過ごしていけることが、僕にとって1番嬉しいことなんだと改めて気付かされた。


「哲、プレゼントはもう1つあるんだぞ!」
「え?」
「エイプリルフールは関係ないからね!私は哲に嘘なんてつかないから本当のことだよ!」
「え、えっと、何のこと…?」


そう問いかければ、2人は僕の片手を取って両手でぎゅっと握り締められる。2人に包まれた片手は暖かくて安心するけれど、一体どうしたんだろうと、言葉を待った。


「これからもずーっと一緒にだからな!」
「こっちは受け取り拒否は出来ないからね!」


2人の真剣な眼差しに僕は思わず目を見開いた。真っ直ぐに見つめられて気恥ずかしいはずなのに、ただただ嬉しさだけが胸を埋め尽くしていって。2人に嫌われたかもしれないと悲しくて苦しかった胸は、今は幸せすぎて苦しいくらいだ。
けど、受け取り拒否なんてそんなのするわけがない。僕は貰ったクッキーを優しく抱き締め、2人を見つめる。


「……うん。ありがとう凪、優。これからも、ずっとよろしく」


泣きそうになりながら心からの笑みで頷いた僕に、2人も自分のことのように嬉しそうに笑ってくれた。離れた所で直也先輩たちが穏やかに微笑んでいる。僕は幸せ者だ。悩んでるなんて馬鹿らしかったんだ。
ありがとう、2人とも。これからも…ずーっと大好きだよ。

end
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哲誕生日おめでとーーー!!もう天使だと思ってるよ可愛い…頑張ったねっていっぱい褒めてあげたい…!
今回も夢主いなくても良かっただろシリーズですね!凪の双子設定は充にまとめてブラコンと呼ばせたかっただけ。
兄大好きで哲大好きで充は敵。な双子でした。
哲には本当に幸せなってほしい…!

書いてる途中に気付いたんですが、この時期春休みだから学校行ってないですね!そこは目をつぶって下さい!!


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