さて、続きはどこでしようか

学パロ
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「優〜」


上機嫌で私の名前を呼ぶ声に振り返った。教室の入り口に立っているのは上級生の充先輩で、にこにこと私を手招きしている。ぶっちゃけそれだけでかなり舞い上がる。あの女子から大人気の充先輩が凪ではなく私に用があるなんて。直前まで話していた凪が眉を寄せていたけど、断りを入れて私は呼ばれるがままに急いでそちらへ向かった。


「充先輩、こんにちは。どうしましたか?」
「そりゃもちろんお返しにな」
「お返し?」
「まあここじゃなんだし、中庭でも行くか」
「はい!」


充先輩とお昼休みを一緒に過ごせる事実が嬉しくて私は大きく頷いた。


◇◆◇


「それで、ご用件はなんでしょう?」


中庭に移動し、ベンチに腰掛けて私は問いかけた。


「今日はホワイトデーだからな。優へのお返し選ばせてやろうと思って」
「え!お返しくれるんですか!」
「当たり前だろ?」
「やった!」


小さくガッツポーズをして充先輩を催促するようにキラキラと見つめると苦笑された。だって期待しかないのだから仕方がない。充先輩のセンスが良いことはよく知っているから。


「そんじゃ早速。某有名和菓子店の1日限定10個の高級みたらし団子か、お前が前に欲しいって言ってたピアスか、俺自身。さあどれが良い?」
「充先輩以外でお願いします!」
「おい」


全力で答えたらポスっとチョップを落とされた。地味に痛い。


「い、痛いです…何するんですか!」
「人の心を容赦なく傷付けといてよく言えるな」


そんなこと言われても…。そりゃここ^で充先輩だと答えたい気持ちもあるけど、高級みたらしは食べたいしピアス欲しいし、何より私は片想いがいい。
気持ちが繋がってしまったら離れてしまうのが怖いから。嫌われてしまうのが怖いから。私はこのままの関係がいい。こうやって他愛ない話で幸せを感じられるままがいいんだ。


「優は俺のこと好きだろ?」
「はい!」
「なら普通は俺を選ぶとこじゃない?」
「いえ私にはもったいなさすぎて選べません」
「手に入れられるもんは手に入れられるときに手に入れとけよ」
「なんの言葉遊びですか」
「いや俺いま真面目に話してんの」


呆れたように向けられた視線に気付かない振りをする。充先輩は確かに真面目に話しているかもだけど、いつも真意が分からない。


「俺は優と付き合いたいんだけど」
「…他に良い人たくさんいますよ」
「そりゃそうだろうな。けど俺は優が良いから言ってるんだよ」
「物好きですね」
「そんな俺が好きなんだろ?」


好き。大好きだ。だからこそ私は充先輩には答えられない。


「……充先輩は、今までに恋人作ったことありますよね」
「まあそれなりにな」
「私もです。でもその人たちは本気で好きではなかったので別れるときは特に何とも思いませんでした」
「俺もそんな感じ」
「……けど、私は充先輩が大好きです。だから、別れるときのことを考えると不安で仕方ありません」


これ以上はぐらかしてても充先輩は諦めないと思って、私は本音を語ることにした。充先輩が大好きだからこそ、離れることが、嫌われることが怖くて一緒にはなれないのだと。充先輩は何も言わずに静かに聞いてくれている。私が思っていたことを全て話終わると、充先輩はふむっと顎に手を当てた。


「なら結婚でもするか?」
「いやそれだと離婚の可能性も…」
「どれだけ心配性だよ」


呆れたように笑った充先輩に、私もおかしくなってしまって思わず笑った。充先輩限定で私はかなりの心配性になるらしい。初めて知ったからあとで凪に話てみよう。結婚云々はびっくりしすぎて深く追及できないからこのまま流すことにしよう。
くすくすと笑いながらそんなことを考えていると、ぽんっと頭に暖かい手が乗った。瞬いて見上げると、充先輩はじっと私を見つめていて。


「…充先輩…?」
「俺がお前を一生愛してやるから、離れるだとか嫌われるだとか、そんな心配はするな」
「…!」


どきりと、胸が高鳴った。いつもの暖かい感じではなくて、全身に響くような鼓動がうるさい。なに、これ…。俯いてぎゅっと胸を押さえると、その上から充先輩の手が重ねられた。反射的に顔を上げると、にやりと笑みを浮かべた充先輩と視線が交わる。鼓動が更に早くなった。


「それとも、俺の言うことは信用出来ないか?」


全力で頷きかけたけど、確かに充先輩は私にだけはいつも嘘はつかない。凪をからかっているのをいつも見ているせいで疑ったけど、よくよく考えればそうだ。


「お前は片想いでいいのかもしれないけど、俺は進展させたい。お前と恋人らしいことがしたい」
「私、と…」
「もっと言えばエロいこともしたい」
「そこ言わなくていいところです!」
「いや優に嘘はつきたくないし?」
「そもそも聞いてないので答えなくても嘘にはなりませんよ!」
「ごめん俺正直者だから」
「………そうですね」
「その間はなんだ」
「自分の胸に手を当てて聞いてみてください」


すると充先輩は重ねたままだった私の手を取り、自分の胸に当てる。私と同じくらいの速さの鼓動が伝わってきて思わず瞬いた。


「正直だろ?」
「……心だけは、そうかもですね」
「なんかいつもより辛辣じゃない?」
「充先輩相手だから気が緩んじゃうんですよ」
「先輩としては信頼されてて嬉しいが、男としては微妙な所だな」
「ふふっ」


思わず声を出して笑うと、そっと頬に手を添えられた。そのまま充先輩の方を向かされる。熱い瞳に視線が離せなくなった。


「仕方ないから、俺自身をお前にやるのはやめるよ」
「え…?」
「その代わり…」


頬に添えられていた手が離れたかと思うと、ぐるりと視界が回り、何故か私の視界には青空が広がっていた。何度も瞬きを繰り返し考える。私は今……ベンチに押し倒されている。私を押し倒した相手は上に覆い被さり、にやりと口角を上げた。そして言葉を紡ぐ。


「その代わり、俺がお前を貰うからな」
「充せんぱ……っ」


状況を理解して口を開こうとしたときにはもう遅く、最後まで言葉を紡ぐことができずに反論ごと唇を塞がれた。けれどそれに嫌悪などなく、今まで気持ちが通じ合うのを怖がっていたのが嘘のように満たされていく。私は、やっぱりこうなることを望んでいたんだ。充先輩の背中に手を回して目を瞑った。ホワイトデーのお返し、選び直そうかな。
暖かい日差しと温もりに、私は幸せに満たされた。

end
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充先輩の後輩。凪と同じクラス。
片想い拗らせてた。充が好きだってほとんどみんな知ってる。感情は豊かだけどたぶんあんまり表情に出なさそう。もっと天真爛漫な元気ハツラツな子を書きたいのにどこか冷めた子になっちゃう。

title:てぃんがぁら


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