明日もまた、ずっと

学パロ
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いつも一緒に登校している凪と優は今日は日直で、僕は珍しく1人で登校している。1人もたまにはいいけど、やっぱり賑やかで楽しい2人がいてくれないと寂しいな。そう感じてやっと辿り着いた教室へ足を踏み入れた瞬間、優の怒鳴り声が響いた。


「はぁ!?有り得ないんだけど!」


何事だと瞬いていると、クラスの子がいつものだと教えてくれた。それですぐに納得して僕は平然と自分の机に向かう。
いつものとは、凪と優の喧嘩のことだ。クラスでも…いや学校中で有名になるくらいに2人はよく喧嘩をしている。喧嘩といっても口喧嘩だけど、ただの口喧嘩ではない。たぶん聞いていればすぐに例の口喧嘩になるだろう。何故か僕の机を挟んで喧嘩をしている2人に一応挨拶をして席についた。


「ほんっと有り得ない!何のためにバレンタインにチョコあげたと思ってるの!?」
「はぁ!?なんだよそれ!何のためってお前、お返しもらうために俺に渡したのかよ!」
「当たり前でしょ!それ以外何があるのよ!」
「うっわ最悪だな!優へのお返しは何がいいかって1週間散々頭悩ませてた俺がバカみたいだろ!」
「バカみたいじゃなくて実際バカでしょ!そんなことで悩むなんて!凪からのお返しなら何でも嬉しいに決まってるじゃない!」


きた。ただの口喧嘩じゃない、例の痴話喧嘩が。


「あーあ!もうやめたやめた!もう絶対優にお返しなんてしないからな!」
「はぁぁぁ!?何その態度!普通貰ったら返すものでしょ!常識もないなんてそれでも直也先輩の弟!?」
「兄貴は関係ないだろ!なんだよ、俺は優から貰えて嬉しかったのに!そこまで言うなら兄貴に渡せば良かったじゃないか!」
「本当にそうすれば良かったわよ!けど仕方ないでしょ!凪に渡すことしか頭になかったんだから!」


この貶し合いにカモフラージュされた惚気ているとしか思えない痴話喧嘩。これが2人が学校で有名になってしまった原因だ。お互い発している言葉は無意識で、それに気付いていないから大声で痴話喧嘩をしているだけに聞こえる。2人とも素直だから思ったことが全部口に出ちゃうんだろうな。それにしたって相手の発言に気付いてもいいんじゃないかな。所々に入る惚気に今だ気付かずに痴話喧嘩をする2人に思わず溜息をついた。そろそろHRも始まるし止めないと。


「あのさ、2人とも相手の話ちゃんと聞いてる?」
「「聞いてる!!」」


息ピッタリで返事をされたあと、これまた息ピッタリに「おはよう」と挨拶をされた。僕は苦笑しながら続ける。


「聞いてるなら、何で大事な台詞には反応しないの?」
「「は?」」


2人はきょとんと僕を見つめた。まだ分からないらしい。僕が言うのは違う気がするけど、このままじゃ埒があかないしね。


「思い出してみてよ。2人が言ったこと」


それでも僕が直接言葉にするのは少し恥ずかしくて2人に思い出してもらうことにする。僕の言葉に2人は素直にお互いの台詞を振り返り、ぶつぶつと呟き始める。


"優へのお返しは何がいいかって1週間散々頭悩ませてた"
"凪からのお返しなら何でも嬉しいに決まってる"
"優から貰えて嬉しかった"
"凪に渡すことしか頭になかった"


問題の発言に気付いた2人は途端に顔を真っ赤に染め上げる。面白いくらいに分かりやすい。


「な、おま、ば…っ」
「え、ちょ、な…っ」
「2人とも単語になってないよ。落ち着いて」
「「うるさい!!」」
「なんで僕が怒られるの…」


理不尽な2人に小さく溜息をついた。けど僕の出番はもう終わり。あとは2人が話をつけるだけだ。この分ならHRが始まる前には収まるだろう。


「……優」
「……なに?」
「……ほら」
「え?」


しばらくの沈黙後、凪は優に小さな袋を差し出した。優はそれを驚きながらもしっかりと受け取る。


「優に似合いそうだと思って買ったはいいけど、本当にこれで喜ぶか分かんなかったから…」


優は凪の言葉に首を傾げつつ袋を開けると、中からは確かに優に似合いそうな可愛らしいヘアピンが出てきた。


「…わぁ…!」


そのヘアピンに優の瞳が嬉しそうにきらきらと輝く。それを見た凪は赤い顔のままふいっと顔を背けた。


「……バレンタインのチョコ、嬉しかった」
「……うん!私も凪が選んでくれたお返し嬉しいよ!ありがとう、凪!」


お互い笑顔になって僕はほっと息をつく。丸く収まって良かった。教室の空気もやっと柔らかくなりそうな所で、それは再び始まった。


「まあ、美味くはなかったけどな」


凪の余計な一言に教室の空気が固まった気がした。……収まりかけたのになんてことを口にするんだろう。我が幼馴染ながら呆れてしまう。そしてもちろん優が突っかからない訳はなくて。


「バっっっっカじゃないの!?ほんっとデリカシーのカケラもない空気も読めないなんて最低!」
「本当のこと言っただけだろ!」
「それがデリカシーないって言ってるの!」
「じゃあ俺に嘘つけって言うのか!?」
「お世辞でもそこは美味しいって言うべきでしょ!?」
「お世辞で美味いなんて言ったら来年また不味いやつだろ!そんなの嫌だぞ!」
「ちゃんと美味しく作るわよ!絶対美味しいです優様って言わせてやるんだから!」
「絶対言わない!」
「この捻くれ者!」
「それは優だろ!?」


再び騒がしくなった2人に大きく溜息をついた。あからさまに大きな溜息でも2人はまるで気付いていない。今日はHR前に静かになるのは無理そうだ。
それにしても、もう来年の話かと少しだけ口角を上げた。来年も2人はこの関係でいると言っているのにお互い気付いていない。来年もチョコを渡す気満々の優と、貰う気満々の凪。それが当然のようになっているのにその意味には気付いていないんだ。いつになったらお互い素直に好きと言える日が来るのか。僕は頬杖をつき、口喧嘩をし続ける2人を見つめた。今のこの日常は僕も楽しいから、まだ手伝ってあげないけどね。いつか来るであろう気持ちが通じ合った2人の未来に小さく微笑んだ。

end
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幼馴染でも普通に友達でもいけそう。
2人とも素直じゃないというかツンデレというかケンカップル的な。哲がいるからこそ成り立ってそうなとこある。
お返しに悩む凪とか絶対可愛いし絶対真剣に選んでくれそうだよね可愛い。

title:てぃんがぁら


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