彼で繋がる深い絆

※微妙に6章ネタバレで見る人によってはCP要素あります。
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「かっこいい」
「スタイルが良い」
「気がきく」
「仕事が丁寧」
「顔が良い」
「それかっこいいと同じ意味だろう」
「いやいや、綺麗!可愛い!好み!って意味も含まれてるから全然意味が違いますよ!」
「なるほど」
「……なに、してるんですか」


食堂で向かい合わせに座っている優さんと大外さんは、お互い手元の本に視線を落としたまま、まるでしりとりをするかのように会話をしている。他にお客様もいないせいか異様な光景である。


「あ、音子ちゃんお疲れさまー」
「塚原さんは疲れるほど仕事していないと思うけどね」
「ははー、どこかの小姑みたいな人に部屋の掃除のやり直しをさせられていたのでとーーーーっても疲れましたけどね」
「それは大変だったね。けどそれは君の仕事が雑だからいけないんじゃないかい?」


この男は…。なんとも腹の立つ笑みに殴りたい衝動を抑え、優さんに向き直る。


「ところで、先ほどは何をお話ししていたんですか?」
「お、音子ちゃんも参加する?」
「参加?」


はてと首を傾げれば優さんはとても可愛らしい笑みで頷いた。大外さんも見習ってほしい。…いや、大外さんにこんな笑顔向けられても気持ち悪いだけだからやっぱなしで。


「実は今ね、大外さんと2人で阿鳥さんの良い所について話し合っていたの!」
「…………は?」


今ここに阿鳥先輩がいたら「お客様に向かってそんな態度とらない!」と怒られそうだ。けれど許してほしい。だって意味が分からないのだから。


「なにをマヌケな顔をしているんだい?言葉通りの意味じゃないか」
「…言葉の通りに受け取ると大外さんはただの犯罪者ではなく度を超えた変態って確定されるんですけど良いですか」
「「え!」」
「いや2人してそんな本気でびっくりした顔しないで下さいよ!」


私はおかしいことは言っていないはずなのになんだこの反応は。大外さんと優さんで、阿鳥先輩の良い所を話し合っていた。優さんは確かにそう言った。…………うん、やっぱりおかしいぞ。


「阿鳥さんは男女関係なく好かれると思うんだよね!」
「男の人には僻まれててもおかしくないと思いますよ」
「男からしても理想の男だよ」
「嫉妬の対象ですね」
「あんなかっこい人に惚れない人はいないでしょ!」
「それ女性限定です」
「そんなことないさ。阿鳥さんに憧れる男はたくさんいるよ」
「そうそう、男も女も阿鳥さんには惚れますよね!」
「それはお2人の個人的かつ特殊な見解かと…」
「狭い世界ばかり見ているなんてつまらない人間のすることだよ、塚原さん。もっと世界を広く見ないと」
「そんな世界レベルでコアなファン層まで持ち出されても理解できません」


2人はまた驚いた表情を浮かべている。優さんはともかく大外さんの表情は腹が立つことこの上ない。
アイドルの話を延々として友達に呆れられたことがあったが、そのときはこういう気持ちだったんだろうか。もしそうなら申し訳ないことをしたな。反省しよう。そう思うほどにどっと疲れた。


「んー、やっぱり理解してもらえるのは大外さんだけか…」
「そうみたいだね」
「ここに阿鳥さんファンクラブでも作ろうと思ってたけど、会員は2人だけしか集まらなさそうですし…諦めますか」
「僕と君が彼の良さを分かっていれば良いんじゃないかな」
「そうですよね!彼の魅力に気付かない人たちのことなんて気にしたって仕方ないですもんね!」
「そうとも」


2人は会ってからそれほど時間は経っていないはずなのに物凄い意気投合の仕方だ。その要が阿鳥先輩って…どうなんだろう。というか阿鳥先輩本人はこんなに好かれていることを知っているんだろうか。取っ替え引っ替えのわりに鈍感だからなあの人…。
そんなことを考えていると、食堂の扉が開いた。入ってきたのはタイミングが良いのか悪いのか、阿鳥先輩だ。


「あれ、音子ちゃん掃除は終わったの?」


優さんたちに会釈しつつ私にそう声をかけてくる。


「はい、終わりました。今度こそ完璧に終わらせました」
「そう、お疲れ様」


ビシッと敬礼した私に「完璧?」と半笑いの声が届いたが、阿鳥先輩の微笑みに免じて聞かなかったことにしよう。


「後輩想い」
「面倒見が良い」


突然発せられた言葉に阿鳥先輩はきょとんとする。この2人は本人を前にさっきのことを続けるつもりか。


「これ!きょとん顔!可愛い!」
「え…?榛名様…?」
「ほら榛名さん、阿鳥さんを困らせたらいけないよ」
「あ、それはすみません」
「い、いえ…」


阿鳥先輩は困惑しているけど、それがまた2人にとっては話題になってしまう。


「クールな見た目と変わる表情のギャップがいい…」
「良い意味のギャップだね」
「そう!真面目な所がまた好感持てるし!」
「誰に対しても丁寧な対応は見習うべきだ」
「そうですよ。お2人のこんな話にも苦笑しながら流してくれるんですから懐の広さを見習うべきです」
「……君、僕の部屋で何かやらかしたのか?」
「うはは」


この人は本当に頭が切れるから面倒だ。まあ大外さんが部屋に戻ったらバレることだし、ベッドにぴーちゃんの餌を撒いたことは黙っておこう。わざとじゃないし。一応自分的には完璧に掃除したし。


「阿鳥さん、申し訳ないけど後で僕の部屋に掃除に来てくれますか?」
「あ!それなら私も阿鳥さんにお掃除しに来てほしいです!」
「えっと…」


阿鳥先輩はちらりと私を覗き見る。言いたいことは分かる。だって…


「お2人の担当は私なんですが」
「「阿鳥さんが良い」」


間髪入れずに声を重ねて返答された。しかも私の方を見ずに阿鳥先輩を見てだ。


「どんだけ阿鳥先輩を好きなんですか」
「そりゃあ」
「ねぇ」
「いや分かりますよ?先輩が好かれるのはすごくよく分かりますし、私と比べては申し訳ないくらい仕事も完璧だから仕方がないと思いますけど」
「音子ちゃん、阿鳥さんは別格なんだから気にしちゃダメだよ!私と音子ちゃんとルリちゃんと瑪瑙さんも、大外さんと阿鳥さんと支配人もみんな違って当たり前なんだから。ね、大外さん!」
「……そうだね」


大外さんなら即答しそうな問いかけなのに、一瞬空いた間はなんだったのだろう。優さんもそれに気付いたみたいだ。阿鳥先輩はどうだろうとちらりと様子を見れば、額を押さえていた。首を傾げて覗き込むとその顔はうっすらと赤くなっている。


「阿鳥先輩?どうかしましたか?」


私の言葉に2人の視線も阿鳥先輩に向く。


「どうしたのって…こんな目の前で褒め殺しにされて冷静でいろって方が無理だろう…」
「阿鳥さんが、照れてる…!?」
「…!」


2人の目が輝いている。これはやばいぞ。私は急いで阿鳥先輩の前に出た。


「お2人ともそれ以上阿鳥先輩に近付かないで下さい」
「何で!」
「どうして君にそんなこと言われなければいけないんだ?」
「そんなの危険だからに決まってるでしょう」
「「危険?」」
「捕食者の目をするお2人を阿鳥先輩に近付けるわけにはいきません」
「捕食者って…」
「見て分かるでしょう!阿鳥先輩はもっと危機感持って下さい!」


でもお客様だし…と困ったように笑う阿鳥先輩の真正面に立ちはだかると、両側に優さんと大外さんが並んだ。たぶん言いたいことは同じはずだ。


「阿鳥先輩は他のことは隙なく完璧なのに、どうしてそうセキュリティだけ隙間だらけなんですか!むしろ開きっぱなしですよ!」
「そういう鈍感なところは可愛いですけどもっと自分の容姿を理解するべきですよ!もちろん性格も良いんだから音子ちゃんの言う通り危機感持たないと!」
「自分の優れている所を鼻にかけないのは素晴らしいことですけど、自分で理解出来ていないのはどうかと思いますよ。それじゃもし誰かに殺されてここに来たのだとしてもおかしくない」


3人の標的が阿鳥先輩になり、阿鳥先輩は困ったように笑っている。2人とも容姿がいいばかりで少し面倒だけれど、味方につくととても心強い。


「ほんとそれですよ!取っ替え引っ替えして嫉妬深い女の人に刺されたとか!」
「有り得そうですよね。もしくはその女性の彼氏の方に刺されたとか」
「それも否定出来ないね。男女のどちらに恨みを買われて刺されていても不思議じゃない」
「…何で俺が刺された前提の話になってるんですか」


阿鳥先輩を褒める会から阿鳥先輩を責める会になっている。でも責めているわけじゃなく心配しているのだ。完璧なのにどこかぽけーっとしているときがあるから。きっと大外さんも優さんもそれに気付いているのだろう。


「まったく、阿鳥さんは罪深い人だね!」
「右に同じです」
「同感だよ」
「……だから何で俺、こんなに責められてるんだろう…」


それからしばらく、本人を前に私たちの阿鳥先輩の良い所、悪い所を言い合う話は続いた。あれ、というかいつの間にかに私も入っている。まあいいか。どんなことであれ、同じ話題で盛り上がれるのは楽しい。阿鳥先輩には悪いけど、もう少し私たちの話相手になってもらおう。阿鳥先輩を想ってのことなのだから、現世に戻ったときに忘れていないといいな。ちゃんと心に刻まれるように気持ちを込めて、私たちは言葉を投げた。


end
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終着点を見失った。
阿鳥先輩の前で本人褒めて照れさせる所まで書く予定でそのあとは終着点を見失った結果です。
6章であんなことがなくてこんな風にほのぼの終わったら良かったなーって。これ夢主いらないなって思ったけど。わちゃわちゃしてるだけのも好き!
おおねこあとねこ要素に見えたらすみません。



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