今年は特別

学パロ
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「哲、あげる」


放課後、そう言っていつも通りの態度で渡されたのは綺麗にラッピングされた袋だった。今日はバレンタインだからきっとそれだろう。毎年のように優から義理チョコを貰っているけど、やっぱり義理でも優から貰えるのは嬉しい。僕は微笑んでそれを受け取った。


「毎年ありがとう、優」
「…今年は特別だから」
「え?」
「…何でもない」


優は照れたように顔を逸らして窓の外を見つめる。僕も同じように窓の外を見つめ、ふと思い出したことを口にした。


「そういえば」
「ん?」
「本命チョコは渡した?」
「は!?」


何故知ってるのか、とでもいうような表情で驚いて振り返った優にこちらが驚いてしまう。そんなに驚くことだったかな。


「充先輩が言ってたよ。今年は優が頑張って本命チョコを渡すって」
「あの人はまた余計なことを…!」
「上手くいった?」
「……うん、まあ」


少しの間を空けて頷いた優に心から喜べないのは、僕が優を好きだから。でも優が幸せならそれが1番いいから僕は笑う。


「…そっか、良かったね」


上手く笑えなかったかもしれない。僕と優の間になんとも言えない沈黙が流れる。…いつもなら2人の沈黙は心地良いくらいなのに今の沈黙は気まずい…。そんな沈黙を破ったのは優だった。


「…気持ち伝えてないし、良くはないよ」
「え、伝えなかったの?」


その問いかけに優は頬を染めながらも不機嫌そうに唇を尖らせる。


「伝えるつもりだったけど、その人の顔みたらそんな勇気は消え去った」
「はは…けど優なら上手くいくと思うけどな」
「…なに言ってるの」
「気持ち、伝えてみたら?」
「……」
「せっかくの機会なんだし」


僕は何を言っているんだろう…どんどん自分で自分を苦しめてる気がする…
自分自身に呆れていると、優が恐る恐るといったようにこちらを見上げてきた。少し上目遣いになっているせいでドキドキしてしまう。


「…上手く……いくと思う?」
「うん」
「……その言葉、忘れないでよ」


無責任に即答してしまったけど、優は大きく深呼吸をして気持ちを整えている。優の背中を押せたのなら良かった…んだよね。また凪に「哲のバカ!お人好し!」と怒られそうだ。


「て、哲」
「え?なに?」


想像の凪の言葉に苦笑しそうになると、どこか必死な優に名を呼ばれた。真っ直ぐ向き直って見つめてくる優に首を傾げて続きを待つ。そしてしばらく悩んだあと、優は意を決したように強い瞳で言葉を発した。


「哲、好き」
「は?」


会話を終わらせてしまった。また微妙な沈黙が流れる。…えっと、この場合…僕は何を言えばいいんだろう。


「……私の本命チョコ、それ…だから。わ、私は…!ずっと前から哲が好きなんだよバカ!バカ!」
「ば、バカって…」


優は唸りながら机に突っ伏してしまった。先ほどの台詞が頭の中で何度も繰り返されて理解するのに時間がかかったけど、ようやく理解した。どうしよう、今すぐに抱き締めたい。


「うあー…恥ずかしくて死にそう…やっぱり言わなきゃ良かった」
「せっかく気持ちが通じ合ったのに死なないでよ」
「…は?」


今度は優が会話を終わらせた。でもここで終わりにしたくない。こちらをぽかんと見つめている優にはにかんで続けた。


「僕も好きだよ、優のこと」
「はあ!?」
「なんでそこで驚くの…」
「だ、だって…」


途端に赤くなってあわあわと慌てる優は珍しい。珍しいどころか、長い付き合いなのにこんな姿を見たのは初めてかもしれない。新鮮で凄く……


「可愛い」
「な…!」


無意識に口から出てしまった言葉に優は更に頬を染める。いつものクールな姿からは想像できないくらい可愛い。こんな可愛い人が他の人のものになるんなんてもう考えたくないな。


「ホワイトデー楽しみにしてて」
「…倍返しね」
「気持ちは倍以上で返すから」
「……期待しないでおく」


照れてそっぽを向く優に微笑んだ。それは期待してる顔だよね。貰った本命のチョコクッキーを口に含み、僕は幸せに頬を緩めた。


end
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哲相手だと哲視点で書きたくなる。そして後悔する。哲はもっとこう純粋で…!(?)
凪は別のクラスにいそう。たぶん大和と同じクラスでいつも言い合いになってそう
哲凪大和は可愛い



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