本命チョコの行方

※微妙に学パロだけどほぼ要素はない
ーーーーー

バレンタインのチョコレート。今まで友達同士で交換するぐらいでしか用意したことなかったけど、もうすぐ卒業だから……卒業したら、今までのように話したり出来ないかもしれないから。だから今年は昔からずっと好きな人にチョコレートを用意した。無駄に愛想が良くてモテる彼はたくさんの女の子たちに貰ってるだろうから、それに便乗してあげるだけ。気持ちを伝えるつもりはない。私のただの自己満足。深い意味は物凄くあるけどそれは悟られないように、いつも通りに。


「よし!」
「なにがよし、なんだ?」
「きゃああああ!!」


人気のない階段の踊り場で意気込んだ私に、突然背後から声がかけられた。誰もいないと思っていたせいであまりにも驚いて悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまう。だって本当にさっきまで誰もいなかったのに…!びっくりした…!


「おいおい、驚きすぎだろ」
「み、充がいきなり声かけてくるからでしょ…!」
「いきなりって…」


呆れたように呟く充を睨みながら立ち上がる。心の準備をしたはずなのに、私の意気込みはなんだったんだろう。色々と作戦が台無しだ。はぁっと溜息をついて立ち上がる。


「優もちゃんと女の子なんだなぁ」
「は?」
「それ」


充が指を差したのは私の持つ袋だ。本命のそれは気合いを入れて作ってラッピングしてある。早速バレたことに内心ばくばくとうるさいくらいに心臓が早鐘を打ち出した。


「随分丁寧にラッピングしてあるけど本命か?」
「……だ、だったらなに」


なんで私はこう可愛くない返事しか出来ないのかな…!自己嫌悪に陥りつつ充の反応を伺う。


「へぇ、本命ねぇ」
「だ、だからなによ!」
「いや別に?」


そう言いながらも充はジリジリと近付いてくる。反射的に同じペースで後退った。けれどすぐに背中が壁に当たり、それ以上は退がれなくなる。


「別にとか言いながらなんで近付いてくるのよ…!」
「それを受け取る相手が誰なのかと思っただけだよ」
「だからそれで近付いてくる意味が分からないんだけど」
「で?相手は?」
(こいつ聞いてない…!)


わざと聞いていないなんて分かりきっている。そもそもここで本命は充だと言って素直に渡せれば苦労はしない。何よりなんか顔が腹立つ。お前が本命チョコ?って半笑いされてるような気がする。じとーっと睨んでいると充の手が伸びてきて突然顎をすくわれた。至近距離で充と視線が交わる。


「…っ」
「幼馴染の俺には義理チョコの1つも渡さないで、どこの馬の骨とも知らないやつに本命チョコなんか用意してるとはなぁ」
「なに、を…」
「……」


充は答えずにじっと私を見つめている。視線をそらせず、振り払うことも出来ずにただただ心臓がばくばくと音を立てるだけだ。何がどうしてこんな状況になってるのか意味が分からない…!


「……はぁ、本気で好きなやつ相手には上手くいかないもんだな」
「……は…?」


すっと手が離れて解放される。充の発言にぽかんとしたまま瞬きを繰り返した。


「義理でもいいから少しくらい気にかけてほしかったんだけど?」
「……なん、で」
「なんでって、そりゃ好きな女からはバレンタインのチョコ貰いたいに決まってるだろ」
「……」


ダメだ、さっきから情報が処理しきれない。このままじゃ全ていいように解釈してしまう。まるで、充が私を好きみたいに。からかっているのかと思ったけどそんな表情はしていなかった。それどころか、どこか悲しげで……なんなの…


「……はい」
「?」


私はもう考えることをやめた。考えすぎて訳分かんないし意味分かんないし振り回されるのには疲れたし。なんかもう……どうにでもなれ。


「…なんだ?」
「チョコだけど」
「いや知ってる」
「じゃあ聞かないでよ」
「馬鹿。これ本命チョコだろ」
「どっちが馬鹿よ。だから本命チョコだって言ってるでしょ」
「その本命チョコをなんで俺に?直也に渡しとけってか?」
「…ホント馬鹿」


なかなか受け取らない充にチョコを無理矢理押し付けた。充が咄嗟に受け取ったのを確認して私は階段を駆け下りた。


「充が本命だから渡してるんでしょ!!馬鹿!!」


捨て台詞のように吐き捨てて全力で駆け下りていく。ばくばくとうるさい心臓は走っているからだ。顔が熱いのは走っているからだ。


(ああああやっぱり超恥ずかしい…!)


充の様子なんて絶対に伺えない。もう自分がどこに向かって走っているかなんて分からない。ただあの場から逃げたくて走る。


(こんな乙女みたいな…柄にもないことするんじゃなかった…!)


私は明日からどうやって充と接すればいいんだろうと後悔する。こういうときは直也に相談だけど、今はとにかく走り続ける。止まれば余計に色々と考えてしまいそうだったから。


「ああもう充の馬鹿ーーー!!」


その夜。家に押しかけてきた充に本命チョコの返事をされて有無を言わさず唇を塞がれた私は、あまりの恥ずかしさにしばらく口を利かなかった。…それでも晴れて恋人となった彼は、にこにこと嬉しそうだったけれど。

end
ーーーーー
やばいぐらい落ちがなくて無理矢理終わらせたよやばい。学パロも活かせてないやばい。
千代ちゃん系の夢主を書きたいのに凪系の夢主になっちゃうのが問題だ。



back