お返しは期待してて

両手に大量の荷物を抱えて喫茶店へやってきた幼馴染の姿に苦笑する。毎年見る光景だけど、年々増えてる気がするのは気のせいかな?


「モテる男は大変だね」
「みんな義理だよ」
「この鈍感」
「?」


きょとんと首を傾げた遥斗に何でもないと返すと特に気にした様子もなく私の前に座った。そして大量の荷物を降ろして店員に注文する。


「これのお返しも大変だ」
「まとめて買ったのを小分けであげるからそこまで大変じゃないよ」
「クッキーはお友達のままでいましょうって意味らしいよ」
「へー、それは知らなかった」
「ちなみにマシュマロは嫌いって意味だって」
「詳しいね」
「一応女の子だし」
「女の子って歳でもないだろ?」
「うるさい」


じと目で睨めばごめんと苦笑される。笑い事じゃないぞ。私だって昔は恋多き乙女だったんだからそのくらい調べたに決まってる。高校生くらいからは一途になっちゃったけどね。


「それで、今日はどうしたの?」


そう、呼び出したのは私だ。世間はバレンタインデーだけど、今日は遥斗の誕生日なのだ。幼馴染として祝わないわけにはいかない。


「ん」


遥斗が頼んだ飲み物が来て店員が去ったのを確認し、私はテーブルの上に袋を乗せた。あまり何か言うのも恥ずかしいから愛想がなくなってしまう。けれどそれを見て遥斗の表情が柔らかくなった。


「…遥斗、誕生日おめでとう」
「毎年ありがとう、優」


遥斗は微笑み、プレゼントを受け取ってすぐさま袋を開け始める。この遠慮のなさがお互い気を使わなくて楽なのかもしれない。そういえば前に遥斗が紹介してくれたホテルの後輩の子も一緒にいて気が楽だったな。連絡先交換したし今度また誘ってみよう。仕事中の遥斗のことも聞きたいし。そんなことを考えながら開封するのを待っていると、中身を見た遥斗は目を輝かせた。


「これ…」
「前にヘッドフォン調子悪いって言ってたでしょ。だから新しいやつ。最新のだから壊さないでよ」
「うん。ありがとう優」
「……さっき聞いた」


嬉しそうに微笑むイケメンは直視出来ない。幼馴染だとしても好きな相手なのだから意識してしまうのは当然だ。私は頬杖をつきながら目を逸らす。


「うわぁ…これ俺が欲しいと思ってたやつだから凄い嬉しいよ。しかも色まで俺好み」
「そこら辺は把握してるよ」
「さすが優」
「どーも」


予想以上に喜んでくれて段々恥ずかしくなってきた。だって他の女の子からチョコ貰ってもこんな嬉しそうな顔しないのに。


「用はそれだけ。わざわざ呼び出してごめんね」
「え」
「……え、ってなに」


驚いた表情の遥斗に私が驚いてしまう。他に何か大切なようでもあっただろうか。


「チョコは?」
「そこにいっぱい入ってるでしょ」
「これじゃなくて、優からのチョコ」
「あるわけないでしょうが」
「え!?」


何故そこでそんなに驚く。自分にチョコ渡さない人がいるのがそんなに不思議か!……まあ、チョコを用意していないわけではないけれど。毎年義理ってことであげてたし。けど、これだけたくさん貰っているのを見たらさすがに私があげるのは気が引けてしまった。だから鞄の中のチョコはなかったことにしようとしていたのに。


「毎年くれるから楽しみにしてたのに…」
「そんだけ貰ってまだ欲しいのかモテ男」
「優からのチョコが欲しいだけだよ」
「素晴らしい口説き文句だね」
「惚れた?」
「バカ」


もうとっくに惚れてるっつーの。呆れて額を押さえる振りをして顔を隠した。


「…こうでも言わないと優は渡せないだろ」
「……」


本当に、何でもお見通しなんだから。恥ずかしがっているのも馬鹿らしくなってきて、私は鞄からラッピングされた小さな袋を出した。


「……毎年癖で用意しちゃうだけだから」
「うん、ありがとう」


何でそんなに嬉しそうな顔するのよ…


「お返し楽しみにしてて」
「それは誕生日?ホワイトデー?」
「んー、両方かな」


ホワイトデーが誕生日の私は遥斗からは2倍貰える。バレンタインに遥斗にしかあげてないからお返しも遥斗からだけなんだけどね。でもそれで充分なんだ。1番嬉しいから。


「そうだ、さっき聞きそびれたんだけど…」
「なに?」
「バレンタインのお返し、好きな相手には何を返すの?」
「……」


なんでこのタイミングで聞くかな…!意地が悪い…!変に期待してしまわないように平常心を装った。


「えーっと、確かキャンディだったよ」
「なるほど」
「…キャンディ渡す相手でもいるの?」
「どうだろうね」
「……振られたばっかのくせに」
「な、何でもう知ってるの…」
「なんでだろうねー」


うっと呻いた遥斗にべーっと舌を出した。散々人の気持ちを弄んだお仕返しだこの野郎。


「でも来月には出来るから」
「は?」


自信満々に笑みを浮かべる遥斗をぽかんと見つめる。それはつまり遥斗から告白して彼女にするってこと?あの告白しかされたことない男が?


「…出来るって、彼女?」
「もちろん」
「遥斗から告白するの?」
「そのつもりだよ」
「告白なんてしたことないでしょ?出来るの…?」
「俺を何だと思ってるの……。出来るし相手の答えも分かってる」
「へー、それはまた随分と自信があるようで」
「まあね」
「どうせまた長続きしないんじゃない?」
「酷いな…」


うん、今のは酷いこと言った。遥斗は苦笑してるけど、八つ当たりとか…ヤキモチ焼いてるのバレバレじゃん…。


「今回は絶対長続きするよ」
「……ふーん」
「あ、ごめん、そろそろ行かないと」


もうそんな時間かと時計を見る。相変わらず忙しそうだ。


「こっちこそ付き合ってもらってごめんね、ありがとう」
「貰ったのは俺なんだからお礼を言うのは俺の方だよ」


帰る支度をしながら遥斗は苦笑する。自然に私の分のお金を置いていこうとした手を制止した。


「今日は奢るよ」
「え、でも…」
「遥斗は頑張りすぎてるんだから誕生日くらい甘えてよ」
「……うん、ありがとう」
「どーいたしまして」


むず痒くて手をひらひらと振る。


「それじゃあ優、また」
「うん、またね。仕事頑張り過ぎないように」


その言葉に何も答えずに微笑む辺り、無理をする気は満々のようだ。まったく。去って行く背中を見つめていると、遥斗はぴたりと足を止めた。そしてしばらく立ち止まっている。


「遥斗?どうしたの?」
「……1か月は長いな」
「…?」
「優」


振り向き様に名前を呼ばれて何かを投げられた。それを慌てて両手でキャッチする。何を投げたのかと眉を寄せて両手を広げた。
そしてそれを確認し、どきりと心臓が跳ねる。


「な…!」
「やっぱりホワイトデーまで俺が待てない」
「は、遥斗…!」
「明日連絡するから返事はそのときに聞かせて」
「ちょ、まっ、遥斗…!」
「またね」


とてもいい笑みを浮かべて遥斗は店を出て行ってしまった。あっという間にその背中は見えなくなってしまい、私はただ1人取り残される。


「なん、なの…」


手のひらに残された1つの飴を見つめ、顔に熱が集まるのを感じた。


「なんなの…!あのバカ…!」


これの返事の前にありったけの文句を言ってやる。小さな飴をぎゅっと握りしめ、遥斗のことしか考えられずに次の日会うまで悶々とするのだった。


end
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阿鳥先輩お誕生日おめでとう第2弾!
同い年幼馴染。……難しい。
阿鳥先輩を書けば書くほどコレジャナイ感…ちゃんと阿鳥先輩を書きたい…!



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