vs.風間隊


太刀川隊と風間隊のチーム戦。正確には太刀川隊には太刀川と春しかいない。けれどもカメレオンで連携してくる風間隊の攻撃を華麗にかわして反撃し、善戦していた。


「なにあの野生コンビ。ムカつくんだけど」


上手く攻撃の決まらないことに菊地原は苛立つ。


「ちゃんと死角から攻撃してるのに何で避けれるのか意味分からないんですけど」
「太刀川も春も本能でかわしているな。出水や国近がいない分、いつもより警戒して神経が研ぎ澄まされているんだろう」
「流石太刀川隊…個々の戦闘力が高いですね」
「ただの戦闘バカでしょ。そんな奴らに負けませんよ」
「油断するなよ」
「次は当てます」


再び風間隊はカメレオンを起動した。3人の姿が消える。そこから少し離れた建物の上で太刀川と春は周りの様子を伺っていた。


「やっぱりカメレオンは厄介ですね…」
「だなー。何とかかわしてはいるけど、こっちの攻撃も中々当たらねぇし」
「出水先輩がいれば火力で押しきってもらえますけど、私じゃ一気に3人追い込むとかは無理ですし…」
「んー、相手のトリオン切れ狙うのも良いが、それじゃつまんないよな」
「…?」
「春、次に風間さんたちが仕掛けて来たら俺ごと狙ってメテオラぶちこめ」
「…………えぇ!?」


にやりと楽しそうに笑う太刀川に春は慌てた。確かに前に模擬戦したときは自分と太刀川にメテオラを放ったが、今回太刀川は敵ではない。味方相手に攻撃するのは気が引ける。しかも相手は太刀川だ。


「大丈夫大丈夫。俺はちゃんと避けるから」
「そ、そんなこと言われても!太刀川さんに向かって攻撃するなんて…!」
「なんだよ春。俺のこと信用してないのか?」


そんなはずない。むしろ誰よりも信用も信頼もしている。だからこそ攻撃したくないのだから。けれどそんなことまで言われて断れるはずもなく春は唸った。


「うー……太刀川さんにメテオラ……太刀川さんにメテオラ……」
「そんな気にやむな。俺がやれって言ってんだからさ」


太刀川は春に近付いて悩む春の頭に手を乗せた。


「俺はやられない。前は動揺して対処出来なかったが、今回は大丈夫だ。絶対やられないから」


優しい瞳の太刀川に春は目を離せなくなる。


「……分かりました。絶対に避けて下さいね!」
「おう、任せろ」


お互いに微笑み合い、太刀川は最後にぽんぽんっと春の頭を撫でて離れた。


「よし、それじゃ行ってくる。風間さんたちが俺に攻撃仕掛けてきたら良いタイミングで頼むぞ」
「はい!任せて下さい!」
「春も周りに気を付けとけよ。風間さんたちが俺の方にくるとは限らないし、別行動してる可能性もある」
「もちろんです!太刀川さんもお気を付けて」
「おう」


太刀川は頷いて建物から飛び降りる。その背中を見つめ、春は胸に手を当てた。やはり太刀川はかっこいい。とくんとくんと鳴る胸に、チーム戦最中にも関わらず思わずはにかんだ。


「さーて!太刀川さんのために頑張らなきゃね!全攻撃!」


そう意気込んで身を隠しながら太刀川の姿を目で追った。2本の弧月を構えながら辺りを警戒する太刀川。しばらく動かずにその状態が続いたが、ばっと太刀川は振り向きざまに弧月を一閃した。
何もない場所に空振るかと思いきや、その斬撃は姿を現した風間のスコーピオンが受け止める。そして更にもう1本の弧月を違う場所に振り下ろすと、今度は歌川の姿が。
野生的な勘を働かせる太刀川を春はキラキラとした眼差しで見つめた。春もここまでカメレオンを避けてはいたが、それは攻撃する瞬間に姿を現したのを見て、勘と瞬発力だけで避けていた。
しかし太刀川は姿を現わす前に自分から攻撃をしたのだ。流石としか言いようがない。


「やはり1人だからと侮れんな。しかしここまでだ太刀川。決めろ、菊地原!」


両手の塞がった太刀川の真上にスコーピオンを構えた菊地原が姿を現した。


「はいはい決めますよ」
「これで終わりだ、太刀川」
「どうかな」


にやりと笑った太刀川に風間は眉をひそめた。そしてすぐにはっとして辺りを見回し、そこで建物の上に大きなトリオンキューブを確認したがもう遅い。


「メテオラーーーー!!」


それを認識したときにはもう春の声が辺りに響いていた。空一面には大量のメテオラ。星のように降り注ぐそれは真っ先に菊地原を貫いた。


「うわ、最悪…」


その言葉はメテオラの爆発にかき消され、菊地原はベイルアウトした。
大量のメテオラが建物や地面にあたり、爆風で煙が辺り一面を覆い尽くす。
前はベイルアウトしてメテオラが落ちた後を見ていなかったため、予想以上の威力に春自身が驚いた。
立ち込める砂煙を凝視していると、その中からまた1つベイルアウトしたのが見えた。恐らく歌川だ。
しかしそれからベイルアウトしたのが見えない。


「本当に太刀川さん避けてくれたんだ…。でも、蒼也くんもベイルアウトしてない。やっぱり蒼也くんも凄いな…まさかあそこで気付かれるとは…」


春が風間を分かるように、風間にも春のことが読めたのだろう。そこでふと気付いた。
今の状況。この砂煙を利用して風間が動かないはずがないと。


「…まずい…!」


春は建物から飛び降り、巻き上がる砂煙に向かった。


「太刀川さん!蒼也くんがまだベイルアウトしてません!」


砂煙に向かって叫んだ。近付いた砂煙が段々とはれていく。ようやく姿の見えた太刀川に安堵したが、それもすぐに不安に変わる。太刀川の片足がなくなっていたのだ。更に弧月を持っていない。


「太刀川さ…!」
「流石だな春。だが詰めが甘い」


風間の声は砂煙の中から聞こえた。言葉は春へ向けてのものだが、向かっているのは太刀川の方だ。風間も片腕を失っているが、もう片方の腕で攻撃を仕掛ける。


「こりゃまずいな」


片足がない上、弧月はメテオラで弾かれてしまって手元にないため、避けられる可能性は低い。けれど自分がやられても片腕のない風間なら春は勝てるだろうと、にやりと笑った。


「終わりだ太刀川」


スコーピオンを振り下ろし、太刀川に当たる瞬間…


「太刀川さん!!」
「な……っ!」
「…!」


グラスホッパーを使って加速し、太刀川と風間の間に割り込んだ。
全力で突っ込んだせいで弧月で防ぐ余裕はなく、深く身体を切られる。


「春…!」
「太刀川さん決めて下さい…!」


そう言って春は自分の持っている弧月を太刀川に投げた。何も考えずに投げた弧月だが、太刀川はそれをしっかりと掴む。
春を攻撃してまだ態勢を戻せていない風間。その隙を逃すことなく、太刀川は春の弧月を一閃した。


「くっ…」
「やった…!」


にこりと太刀川に笑いかける春と、膝をつく風間の身体から大量のトリオンが吹き出し、2人揃ってベイルアウトした。

残ったのは太刀川だけ。太刀川隊勝利のアナウンスが流れる。


「…………」


春がベイルアウトして消えた弧月。それを握っていた手を無言で見つめる。
風間隊に勝った。
しかし太刀川の心は躍らない。勝利したのに嬉しさが湧き上がってこない。あるのは、ただ1つの不安。
トリオン体なのに、春が切られたときにどうしようもない程の不安が胸を埋め尽くした。恐怖にも似たそれのせいで勝利を喜べない。


「死ぬ訳じゃない…けど、俺を庇って斬られたんだ。…俺があいつを傷つけた…?」


拳をぎゅっと握り、奥歯を噛み締める。考え過ぎなのは分かっている。
けれども、あの瞬間。春が目の前で斬られるのを太刀川は見ているしか出来なかった。それが悔しくて悔しくて、不安で…恐怖を覚えた。


「…とりあえず、戻るか」


ベイルアウトした春たちをこれ以上待たせる訳にはいかない。
春が斬られた残像が頭から離れないまま、太刀川は訓練室を後にした。

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